夜を彩る
民の心が離れて、どうしようもなく私は空虚だとしった。教皇でない自分に価値なんてないとも思ってた。だけどどんな私にも離れずに居てくれる者達が居てくれる。
そんな者達の思いに応えなければと思う。どうしようもないかも知れないけど、諦め悪くもう少し……
厚い雲に覆われた空。光を決して届かさせない様にしてるかの如く覆われた空は、希望さえも阻んでしまってるみたいだ。
絶望を届ける使者の色は青く輝き、その大群はとても大きな船。その砲台から放たれる暴力的な力は、私に狙いを定めてる。
チカチカと幾つも輝き、次の瞬間激しい閃光と爆発に包まれる。だけど直撃はして無く、私はまだ生きてる。こんな私にまだ着いてきてくれる者達のおかげで。
「くっ……」
自分が情けない。結局、私は何も出来ないじゃないか。望まれて、自分も望んだ筈の場所だったのに、私は誰かに守られてばかりだ。昔も……今も……何も変わらない。
爆煙の中、私は下を向く。綺麗な白い服。豪華な装飾。どれも私には過ぎた物だ。そう思う。この台座も、私なんかを乗せて置くことはイヤかも知れない。
私がそんな気持ちで居ると、周りからきつい声が飛んできた。
「顔を上げてください! 貴方は教皇なんです。貴方が諦めたら、私達も終わりなんですよ。後戻りなんか出来ない。後悔をするくらいなら、ここからでもどうにか出来ないかを考えてください!!」
「そんな……事……」
神官の言葉に私は弱々しい言葉しか返せない。みんなまだ戦ってくれてるのに……でも、ここからどうやってみんなの支持を取り戻せと?
心は放れてしまってる。眼下の街から漂う不安や、憤り、それらを感じる。怒りさえ……そんな状態で一体何を言えと。紡ぐ言葉がみつからない。そもそもそんな状態じゃ何を言っても……
「教皇!」
「教皇様!」
「私達は術式の関係上、貴方を中心にしか動けない。全体の指揮は貴方次第なんです。このままじゃ障壁を破られます。その前に前を向いて避けてください!!」
避ける……今更何を避けると言うんだ。ぶつかる気だった。いや、ぶつかった結果がこれだ。所詮私には荷が重すぎる事だった。下から聞こえる「信じてたのに……」やら「嘘つき」やら「許せない」とかが……悲しすぎて。
「違うんだ……」
悲しすぎて、崩れ落ちる事しか出来ない。どうしたら……どうすれば良かったんだ? これは間違いだったのか? そんな思いが渦巻いて押し寄せて、溢れ出しそうで……前を向くなんてとても出来そうもない。
次々と降り注ぐ飛空挺艦隊の攻撃。
「ぐっ――っづぁ!!」
「きゃああ!!」
「うあああああ!!!」
障壁の輝きが砕けた。曇天の夜空の中の僅かな光を受けて砕けた障壁の欠片が光ってた。終わり……きっとそうなんだろう。全てを捨てて、また一人のモブリに戻るのも悪くはないかも知れない。
遠くで輝く飛空挺艦隊の砲。もう障壁は無い。本当に終わってしまうだろう。だけどその時、一陣の風が吹き抜ける。斜め上から飛び出して来たのそれは――――
「バトルシップ……」
このサン・ジェルクの魔法技術の粋を集めて作られた戦闘機械。それが目の前に飛び出して来てる。まるで私達を庇う様に、その船体を面にして……だ。そして次の瞬間、激しい音と共にバトルシップ越しに伝わる爆風と熱気。真っ赤に燃える光景が目を通して脳裏に焼き付く様だった。
確かこのバトルシップには協力してくれてる僧兵が……砲撃を受け止めたバトルシップは炎に包まれながら湖に落ちていく。
だけど湖まで持たずに、小さな爆発は起き初めて、それが幾つか続くと、大きな爆発と共にバトルシップは空中分解を起こした。
バトルシップの破片が静かな水面を揺らす……
「そんな……どうして……」
バラバラになったバトルシップ。それと同時に空に出てたリア・レーゼの映像が消えた。これで空に映るのは社内部のスオウ君達だけ。
「どうして? 貴方を守ったのですよ。貴方を守る為に、あの者達はその身を犠牲にしたんです。貴方は教皇で、それだけの価値があると……あの者達は信じてた。だからこそ!」
だからその身を犠牲にしてまで私を守ったと。……そんな、私にはそんな価値……やめてくれ。やめて……だけど神官の彼は言葉を続ける。聞きたくないのに、その言葉が胸に刺さる。
「――そんな思いを受け止めるのが教皇でしょう! 投げ出さずに前を向きなさい。あの者達の犠牲を無駄にしない為にはそれしかない!
何をしてもダメで、何をすればいいかも分からないのなら、時にはガムシャラでもいいじゃないですか。その思いをなくさない事が大事なんじゃないでしょうか!」
ガムシャラに……ただガムシャラに……そんな事、今まで一度もやったこと無い。いつだって何だって、人並み以上に出来た。だからガムシャラなやり方すら分からない。
すると彼は今、唯一映る映像へ指を指す。
「ガムシャラな方ならあそこに居ますよ。滅茶苦茶な事を押し通そうとガムシャラに頑張る人が」
そこに映ってるのはスオウ君。そうか……アレがガムシャラか。確かに言われてみればそうかも知れない。いつだって彼はガムシャラだ。
最初はただローレ様との橋渡しにでもなってくれれば――程度しか思ってなかったけど、こんな大きな事態になるとは……でも彼が現れた時点でそんな事を覚悟しとかないといけなかったのかも知れない。
人の国での悪魔の件、そしてアルテミナスの内紛とそれに伴って動いたモンスターの大群。彼が行くところではいつも大きな何が起こってる。
だからこれもそんな彼の影響を受けてるのかも……ガムシャラに突き進んでるから、周りに影響を与えてる……とか。
するとその時、観てる映像から声が届く。
【誰がガムシャラなバカ野郎だ。適当な事言ってるなよな】
「えっ……あっ……ゴメン」
思わず謝ってしまったけど、よくよく考えたらおかしい。確か元老院が彼らの声は拾って無かったはずだ。すると今度は空からこんな声が漏れ聞こえてくる。
【どうした? 何故に奴の声が流れてる? 回線の割り込み? そんな事が出来る奴が居るのか?】
向こうも混乱してるみたいだ。どうやら何かを彼はやったみたいだな。
【まあ、そんな事は今はいい。取り合えず、いつまでもこうしてそっちに声を届けてられないから、聞いてほしい。元老院が改ざんした言葉じゃないこれが僕が本当に言いたいことだ】
そんな言葉に早くも眼下の民がざわめく。すると元老院側が慌てた風にこう言ってる。
【映像を切れ! もう十分だ。回線を切断しろ】
【おいおい、良いのかよ元老院? そんな事したら、不信感が残るぞ。別に僕が何を言おうと、お前たちの悪事の証拠にはなり得ないだろう。
それに受け止めるのはこの街の人達だ。その人達次第。絶対の自信があるんなら、僕が何を言おうと平気だろ?】
スオウ君の言葉に、渋々回線切断をやめた元老院。これで彼の本当の言葉が民衆に届く。
【まず言っておくけど、僕は別に元老院の命を狙ってない。まあ厳密には密かに狙ってるけど、今はその気ないよ。ノエイン――ああ、教皇様に止められたからね】
【ふん、信じれんな。現に貴様は社の上層部にまで来てる。しかも武器を振り回してだ。その言い逃れは出来ないぞ。何せその姿をこの街の全ての住民が観てるのだからな!】
確かに……その通りだ。彼が暴れる姿は決して印象良くは映らないだろう。
【そうだな。確かに僕達は上層部に居る。武器も振り回してる。でもそれをやらなきゃやられるし、目的も言えないな。それを言うと、お前たち元老院に妨害される。
この街の実権のなにもかも握ってる奴等をこっちは違う意志で動かそうとしてるんだ。だから今は言えない。
ただ街の人には信じてほしいとしか言えない。そして少し考えてもみてほしい。もう一度ちゃんとさ】
考える? 一体何を……既に皆の心は偏り始めてる。それにそんなに何もかもを言えない奴の何を信じろと言うんだい。それはどう観ても、誰が観ても、無理なお願いだ。
実質、今現在社で暴れてる彼と、それを指示してる思われてる私……この二人の言葉で今の状況を覆せるとは、到底……
【考えるとは何をだ? お前たちの愚かさを身を持って償わせる術を今一度――か? 極刑でも望んでるのか? だが生憎と、我等元老院はそこまで非情な集団ではないのだよ。
主犯の前教皇様は仕方ないとしても、今から君が『ただ彼の指示に従っただけだ』……と言えば、寛大な我らは君の命までは取らないでおこうじゃないか。どうだい?】
「「「おお!!」」」
元老院の言葉に、思わずそんな言葉を漏らす民達。流石は元老院……私よりも民衆の心の誘導の仕方を知ってる。元の狙いは彼の筈で、彼をどうせ殺す気なんかないのに、民衆へのパフォーマンスを込めて、許し生かす心の広さをアピールしてる。
「彼は……どうするんだろうか?」
もう自分は見捨てられてもおかしくないと思う。こんな抜け殻な私を誰も必要としてなんか……
【お断りだな】
はっ――――とした。顔を上げれば、そこにはこちらを観てるかの様な彼の姿。実際は向こうにはこちらの現状なんか見えてないだろう。
だから私の姿も見えてなんか居ないはずだ。アレは彼を映してるカメラを見据えてるから、そう見えるだけ。でも……それでも見つめられて言われてる気がした。それが今の私には大事だった。
【それにハッキリしとくと、ノエインが共犯で、僕の方が主犯だ。この話を持ってきたのは僕だしな。僕はリア・レーゼを助けてほしかった。だから教皇であるノエインに泣きついたんだ。
この街の実権を握ってるのが事実上元老院のクソ野郎共だってのはイヤって程知ってたけど、それでも教皇であるアイツならって思った。そしてそんな僕の無茶な頼みを、ノエインは引き受けてくれた。
だからそいつはそこに立ってる。みんなの前で声を大にしてくれた。全ては……僕のせいなんだよ。ノエインは誰にも責められる様な事はしてない。全て僕が巻き込んだ事だ。そいつは誰の期待も裏切ってないし、誰の事も貶めようとなんかしてない。
誰もが知ってる、貴方達が慕った教皇のままだ】
静かに、だけど力強く響いたそんな声。いつの間にかざわついてた民衆が黙ってた。彼の言葉にも耳を傾けてたからだろう。
教皇でも元老院でもない、なんの地位も持たない、逆に犯罪者とか凶悪犯とか思われてる筈なのに、それなのにここまで他人に聞かせる事が出来る物なのか。
「彼も、私達も貴方を見捨てたりしませんでしたよ。貴方は、どうですかノエイン」
神官の彼が私にそんな言葉をかけてくる。私は……私は……最低だ。暗い夜空の下、そう自分を卑下する。沢山の人達に私は守られて来た。昔からずっと……前教皇様や先生、そして友に。今は今日だけで部下と仲間に幾度助けられたか……身を挺してまでこんな私を彼らは支えてくれる守ってくれる……その思いに私はまだ何一つ答えてない。
取り戻せない物を無くした者達も居る……それなのに!
私は自身の拳を堅く握りしめた。空に展開する飛空挺艦隊。彼らの砲が重厚な音を立てながら、こちらに再び砲芯をあわせてる。
【何を言おうと、貴様達の言葉は届かんよ。お前達の言葉では民の心は安心できない。不安は拭えぬ】
元老院はここから何かが覆る事はないと思ってる。それは確かにそうかもしれない。私だってそう思ってたさ……だけどそれを……
【それはどうかな? 僕はさ、そんなにノエインの事言うほど知らない。会ってそんな時間も経ってないしな。だけどここの街の人達は違うだろう。
だからこそ、僕は今元老院が伝えた事じゃない、みんなの観てきた筈のノエイン・バーン・エクスタンドに語りかける。
お前たちが知ってる筈のそいつは、地位を手に入れて変わったのか? お前たちの今まで観てきた教皇は期待外れの者だったのか?
もう一度思い出してみてくれ。そして与えられた情報だけじゃない、自分達がその目で見てきた事を踏まえて、そこに居る奴をみてほしい。
そいつは……元老院が言うように、誰かを殺そうとする様な奴か? 地位や名誉に、心を奪われた奴なのか? それはきっと、この街に住む、全ての人が知ってるはずだ】
視線を感じる。皆の視線を……足よ立てと思った。体の震えも止まれと念じる。立ち上がらなければ……胸を張らなければ……皆の代表である私が、無様な格好をしててはいけない。
「私は……」
力を込めて今一度……もう一度、今度こそ……ちゃんと背負って立ち上がろう。仲間や部下が、私の背中を支えてくれてる。
何を恐れる事があろうか。
「私は、自分を立派だとは思わない。ですが、求められるのならそうなろうと努力をしてきたつもりです。でもそれは、受け身でしかなかった。
皆の心が離れて行くと、自分が何者か途端にわからなくなる。他人に求められても、自分で求める事はなかった人生。それは他の方からみれば、羨む事かもしれない……ですが、今、自分がどれほど空虚な生き方をしてきたか……それを知りました。
そして気付いたのです。自分が求めるのもの。真になりたかった者。僅かな時間の友や、今までを支えてくれた彼ら神官達の言葉で、気付く事が出来た。
私はやはり…………皆に頼られ愛され、そして慕われる、そんな立派な人に成りたい。それは例え教皇でなくても、なれるでしょう。なら、この地位に未練などありません!!」
私は最後に頭の上の帽子と羽織ってた羽衣を空へ投げた。下から聞こえる、衝撃を感じる声。暗い夜空に、白い帽子と羽衣が輝いて舞っている。
「ここから私は誰とも変わらない一人のモブリです。そんなただのモブリからのお願いは一つだけ。どうかリア・レーゼを見捨てないで欲しい。
今、あの地で泣いてる人達が、助けを求める人達が、そして救いを信じる者達がいる。どんなに危険で無謀でも、助けを求める声を無視してはならない。それは我らが神の大切な教え。
我らモブリは、シスカが最も愛をくれた種族の筈です。ですからその愛を我らは世界に届ける。それを見失う事は…………許されない!!」
心からの言葉……その全てを私は吐き出した。今までの全てを込めた。大きく息を吐いて吸う。夜は心地良くなってきた風が気持ちいい。そう思えるのも、今の私に後悔がないからだろう。
後はただ、民の心を信じるだけだ。
【さてと、なんだか大丈夫そうだし、僕たちは先へ進むとしますか】
【しますか、じゃね――よ!! そりゃあただ守るだけの障壁を張るよりも、強化魔法の方が得意だけども、これ以上は限界だ。扉壊されるぞ!】
【全く、トイレにズカズカ入り込んでくるとは不作法な奴らだな。そんな訳で、後はよろしく。大丈夫さ、本当の言葉はちゃんと心に届くと思う】
ジワっと目頭が熱くなる事を……すると周りを囲んでる神官達がそれぞれ頷いてくれる。全く、こんな所見せたくなんかないんだけど……
「ありがとう。そちらも気をつけて」
【おう!】
そんな応答の後、スオウ君たちの映像も空から消えた。これでこの場には人々のざわつきと、飛空挺艦隊の重厚な音だけ。
【さて、無駄な言い分も終わりでしょう。そろそろ終わりにしましょう。既に貴方は自ら教皇を投げ捨てた訳ですし、今から早々に引っ込んで貰えれば命までは取りません。助けて差し上げましょう】
私の命も見逃すか……ありがたい話だけど、それは出来ない相談です。私は首を横に振るう。
「それはあなた方にリア・レーゼへ軍を派遣させてもらわないと、無理な相談です。私の願いはそれなのです」
私はハッキリとそう言った。空のどこを向けばいいかわからないから、艦隊の方を向いて言ってみた。もしかしたら社の方を向いた方が良いのかも知れないけど、狙われてるしね。
すると案の定、元老院はバカにするようにこう言った。
【何を言い出すかと思えば――ははっ、貴方は自分の立場を理解してないようですね。貴方は既にただの民の一人。
教皇ではないのですよ】
「知ってる。そんな事は百も承知だよ。だからこそお願いしてる。私はサン・ジェルクの一市民だ。上の者は下の者の声を聞く義務がある」
【たった一つの小さな声など、イチイチ聞いてる程、上は暇ではないのだよ。それに我らは方針は曲げない。我らのやり方が、一番リスクを回避できるやり方だ。
それを他の市民はわかってる。幾ら他人を思いやろうが、一番は自分自身だろう? それが当然なんだ】
当然……確かにどんな綺麗事を並べても自分を無碍には出来ないだろう。それを悪いだなんて私は思わない。だけど……それでも、誰かを思う心があるのもまた事実なんだ。
世界は自分の中だけでは完結しない。誰かは誰かと関わりあってなくちゃ生きられない。そこには沢山の優しさがあるはずだ。
【どうやら引く気はないようですね。邪魔をするというのなら、いたしかたない。これは世界を揺るがす問題。小さな小石に躓いてる場合ではないのです】
砲芯の先に展開する魔法陣。また砲撃をする気らしい……今度こそ私を殺す気だ。だけど今はあの時とは違う。ただ撃たれるだけ……なんてしない。
私は自身の腕についてる銀色の腕輪に手を伸ばす。すると腕輪は三つに分裂して私の周りに展開。そして三つそれぞれに違う魔法陣を表す。
「やる気ですね」
「ああ、だけど艦隊は攻撃できない。あれはリア・レーゼに向かって貰わないといけないからね。あくまで逃げる様だよ。
今度はみんなにだけ負担はかけない」
私は神官達にそう告げる。随分迷惑をかけたし心配もさせた。だから今度はちゃんとやるよ。
【さあ、これで終わりです!!】
「市民を小石と言って切り捨てる。私はそんな事、絶対にしない!!」
輝きを増す双方の魔法陣。だけどその時だ。夜空に響く狼の咆哮が全ての魔法陣をかき消した。
「「「なっ!?」」」
その場に居た誰もが驚いた。一体何が? そう思ってると、市民の誰かが叫ぶ。
「おい! あそこ! 湖に何か居るぞ!!」
確かに何か居る。青紫色に光る何か大きなもの。白く輝くその獣は狼? その狼はかなりの巨体にも関わらず、水面に波紋一つ投げかけないで立ってる。
この場の雰囲気が一瞬であの狼に持っていかれた……そんな気がする。そして更に何かがモゾモゾとその狼の頭に這い上がってきた。
そしてその姿にまたも驚きだ。だってそれは……
「随分、立派な顔になられましたね。アンダーソンは嬉しい限りです」
眠ってた筈の彼女……それが今……あそこに。
「先生……」
「その呼び方はお止めなさい。貴方は教皇でしょう。いえ、もう辞めたのでしたっけ? まあ時には思い切りの良さも大切。
大丈夫、貴方にはまだその資格があるわ。問いましょう皆さん。サン・ジェルクに住まう全てのモブリへ。元老院を信じてはいけない。彼らの悪事、私はその全てを知っています。
サン・ジェルクの信仰と心を取り戻す……その為の選択はあなた方一人一人に掛かってる」
【アンダーソン……奴め! 撃ち殺せ!!】
そんな声と共に、艦隊からの砲撃が始まる。大きく立ち上る水柱。だけど狼は優雅に水面を駆け、空へと上がる。
「さあ皆さん、杖を取りましょう! 思いを込めて願いの花火を上げてください。ノエインの言葉……その思いを受け止めてくださるのであれば、私に続いて欲しい!!」
そう言ってミセス・アンダーソンが初めの一発を大きく打ち上げる。キラキラと落ちていく火花。だけどまだ誰も続かない。
そして完全に消え去ろうとした直後。遠くで控えめな花火がポッと顔を出した。するとそれを皮切りに連鎖的に花火が続く。目の前を光の玉が無数に飛び越えて行く。そして夜空を埋め尽くす程の花火が咲いた。だけど何故だろう……あんまり良く見えないよ。
涙が溢れすぎて……良く見えない。
「「「ノエイン様ーーー!!」」」「「「「教皇様ーーーー!!」」」」
下から聞こえるそんな無数の声。みんなまだこんな私を敬ってくれている。
「ありがとう」
私はその言葉を紡ぐだけで精一杯で、だけどこれ以上に無い位に満ち足りてる。
第三百七十四話です。
なんとまあ終わらないですね。ハハハ……でももう直ぐです。夜空を彩った花火はサン・ジェルクの意思の色。力強い味方も来たわけだし、ここからは大逆転! があるかも?
ミセス・アンダーソンの事は誰もが忘れてそうですけど……覚えてる人居たかな? 不安です。そして一緒に来た狼は何のか……それはまあ、まだ言えません。
てな訳で次回は月曜日に上げます。ではでは。