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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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逃げない事

 対峙した聖獣とミセス・アンダーソン。アンダーソンは魔法一つで奴等を足止めする気だ。そして実際、それが出来る程強力な力がこのおばさんにはあった。アンダーソンの狙いは足止めと、出来ればの説得?

 アンダーソンは少なくともサン・ジェルク艦隊が到着するまでは自分の魔法でいけると思ってた。でも、やっぱり聖獣の力もまだまだ未知数に高いんだ。


「譲れぬな。この思いそうそうとたやすく捨てる事など出来ないのだ!!」


 その言葉と共に、エルフ聖獣が勢いよくこちらに向かってくる。そしてそれに続く他の聖獣達。僕達も武器を構えて身構える。

 雨が吹き飛び、夜空に月光を称えるこの時が、戦いの第二幕を告げてる……かのような気がしてる。僕だけかも知れないけど。


「もうこれ以上先へは行かせないと行った筈です」


 そんな言葉と共に、ミセス・アンダーソンは前に出した右手を左手に持つ小さな杖でサッと掠める。 すると杖の前に小さな光が。

 そして彼女は紡ぐ。


「【リドベージェ!!】」


 その瞬間、僕達までも聖獣と共に、強力な力で弾かれる。これは……あの時の……まるで磁石が反発するかのような力。


「うおっ――ちょ――アンダーソン! お前加減しろ!」


 おいおい後少しで、この通路から僕達もモンスター共と同じように放り出されるところだったぞ。シルクちゃんが魔法で飛び出さない様にしてくれてたからよかったけど、そうじゃなかったら、完全に自爆だろ。

 だけどそんな僕の文句に、アンダーソンは皮肉っぽくこう返す。


「加減なんてしたら奴らは止められないでしょう? それに実際、この力は加減とか出来ないのよ。高速起動を確保するために、段階を結構飛ばしてるから、常に全力発動なの。我慢しなさい」


 我慢って……ん? 体が押しつけられる様な感覚。その中で必死に耐えてると、アンダーソンの向こう側の聖獣達は飛ばされてない事に気づいた。

 流石は聖獣か……だけど奴らも一定の距離から前に来れずにいるようだ。


「諦めなさい。この魔法が発動してる限り、何も私には触れられない。けど倒せはしない魔法よ。双方痛み訳って事にしましょう」


 そう言ってアンダーソンは前へ進み出る。するとこちらの負荷が幾分か軽くなった。それと共に、聖獣共は体が後ろの方へ下がってる。

 どうやらこの魔法はアンダーソンを中心にその力を全包囲に放ってる……そんな感じなんだろう。だからアンダーソンの近くが一番強力で、そのアンダーソンが離れたから、僕達へは負荷が弱まり、近づかれた聖獣共はその力をまた一段と強く感じてる。

 この魔法が詠唱なしであそこまで速く発動出来るのは、今のアンダーソンの挙動のせいなのかな? あの動作か、それとも腕に仕掛けがあるのかも。それに倒せないって事も高速起動の為? 強力だけど、周りの全てを弾くだけ。だからこそ、色々な条件を取っ払っての高速起動なのかな。

 まあ倒せなかったら、根本的な解決は望めない訳だけど。アンダーソンが下に落としたモンスター共だって、時期にまたここにくるだろう。

 だけど時間稼ぎにはなる。サン・ジェルク艦隊はきっともうすぐそこまで来てくれてる筈だ。そうなれば、今よりももっと楽になる。

 まあコイツ等がここで引けば、もっと万全な体勢を整えられる訳だけど……


「痛み分け? そんな事……望める訳がない!! 我らが望みはたった一つ。世界を闇に包む事よ!!」


 たからかと叫ぶエルフ聖獣。すると聖獣共の瞳……と言うか、仮面の奥がこうこうと輝いた。やっぱりここで引くとかあり得ないか。

 そりゃそうだよな。実際まだ向こうが有利だしな。それに奴らは自分達の力に絶対の自信を持ってるだろう。ようは調子づいてるって事だけど、そんな奴らが引くわけない。

 エルフ聖獣はその長刀の刀身から、黒い靄みたいな物を出し始める。そして黒い光が奴の体を包み込んでる。大きく羽を広げて、その羽で空気を弾いて更に前へ出ようとしてる。


「うぬぬぬぬうぬぬぬうぬぬぬぬうががああああ!!!」


 僅かだけど少しづつ前へエルフ聖獣は進んでる。そしてエルフ聖獣に気を取られてたら、上から大量の武器が炎を上げて落ちてくるのに気付かなかった。まるで武器の流星みたいだ。

 どうやらスレイプルの聖獣の仕業の様だけど……アイツいつのまに空へあがったんだ? 飛行の力はなかった筈だけど。

 だけど炎をまとってただ勢い良く落ちてくるだけの攻撃なんて、アンダーソンの魔法を抜けない。すると今度は魚聖獣が尻尾をグルグル回しながら、体を大きく反り、そして勢い良く口からレーザーみたいな超圧縮の水を吹き出す。

 だけどそれもアンダーソンに届く前に激しい水しぶきに変わる。月光を反射する水しぶきがキラキラしてた。


「凄い……な、アイツ」

「ミセス・アンダーソンは有名ですからね。ノーヴィスと他国を繋ぐ顔役でもありますけど、その魔法も一千級として」


 シルクちゃんがリルフィンの回復をしながらそんな説明をしてくれる。そういえば結構偉かったんだよねあのおばさん。

 でもまさかここまで戦えるとは思ってなかった。まああれは戦ってるのかどうか……だけど。立ってるだけの気もしなくもない。

 でも聖獣相手に一歩も臆してないし、そこら辺はやっぱり凄いよね。


「さあ、無駄な足掻きとわかったでしょう。ここを越える事は出来ないわ」


 毅然とそう言うアンダーソン。だけどエルフ聖獣の野郎は、必死な中に僅かに口元を綻ばせてこう言った。


「それはどうかな? 貴様、頬に水滴がついてるぞ」


 そんな指摘を受けて、アンダーソンは自身の頬を拭う。ここからじゃどうだったのかはわからない……けど、次の瞬間、更に聖獣共は勢いを増す。


「叩き潰す!!」


 そんな声と共に、バカデカイ武器が空から落ちてきた。薙刀みたいな武器なのか、かなり反ってる刃がアンダーソンへ向かってる。


「あれは!?」


 テッケンさんの驚く様な声に視線を変えると、魚聖獣が様変わりしてた。なんだかその体をブニャンブニャンに膨張させて、一気に水を出しまくる。上と横からの同時に強力な攻撃が迫る。

 刃は空中で止まり、水は明らかに弾かれてる。だけど、ニ体ともしぶとい。流石にアレはヤバそうだと思える。でも僕達もアンダーソンに近づく事は出来ないんだ。


「アンダーソン! 注意しなさい。聖獣はあと一体居るわ。しかもアンタと同じモブリ。何をやってくるか、大体想像付くでしょう」


 セラがそんな警告をアンダーソンへと送る。何をやってくるか……あのモブリ聖獣がやってくること。アイツ姿は見せないし、指ぱっちん一つで魔法を発動するんだよな。同じモブリだから魔法にも長けてる……僕がそう考えてると、案の定どこからかパッチンパッチンと指を鳴らす音が聞こえた。

 すると他の三人の仮面の色が赤黒くなってく。そして三人揃って凶暴そうなうねり声を上げる。何かやってくる……そう思ったけど、どうやらやったのは仲間の強化みたいだな。

 だけどその勢いの余波がこっちまで伝わってくるような……足場に響くイヤな感じの音。


「おい、ヤバいぞこれ!」


 強大な三つの力が一カ所に集中してる。そしてそれを弾こうとするアンダーソンの魔法。それらが渦巻いて、この道を崩壊させ始めてるぞ。


「くっそ!」

「無理よ。アンダーソンの魔法が私達の助けをも弾く」


 僕がセラ・シルフィングを握り締めた所を見て、セラがそういう。わかってる……わかってるけど……



「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」



 次の瞬間、この場所を形作ってる骨組みが崩れだした。足場が崩壊していく中で、沢山の叫びが木霊してる。





「イッツツ……どうなった?」


 崩壊した足場の内部部分に居る僕は、木々で組まれたその道の上を見上げる。僕たちが居た場所部分が奴らの力で部分的に壊れたみたいだな。

 聖獣共はどこに行ったんだろうか? 煙が酷くて見えない……そう思ってると、光る赤い瞳が僕に襲いかかってくる。僕はとっさにかわして、握ってたセラ・シルフィングで切り倒す。


「こいつ、モンスターか」


 そう思ってると、周りには沢山の光る瞳が爛々としてた。そうだよ……アンダーソンがこいつらを落としてたんだ。そして足場が崩壊して僕たちも下に落ちてしまった……つまりは敵のただ中に僕たちは居るってことじゃないだろうか?

 いや、ただ中なんて物じゃない。元があの道に入りきれてなかった奴が一杯居たはず。つまりはモンスター共にとっては餌が降ってきたみたいな物。

 水槽に餌を入れると中の魚がパクパク口を空けて集まってくるように、今ここはそれと同じような状況だ。


「うあああああああああ!!」

「ぎゃああああああああ!!」


 周りから聞こえるそんな叫び。一緒に落ちた誰かの悲鳴だろう。これはヤバいぞ。みんなは無事なのか? 僕は襲い来る奴らをかわしつつ、他の誰かを捜すよ。


「テッケンさん! シルクちゃん! セラ!」


 くっそ、モンスターの奴ら、獲物に夢中で骨組みを物ともしないで押し入って来てやがるぞ。このままじゃこの道が全崩壊しちゃうかもしれない。

 所々に倒されてるモブリの姿……そんな死に体に群がるモンスター共。地獄絵図がここでも始まってる。

 

 みんなを探してると、上からゴトッゴトッと音がして何かが落ちてきた。足下に転がるそれは――――


「アンダーソン!!」


 ――ボロボロになったオバサンじゃないか! まさか、聖獣に……いや、それしか考えられないだろう。


「これで、我らの行く先を阻む物は何もない」


 そんな声が上方から聞こえた。上を見ると、崩壊した足場の出っ張り部分に聖獣共が月を背に立ってた。なんかスゴい決まってるな。


「お前等……」

「ふふ、さあ行くぞ。我らの目的まで後少しだ」


 僕は聖獣共を追おうとする。だけど僕が離れようとした瞬間に、周りのモンスター共がアンダーソンを狙って動き出そうとしやがる。

 これじゃあ奴らを追えない。流石にボロボロのアンダーソンを持ってく訳にも行かないし、かといって置いていくと、モンスター共に……そんな葛藤をしてるうちに、聖獣共が本殿側に消えていく。


「くっそ……」


 そう言えば僕もボロボロだ。セラ・シルフィングも今は一つしかない。この状態で奴らを追うのも自殺行為……でも追わないわけには……だって本殿には避難した人々が居るはずだ。


「ぎゅがああああああ!!」

「こんの野郎!!」


 迫ってくるモンスターをセラ・シルフィングで一戦。そして周りを牽制しつつ、僕は落ちてきたアンダーソンを抱える。


「おい大丈夫か?」

「うっ……貴方……ですか。どうやら、聖獣は予想よりもやる……ようです」


 だろうね。アンダーソンのボロボロっぷりを見ればよくわかる。ようは予想外だったんだろう。


「奴ら……は?」

「本殿の方へ向かった」


 僕は直ぐ様そう言った。するとアンダーソンに怒られたよ。


「何を……やってるのですか!? 速く追いかけなさい。このままではリア・レーゼが……いえ、世界樹が落ちます!」

「そんな事……わかってる。だけど僕が行ったらお前はどうする? 周りの大量のモンスターはお前を狙ってるんだぞ」


 今か今かと涎を垂らして……確実に食われる。するとアンダーソンは強引に僕から離れようとして、ベチャっと雨で抜かるんでた地面に倒れる。


「この……くらい平気です。私の魔法でなら、この程度の奴らは近づかせない。だから行きなさい!」


 なんとか強がって見せてるアンダーソン。だけどその姿は元の小ささと相まって全然平気には見えない。


「お前、そんな状態で魔法なんか使えないだろ!」

「愚問です……ね。いいからさっさと行きなさい。奴らに好き勝手にさせる訳には行かないでしょう。本殿には戦えない子供に老人が沢山居るんですよ。

 それに貴方が気に病むべきは……私じゃない。世界という大きな物をみなさい。奴らに世界樹を渡しては……いけない」


 ミセス・アンダーソン……この人は自分の命より世界を案ずるか。流石立派だよ。あんたはそう言う人だよな。大人で、何を最も優先するべきか、そのためには自分だって犠牲に出来る。本当に立派だ。

 だけど僕はまだ子供で、目の前の事に流される。そういう風にやってる内にここまで来てしまったんだ。


「速く行き――――――うっ!」


 無理をしてたアンダーソンはその場に膝を付く。そんな様子を見ていけると思ったのか、素早そうな狼タイプのモンスター共が舌を振り回しながら走ってくる。

 アンダーソンは震える腕でなんとか杖を向けようとしてる。だけどそれはきっと間に合わない。それにさっきの魔法を使おうとしないじゃないか……それはつまり……僕はセラ・シルフィングを握りしめる。

 そして風のうねりを振り回し、アンダーソンへと襲いかかるモンスターを凪ぎ払う。


「どうして……私など放っていきなさい!」


 やっぱりそう言うアンダーソン。わかってたさ。だけどそれが出来れば、僕はきっとここにはいない。


「行けるかよ。お前を見捨てて……そんな事出来る程、僕は器用じゃない」

「そんなんじゃ……何も守れない。貴方は何もわかってない」


 何もわかってない……確かにそうかも知れない。てかよく言われるような……でもやっぱり見捨てる事なんか出来ない。


「そうかもな」


 僕はそう言って次々に襲いかかる奴らを切り伏せて行く。モンスター共は僕が離れないと理解してか、数で押し切る事にしたようだ。

 足場も悪いし、視界も悪い。それに頼りのセラ・シルフィングはずっと一本のまま……分が悪いったらない。


「とりあえず、ここじゃ視界も場所も悪すぎる!」


 風のうねりも満足に振り回せやしない。本当にこのままじゃこの道が総崩れしそうだからな。そうなったら聖獣を追うことが僕たちには難しくなってしまう。

 奴らを追っちゃないけど、僕は別に全てを諦めた訳じゃない。僕はアンダーソンを抱えて、真っ直ぐにウネリを伸ばす。もっと広い所に出るんだ。モンスター共を吹き飛ばし、強引に骨組みから脱出。


「あつっ……」


 熱気というか、熱風みたいなのが吹き荒れてる。世界樹に当たって乱れる気流と、リア・レーゼの焼き払われた街の炎。それらが合わさったかの様な熱さがこの世界樹の下層部分で渦巻いてる様だ。

 てかよく考えたら、よくこの木造の道が燃えてないな。まあ自分たちが使う道を燃やしてしまう程、奴らもバカじゃない……けど、今はそれさえもぶっ壊そうとしてる。聖獣という頭が先に行ったから、理性じゃなく本能で動き出したのかも。

 野生じゃ、目の前の獲物をただ黙って見ておく事なんかしやしない。煌々と燃える街に広がる炎で、かなり明るくなったけど、どうやら安心する暇なんてないようだ。

 そこかしこでぶつかってるモンスターとモブリ。その姿が見える。でも大体、モブリ達は逃げ回ってる様な……基本魔法主体で、前衛は足止め要因じゃこんな取り囲まれた中で戦うのはやっぱり厳しいか。

 それにどいつもリア・レーゼの僧兵だしな。頼りないってわかってる。


「このままじゃ……全滅ね」


 腕の中でぐったりしながら、イヤな事を言うアンダーソン。そんなの言われなくても分かる……けどわざわざ口に出すなよな。本当にそうなっちゃう気がするだろ。


「うわっわあああああああああああ!!」


 一際大きな悲鳴が聞こえる。視線をそちらに動かすと、地面に転んだモブリに、今まさにモンスターの攻撃が降り下ろされようとしてる。

 僕は急いでそちらに風のウネリを向ける。だけど、途中で風のウネリが霧散した!?


「なっ!!」


 どうして? でも、考えてる暇なんてない。僕は走る。だけど間に合わない――


「やめろおおおお!!」


 僕はセラ・シルフィングを投げてモンスターの太い腕にぶっ刺す。そしてその後にそいつに跳び蹴りをかます。勿論倒せはしないし、ダメージだって微々だろう。だけど狼狽えさせることは出来る。

 僕は奴の腕に刺さってたセラ・シルフィングに手をかけて一気に振り抜く。


「ぐがあああああああああ!」


 モンスターの叫びが響く。だけどそれを悠長に聞いてなんか居られない。僕はさらにそいつの足を切り落とす。大きな振動をたててモンスターは倒れた。だけどそうやってる間に今度は別のモブリがこっちに走ってくる。

 その後ろには勿論モンスターが居る。そしてそんな中、別方向からも叫びがあがる。いや、そこかしこから叫びが上がってる。全然……全く手が足りない。

 でもだからって……止まってたら、誰か一人がより多く殺されるだけだ!!


「うおおおおああああああああ!」


 僕は自分を奮い立たせる為に叫びを上げる。そしてまずは向かって来てた奴の後ろの奴らをねじ伏せる。微力ながら、アンダーソンも小さなその杖で魔法を放ちフォローしてくれる。


「次だ!」


 行き着く暇なく僕は走る。すると上方から降り注ぐ炎の雨。地面が爆発して僕は後方に転がった。急いで顔を上げると、燃え上がる炎の向こうで捕まったモブリ達の姿が見えた。


「やめっ――」


 青い雷撃が刀身に集中する。


「――ろおおお!!」


 そして一気にそれを前方に解放させる。青い雷撃がスパークしながらモンスターへ直撃する。


「ちょっと、あれじゃあ仲間も攻撃受けてるじゃない!」


 確かに……だけど加減してる余裕なんかなかったんだ。そう思ってると、後ろから殺気を感じた。僕はとっさに前へ飛ぶ。背中に走る痛み……振り返ると、そこにはウッドール強化版が居た。くっそ……木で出来た剣にしてはよく切れやがる。


「うああああああ!」「きゃあああああ!」「助けてえええええ!!」


 恐怖の声、頼る声、求める声……そんな叫びがそこかしこから聞こえる。一つ一つを助けるなんて……今の僕には出来ない。頭の中まで響くそんな声に、次第に気持ち悪くなる。視界が掠れて、立ち上がろうとしても力が出ない。

 僕は何も分かってないし……何も救えない。そんな思いが歩みを妨げる。絶望に染まってく周りに……気持ちが引っ張られる。

 ――パン!!


「しっかりなさい!!」


 頬に伝わる痛み。そして迫ってたウッドールを何とか放ったあの力で吹き飛ばすアンダーソン。僕も彼女の力に押し飛ばされる。そして直後、直ぐに彼女は崩れ落ちる。

 僕はハッとして彼女を抱え起こした。


「おい!」

「何……やってるのよ。分かったでしょう……逃げなさい。全員を救う事なんか……出来ないのよ」


 逃げる……それが出来る状況かも知れない。許されるし、仕方ない……何が出来るか出来ないか、聞き分けがいいとかじゃなく、今の僕には確かに分かる。

 けど……それを許したくない自分が居るんだ。周りから聞こえる阿鼻叫喚の声。その声の中、僕は何も出来ない……けど――


「自分の救うべき物を……見失ったら駄目……」


 救うべき者……それは勿論見失ったりしない。アンダーソンはそのためには、切り捨てが必要だって言いたいんだろう。そんな時、また一人が、モンスターの口に消えようとしてる。

 視界に写るそんな姿。震える体に、沢山の涙。これを見捨てれば全てを捨ててでも、僕はきっと聖獣共を終えるだろう。


(でも……それで勝てる気なんてしないんだよな)




「――――――がっ?」


 何が起こったか分からないモンスターは横倒しになってと倒れ伏す。その額の側面にはセラ・シルフィング。


「貴方は……」


 そんな風に呟くアンダーソン。呆れられたかな? でも……


「ごめんアンダーソン。だけど僕は、自分が弱いのを知ってる。だからこそ、誰をもの力を欲してる。みんなの力が僕の頼りなんだよ」


 だからこそ、見捨てるなんて出来ないんだよ。アンダーソンを抱えてもう一度僕は立ち上がる。その身に青い雷撃を宿し……するとアンダーソンが諦めた様にこう言った。


「しょうがないですね……やるのなら……死ぬまで止まるな――――――――です」

「もう止まらないさ!」


 五月蠅い地響き共に、迫りくるモンスター。大丈夫、いつ通り無謀から始まる戦いだ。

 第三百八十二話です。

 聖獣戦はまた敗北? 的な感じで一旦終わり――と言うか、小休止です。聖獣共は先に進んで。スオウ達は振り出しに戻るみたいな感じですね。さてさてどうなっていくのか……このまま聖獣に世界樹は侵食されるのか……スオウ達は聖獣においつけるのか!?

 てな訳で次回は水曜日に上げます。ではでは。

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