避けられない正義
ローレのとんでもない提案。それに驚愕する僕達。だけどそんな驚きも僕達の制止も結局はローレには響かない。どれだけの言葉も、こいつの正義は揺るがない。
「簡単、ここは邪神を復活させて貰いましょうよって事よ」
そんな言葉を紡いだローレに僕達は改めて驚く。てか、まさか本気か?
「本気も本気。私は冗談なんて早々言わないわよ」
「お前……邪神の復活は看過出来ない派じゃ無かったのかよ? テトラが復活するにはこの世界樹が枯れるんだぞ。それだけで、この今の世界は変わるだろ。
そう言ったのはお前だ!」
僕は軽くそう告げるローレに言ってやる。それはこのリア・レーゼの存在意義とか……色々とヤバいだろ。お前を信じてる信者達はどうするんだよ。裏切る事にしかならない。
「世界樹は枯れても無くなる訳じゃない。確かにリア・レーゼにとってこの世界樹は力の象徴みたいな物だけど、今回の事は私の計画には痛いのよね」
「痛いって……何がですか?」
シルクちゃんが杖を抱き抱える様にしてそう聴くよ。なんだか今の状況、既にローレが向こう側に行ったかの様だ。だってローレの後ろには召還獣じゃなく、聖獣が居る。まあ武器をまだ突き立てられてる訳だけど……向こうとこちら側で完全に分かれてる。
「わからない? 今回の事で色々と迷惑を掛けたわ。借りにはノエインはしないだろうけど、それを感じずには居られないでしょう。
それに他の国に対して、このままじゃ頭下げなきゃ行けない。このまま邪神復活を阻止したら、そんなテンプレ展開に突入して、色々な理由を付けてこの街ごと監視下におかれたっておかしくないわ。
そしてこの街の代表の私にはそれを拒む事はきっと出来ない。こちらが全面的に後ろめたいから。そうなったら困るのよ。
そんな展開……望めないな~って少し前から思ってた。具体的にはこいつらが突入して来た辺りから」
「それじゃあ貴方は、僕達が必死に逃げ遅れた人たちを助けてる間に、自分の保身を考えてたって事ですか?」
テッケンさんが珍しくキツい顔をして、ローレをそう問いただす。でもローレはそれを否定するよ。
「違うわね。私は自分の保身を考えてる訳じゃない。自分の地位の向上をいつでも考えてるの。そこら辺勘違いしないでくれる?」
華奢な体で限りなく不遜な奴。そして言うことはその外見からは想像もつかない位にギャップがある。でもそれを魅力的って捉える奴は居ないだろう。
だってもう怖いもん。
「そ……それは結局自分の為っすよね? 自分を慕ってくれてる人たちの事は……どうでもいいんすか? みんな貴女ならやってくれる。それを信じて送り出してくれたんすよ!!」
必死に勇気を絞り出した様な声を出すのはノウイ。権力に一番簡単に飲まれそうな奴だけど、やる時はやる奴だよな。
「私の願いは信者の願い。それにこれは裏切る事にはならないって思ってる。臨機応変に対応しましょうよって事。このまま全てを予定通りに終わらせたってリア・レーゼにとって良いことは一つも無いわ。
それなら大きな賭に出るのも悪くない。邪神の復活なんて……って最初は確かに思ってたけど、リスクを天秤に掛けるとどっちもどっちじゃない?」
相変わらずの暴論だな。自分の願いは信者の願いって……そこまで言ったら独裁者だぞ。神の教えを説くものじゃない。神にでもなろうとしてるとしか思えない。いや、そうなんだっけ?
「ローレ、私たちがそんなアンタの暴論に乗ると思ってるわけ? ここに居たのが私達で良かったわ。そうじゃなかったら、アンタを力ずくで止められなかった」
「力で、私に敵うとでも本気で思ってるの? こんな姿だからって私の事、あんまり舐めない方が良いわよ。格の違いを思い知る事になるだけだから」
「ふん、バランス崩しは滅茶苦茶だけど、必ずしも万能って訳じゃない。アンタのその杖にも、何か制約があるんじゃないの?」
制約か……カーテナがアルテミナスの領地でしかその力を発揮出来ない様な事だよな。だけどどうなんだろうな……自国の領地でしか使えなくても、ここはノーヴィスだから意味ないぞ。
まあ同じ制約かどうかわかんないけど……
「もしも制約があるとしても、それを教える義理はないわね。特にアンタには。それに何度も言うけど、そこまで恐れる事なんか無いわよ。
きっと話は通じるわ。次のステージに、この世界が進むだけ。それを前向きに捉えなさい。そしてそれが新たなこの街のアドバンテージになるの。
邪神を復活させたかも知れない街より、邪神と組んだ街の方が箔がつくと思わない?」
その白く綺麗な肌を染めて、嬉しそうにそう言うローレ。こいつには恐れる物ってのが無いのか? そんな簡単な話じゃないだろ。ローレにとってはもう突っ切った方が上手く転がせる自信がある――って事なのか?
すると困惑僕達の中から、白銀の毛をしてるリルフィンが進み出る。
「本気で……本気でそんな事を言ってるのですか主?」
「本気よ。このまま終わらせたって身動き取れなくなる。事態をこちら側の動かせる所に転がせた方がいいのよ」
するとあのリルフィンが、ローレに向かって食いつく。
「主はわかってない! アイツは……邪神はその名の通りの奴です! 奴は自身の欲望を満たす為だけに動く」
「そうかもね。だけどそれも自身で確認するまでは何とも言えない事よ」
「だから我ら召還獣は奴を知っていると言ってます! 奴はこの世界に闇を作り、世界を滅ぼそうとしたんです! そんな奴に、会話の余地などありはしない!!」
そっか召還獣は二人の神の力で創造されたとか、エアリーロは言ってたな。じゃあ知ってるのか……二人の神を。だけどあれ? 前に本殿で顕現したテトラはリルフィンに気づいてなかったぞ。
いや、でも意味深な言葉を吐いてた。確か同じ外れ者……とか。あれは気付いてたから言ってたのか……どうなのか……
「ふうん、アンタの口から邪神の事を聞くのは初めてね。他の子達も喋ってくれないし。どうせなら聴かせて欲しい物ね。最初期のテトラとシスカの事。貴方達なら真実を知ってるでしょう?
人の視点はシクラが美化されすぎてるし、逆にモンスター達は盲目的にテトラを崇めてる、どっちも極端なのよ。その時々の支配者に改ざんされない歴史はない。それはシクラ教も同じでしょう。
どこを探しても、創世記の戦争以前の記述はない。だけどこの世界には至る所に残ってる。この世界の創造神はシスカとテトラ……この二人だという事実がね。アンタ達も本当は知ってるんじゃないの?」
そう言ってローレは後ろの聖獣を見る。すると聖獣共は互いの顔を見合わせてこう言ったよ。
「なんの事だ? 我らがテトラ様から聴いた事は五種族を滅ぼせという事だけだ。貴様達の恐怖の対象と成れと、それを忘れさせてはいけないってな。
だからどうあっても我らが貴様等と和解する事はない」
「それは邪神の命だからでしょ。私がそんな命令覆してやるわ。だから問題なし。でも結局なんの役にも立たないわねアンタ達」
「うるさい! 貴様がテトラ様を復活させてやると言うから殺さないが、それなら貴様がこいつらを止めて見せろ」
「それが信頼の条件って事ね。まあ元からその気だけど」
そう言ってローレはこちら側に進み出る。そしてリルフィンの目の前に。身長百八十以上ありそうなリルフィンと小柄な少女のローレが並ぶと、その差は歴然だな。てか金髪のローレと白銀のリルフィンはなんだか並ぶと絵になる感じ。
雰囲気はメッチャピリピリしてるけどね。
「主は直接アイツの事を知らないから……奴はシスカ様を裏切ったんです。そして世界を自分の物にしようとした。最初は確かに二人で創造した世界だったかも知れない……だがそれは続かなかったんです。
奴の裏切り……それが全ての始まりです。歪み始めた世界の原因はテトラなんです。だから奴は邪神と呼ばれてる。
そんな奴を本当に貴方が蘇らせると言うのなら……」
「言うのなら?」
ローレはその瞳を僅かに細める。だけど怪訝とか不安とかじゃそれは決してない。だって口を三日月型にして、頬を染めて、その手を口元に添えるその仕草は、どうみても笑ってる。
いや、寧ろ楽しんでる。そんなローレの姿を見て、リルフィンがどう思ってるかなんて僕には知る術はない。でもリルフィンはその拳を震わせて意を決してこう叫ぶ。
「私は貴女との契約を切ろう!! 長い付き合いでしたけど、ここまでです。貴女が見せてくれる世界は素晴らしかったが……それもここまでの様です。
間違った道に歩もうとしてる。それなら契約破棄と共に、私が……我が……貴様を食らう!!」
その瞬間床に敷き詰められてる落ち葉が一斉にリルフィンを中心に吹き飛んだ。それは今までで一番大きく感じる力って奴だったかも知れない。
だけどそんな落ち葉がパラパラと落ちる中でも、ローレは相変わらずだった。落ちてくる一枚の枯れ葉を掴んで、手先でクルクル弄び、そしてこういう。
「そう……まあアンタとは意にそぐわないのなら――が条件だし、契約破棄は自由よ。だけどちょっと寂しいわね。アンタに出会ったから今の私がいる。
小さな子犬だったのに。よく吠える様に成ったわ」
「だからこそ……我は主の間違いを正す役目を負う。こんな終わり方はイヤだったが……考えを改めないのなら仕方ない。
我は世界の柱の一つ、月光射す夜天の王【フィンリル】貴様に与えられた名は捨てよう」
リルフィンは小さなローレに向かって、その武器を突き立てる。こいつ……本気か? あんなにローレ、ローレ言ってた奴が……いや、でも仕方ないか。
邪神復活なんて、許せる所行じゃない。リスクが大きすぎる。全てはローレの憶測で、希望的観測だろ。全部思い通りにいけるなんて思えない。
確かにテトラは話が通じない訳じゃないけど、テトラ復活ってあれじゃん。なんだか物語的に最終局面クラスだろ? 早すぎるよ!!
まあ何がどう転ぶかわかんないのがLROな訳だし、基本プレイヤーの個々の選択に委ねられた世界だ。誰か一人の思惑や思想が、この世界全体を大きく動かす事が有り得るって事だろうけど、ローレがやろうとしてる事は果たしてこいつ一人の意志で決めて良いものなのか……
僕には途方もなくて良くわからない。するとその時、ピリピリしてる中で「ウエエエエエン」ってな声が響く。そんな声に僕達は一斉に振り返るよ。するとそこには置いてけぼりにされたクリエが泣いてた。
僕達のピリピリした雰囲気が怖くなったのかな?
「なんで……なんでローレはそっちに側に居るの? みんなで頑張るから安心しなさいって言ったのにいい~」
クリエはトコトコ歩きながらそう言うよ。ローレの方に向かおうとしてるらしい。僕はそんなクリエを途中で抱き止める。
「駄目だクリエ。アイツは――」
僕は途中から言葉が出せない。いや、これは言いたくない事だ。だけど、腰に手を当てて、そのしなやか足を見せつける様にしての態度でローレはあっさりやっぱり言った。
「敵――かしらスオウ? 私は全然そんな気はないんだけどね。ちょっと意見が合わないだけで敵だなんて、それじゃあ世界中敵だらけよ。
世界中の人達と同じ思いでなんて居られないでしょう。みんな違ってみんな良いって言葉知らないの?」
「お前が言うと、その言葉も安っぽく聞こえるな」
心がこもってないんだよ。いつまでもどこまでも全ての奴を見下してるだろ。
「ローレは……この世界を壊しちゃうの?」
クリエの言葉にローレはニッコリ笑う。
「壊さないわよ。だけ変容はするかもね」
「わかんないよ!」
「クリエはまだお子さまだからよ。子供の出る幕じゃないの、引っ込んでなさい」
コイツ……笑顔で酷い事を……涙をポロポロ零すクリエ。だけどクリエも引き下がらない。
「イヤだよ!! だってローレはこの世界のクリエの友達……苦しくしてる人達の味方しようとしてる! そんなの絶対に許せないもん!!」
「友達? ああ、アンタ植物とかの声を聞けるんだっけ?」
「草さんや木さんだけじゃないもん! クリエは石さんも雲さんも川さんの声もちっちゃな虫さん達の声だって聞けるもん!!」
「ふ~ん」
そんなクリエの言葉を聞いて何か考えてるローレ。そしておもむろにこう言ったよ。
「アンタじゃあこの木……世界樹の声も聞こえるんじゃない?」
「痛いって言ってる! 苦しいっても言ってるよ! なんでこんな事を許すの? この木はみんなを守ってきたんだよ!! クリエをずっと見守ってくれた木だよ!!」
クリエは体をウネらせて、涙を飛ばしそう叫ぶ。世界樹は確かにずっと守ってくれてたはずだ。この世界を……そしてこのリア・レーゼを。
その恩恵を一番に預かってたのは他でもないローレの筈だ。なのに……そのローレが世界樹を枯らす事を見逃すのか。皮肉だよな。恩を仇で返されてる様なもんだ。
するとスッとローレの腕がクリエの頭に延ばされる。あまりにも唐突で、そして自然だったせいで、その瞬間まで僕達は気付かなかった。そしてそれは頭を撫でられてるクリエでさえ予想外過ぎて、呆けてる。
ローレの行動は全然予測できない。予想外の事を当たり前の様に……なんだか苦手と思ってたけど……日鞠の訳の分からない部分を抽出した様な奴なのかも。
クリエを撫でるローレを見て、僕は一瞬そう思ってしまった。
「ねえクリエ、なら伝えなさい。世界樹に【ありがとう、そしてお疲れ様】ってね」
「え?」
「【これからは貴方だけに頼らずに生きてくわ】これも付け足しといて」
そう言うと、ローレはクリエから離れる。どう言うことだ? なんでここでお礼?
「ローレ、お前……一体何がしたいんだ?」
これを聞かずには居られない。僕にはローレが全然理解出来ないよ。
「言ってるじゃない。今はこの世界を次のステージに進めたいの。そこでまた私は自分の野望を目指す。このままじゃ詰みなのよ。
世界の根本を変える事くらいをしないと、この事態を糧に出来ないでしょ?」
「それだけの為に……世界全体を巻き込むのかよ。そんなとんでもない事をしたら、LRO事態がどうなるかもわかんないぞ」
うんうん、自分で冷静に口に出してみたら、案外マトモな事をいえたぞ。ローレの雰囲気に飲まれてたけど、クリエのおかげで戻ってこれたかも知れない。
そもそもそんな変革にLRO事態が対応してるのかすらわからないだろ。
「大丈夫でしょ。だってここはLROだもの。それに私がやろうとしてる事よりも、アンタ達がやってきた事の方がよっぽどLROにとってはダメージだと思うけど?」
「うぐ……だけどそれとこれとは話が別だ。僕たちは進んでやってきたんじゃない。状況がそう動いていってただけ。それにちゃんと止めてきた!
お前はそれを支持してる。それも自分自信の野望の為に……そんなのを望んでるのはお前だけじゃないか! リア・レーゼの人々はまたいつも通り生きれる……きっとそれだけでいいんだよ。
そしてそこを納めるのがお前で……それで良いと思ってる筈だ!」
今も下に居るモブリ達はそんな明日が来ることを願ってる。そうに違いない筈なのに、それじゃあ駄目だって事なのか?
「私は良くないのよ。私の野望はリア・レーゼでは止まらない。どうしようもないのかしら? 邪神の復活は許容出来ない?」
「そもそもお前の中に居る召還獣達だってそんなの許さないだろ。リルフィンと同じ考えじゃないのか? そこに居るはずのメノウはどうなんだ?
ローレのやろうとしてることを許せるのか?」
僕には見えないけど、居るはずのメノウにそう問いかける。するとローレの影からニョキっと姿を現す怪しい姿が……
【主 思考 許容範囲】
「何を! お前達も知ってるはずだ! テトラの暴挙を!! シスカ様の悲しみを!!」
メノウの言葉に、食いかかるリルフィン。するとメノウは何も言わずにリルフィンを見つめる。そしてこんな言葉を残して再び影に消えた。
【フィンリル 忘却の記憶 有り】
忘却? 何かをリルフィンは忘れてる……そう言う事か? そこに他の召還獣が反対しない何かが有るのか?
「エアリーロ達は私と純粋な契約をしてるから、不本意でも逆らう事は出来ないわ。メノウとそいつが特殊なだけ。だけどやっぱりメノウはわかってくれてるわね」
邪神が復活しても良いと思ってる召還獣が居るとは……それは結構予想外だな。メノウとリルフィン……何が違うのか。僕たちにはわからない。
メノウも邪神はこの世界を滅ぼしたりはしない……そう思ってるって事だろうか?
「ローレ」
「何? スオウ? 私側に付くことにした?」
ふざける様にそう言うローレ。もうつき合ってられない。コイツとの会話だけで何分経ってるよ。もしかしたらローレの奴、この会話で場を繋ぎ、聖獣が邪神を復活を完了する時間を稼いでるのかも……それは十分にあり得る。
「ふざけるな。そもそも僕の答えは最初から決まってるんだ!」
僕はそう言ってクリエを抱いたまま立ち上がる。
「スオウ……」
縋るようなクリエの声。僕はクリエを抱きしめる腕に力を込める。みんなの視線がここにある。僕は一度大きく息を吐いて、クリエを見る。
「大丈夫、ちゃんと助ける」
そう言って再びローレへ視線を戻す。
「聖獣をこのままになんか出来ない。そいつ等の中には助けなきゃいけない奴が居るんだ! そしてクリエの望みも、その子が居なきゃいけない。
悪いけど、それは絶対に譲れない。なんせクリエの方が先約だからな! だからこの場で、邪神を復活なんかさせない!!」
「スオウ!!」
ギュッと抱きついて来るクリエ。もしかして心配してたのか? 僕がローレの滅茶苦茶な提案に乗るとでも? いやいや無いだろ。
「ふ~ん、他の奴らも一緒かしら?」
ローレがそう言ってみんなを見回す。僕は振り返ってみんなの顔を確認するよ。するとみんなは僕に向かって頷いてくれる。
するとその中からセラが嬉しそうにこう言った。
「当然でしょ。ノーヴィス内だけならどうでも良いけど、世界全体なんて見過ごせる訳がない。あんた一人の独断でどうにかしていいものじゃないわ! 自分がどれだけの者なのか……どうやらアンタは勘違いしてるみたいね。
それを正してあげるから覚悟しなさい」
「何故かしら? なんだかとっても楽しそうに見えるわね」
本当に。セラだけとってもウキウキしてるのがわかる。
「しょうがないでしょ。だってこれで堂々とアンタのそのムカつく顔をブン殴れるのよ? 楽しくない訳無いじゃない!!」
やっぱりか。相当の恨みが有るんだね。まあしょうがないか……セラはローレに一番虐められたもん。僕はクリエを下ろして、シルクちゃんの所へ促す。そこが一番安全だし、一番クリエが懐いてるのはシルクちゃんだしね。
「ローレ……お前の味方は誰一人居ない。考えを改めるのなら今のうちだぞ」
僕がそう言うと、ローレの後ろの聖獣共が武器をローレに突き立ててこう言うよ。
「どうするんだ?」
「俺たちとやるか、奴らとやるか? 前者なら速攻で食い殺す!!」
既にローレだけは孤独。そっちに言っても奴らは味方じゃない。だけどローレは事も無げにこう言った。
「何が正義とか、正しいとか、間違いとか……そんなの結局今日明日で分かる物じゃないじゃない。私の行動の先に、一度世界が滅びたとしても、それは絶対に悪い事? アンタ達の選択の先にある未来が正しいの?
そんなの分からない。結局は私たちは自分の思いをぶつけ合うしかない。そして勝った方が己の信念の我を通す。言っとくわスオウ。正義が力じゃない。勝ち取った者が正義なのよ。そして私はいつだって勝ち取って来た。そしてそれが正義だと信じてるわ」
カツンと杖の音が響く。そして一瞬、僕たちの視界が暗くなった……様な気がしたと思った次の瞬間、そこには三体の召還獣が姿を現してた。
エアリーロ・イフリート・ノームの三体。しかも向こうには聖獣まで……その様は圧巻。ローレはやる気だ。自分の正義を、信念を、僕たちにぶつけて自分の道を進み続ける気だ。
その覚悟がコイツには有る。
第三百九十二話です。
いよいよ雲行きが怪しくなってきましたね。今回でローレとの対立は決定的です。つまりは聖獣と召喚獣に立ち向かう事になった訳です。はてさて……どうすれば良いでしょう? てかどうなるんだろう?
てな訳で次回は火曜日に上げます。ではでは。