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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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混乱の只中の私

 私たちに迫ったのはアルテミナス軍!? どうしてなんで? 私たちは協力関係の筈なのに……だけどそれはアギトのせい? 一体どういう事なのか分からない。

 私たちは取りあえず軍への投降を拒否して、強行突破を選択。だって私は自分で何が出来るかを知りたかった。それに気になる事がありすぎるしね。

 城を抜けて広場に出た時、そこで私たちを待ってたのは最悪の敵。そこで私たちはこの国渦巻く陰謀を知ることになった。


「クー! セツリは下がってください!」


 アルテミナス城の廊下にサクヤの声が響きわたる。クーは開いた窓からどこからともなくサクヤの言葉を聞きつけて現れた。

 そして戦闘態勢に入ったクーはその姿を変えていく。私たちは一刻も早くあの声の主の所まで行きたいのに、立ち塞がったのはアルテミナス軍だった。


「どうして? 何でこんな事するんですか? 武器を引いてください!」


 私は声を張り上げる。だってこれは信じられない事だ。何でこんな所で私達が争わなきゃいけないの? 今から協力してタゼホを解放するんじゃ無かったの? 貴女達のお姫様がそう決めた筈だよ!


「我らが姫様は現在行方不明……それと同時にアギトが我らにその刃を向けた。それならば奴の仲間である君達をここで拘束するは当然だ。

 おとなしく捕まれば、法の下君達には弁解の権利がある」

「そんな……」


 前を塞ぐように立ちふさがる黒い鎧の群。それの一番前に立った者がそう告げた。隊長クラスの人なんだろうか。

 だけどそれよりも何て言った? お姫様……つまりアイリが行方不明? そしてアギトが軍に武器を向けたなんて……何やってるの一体?

 ううん、彼が無闇にそんな事するとは思えないから、何かが有ったって事なのかも。それかもしくは……駆け落ちとか? 久しぶりの再会が二人を大胆にしたのかも知れないよね。

 私達は何も知らない。あの二人の事。だけど最初の邂逅を見ただけで分かる。何かがあったんだねって。同じ女だもん、察せれるよ。

 彼女の顔の変化……涙の意味……ああ、この子はアギトが好きなんだ。そう思った。そして顔を背けたアギト。その瞬間二人の間に何かが有ったのは確定だよ。

 随分興味が出たんだけど……アギトはここに来てから一人でいようとしてたから聞く機会は無かった。それにスオウにも言われたしね。


「アイツが自分から話してくれるまで詮索するなよ。必要な事ならその内言うだろうし、別に聞かなくても僕達は動けるからな」


 それは会議終わり、スオウ達が例の森に向かう直前の事だ。私の興味津々な思いがばれちゃっていたんだろうか。


「アギトの事、頼むな」


 そう言って頭に置かれた手に誰が逆らるだろうか。女の子ならそんなの無理だよ。ふにゃ~って成っちゃうよ。そしてそのままコクンと頷いた。だから私は今は正式なアギトのお守り役なのだ。

 そう考え出したらアギトの事も放って置けなくなってきたかも。スオウに頼まれた手前、無視も出来ないしね。


「どうしますかセツリ?」


 廊下に響くはクーを使って牽制中のサクヤの声だ。どうしますか? それは私の意志に全て任せるって事だね。サクヤらしいけど、今のサクヤらしくないよ。

 意見が欲しい所だ。私はここでは何も出来ない存在なんだから。


「どうするって?」


 取り合えずサクヤの後ろに隠れながら聞いてみる。


「やり方は二つほど。強行突破するか大人しく捕まるか」


その言葉を聞いた瞬間、軍の連中が構えた武器を僅かに鳴らした。明らかに警戒色が強くなったよ。


「強行突破の可能性はこの状況では苦しいですけど、セツリ一人を城外に逃がす事くらいは出来ます。その場合後は一人で進んで行かなければいけませんが……その覚悟がセツリに有りますか? 行きたい場所が有るのでしょう?

 それに大人しく捕まる場合、私達はスオウやアギト達にとっての人質とされるでしょう。それにセツリが今追いたい敵へは絶対につけなくなります。私はどちらでもいいですよ。セツリの選択に従います」


 サクヤのその言葉はなんだか私を試す様に聞こえた。やっぱりこのサクヤは今のサクヤだよ。私が知ってるだけじゃないサクヤ。

 昔と変わった今。逆に変わらないなんて事は無いんだろうけど……そこで三年前と何一つ変わってない私は何なんだろうと思ってしまう。


(私は変わりたいと思ってる?)


 私は少しでもそうありたいと思うのだろうか。そうしなければいけなのは分かるし、理解できる。でも私は心の底からそう有りたいと願った試しがない。

 私はいつも諦めてたのかも知れない。だけどようやく目覚めて……守られて……見続けた背中。それが映ったとき、私は今のままじゃ行けないと思った。

 それならば私がここで選ぶ道は決まっていた。それは至極当然の事で……自分がどこまでやれるのかを確かめるには絶好の機会。

 今、私を守る盾は一つしかないんだから。私はこれから直面するであろう困難を思うと手が震えた。変な汗が出てくる。でも、それでも確かめたい事なんだ。


「サクヤ……お願い。突っ切って!」

「分かりました。セツリ……頑張ってね」

「うん」


 私は覚悟を決めてサクヤに伝えた。彼女はそんな言葉を受け止めてクーと口を動かし出した。軍の連中は迫るクーに刃を向ける。

 だけどそれをかわして前に居た隊長もろとも数人をタックルで吹き飛ばす。壁に叩きつけられても、衝撃はあるがダメージはない。

 ここは町中、ダメージ計算はされない。両者ともやられる事が無い戦いだ。だけど動きを封じ、拘束する手なら有るわけで……私達は彼ら軍の接近を許すことは出来ない訳だ。

 つまりは倒せない敵が大量にいるわけで、それを考えると圧倒的に私達は不利だった。そこが私だけなら……と言ったサクヤの言葉の意味。


「行きますよセツリ!」

「お願いサクヤ、道を開いて!」


 多勢な軍に私達は向かって走る。前衛が吹き飛ばされて一瞬呆けてた後衛陣が詠唱を進めてるけど、それじゃあ遅い。サクヤの高速詠唱は一気に火を噴くように放たれて火を噴いた。

 幾らダメージも無く、ゲームと分かっていても火という物に心理的恐怖を抱くのは動物の性。それが自身から上がるなら尚更だった。気持ちをもっとしっかり保っていればそんなに取り乱す事も無いのだろうけど……運悪い事に魔法を知っている者だからこその動揺でも有ったはず。

 サクヤの高速詠唱を……そうとは気づかなくてもあり得ない発動の早さにどうしても驚いちゃう。そして乱れた軍の横を私達は駆け抜けた。

 今はごめんとしか言えない。こんな事したくは無いけど、今捕まる訳にも行かないんだ。



 階段を下り、エントランスに降り立つまで幾度と無く軍の小隊にぶつかった。だけど実際は向こうもよく状況が分かってないらしく、命令だから私達を捕らえようとする。

 だけど気持ちが入ってないからサクヤとクーに簡単にしてやられる……みたいな事が続いた。やっぱりエルフと言っても彼らは一人のプレイヤー。

 考え方もそれぞれで軍という組織も一応な感じらしい。多分一枚岩に成るのはアイリの声で……位なんだろう。みんながみんな、エルフ至上主義を謳ってる訳じゃないしね。


 それを考えれば私一人でももしかしたら渡り合えるかも知れない。私には剣を振るう事も魔法を使う事も出来ないけど、みんなと同じように言葉を紡ぐ事は出来る。

 言ってみればそれだけが私の武器だ。軍隊なんて考えずに一人一人プレイヤーなんだと思って自分の気持ちや考えを話せば分かってくれる人もいるかも知れない。

 多分この軍と言う組織はそんな強い制約で纏まってる訳でも無いみたいだしね。基本LROはゲーム。軍も自分たちの種族を有利にするための駒。

 雄志を募って作られた感じのそこはあくまで遊び。わざわざゲームの中でまで上下関係に悩まされたくは無いだろうし、自由に伸び伸びしたいはずだもん。それでも一応は様に成ってるけどね。


「セツリ、手を」


 そう言われて私はサクヤと手を絡めてクーの背に跨った。城のエントランス吹き抜けの様に成っているから、十分クーも飛べる。下の扉付近には中隊クラスの部隊が待ちかまえてるし、わざわざ正面から行く必要も無いだろうというサクヤの判断だ。

 だから私達は自分達の持つアドバンテージを存分に発揮する。それはいつか見せた絶対領域からの高速詠唱での魔法の連発。

 だけどあの時と違って今度の相手はただ近づいて武器を振るだけが脳の二人じゃない。階下にいるは軍と呼ばれる組織だった奴らで当然魔法も使える後衛はいる。


「行けるのサクヤ?」

「魔法の詠唱は率先して潰します。かなり激しく動くので振り落とされないようにしてください!」


 その言葉の終わりと共に詠唱を開始……そして直ぐに発動。現れたお札が一斉に軍に降り懸かる。エントランスが火の海に成るのに時間はかからなかった。並のプレイヤー達じゃサクヤの高速詠唱の前に手も足も出ないみたい。

 それだけ考えるとやっぱりスオウとアギトはスゴかった事になる。なんだかちょっと誇らしげに鼻を鳴らしてみたり。

 だけど油断すると、クーの背から落ちそうに成るから危険だ。サクヤの腰にしっかりと腕を回して力を込めて無いとね。


 有る程度動きを封じられた所で扉の前に降り立つ。町中の物は基本破壊できないから窓を突き破るなんて出来ない。開いた窓から飛び出すのは出来るんだけどね。

 それなら自分達の部屋から窓を開けてクーを使って飛び出すのが最善だったのでは……なんて思っても言っては行けない。サクヤもクーも頑張ってくれてるんだから。

 私は荘厳な作りの扉に手をかける。後はここを抜けて城門前の広場を抜ければ、なんとか人混みに紛れる事が出来る。そしたら比較的自由に動けるだろう。

 これなら私一人と言わずに、サクヤもクーも無事に脱出出来そうだけど……思ってたほど城内に兵は少なかったんだよね。


「逃がすなぁ! 必ず捕らえるんだ!」 


 そんな声が聞こえた。後ろからはどうやら剣やらから弓に持ち変えたらしい軍の攻撃が降り注いでいる。大抵その矢はクーの起こした風に寄って阻まれて私達にまで届くことはない。

 地面に降りた今更って気もするしね。それなら一斉に向かってくる方がまだプレッシャーになる。だけど長居する理由も無いわけで、さっさと通り過ぎるのが最善。彼らの頭が冷えない内に行こう。

 玄関の扉が厳かな音を立てて開いて行く。それぞれサクヤと私で左右一つずつの扉を押し開いて駆け出す。そこにクーも続く。私達は一気に城壁までの道を進んでいく。

 優雅に飾られ城の庭に目を向ける事もせず、ただ目指すは城の外。だけど城壁を一歩抜けたその時、目に映った光景に私達は驚愕した。

 そこには一死乱れぬ様を示していた軍のなれの果てが有ったからだ。


「なにこれ? 一体なにがあったらこうなるの?」

「話を聞き及ぶにこれはアギトがやったんじゃ無いのですか?」

「そんな! なんでアギトがこんな事……」


 それは凄惨な光景だった。激しすぎた攻撃がシステムの保護を破壊したのか倒れ伏した軍には傷が見え、広場の白い床には陥没した様な跡がある。

 アギトの実際の実力は計り知れないと思ってたけど……まさかここまでとは思ってなかった。なんだか鬼気を感じる光景が脳裏に浮かぶ。

 一体どんな事を思って彼はこんな事をしたのだろうか。ここに来てからずっと思い詰めてる様子だったから心配だ。何かを発散したようなこの光景が彼の心の乱れを表してるみたいに感じたから……余計にね。


「それは分かりません。だけど私達には――」

「お二方……困るではないすか。勝手に城内から出られては」


 惨状となった広場で無傷の声が響いた。そしてその姿を確認したとき、サクヤの表情が険しくなる。穏やかな声とは裏腹にその手にロングソードを掲げる人物、それはガイエンだ。

 広場の中心で佇んでいたらしい彼にどうして私達は気付かなかったんだろう。いや、気付けなかったんだろう。だけど気付いてしまえば嫌でも伝わってくるその殺気。

 戦いなんて殆ど知らない私でもそれが分かる。肌に突き刺さる様な悪寒に震えずにはいられない。


「私……達は……」


 それでもなんとか言葉を繋ごうとするけど上手く口が回らない。だって誤解を解かないと……私達はお姫様なんて浚ってない。それにアギトがこんな事したのだって……そうだ、ここに敵が居るって伝えれば……。

 だけどそんな私の思考を断ち切るようにサクヤが強い口調で言う。


「目を覚ましなさいセツリ。あの目の前に居る奴が私達への拘束命令を出したのよ。全ては承知の事よ」

「全て……というのは語弊があるがな。アイリ様が本当に浚われたのは予想外だ。それ以外はアギトを追い込む為に私がやったことだがな」


 なっ……んて事を。ガイエン思いだし笑いでも堪えてるのか口の端を歪めて「クック」言っている。あんなに思い悩んでいた事もガイエンのせいって事だ。

 なんでそんなことを……私達になら分かるよ。最初から煙たがってたしね。それを強引にねじ込んだのはこの国のお姫様だったから渋々受け入れた。

 隙あらば追い出そうとしてたのは明白だったし、それならしょうがないとも思えた。だけどアギトは貴方と同じエルフなのに……そんな事って無いよ。


「なんで……そんな事?」


 私はやっとで絞り出した言葉を紡いだ。聞かずには居られない。何よりも大事にしてたのはエルフとしての繋がりや誇りじゃ無かったの?


「何で……そんなの決まっている。私がこの国の王に成るためだ! 弱い姫になど任せてられるか? 否! 国を一度捨てた降り者に王の資格があるか? それも否! 

 なら私しか居ないではないか! それがこの国『アルテミナス』の為の最善なのは明白だ。

 だが、二人の思いは厄介だった。だから呼び寄せてきっぱりと諦めさせてやったのだ。それぞれにな!」

「ヒドい……そんな事の為に二人の思いを……砕くなんて!」


 悔しかっただろうなアギト。でもここで私が殴ってあげるよ! 昔から言うんだ。人の恋路を邪魔する奴は、豆腐の角に頭をぶつけて死んじまえって!

 今まさに私はそう思う。目の前のガイエンを一人の女として許せない。許しておける筈がない!


「ふん、許せないか。私にしてみればこちらこそ許せないがな。そんな恋愛ごっこなどここに持ち込んで欲しくない。

 まやかしの姿を映した奴をどうして好きだと言える? そんな事あるわけ無いだろう! ここLROで本物の恋や愛など芽生える筈もない。

 それもこのシステムに見せられた幻想と何故に気付かん! そんな物に惑わされて……我らが姫君は腐ったのだ。腐ったもの捨てなければ、だがそうも行かんから私が上手く立ち替わってやるという話だ。

 だから邪魔なのだよ。アギトも……奴の仲間である貴様等も……そして残りの奴ら、スオウとか行った奴らが戻ってきたとき、開く扉はこの国には無い!」


 ガイエンの言葉からコボレたのはLROの捉え方。確かにここでの姿や性格は私やスオウ以外はまやかし……幻想と言ってもいいのかも知れない。

 けどだからって……それが何? リアルとLROを分けて生きてるだけかも知れ無いじゃない。私は二人の方がガイエンより真っ直ぐにこのLROに向き合ってると思う。

 素敵な事だよ。こんな幻想の中でも人は誰かを好きに成れるってさ。それはとっても素敵な事。ガイエンとは違ってそれを知ったアギトやアイリはここでちゃんと生きてるんだ! だから……


「許せないよ。否定するのは自由だけど……それはアンタの胸の中だけでやっときなさいよ! アンタなんか……アンタなんかに……この国は絶対に手に入らない! 

 入る筈がないわ! 利用するだけで、自己満足としかLROを見れないアンタなんかに、誰も上に立って欲しい訳がない! 彼女で良いの……ううん、彼女じゃなきゃダメなのよ!」


 私は怒りで殺気なんか忘れてた。きっとこれで私もバカに成っちゃったよ。スオウに当てられ過ぎたかな? でも言い終わったらスッキリした。

 思う事をハッキリと言うのは勇気や度胸が居るけど、とても清々しい物だね。気持ちが決まったよ。今はアギトを捜そう。そしてアイリを助ける。

 ついでに二人の思いを叶えてあげて……それでガイエンの思惑は総崩れ。二人も幸せになってのハッピーエンドが私には見えた!

 あの時の声の主は気になるけど、二人を放っては置けない。アイリを浚ったのは敵と呼べる物なら私に届いた声と同じ奴かも知れないし。まだまだ諦めた訳じゃない。

 だからまずはここを……どうしよう。


「行ってくださいセツリ。何かを決めたんでしょう? ここは私達が引き受けますよ」

「サクヤ……クー」


 二人は私の気持ちをどんどん察しちゃうな。隠し事なんか出来ないよ。元々こうなることが分かってたサクヤ? 最初に言ってたもん……ここを出るときは私一人だって。


「何が貴様に分かる……貴様等人間に我らエルフの謀に口出せされたくも無いわ! 邪魔者は廃す。その力が既に私にはある!」

「来ます! セツリはや――」


 サクヤの言葉が最後まで紡がれる事が無かった。それは言葉が終わるより早く、奴が私に迫っていたからだ。長身のエルフにロングソード……長い腕を生かしての間合いは想像よりもずっと広かった。

 それに何より速い! 


「まずは貴様にエルフの洗礼を浴びせよう」

「――っ!!」


 私は動けない。武器も防具も無い私に何が出来る? 何も出来ないよ。言葉を途中で切ってでも詠唱に入ったサクヤだけど詠唱→発動までの僅かなタイムラグが命取りだった。

 間に合わない……そう確信出来る程の僅か刹那の世界。私は身を固めて目を閉じた。動けもしないのならそれしか出来ない。

 でもそんな行為に意味が無い事は私にだって分かってる。何かしたい……このまま切られるなんて嫌。悔しいよ。

 だけどガイエンの剣が私を切り裂くその瞬間。青白い光が目の前に現れた。


「ピィィィィィィィ!」


 断末魔の叫び声が耳に届く。青白い羽が無惨にも辺りに舞い落ちる。薄れ行く光……その体を持つはクーだった。

 あの瞬間、クーが私とガイエンの間に飛び込んで剣をその身に受けて守ってくれたんだ。


「クー!」

「ちっ……」


 私は地面に倒れ伏したクーに手を伸ばす。どうして……そんなに苦しそうなの? だってここは街の中だよ。HPにダメージは無いはずだよ。

 ガイエンは一度サクヤの魔法を避けるために後ろへ飛んだ。だけどそれが判断ミスだ。サクヤの高速詠唱は最早止まらない。クーを傷つけられたサクヤは鬼と化す。


「だが、耐え切れぬ物ではない!」


 私達に戦慄が走った。だってガイエンはその身に絶えず魔法を受けながらもサクヤに迫り剣を浴びせた。そんな事出来る人は今まで居なかったのに……それを易々と……どうして? 

 それにサクヤのHPは掠った程度に減っていた。ダメージが計算されてる……じゃあクーが元の姿に戻ったのもその為なの?

 そして奴は高らかに笑い信じられない事を言った。


「街の中で負ける事は無いと思ったか? 恥を知れ人間共。ここはエルフの国で、私は軍事や治安を守る者……そんな私にはあるのだよ。

 この国で問題を起こすクズ共を刈るための権限がな!」


 それは衝撃の事実だ。だけれどサクヤは眉一つ動かさずに言った。


「クーを頼みますセツリ。早くこの場から逃げて!」

「……でも」


 そんな事したらサクヤはどうなるの? 勝てないよ。クー無しじゃ。


「いいから、行きなさい!」


 サクヤの強い言葉に私はクーを胸に抱いて走り出す。その刹那二人のぶつかる音が再び聞こえた。振り返っちゃダメ。涙を噛んででも私は走らなくちゃ行けない。希望を繋げる、その為に。

 第三十八話です。

 続いての投稿です。実はちょっと後悔もしてるけど覚悟を決めて投降します。元々これが今日の分ですしね。もう遅れないように頑張ります。

 では皆さんありがとうございます。また、明日。

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