続く儀式
モブリ聖獣は倒した。これで邪神復活は阻止したはずだった。だけど……ローレは諦めてなんかないようだ。奴には何か策がある。結局僕達は、直接やりあうしかないみたいだな!!
「ローレ!!」
僕は下から現れたエアリーロに乗ってる奴を見据えてそう叫ぶ。キラキラと輝く風をまき散らしながらエアリーロは上空に止まる。
「ホント、ここぞって時では予想を上回るわねアンタは。だけどそこら辺が良いんだけど」
随分余裕な発言だな。既にモブリ聖獣はいない。それがわかってないのか? それはつまり、もう邪神の復活はあり得ないって事だぞ。
「ローレ、お前の狙いは終わったんだよ。もうモブリ聖獣はいない。邪神の復活はない。受け入れろ。もう僕たちが戦う必要なんてない」
「そうかしら?」
僕の言葉を受け入れないみたいなローレ。すると後ろからガガガガガなる音が――僕は後ろを振り返る。すると金色のボールがこっちに向かって転がって来てた。
「んな!?」
僕は急いでその場を離れるよ。するとそのボールはローレ達の真下くらいで勢いを弱めて、止まった。あれ……何かと思ったけど、もしかしてノームか? てかそれしか考えられない。
【主よ、奴の言うとおりかも知れませんぞ】
ボール形態を解いたノームがローレに向かってそう言ってくれる。よし、もっと言ってやれ。
「何よノーム。邪神の復活に怖じ気付いた訳? 大丈夫、まだ策はあるわ」
そう言ってパチンと指を鳴らすローレ。僕はそんな指パッチンの音にビクっと反応してしまう。だって、ついさっきまでそれを攻撃に使う奴と戦ってたんだ。
どうあっても……ね。指パッチンを聞くのがちょっと怖く成ってるくらいだよ。そんな訳で警戒してると、普通に階段の方からヌオっと何かが現れる。
それはメノウ? 半透明な灰色の体に、頭の大きさに見合わない鍔の帽子を被って布で顔を隠した、ドレス姿の女性……みたいな姿をしてる怪しい召還獣。
あいつはローレを守る為の召還獣じゃなかったのか? なんで離れてるんだよ? そう思ってると
登ってくる奴の腕が伸びてる事に気づいたよ。何かを引きずってるのか? みたな感じ。
そう思ってると、メノウはこの場所へ全身を表す。そしてそこで伸びきった腕を一気に振り被って持ち上げる。そしてそのまま、ノームの両端にズガーンという音と共に打ちつける。
何アイツ? 機嫌でも悪いのか? そう思ってた。だけどその打ちつけられた場所の粉塵が流れて行く中でそうじゃないんだと気づく。
「スオウ! あれって……」
「ああ……ローレ、お前!!」
クリエが驚くのも無理ない。だってメノウが叩きつけた両腕に包まれてるのは……魚聖獣とスレイプル聖獣じゃないか!!
ローレはエアリーロに指示を出し、僕たちと同じ場所へ降り立つ。
「そんな怖い顔をしないでよ。スオウとはもっと良い関係を築いていきたいんだからね」
「そんな事どうでもいい! お前……そいつ等をどうする気だ? 本当に何考えてる?」
協力して戦ってたんじゃないのか? それなのに聖獣はローレの腕の中……まあ正確にはメノウの腕の中で時間でも止められてるのかな。奴らは一切反応しない。
ローレは僕の言葉を簡単に受けると、周りを確かめるように眺めながら、こう返す。まるで何かの合間みたいにだ。
「ふふっ、何度も言ってると思うけど? 私が考えてる事は自分の事とリア・レーゼの事よ。だから邪神には復活して貰うわ」
「それがリア・レーゼの為に成るなんて思えないけどな……」
リア・レーゼは逆に世界の敵に成りそうじゃないか? その可能性大だろ。折角協力してるサン・ジェルクとかにどう説明するんだ?
どうみてもローレはヤケクソになってるとしか思えないんだよ。
「無駄な議論よねコレ。この戦いを始める前にも散々言ったし……私はねスオウ、安い言葉でも大層な言葉でも止まらないわ。
それわかってるでしょ? 逆にスオウにだけは、分かって欲しいな。他の誰でも無い。貴方にだけは私の側に居て欲しい……」
なんだ? いきなり汐らしい声を出しちゃって……そんなのに今更騙されないぞ。
「騙すとか……そんな気ないわ。全部本音言ってるしね。ただ、それでもスオウには私側に居て欲しいのよ。私たちなら、世界征服も夢じゃないって思うんだけどな?」
とんでもねーことサラッと言うな。いや、そういう奴だけどさ。
「ふざけるな。そんな事に興味なんか無い。それに僕が付いてるのは既存の世界の方でも、ましてやサン・ジェルクとかリア・レーゼとかでもない。
僕がついてる側は、このクリエ側だ!!」
そう言って僕は足下に居るクリエを指し示す。そんな煽りを受けたクリエは「ふっふ~ん」てな感じで胸を張ってるよ。
するとローレは思わず吹き出した。
「そうだったわね。アンタはそのガキ側だったんだっけ? 出会いの順番が悪かったって事かしら? 運命って残酷ね。思い合う二人が争わないといけない……」
なに勝手な設定を付け足してんだよ。誰が思い合う二人だ。僕は全然お前なんて思ってねーよ。それに運命とか……ローレの奴が一番嫌いそうな言葉だろ。
「そもそもクリエがいなかったら、僕たちは出会ってすらいないさ。そうだろ?」
「……そうね。確かにそうかも。でもどんな形であれ、私達は出会った。それが事実で、過去に戻れない私達はそれを無かった事になんか出来ない。
今更、もしも――なんて思う事は全くの無意味よね」
「それには、全くの同意だな」
そう言って僕はセラ・シルフィングをローレに向ける。
「過去に戻れないからこそ、今を全力で生きるんだ。後悔しないために、悔いを残さないために……だから僕はお前を止める!」
僕はそんな風にローレに宣言した。けど、眉一つ動かさないローレ。なんだかシラーってな空気が流れてる気がする。超恥ずかしい。なんか言えよ。
「ふふ、今を全力で生きてるからこそ、私達はぶつかり合う。それって互いに理解してるとも言えるわよね? 今は違う方向を向いてるけど、私達の道はきっと交わると思うわ」
ホッと胸をなで下ろす僕。あのまま恥ずかしい空気じゃやりづらかったからな。するとローレは詠唱を始める。そして奴の杖にぶら下がってる結晶の一つが紋章を浮かび上がらせて光り出す。
何かやろうとしてる。見過ごす訳にはいかないよな。どうやらローレの奴はまだ邪神復活を諦めてないっぽいもん。
すると先に召還獣共が動き出してた。僕の行動なんて読まれてるって事か。足下に現れる黄土色の魔法陣。僕はクリエを抱え直すとそれを避ける。
すると今度は上空から激しい風が吹き荒れて、一気に外側へ流される。これはエアリーロの風か……流される体を一回転させて、足を地面につけて必死に踏ん張るよ。
煙が舞い上がりながら砂利が足下を跳ねていく。あいつ等……ローレに近づかせない気か。端っこの方ギリギリの所で、なんとかその風を振り払う。
いくら風を操れるって言っても、風の召還獣には勝てない。流石に今の風を自分の物には出来ないんだ。それに今更だけど……浄心水の効果は既に切れてる。
大ピンチって奴だな。かなりローレとの距離が離れてしまった。少しずつローレの杖の光が強くなってきてる。結構長い詠唱だ。まさかまた別の召還獣を召還しようとしてるのかも。
これ以上増えたら――って待てよ。今ここに居るのはエアリーロにノーム、それにメノウだ。イフリートはどこに行った?
するとその時、抱きかかえてるクリエが叫ぶ。
「スオウ後ろ!!」
振り返ると同時に僕達はイフリートに掴まれて外側に投げ捨てられる。空中を飛んで、階段に落ちてそのまま一気に転がり落ちていく。
「うああああああああああああああああ」
「きゃあああああああああああああああ」
そんな声がやかましく響いてた。
「っつ……大丈夫かクリエ?」
「うん……」
下まで一直線に落ちてきた僕達。強がったけど、体中がズキズキする。
「スオウ! 急がな……い……と」
クリエの言葉が途切れ途切れになっていく。一体どうしたんだ? 僕はそう思ってクリエの方を見る。するとその視界にはクリエ以外の物も映って……そしてそれがクリエの言葉を詰まらせた物だと分かった。
「うっ……」
「あっ……かは……」
そんな痛々しい声が僅かに聞こえてる。まだみんなほんの僅かだけどHPが残ってる。だけどこれは……このみんなの様子は惨状としか言えない。
あいつ……本当に容赦がないな。ここまでやるかって感じだ。いや、止めを刺してないだけまだマシなのか? いや違う……一人だけ止めを刺されてる。
色が薄れてしまってる彼女だけはしっかりと止めを刺され……戦闘不能状態だ。
「ローレの奴……回復役のシルクちゃんだけにはしっかりと止めを刺したのか」
シルクちゃんがいなかったら戦闘は回らないし、何度も立ち上がる事は出来ない。シルクちゃんだけを殺して、残りを瀕死状態で残すとか……マシなんて言える事じゃない。
ピクも色が薄くなってるし、回復できる奴らだけには容赦ないな。
「セラ……おい」
「みんなぁ~しっかりして……グス」
クリエの泣き声に、止めを刺されてないみんなが僅かに反応する。そして腕に抱えるセラも。
「スオウ……ローレの事……何一つ信用しないで……」
「どういう事だ?」
実際あいつに信用を向ける方が無理だけどな。そんな物を求めてもなさそうだし。
「スオウ……シルクお姉ちゃんが……」
シルクちゃんだけが反応してくれないのが悲しいクリエ。涙がポツポツ床に落ちる。僕は「分かってる」とだけ返したよ。
それしかいえない。僕はシルクちゃんの側に座り込むクリエから、再びセラに視線を戻す。
「あいつ……自分から聖獣共を捕まえたわ。あの女に……信じれる部分なんてないのよ」
付いたはずの奴らまでにも手のひら返したって事か。ローレの奴、まさに修羅の道を歩んでる感じだな。たった一人で……あいつはどこに行きたいんだよ。
でもここで、僕はあることに気づいたよ。
「待てよ。じゃあお前たちはセラ一人にやられたのか?」
「あいつ一人に……って訳じゃないけど……あいつが裏で色々とやってたのは間違いないわ。色々とおかしな場面があった。聖獣との戦いの最中にも……きっとメノウの時の力を使ってるわ。それは確信出来る」
時の力……時を操る力。そんな物を実際マジで相手にするってなったら、自分じゃどうしていいのか想像付かないな。だって時だぜ。
前へ前へと淀み無く絶対普遍で流れてく物しか、僕達は感じる事が出来ない。時が止まったとしても、それを僕達が知ることは出来ないだろう。
時が戻る概念とか、理解不能だしな。変わらずに時は刻まれていくもの……それが普通なんだ。それを操れる……としたら……それこそまさに神に近い存在なんじゃないのか……とも思う。時を操るってそれだけの所行だろ。
すると僕の不安な顔を見て察したのか……セラはこう言った。
「時……と言ってもこの世界全体の時間を操れる訳じゃ……きっと無いわ。これはノウイが気付いた事だけど、あいつの時の力は……対象複数の体感時間の操作……だと思う」
「体感時間?」
「そう……あいつが裏切る宣言して、召還獣を出したでしょ? あれは私達にはほんの一瞬の出来事……だった」
確かに、あれは一瞬だった間違いない。
「あの時、一瞬視界が暗く成らなかった?」
「それは……成ったな」
確か一瞬落ちたみたいに暗転した。だけどそれもほんの一瞬……瞬きみたいな物だった。
「それが体感時間の操作……だったのよ。私達はあの時、自分たちの時をローレに支配されてた。あいつの力は、世界を止める物じゃない……個人の時を止めてるのよ。
それなら、システム的に不可能じゃない。私達の、このLROの体とリアルの思考のリンクを阻害すれば……リアルタイムで思考と体を共有してるのをブロック……出来るのかも。
そのタイムラグが時間停止に値するのよ」
なるほど……確かにそれは不可能ではなさそうだ。僕達はここでもリアルと変わらず……と言うかそれ以上に自由に動ける。
システムの補助が入り、スキルと言うリアルにはない魔法の力で、常人離れした技を放つことが出来る。そしてそれに違和感なんてない。寧ろリアルに戻った方が億劫になる位。
僕達はこの体がこう動くのが普通だと、当たり前だと思ってる。でもそれも全ては、LROのスペックのおかげなんだよな。LROなのかリーフィアなのかはわかんないけど、前提としてこの体はデータでしかないんだ。
こういう形に形作ってるあるだけで、紐解いてもこの体がタンパク質や脂肪とかに成る訳じゃない。せいぜい数字とかだろ。
ローレの……と言うかメノウの魔法はLROという世界に浸ってるからこそ出来る事。LROとリアルとの繋がりの中に遮蔽物でも挟み込んでる感じなのかも――ってそういう事だろ。ローレの言いたいことは。でも……
「貴重な情報だ。対応策はまあ……わかんないけど、知ってるのと知らないのとじゃ混乱がきっと違うだろ。助かる。だけど本殿では対象じゃなく範囲を包んでたぞ。あれと同じことをされてたんじゃないのか?」
僕がそういうと、セラはちょっと考え込む。
「それは……あり得るけど、結界は力を通す媒介が必要なのよ。本殿の中だったし、元からそう言う対策をしてたのかも知れないわ。それかメノウは瞬時に媒介を用意できるの……かもね。でも外なら気付かない筈ないでしょ? 私達は見合ってたのよ」
「確かにそうだな」
「もしかしたら、ローレ自ら時を操れるとかかも……対象と範囲の違いはそこかもしれないわ……」
それなら確かに……効果のあり方も少し違うのもその可能性を見いだせる事か……でも、それは厄介な事が増えるだけのような。でも頭に入れておいてもいい事だな。
「覚えておくよお前の言葉。きっと役に立つと思う。サンキューな」
「言ったでしょ……私じゃない。お礼ならあのバカに言いなさい。私を庇って真っ先に倒れて……自分がどれだけ重要かわかってないんだから……」
意外な言葉がセラから聞けたぞ。今の言葉をノウイに伝えてやれば、案外飛び起きるかも知れない。それくらいの言葉だった。だって……これがセラの本音だろ?
今のはノウイにとっては最高の誉め言葉になる。
「僕だけじゃないな。時にはお前もノウイに素直に成ってやれよ。頑張ってるからなあいつ」
「そんなの……誰よりも私が知ってるわ。でも、ノウイは甘やかさないって……決めてるの。今回の功績は……大きいけど……偶然よ。偶然。
たまたまあの直後にウインドウを開いて、時間を確認できたから……ノウイは違和感に気付いたのよ」
ウインドウを開けた? ああ、浄心水をみんなに渡す為のあれか。そういえばあの時、何か変な反応してたかも知れない。でも確信はなかったんだろう。だから何も言わなかった。
けど、ここでの戦闘の最中で、ノウイは確信したって事か。よくやったと言わざる得ない。目がゴマ粒みたいなのに良く見てたな。
そう思ってると、激しい風が吹き荒れて、落ち葉を一斉に巻き上げる。そして世界樹の枝が……幹がビリビリ揺れだしてた。
変な圧力が上からかかってる感じ。僕は傘の上の方へ視線をあげる。するとそこには再び黒い柱が見える。
「そんな! まさかローレの奴が儀式を再稼働させたのか?」
聖獣がやることをできるのか? って疑問はあるけど、アイツならやりそうだよな。召還獣もいるし、なんとかしちゃいそうな奴なんだ。
モブリ聖獣が消えた今……あれが出来そうなのはもうローレしかこの場にはいない。
「スオウ……あんた、逃げた方がいいかもね」
意外な言葉を呟くセラ。やられたからって気弱に成りすぎだろ。らしくない。
「どうしたんだ? 不気味だぞ」
僕がそういうと、弱々しい拳が飛んできた。ペチってな感じで頬に当たる。そしてそのままヘナっと落ちてく。
「何が不気味よ……人が折角しんぱ……ふん、ならさっさと行きなさい。たった一人で、何が出来るかなんて……たかが知れてるだろうに……ホントあんたは……でも伝える事は……伝えたわ。
どうせ言っても聞かないのなら……さっさと行きなさいよ」
そういってそっぽ向くセラ。どうやら機嫌を損ねた様だ。自分でもわかってはいるさ……たった一人、それがどれだけ無力な事かなんてさ。
でもかといって逃げられないじゃん。ようは邪神を復活させなきゃいいんだ。別にローレや召還獣を倒す必要なんてない。
あの陣で重要なのが何か……それは術者だと思ってた。けどそれは入れ替わってしまった。違ったんだ。だけど、あそこには代わりのないものがまだある。
それは『盾』聖獣の盾だ……あれが世界樹の力を吸い出して、力を弱めてるのはわかってる。それに残り三つの盾は、何者にも代われない筈。
あの盾さえ壊せれば、この邪神復活の儀式は行えない。試合に負けて、勝負に勝つとはこのことだ。ローレには勝てないかも知れない。でも奴の目的は潰す!!
「そうだ……これ……もって行きなさい」
そう言ってセラが出したのは浄心水だ。
「ノウイに追加で貰ってたのよ。私は……後一回使えるし。でもその暇はなかったわ。アンタも後一回は……使えるでしょう?
使うかどうかはどっちでも良いけど……一応ね」
僕はそのアイテムを受け取る。たった三度の限界突破を可能にするアイテム……浄心水。本当は何か役割があるみたいなアイテムらしいけど……これに頼るしかないのも現状だ。
だけどまだやれる事がない……訳じゃない。
「これはありがたく受け取っとく。それでセラ、ついでだけどもう一個くれ」
「何よ? 図々しい……」
確かにちょっと図々しいかなって思うけど……こんなの普段から僕をひっぱたいてるお前にしか頼めない。
「いや、お前のえげつない攻撃で僕のHPを削ってくれないかなってさ」
「あんた……それはくれってよりも奪う行為じゃない?」
「確かにそうだ。ダメか?」
僕が笑ってそう言うと、セラは黄金色の武器を取り出すよ。
「あんまり動けないから、アンタが自分で刺さりなさい。パーティーは解除しといてあげるから」
「……助かる」
あんまり致命傷に成る部分は避けたいところだけど……それじゃあ大ダメージは受けられない。それにちまちま何度も痛い目みるよりも、一発か二発で終わらせたい。それなら普通に腹部分が効果的かな。
僕は震えながら何とか武器を持ち上げてるセラの手に、自分の手を重ねる。そして一気にその刃を腹に突き立てた。
皮膚を貫いて肉を裂き、内蔵を突き破って背中側から刃が突き出す。刃に付いた真っ赤な血……それが床にボタボタと落ちる。
「ガハッ……」
口からも血が吹き出す。やっぱ痛いな……クラクラする。だけど! 僕はセラの武器を一度引き抜く。その時、反動でか、血が潮を噴くみたいに上がった。
そしてそれで気付いたのか、か弱い声が聞こえたよ。
「スオウ……何やってるの?」
それはクリエだ。僕が自殺まがいの事をやってるから、クリエは目を丸くしてる。何が起こってるか、何をやってるか、全然理解なんかしてないんだろうな。
でも、別にそれでいい。僕はクリエに向けて必死に笑うと、もう一度、少しズラして腹を刺す。再びの激痛と吹き出す血。
その瞬間、クリエが駆け寄ってくる。
「だめええええええええ!! そんな事しちゃダメだよ!! シスター言ってたもん。自分の体は大事にしなさいって! だからダメだよ!!」
クリエは……本当に良い子だよ。最初はクソガキとか言ってたけど、今は違う。僕はあの人同様、こいつの事愛おしく感じてる。
泣いてる姿なんかみたくないし、楽しく笑ってくれさえすれば良いと思ってる。だからこそ……頑張れるんだ。僕は武器が突き刺さったまま、クリエに手を伸ばして、その頭を撫でる。
「スオウ……」
「大丈夫だよ。シスターに頼まれたからなおまえの事……それにお願いだっ――て!」
僕は武器を引っこ抜く。丁度HPはこれでレッドゾーンに届いてる。致命傷二カ所は流石に効くな……受け入れ体勢万全だったのもあるけど……これはヤバい。
防御力低すぎだろ。
「お願い?」
「ああ、シスターの願いは、クリエの幸せだから……それを僕は託されたんだ。だから……負けるわけには行かない」
僕は歩き出す。傘の天辺まで続く階段へ。そして足を掛けずにこう紡ぐ。
「イクシード3」
吹き荒れる風が巻き起こり、落ち葉が再び舞い上がる。僕は背中から生える四本の風のうねりを使って、一気に上へ。
その時後ろからクリエの声が聞こえた。
「頑張れええええスオウオオオオオオオ!!」
僕はその応援を噛みしめて、傘の頂上を越えて再びローレ達の前に立ち塞がる。
第三百九十五話です。
次は多分、ローレとの直接対決になりそうですね。まさかローレと戦う事になるとは……実は最初はそんな予定無かったんですけどね。でもローレなら仕方ないかも……とも思います。
どっちに居てもおかしくない奴ですから。そもそもスオウ達に協力してたのも利害が一致しただけですからね。はてさてどっちが勝つのか!?
てな訳で次回は月曜日に上げます。ではでは。