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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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たった三度の限界突破

 ローレと戦わない選択は僕達には無かった。僕達は自分の信じる信念に従ってぶつかり合うしかない。それが例えついさっきまでの味方だったとしても、僕たちじゃローレの信念を言葉で折る事なんか出来ない。

 聖獣と召喚獣を相手に僕達が選択したのは、回数制限付きの限界突破アイテムの使用だ。それ以外に僕達が渡り合う術はない。


 エアリーロ・イフリート・ノーム。いきなりの豪華な召還獣召還。ローレの奴は本気って事だろう。だけど腑に落ちない事が一つ。


(アイツ、いつ詠唱した?)


 確か召還獣の召還にはかなり時間を要するとか言ってなかったか? それなのに、気づいたときにはこの状況って……使い勝手滅茶苦茶良いじゃないか。


「アイツ、きっと何かしたわね。気をつけた方がいいわ。ローレ自身がどんな戦い方をするのか、実の所知ってる奴はいないわ」


 セラの奴が警戒心を露わにそう言った。確かにこれまでアイツが前線まで出ることなんか無かったからな……それに出てきてもどうせ戦うのは召還獣だろうし、あいつ自身は高見の見物だろ。

 それがアイツの戦闘スタイルなんじゃ無いだろうか? でも今はこっちにリルフィンが居る。よくよく考えたら、今のもリルフィンならどうやったのか知ってるのかも。


「おいリルフィン――」

「フィンリルだ。その名は捨てた」


 そうだったね。だけど、ついさっきはそれで反応してたじゃん。そう思ってると、調子付いてきてる聖獣がこんなことを言う。


「ぐぎゃっぎゃぎゃぎゃ!! 頼りの召還獣までこちら側だ。お前たちにもう希望はないな!」

「「「っつ……」」」


 僕たちはきっと苦しい顔をしたと思う。だって確かに聖獣の言うとおりだ。僕達は召還獣を結構宛にしてた。でも今はその召還獣まで、敵側……戦力差は確かに開いただろう。

 でも……誰も逃げようなんて言わない。やらなきゃいけないから……ここで逃げ出すなんて出来る訳ない。僕達が逃げれば、邪神は復活。世界はきっと更に混乱の渦に呑まれていくことになる。

 ただでさえ、シクラ達のせいで滅茶苦茶なのに、ここで邪神復活なんて、世界そのものが混沌になる。僕達が初めてこのLROに降り立って見た美しい風景とか、無くなるかもしれない。

 そんなのは……ダメだろう。でもローレはそんな物さえも、次に進む為の犠牲程度にしか考えちゃいないだろう。すると頭にこんな声が響いてきた。


【残念な事ですね。まさかこんな風になるとは】


 それはエアリーロの声だった。本当に残念だ。エアリーロとはローレなんかより、よっぽど良いコンビ組んでると思ってたんだけどな。


「エアリーロ……いや、お前たち召還獣は良いのかよ? ローレの考えは分かってるんだろう? 邪神の復活をこのまま促すのか?」

「無駄よスオウ。この子達は主の私には逆らえない。そういう契約だもの。それにいつまでも喋ってて良いの? 状況は一分一秒毎に確実に進んでる。

 私たちは、何もしなくてもその時がくれば、目的を達成出来るのよ」


 僕が召還獣に掛けた言葉は、ローレに返されてしまった。でもこいつの言うとおりか……既にかなり時間経ってるしな。モブリ聖獣をこのまま放っとけば、邪神は復活する。

 確かにこれ以上のお喋りは、僕達にとって不利でしかない。


「スオウ君! アレを見てください!!」


 驚く様なシルクちゃんの声。僕はその指の先を見る。すると世界樹の傘の天辺から宇宙へと延びる黒い光の柱が見えた。そしてそれは枯れていってる世界樹そのものを、黒く塗りつぶして行ってる。

 ヤバいな、どう見ても状況が進んでる。枯れを通り越してるもん。葉だけじゃあない……幹ごと黒く成って行ってる。これじゃあきっと下の人達も世界樹の異常に気付くだろう。


「世界樹の力が弱まってるから、邪神の力が漏れて来てるみたいね。復活は近い。思ったよりも時間は掛かってるみたいだけど」

「貴様達のせいだ。本当なら五つの盾で世界樹の力を一斉に吸い上げて枯らす事が出来たんだぞ」


 ん? あのチート機能を備えてた盾はそんな事に使ってたのか。今残ってる聖獣は三体で、盾は三個。だからこそまだ完全に世界樹を枯らせてない。てか、あの盾吸収してもいつまでもその力を保持出来ないはず。

 世界樹程の力をどこに流してるんだ? 異空間? その為のモブリ聖獣か? 


「別に良いじゃない、全ては結果。そのためにはアンタたちは私も利用するんでしょう? 同胞を殺してる私さえも」

「同胞? 我らにそんな感情はない。やられた奴はそれまでの奴だったって事だ」

「あっそ、まあそうでしょうね」


 聖獣とも既に全然違和感無く喋ってるローレ。あいつの順応性の高さも異常だろう。ついさっきまで敵だったんだぞ。お前たちに抵抗感は無いのか。

 まあそんな指摘はなんの意味もなさないよな。


「スオウ君、僕達がここで奴等を足止めしよう。君はノウイ君のミラージュコロイドでモブリ聖獣の所へ。奴を止めない事には、僕達に勝利はないよ」


 テッケンさんが足下からそんな言葉をくれる。確かにそうだな……誰かがモブリ聖獣を止めるしかない。ここで戦力の分散なんて痛すぎるけど……聖獣に召還獣まで加わった今じゃ、それしかない。

 実際みんながそれで良いのかも微妙だけど……だってこの状況……残ったみんなはキツ過ぎる。


「大丈夫ですよスオウ君。私達は負けません。倒せないかも知れないけど……倒されもしません。みんなの命は私が支えます!」


 シルクちゃんが真っ先にそんな頼りになる言葉をくれる。


「シルク様にだけ負担なんて掛けません。それに私は倒すつもりですよ。あのバカを」


 そういってセラは、ローレに標的を定める。こいつ一点集中してそうだな。まあ恨み辛みがデカいか。だけどそこでリルフィンがしゃしゃりでてきた。


「ふざけるな。彼女を止めるのは俺の役目だ。誰にも譲らん。必ず目を覚まさしてやる」

「何よ、引っ込んでなさいよ捨て犬。未練がましいわよ」

「うるさい。貴様とてアルテミナスの犬だろうが。それに俺は捨てられたんじゃない。捨てたんだ。自分の意志で、一度離れる事を選んだだけだ」


 ビチバチと火花を散らす二人。するとあざ笑う様にローレがこう言うよ。


「せいぜい低レベルな争いをしてなさい。私に勝つとか捨てるとか捨てないとか、そんな物の見方じゃ、私には届かないって教えてあげる」


 そう告げるローレに連動して、召還獣達がその雄叫びをあげる。だけどそれにリルフィンが対抗して咆哮した。ぶつかり合う音。空気がビリビリと痺れ出す。

 この音自体が攻撃か……


「スオウ君、行ってくれ! ノウイ君頼む!」

「お任せあれっす!!」


 ミラージュコロイドが傘の上に向かって展開される。


「必ず止めろ! 邪神の復活など許すなよ!」

「当然!」

「ノウイ、例のアレは?」


 例のアレ? セラのそんな言葉に、ノウイは慌ててウインドウを表す。するとその時、一瞬ノウイの動きが止まった?


「ちょっと、まさか忘れたとかじゃないわよね?」

「そ、そんな事ないっす! これっすよね!」


 そう言ってノウイが取り出した、瓶に入った液体? それは銀色に輝いてて、持ってる手が写る程だ。あれは……


「浄心水か?」

「そうっす。ここに居る間に、用意してたっす」


 なるほど。確かにこれを使わない手はない。てか、使わざる得ない状況だ。それをノウイはみんなに渡す。


「浄心水ね。私が行ったとおり汲んでおいたんだ」

「別にアンタの助言でじゃない。使えると思ったからよ」

「ふふ……そうね」


 なんだか意味深な笑いを漏らすローレ。その理由を知ってるのか、リルフィンが静かに浄心水を見つめてる。


「浄心水――それをここで使うのは自由だけど、本当にそれで良いのかしら?」

「どういう事よ?」


 ローレの言葉にセラが眉をひくつかせて反応する。


「考えてもみなさいよ。浄心水ってあり得ないアイテムだと思わない? 一人で九十九個まで持てるのに、その機能は自身の限界能力を一定時間超えさせる事。

 どう考えてもアイテムとしてのバランスおかしいでしょ?」


 確かに……それはちょっとおかしい。効果だけなら最上級のアイテムの筈だ。それがここに来れば何回も汲み直せるって……それを使えばローレ最強じゃん。


「制約……ですか?」


 ローレの言葉を受けて、シルクちゃんがそう紡ぐ。制約……アイテムに課せられた使用条件とかの事かな。するとローレに変わってリルフィンがこう紡いだ。


「浄心水の使用回数は一人三回までだ。それ以上は使えない。そしてこの水は軽々しく使うものではない。たった三回の使いどころが大切な物だからだ」

「使い所か……今以上にその使い所なんて考えられないけどな」


 確かに鍛冶屋の言うとおり。リルフィンには悪いけど、これから先、今以上の使い所なんて想像できない。例えその三回の使用回数の一つを使ってしまっても、僕たちには浄心水を断る事なんか出来ないだろう。

 だって……


「そうね、鍛冶屋の言う通りよ。使用回数があったって、ここで私達はこの力を拒否なんて出来ない。だって少しでもコイツ等に対抗するためには、この力が必要でしょ。

 私達にはもう召還獣の味方はリルフィンだけで、後は敵……選択肢なんて無いも同じよ!」


 セラはそう言っていち早く浄心水をその口へと流した。するとセラの体が前と同じように金色に輝き出す。


「あらら、とっても大切な力を他人の為に使うなんてね。たった三回のうち、これでアンタの残り回数は後一回よ」

「それが何? 今ここでアンタを殴り飛ばせないのなら、どんな力があっても意味ないのよ。残り一回だって、迷わず使えるわ」


 そう言うセラは聖典を展開する。しかもこの浄心水の力なのか、聖典の数が戻ってる。下の方でかなりの聖典がやられてた筈だけど、展開した聖典は既に最大数の二十だ。

 セラに迷いや後悔は一切ないっぽい。気持ちいい奴だよ。

 するとそんなセラに促される用にみんなが続く。


「そうですね。大切な物だってのは分かります。たった三回しか使えないのも、何か意味があるんでしょう。だけど、私もセラちゃんと同じ。

 今の私達じゃただではローレ様達を止めれない。必要なんです。いつも以上の力が!!」


 両手で丁寧に瓶を支えるシルクちゃんは丁寧に小さな口へその銀色の水が流していく。


「その通り! 僕達は引けない。リルフィン君には悪いけど、僕達には今、このアイテムが必要なんだ。後悔なんてしない。

 これは僕達が望んで使う、一回だ!!」


 テッケンさんはそう言うと、歯で瓶を噛んで腕を使わず顔を上へ向けた。そして一気にゴクッゴクと喉に流し込んでる。モブリの体の構造上、短い腕じゃ頭の上まで届かないんだろう。


「どいつもこいつもご立派だな。だが安心して良いぞローレ。俺は自分の為に今使う。下では二人掛かりでもキツかった。

 だが俺が倒さなくちゃいけない奴だ。俺は自分の種族の誇りの為に、そこのエセ野郎を倒す。そのために、このアイテムに頼る!」


 鍛冶屋は口を付けずに瓶をひっくり返して、出てきた浄心水を一気に口へと流し込んで瓶ごと捨てた。豪快な奴だ。ちまちました作業が好きな癖に、豪快な奴だ。

 だけど、どうあってもスレイプル聖獣だけは自身の手で倒したいらしいな。


「自分はこれを使っても意味ないかも知れないっす。だけど……少しでもみんなの訳に立てる様になるのなら! 自分も迷わずその可能性に賭けるっす!!」


 ノウイも顔を上げて一気に浄心水を流し込む。だけどそこはノウイ。途中で気管にでも流れたのか、すっごい噎せてた。でもその体にはちゃんとした変化が現れる。

 みんなの体が黄金色に輝いてるよ。


「確かに、止めたって無駄よね。自分達の無力差はよく分かってるだろうし、ここで私達とやるにはそれしかない。いいわ、後悔しない選択ならそれで良い。

 さあ、準備も整ったようだし、世界のこれからを賭けて、戦いましょう」


 そうローレが告げると、エアリーロとイフリートが向かってきた。そしてそれにセラが聖典をいち早く動かして応戦する。

 そして鍛冶屋はやっぱりスレイプル聖獣の元へ。となると、テッケンさんは魚聖獣を止めに掛かる。みんな動きがこれまでとは全然違う。

 浄心水の力で今まで以上の力を手に入れてる。でもこの力は長続きはしない……急がないと。


「スオウ君!」


 その叫びに僕は手を伸ばす。そして触れ合った瞬間に引き込まれる感覚が襲って、次に目を開けると、そこは世界樹の天辺よりも高い場所だ。

 下には大きな神社? みたいな建物とその庭に黒く光る魔法陣が見えた。あれが儀式場だろう。あそこを破壊すれば! 

 僕はノウイの手を離して、鏡を軸に一気に下へ飛ぶ。すると同時に後ろからこんな声が。


「これ以上、この子を虐めないでえええええ!」

「クリエ!? お前なんで?」


 背中から顔を出すのはマジでクリエです。こいついつのまに僕の背中に居たんだ? シルクちゃんの所においてきた筈だったのに……


「だってだって、気になるもん! それにジッとなんかしてられないよ!!」

「だからってお前――ん?」


 チカチカ光るいくつかの黒い輝き。すると下から僕達の所に向かって黒い煙の竜みたいなのが襲ってきた。


「感づかれた――ってか、お前が大声出すからだぞ!」

「だって~~」


 本当なら気づかれないまま上から不意打ちを食らわせて、一気にあの陣を破壊する予定だったんだ。涙目になるクリエ……うぬぬ、こんな顔されたら、これ以上何も言えない。

 それにクリエの気持ちはまあ分かる。聖獣の中に吸収されたサナも、そしてこの世界樹も、心配なんだ。邪神復活の為に聖獣を倒さない選択をしたら、サナを解放する事は出来なくなる。

 そんな不安もあったんだろう。僕も取りあえず、浄心水を飲み干して、向かってきてる竜をブッた斬る! 金色に輝く体は、なんだか軽い。

 みんなが足止めしてくれてる。確実にやるためにも、僕もこのアイテムに頼らざる得ないだろう。ローレは色々といってたけど、僕の心はローレの奴よりもテッケンさん達みんなと同じだ!


「なっ!?」


 だけど斬った筈の竜は止まらない。やっぱり黒い霧なのか、斬っても直ぐに再生しやがる。四体の竜による攻撃、かまってなんか居られないのに……すると向かって来てた竜が突然頭から消えていく? 

 そして全然あらぬ空へ現れる。まさかこれは……


「スオウ君! 自分は倒せないっすけど、この位は出来るっす! 鏡も今の状態なら大量に増えてるんっすよ!!」

「ナイスだノウイ!!」


 やっぱりミラージュコロイドか。空に展開してる鏡を使って、竜を意図しない所に飛ばしてるのか。これで邪魔な奴は居なくなった――と、思ってたら、更に下から新しい竜を生み出すモブリ聖獣。


「スオウ!」

「分かってる。だけどもう邪魔はさせない! 今度はちゃんと、いうこと聞いてくれよ!! イクシード!!」


 両の剣に集まる風のウネリ。やっぱりいつもよりも数段腕に掛かる負担が大きい。だけどそれでも今回は前みたいにただビックリする段階は終わってる。

 今回はちゃんと心構えしてたんだよ!! でもかといって制御出来てる……とは決して言い難い状況だ。だけど僕は無理矢理ウネリをモブリ聖獣へと向ける。


「「いっけえええええええええええええええ!!」」


 僕の声とクリエの声が重なる。風と共に雷も強まってるウネリは、暗い空に青い光をスパークさせながら伸びていく。浄心水の力で確実にいつもよりも長く伸ばすことが出来る。

 そして何よりも、一番大きいのは、聖獣共が今、盾を使えないって事だ。だからこそ、このウネリも奴にきっと届く!! 世界樹の全てが黒くなってしまう前に、僕はこの儀式を止めないといけないんだ!!

 黒い竜をケチらして、真っ直ぐに延びるウネリ。だけど直前で堅い感触に阻まれる。イクシードのウネリを受けて、その姿が現されるのは、儀式場を囲むように張られてる魔法だ。


「結界? いや、障壁か?」


 実を言うと自分じゃどっちがどう違うのかよく知らないんだけど……まあどっちにしても、ぶち抜くだけだ!


「スオウ、あれは結界だよ。黒い柱が昇ってるもん。障壁は自分を守る為の物で、外からの全てを弾く防壁。だけど結界はもっと大きいの。障壁が個人用なら、結界はみんなの為の物だよ。

 それに結界は通す物とそうでない物ってのがあるんだよ。スケスケーって出来る物があるの。だからこそ、スオウ達は結界が張られてた筈のリア・レーゼに普通に入れたんだよ」

「なるほど……初めてお前が賢く見えたぞ」


 僕がそう言うと、頬を膨らませてクリエが怒る。


「失礼な! クリエ勉強はとっても出来るんだからね。シスターによく褒められたもん!」


 なるほど、じゃあ今のもシスターに習った事なんだな。あの人はクリエにきっと、いろんな事を伝えてるんだろうな。なんせ誰よりも、クリエと長く一緒に過ごした人なんだから。

 誰よりもこいつの未来を案じてた筈だ。だからこそ、伝えられる事は教えたかったのかも。いつか自分は居なくなる……それも分かってたんだろうな。


「それで、結界と障壁どっちが強いんだよ?」

「そんなのわかんないよ。ジュツシャにも寄るし、魔法事態にもよるもん。だけど結界を大きな範囲に作るには何か力を流す物が必要だって言ってたよ」

「それだ!」


 この陣も十分大きい。聖獣だとしても、その力には限界って奴があるだろうし、効率の良さを求めるのなら、既存のシステムに頼る事はするだろう。

 それに今のモブリ聖獣はそれなりに手一杯だろうし、自分自身が常に結界の維持をしてるなんて訳ない。どこかにこの陣を形成してる何かがあるはずだ。

 ようはリア・レーゼを守ってた結界の為の五つの祠……それと同じような役割をしてる物がきっとある! 僕は木の枝に降り立つ。真っ黒になった木は、死んでるって言うか、塗りつぶされた感があるな。

 枯れたって表現していいか微妙に見える。葉がなくなっただけで、幹としては変化無い。冬の桜の木みたいな感じに見えなくもないんだよな。

 まあだけど異常なのは間違いないか。僕を追いかけて来る黒い竜。この光だから隠れるって事は無理があるか。でもこの程度の攻撃なら、さほど驚異じゃない。僕は天辺の砂利の庭に更に降りて、力の伝達を担ってる物を探す。

 結界の周りを竜をやり過ごしながら回る。するとクリエが何かに気づいた用にこう言った。


「スオウ、地面から何か伸びてる」

「なに?」


 僕はそのクリエの指摘で地面を注視する。結界は衝撃を与えないとその姿を現さないから、僕はウネリでズガンズガン叩いてみた。

 するとその時だけ確かに見えた。結界と地面の境目から内側に伸びてる何か……黒い線みたいな物があった。それを辿ると、その先に黒い針みたいな物が浮いてる。三十センチ位のその針が、きっとこの結界の構成要素の一つだ。

 あれを叩き壊せば……だけど問題は結界内部にアレがあるって事だ。当然だけどそうだよな。外側に置くバカはいない。


「スオウどうするの?」

「イクシードの雷撃の力を片方に集めて結界の一部を切り開く。そしてそこからもう片方のウネリを飛ばす!!」


 それしかない。僕は集中して力をそれぞれ左右の剣に分ける。片方は鋭さを追求した雷撃の剣。そしてもう片方はウネリをまとったままの剣だ。

 どっちかに徳化させたからか、ウネリも大分落ち着いたかも。


「よし!」


 再び黒い竜が邪魔しないうちに僕は結界へと雷撃を纏わせた武器を突き刺す。スパークの光と共に腕に伝わる確かな感触。手応えありだ! 

 でもこれだけじゃウネリを通せない。僕は更にここから結界の傷口を開く為に、大きく弧を描く。そしてその穴に結界が修復するよりも早くもう片方の腕を突っ込んで、ウネリを伸ばす。波を打って走るウネリ。

 黒い針に直撃したウネリに更に力を込めて、僕は叫ぶ。


「砕けろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 その瞬間、黒い針が砕かれる甲高い音と共に、ウネリが前方に進む。そして同時に結界が消滅。これで届く!! 僕はウネリを横に流し、そのままモブリ聖獣へと向ける。黒い光の柱が立ち上る場所へ、黄金色に輝く風のウネリが迫る。

 第三百九十三話です。

 こんな所でローレが裏切るからややこしい事になってしまいました。召喚獣までを相手にしなきゃいけない事で、スオウ達は浄心水に頼る事に……だけどそれも制限付き。

 たった三度の……スオウとセラは二回しか使えない浄心水で、この事態を乗り越えられるのか……

 てな訳で次回は、木曜日に上げます。ではでは。

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