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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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培う心、まやかしの勝利

 僕とピクは協力して麒麟に立ち向かう。僕等はそれぞれの弱点を補い、後は心で押し切った。そこにはきっと多大な運が有ったんだろう。

 でもそれすらも幻でまやかし……LROは僕達にそんな優しい訳がない。


 勇気とは生まれるもので、掴むもの。自分の苦悩が晴れた時に……誰かの言葉に感化された時に……その行動の意味を理解できた時に……誰かと思いを繋げた時に……心が前を向いたその瞬間、自分の胸に灯るよう、その場に沸き上がるよう、勇気という光が見える。

 すると不思議と恐怖や不安がなくなったり、小さくなったりする。出来ない事なんてない気がする。開ける事が出来なかった扉が開いた感覚。

 進み出よう……その先に。迷わず、畏れず、止まらずに。



 暗い森を照らす淡い光の玉が弾けゆく。雷撃を纏った布が僕達を隔てた木々を物ともせずに切り刻む様は戦慄を感じる光景だ。僕とピクは意気揚々と駆けだしたけど、その布の壁に阻まれて刃が届く事はなかった。

 結局ピンチなのは何も変わらない状況。まるで第二形態にでもなったかの様な麒麟に未だ手も足もでない。僕の手数は腕一本分少なくなっているのに対して、向こうは舞う布の数だけ攻撃出来る。

 それは絶対的な差だった。追いつくわけが無い。


「スオウ君!」


 頭に届いたシルクちゃんの声で僕は身を隠してた木からとっさに横っ飛びで飛び出した。その瞬間青白い光を放電した布が、まるでカードキーを差し込む気軽さで、樹齢何十年を誇りそうな幹を貫く様が見えた。

 這い上がってくる悪寒を押さえつけて、転がり様に地面を無理に蹴って方向転換。すると方向転換する前の地面に布が刺さる音が聞こえる。

 でもまだまだ安心なんて出来ない。放電の音が前方から聞こえる。これで攻撃が来る方向がわかるけど、それはとっさの判断と言うよりも危険を回避する防衛本能。

 反射の賜で動くから、なかなか次に繋げにくい。ここは無理してでもあの布を弾いて距離を詰めたい所だ。今の距離間は最悪過ぎる。

 どうやったって間合いの外で僕の剣が届く事が出来ない距離。前を向く事を諦める気もないから、どうにかして反撃のチャンスを掴みたい。


「ピク!」


 僕の呼びかけで嬉しそうに飛んできたのは桜色の小竜。


「ブレストファイヤ!」


 僕の指さした方向に向かってピクは炎の固まりを吐く。痺れる程の衝撃が辺りに伝わった。あれで何枚かは落とせただろう。

 僕はニーベルを構えて走り出す。爆煙の中から数本の布が迫るけど今度は逃げない。紙一重で布をかわし側面から切りつける。

 一枚・二枚……三枚! 爆煙が晴れた先には麒麟の姿が見える。このまま一気に接近だ。次、離されたら時間的にヤバい。テッケンさんがモンスター共を引きつけてそろそろ二十分は経つだろう。

 根性で三十分は行くとか言ってたけど麒麟はここまでHPを減らしてない。ボスクラスのHPなら後十分で削りきれるか分からない……けどやるしかない!

 だからここで意地でも食いつかないとダメなんだ。あの大群が戻って来たら最後。怪物達に僕らは押しつぶされてしまう。


 一向に直る兆しが無いシルクちゃん達の麻痺。もしかしてあの麻痺は邪魔させ無いため? 僕が麻痺に掛からなかったのは偶然じゃ無く必然だったのか知れない。

 これがウエポンアライアスと言う試練なら望はタイマンなのか。それならみんなの回復は期待出来ない。絶望的な状況……だけど救いもあった。それはピクの存在だ。

 どうしてピクは動けるのかは分からない。まだ一回も攻撃を受けてないからか、それともプレイヤーじゃない存在だからなのかとにかく謎だ。

 だけど力強い味方が残ったこと、これこそを救いと呼ばずになんて言おうか。一人で出来ない事が出来るんだ。一人でいけなかった場所に行けるんだ!


「ウオオオオオ!!」


 僕はピクが開いてくれた道を伝って麒麟に剣を振るう。渾身の一撃はようやく麒麟のHPを僅かに減らした。だけどここで止まる訳には行かない。

 続けざまにニーベルを振るい、奴が向かわせて来た布を根本付近から切り捨てる。幾ら四方八方から襲いかかる雷撃を纏った布でも伸ばし過ぎたのが逆に仇になった。

 僕に届くまでに麒麟の体から切り離す。それは僕の方が早かったんだ。切られた布は空中でほつれて消えていく。このまま、丸裸にしてやろう。それでずっと戦い安くなる。


「来てるぞスオウ!」


 鍛冶屋の声に反応して左右を確認すると百八十度横、丁度左右から二枚の布が迫っていた。全部落としたしたと思ったけど、それはどうやら反対側の死角から延びてるみたいだ。

 そして簡単に切ることも出来る木を使ってあり得ない位直角に布を曲げての奇襲攻撃。さっきから麒麟が動かないと思ってたのは全てはこの為か?

 ヤバい! 片方は防げるけど、もう片方はどうすればいい? 自分の失った腕が憎たらしい。左右に剣を持ってたなら対処できた筈なのに……。

 放電音のバリッと言う音が耳に後数センチと迫ったときに僕は決断した。逃げる事も守ることもせずに、ただ目の前の白いわき腹に剣を突き立てることを。


「ヒヒ~~~ン!!」


 それはただの突きだった筈だ。スキルも無い僕の、ありふれたただの突き。でもその選択は間違っていなかった。思いを込めて放ったその一撃は、激しく麒麟の体をズラした。

 そのおかげで木を経由していた布は僕に届く事無く止まったんだ。そしてそれは麒麟が縛られた状態と同じだった。引き絞られた布は麒麟の自由を奪っている……こんな好機はもう二度と無いかも知れない!


「ピク! 行くぞ!」

「くぴ~~」


 号令と共にピクは次々とブレストファイヤを放つ。伝わる熱気を気にせずに僕もニーベルを振るう。スキルなんて物は持ち合わせてないからひたすらガムシャラに……ただ精一杯にニーベルを振るった。


 

 銀の軌跡は爆煙の中に次々に吸い込まれていく。絶えず打ち続けられるブレストファイアに周囲は煙に包まれて視界なんて無くなっていた。

 でも、そこに居るはずの麒麟に向かって進む手に迷いはない。ニーベルを伝って届くその感触は信じれる物だ。居る、間違いない。効いている……そうであってほしい。

 だけど不意にニーベルが宙を切っただけの感覚があった。そして今まで直ぐ近くで爆発してたピクの攻撃が遠くに聞こえる。

 確信して……そして理解したその瞬間、煙の中から青白い獣が僕に向かって鋭く光った角を向けて姿を現した。


「くっそっ!」


 迫る白銀の角に一本だけじゃ心許ないニーベルを向ける。ぶつかり合う白銀と銀。その瞬間「ピキ」っと何かに

ヒビでも入る様な音が聞こえた。

 それはもしかしてニーベルの……だけど油断したらやられて仕舞う中、それを確認なんてする余裕はない。だけどその時、再び火球が麒麟の背面にぶつかり一瞬の余裕が出来た。

 僕は鍔迫り合いから解放されて、バランスを崩した麒麟の頭にもう一度ニーベルを叩き込む。今度はクリーンヒット。だけど再び「ピキ」という音が聞こえた。

 ニーベルは大丈夫なのか? ピクのナイスアシストで窮地を打開できたけど武器に何かあるんじゃ不安が尽きない。


「耐えてくれよ……」


 そう願いつつ僕は再び奴の脳天にめがけてニーベルを降ろす。効いているのかは分からないけど、麒麟は頭が弱いのかも……。

 今までどこを斬っても顔色一つ変えなかった奴がもたついてるんだ。これは弱点と考えてもいいのかも知れない。だから僕はまたこうやって同じ部分を狙う!

 ガッキィィィィン! 激しい音を立ててニーベルが脳天に直撃する。そして今度こそ麒麟の膝が折れた。奴の倒れ行く様が視界に映る……もしかして僕は勝ったのか?

 そんな淡い期待が膨らんだ。

 ドサッ……と言う音を響かせて麒麟は地面に倒れ伏した。


「やったのか?」


 そんな声が遠くで聞こえた。それは僕の声だったのか知れないし、麻痺で動けない誰かだったのかも知れない。けれどそこには紛れもなく横たわる麒麟の姿がある。

 それが事実……だったら手を掲げずには居られなかった。


「よっしゃあぁぁぁぁぁ!」


 僕は大きく声を張り上げた。ピクも一緒に喜びを分かち合うように空中でバク転してる。いいね、元から空中飛んでるから楽々だ。


「シッ!」「うん!」「ふ~ん……」


 向こうの麻痺組のみんなは三者三様のリアクション。ちなみに最初のは鍛冶屋だ。多分心で拳を握り締めたんだろう。次のはシルクちゃん。彼女らしい謙虚で可愛らしい同調だ。

 そして勿論、最後のどうでも良さそうな声を上げたのがセラだ。少しは喜べ! てか、負けなかったんだ~みたいな顔ヤメレ!

 私はその一点に賭けてましたよ、みたいなその顔がムカつく。僕がどれだけ頑張ったと思ってるんだ! 隻腕で! 少しは誉めろよな。普段ツンツンしてるキャラはこういう所でデレを見せなきゃ需要がねーぞ。


「私はそんな安っぽく無いわよ。媚びへつらうなんて大ッキライ。腹の中ではいつかみてなさいよって思ってるから」

「危ない! すっげー危ないメイドがここにいるぞ! いや、そもそもそれはメイドじゃない。メイドの服着た暗殺者じゃねーか!」


 スゴく黒過ぎて逆に関心してしまう。度を過ぎる物は何でもそういう物なんだ……とか思っちゃう人間心理が働くね。

 度を過ぎたバカとかが可愛く見えたり、あり得ないほどのダメ人間が何故か母性本能擽りまくりでめちゃモテたりなんかしてしまうアレだ。


 有名どころでは、天才が書いた絵画なんかだろう。あの特異な絵画。教科書なんかで見ても「え? これがそうなの? 自分の方が上手く書けるんじゃね?」とか思ってしまうあの画家の作品だ。

 でもあれはあ絵画として度を越しすぎてたのが良いと思われた要因なんじゃないかと僕は思う。つまりあの画家は度を越した天才だったと言うわけだ。


 てか、話が脱線したけど幾ら度を越しても向こうで無様に這い蹲ってる凶悪メイドを認める事は出来ない。何故ならあいつが今へつらってる中には僕の親友が含まれてるからだ。

 さっきの話が本当なら、アギトはいつかセラにどうにかされてしまうのだろう。あり得ない話ではない。セラはメイドという仮面を被ってるに過ぎないんだから。

 あの服の内側には暗器がそれはもう、と言う位仕込まれてて掌を返す準備は万全とかでも驚かない。いや、実際その程度セラはやるだろ。

 僕はセラの暗器は一つしか見てないけど、そもそも暗器は一つじゃ成り立たないだろう。次に何を取り出すか……どこまで隠し持ってるかと疑心暗鬼させて戦いでの心理を常に取っていく。そういう感じだ。

 動けない今の内に脅して誓約書でも書かせた方がいいのかもな……犠牲者がまだいない内に。本当にまだ犠牲者がいないのかは定かでは無いけど。


「あ、動けるよ」


 僕がセラの蛮行を予め防ぐ算段を練っていると不意に聞こえたその言葉。顔を上げて見てみると銀髪少女のシルクちゃんが見事に地面に立っていた。


「うぬ、確かに」

「はあ、良かった。あの痺れる感じも不快なのよね。誰かさんの様に」


 同様に立ち上がった二人。だけど何故か片方の視線が痛い。僕か? 僕はおまえにとって不快だったのか。その目はアンタも消えてよ、みたいな目なのかな。


「まさか、そこまで……ぷぷ」

「なんだそのププって! 思ってた! 確実におまえは僕の事を不快でバカで死ねば良かったのに、って思ってた!」


 もう最悪だよ。この腹グロメイド。勝利の美酒位味合わせろってんだ。


「まぁまぁスオウ君、落ち着いて。後半から確実に被害妄想が強くなってたよ」

「そうだぞ。幾ら何でもそこまで彼女も思ってた訳がない。ちなみに俺はお前がバカとは思ってがな」


 ウルサい……バカなのはお互い様だろう。この職人バカめ。どうやら僕が思ってた仲間はシルクちゃんしかいないらしい。後はピク。

 ピクは飼い主が良いからきっとあんなに良い子なんだろう。他の二人は仲間から除名しておくか。


「僕の心は深く傷ついたからな! 二人は仲間から除名だ!」

「そうなんだ。なら復讐……」

「末永い付き合いを申し込みたいです!」


 なんださっきの復讐……って。思わずひれ伏したじゃないか。後ろから刺されたくなんかないんだ僕は。百歩譲ってアギトは良いよ。諦めつくから。

 だけど自分はダメだね。自分自身を僕は諦められない。でも勢いでつい変な事を言ってしまったぞ。

『末永い付き合いを申し込みたいです』だよ。捉え方によっては告白に聞こえてしまいそうな一文だ。なんて恐ろしい。ミスったけど発した言葉を今更回収できる訳もなくて……これはからかわれる事必死だ。

 他意は無く、純粋に友達続けさせてください宣言だったんだけど……全力で変な方向に持っていくのがセラだ。


「そう、それじゃあ末永い付き合いを受けるためにこれにサイン頂戴」

「なんだそれ?」

「読めばわかるから」


 僕は渋々、翳された紙の文面を読む。え~と、何々――


「奴隷契約書――私は一生を貴女様の為に尽くし、苛められる事を快感・はては無償の喜びと出来る事をここに誓います。貴女の犬に、私は成りたい」

「「…………」」


 え? 何その空気。ちょっと待てよ。鍛冶屋は良いよ。だけどシルクちゃん! 君は離れないで! 僕の唯一の清涼剤の君が居なくなったら落ちちゃうよ。この訳の分からない世界に僕は落ちてしまう。

 つなぎ止める為にもそれ以上離れないで。


「はい、入力画面出してあげたから、ね」

「誰が書くか! 僕を変な世界に引き込むな!」


 偶に見せる可愛い顔をここで使うんじゃねーよ。一瞬、それも良いかな……なんて思う自分が出てきそうに成ったじゃないか! 


「大体、僕を見てるのは不快なんだろ? そんな奴を奴隷としても側に置こうとするなよ」

「別に不快なんて私は言ってないけど……それってアンタの想像よ」


 うん? なんでここで照れくさそうに顔を背ける。それは奴隷契約書を翳す奴の仕草じゃないだろう。確かに僕が勝手に頭の中で想像を膨らませたに過ぎない事だけど……あながち間違ってるとも思えないんだよ。


「アンタはどれだけ私が黒いと思ってるの?」

「ん? そんなの決まってるだろう」


 セラはこの上なんか無いといつも僕を驚かすよ。だから当然――


「世界で一番――ブボァ!」


 殴られた。それもグーで。女の子に拳で殴られるなんて最低の男の証じゃないか。いや、それこそこっちの筋合いじゃ無いはず何だけど。

 どうしてセラは躊躇いもなく、死闘を終えたばかりの僕を殴れるのかが謎だ。普通の神経してたらまず出来ない事だよね。どうしても遠慮という気持ちや、僕の体の有様を見て直接攻撃は勘弁しようと思うはずだ。

 なのにセラは殴った。躊躇い無くその白魚の様な腕を高速で突き刺した。鬼だこいつ……こんな事してくれるからセラより上が想像出来ないんだろうが! 

 僕は地面に倒れ伏した。まさに麒麟と同じ状態だ。丁度自分の引きちぎられた腕が見える。まだくわえてやがったのか。いい加減に放せよな。


「ピキ……」


 またそんな音が聞こえた。僕は残った手にまだ持っていたニーベルをみやるけどヒビなんか入ってなかった。じゃあこの音は一体・・・目に映ったのは麒麟の額にある白銀の角だ。

「まさか……アレか?」


「大丈夫? どうしたのスオウ君」


 倒れた僕をのぞき込む様にして心配してくれるシルクちゃんが天使に見える。銀髪に白を貴重とした修導服の様な格好はまさに神の使い。この子以上に似合う子は良ないだろう。

 その肩にはピクが今し方降りてきた。なんて絵に成る光景だ。思わず見とれちゃうよ。一筋の光が見えちゃいそうだ。

 僕はそんなシルクちゃんに言ってみた。


「いやさ、麒麟の角が折れそうだなって思って」

「角? ――ひっ!」


 シルクちゃんは短い悲鳴を上げて顔を背けた。多分僕の腕を見たからだろう。あれは自分でも思うよ。グロいって。

 するとそんなシルクちゃんを見てからか。セラがトコトコ麒麟に近づき――


 ガッ (セラが僕の腕をぞんざいに掴む音)

 ブシャァ (セラが豪快に麒麟の口から僕の腕を引っこ抜く音)

 ポイ (僕の腕を軽く捨てた音)


「シルク様。グロい物体は排除しましたから安心ですよ」


 メッチャ爽やかな笑顔だった。


「――て、なにしてくれんだ! 僕の腕どうして捨てた!?」

「だって生ゴミでしょ?」


 可愛らしく首を傾けるセラ。こいつはとうとう他人の腕を生ゴミ言いやがったよ。


「くっそぅ……」


 僕はこぼれ落ちそうな涙を必死に堪えて腕の捜索を始めた。もうイヤだ。あの悪魔に関わってたら心を殺されそうだよ。



 僕たちは安心していた。麒麟は倒れ、そして麻痺が解除された事でウエポンアライアスは一応の終わりを迎えたと思っていた。後は多分泉の精にでも報告すれば達成だろう。

 麒麟のHPがまだ大分残ってるのに動かなく成ったのはおかしいけど、そういう仕様なんだろうと思えば納得出来た。だってそもそもあのクラスのモンスターを一人で……いや、一人と一匹で倒せと言うのが無茶な話だ。

 だから何かしらの条件があったのだろう。僕達は運良くその条件をクリアしたと言う事だと思う。

 だけどそんなにLROというゲームは優しくないと僕は散々知っていた筈何だけどね……。



 僕は半べそかきながら腕を捜索してた。後ろでは麒麟の元に集まって何やら話してる三人の声が聞こえる。そんなに力を入れて投げて無いはずだからここら辺の筈なんだけど……何故か見つからない。

 だけどその時、草むらに突っ込んだ僕の腕が見えた。やったようやく見つけたぞ。腕があれば元通りに成るかもしれないからね。

 元々腕がちぎれるなんて事事態がおかしいけど、それはきっと僕がおかしいせいなんだ。浸透率……それは確実に上がっていて、その檻の扉は徐々に狭まって行っている。今、この瞬間も。

 だからこれは僕にだけ起きた不幸な事だ。それでもこれからを戦い抜くために隻腕じゃどうしても心もとない。僕はみんなを・・強いてはセツリを助け出す為に両腕は必須なんだと、さっきの麒麟戦で実感してた。

 だからこの腕を無くす訳には行かない。僕は腕に手を伸ばす。だけど横から伸びた手が僕より先に腕を取る。


「あっ……」


 僕の間抜けな声が漏れた。だけど瞬間、その声を出した喉がひきつる。何故なら……横から延びた手の主は、紛れも無くテッケンさんが引き連れた筈のモンスターだったからだ。

 僕は驚きながらもゆっくりとした動作でこの場を離れようと試みる。だけど次の瞬間、後の事も考えずにニーベルを振るった。

 だって……だってあの獣人、僕の腕をパクリと口に入れやがったんだ。僕は思わずニーベルを振るって奴の首を飛ばしていた。これもシルクちゃんには見せられない光景だ。 

 だけど普通は一撃で首が飛ぶ……なんて事は無いはずだけど僕の無意識はそれを凌駕したらしい。クリティカルヒットでもあったのかも知れないな。


 だけど僕はこの時、最悪の事態が迫っている事に気づいた。腕を奴が消えた後から拾い上げて、急いでみんなの元へ。伝えなくちゃいけない。

 そうしないと僕達は圧倒的な闇に押しつぶされてしまう事は必死だったからだ。だけどみんなの元に戻った僕を待っていた光景もまた闇の一つだった。


 

 そこには完全に雷化した麒麟と泉の精の姿が立っていたんだ。この瞬間、走馬燈が人生のアルバムを流してもおかしくはない状態だった。


「ピキ……ピキキ」


 だけどまだそんな音が僕の耳には届いていた。それは僅かな希望の音。

 第三十七話です。

 取りあえずごめんなさい。もう本当にごめんなさい。どんな事を言っても言い訳にしかならないのでごめんなさいとしか言いません。僕は宣言した一日一話を守れませんでした。

 自己嫌悪です。でもそれでもまだ皆さんが寛容に見守ってくださるのなら僕は頑張ります! 許してくれとは言いません。それはこれからの作品の出来で判断していただきたいです。

 だから僕は許される様に頑張って行きます。なので今日は連続二話投稿します。続いて第三十八話もよろしくお願いします。

 本当にごめんなさい。

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