燃え落ちる大樹の街
どこもかしこも火に包まれてる。スオウ達が飛空挺でサン・ジェルク艦隊に向かって暫くして、いきなりそれは起きた。鳴り響く地響きはモンスターの軍勢の再来。
聖獣率いるその軍勢に、あっという間に街は落ちた。私達は世界樹の幹部分に障壁を張って耐えるのが精一杯。だけどそんな中、世界樹に掛かりきるモンスターどもの隙をついて、逃げ遅れた僧兵達の回収にも動き出してた。
次々と立ち上る黒い黒煙。それは分厚い雲に覆われてる空に昇っていき、まるで空の雲に加わって更に厚さを増してる行ってるように見えた。
これじゃあ当分この激しい雨は止みそうにない。煙は全然関係ないけど、きっと多分止まない。辺りは雨に打たれてる割に暖かい。それはこのリア・レーゼの街が炎で包まれてるからだ。
雨よりもいっそう激しく燃え盛る炎。辺りに飛び散る火の粉。街の外周部分から崩れていく様な音だって聞こえてる。
そんな状況の中、近くから悲鳴が聞こえた。私は急いでその声の方へ。駆けつけると、でっかい猪みたいなモンスターに襲われてる僧兵の小隊が居た。
既に街部分は放棄の命令がローレから出た。だけど聖獣共のいきなりの奇襲で混乱してたから、撤退し遅れた部隊がまだ街には居るんだ。私はその回収の役目を引き受けてここに居る。
だから、この人達を助ける!! 私は彼らに突進してるデカい猪に向かって金の弓を構える。四・五メートルはありそうな巨体。外す気はしないけど、なんだか体毛が随分強そうに見える。
それが全身を余すこと無く覆ってる。と、言うかあの猪の突進で一気に外壁が崩されたのよね。それで僧兵達はどこからでも入ってくるモンスター共に、混乱した節がある。
こっちが崩れるきっかけをよくも……私は狙いを定める。鏃部分から少し先に、普通の魔法陣とは違う陣が現れた。
普通は丸いけど、これは四角。そして更にその向こうにも小さな四角の陣が続けざまに現れて、一番大きな四角の陣の中をはみ出ない用に動く。
そして二つが重なると色が変わる。ロックオンの合図だ。私はその瞬間に矢を離す。矢は目の前の陣を砕き、真っ直ぐに狙いへと一直線。
黄金の線を流す矢は次の瞬間、モンスターの眼球に側面からブッ刺さった。プギャアアアアアアアアアアアアなる声を甲高く上げる猪。その時、僧兵達は私の存在に気付いたみたい。
だけどまだ倒した訳じゃない。気を抜くのは早いわよ。私は矢と繋がってる金色の糸を引いた。すると体が矢の方に糸が巻かれる様に引っ張られるから、力強く地面を蹴って一気に猪へと迫る。
そしてその間に弓から、別の武器へ組み替える。それは両方に刃がある武器。この武器のデフォルトだけど、だからこそ、豊富なスキルが揃ってたりするし、別で拾得したスキルへの制限がないのが強み。
私はその武器を抱えて迫る。刀身周りには赤いスキルの光が広がる。するとその時、猪が痛さのあまり首を振ってるから、近づくほどにその影響が出てきた。真っ直ぐ進んでた筈が、勢いよく上空に飛ばされる。
(だけどこれは、丁度良い)
私は紐を引っ張って矢を目から引き抜いて回収。足りなかった部分にそれを付け食われる。これで完璧、完成刑。後はブッた斬るだけね。
こんな事を思うのはスオウみたいでイヤだけど、あんまり長く相手をしてる場合でもない。気合いを入れないとね。他のモンスター共がより集まってきたら面倒だもん。
「せええええええええええええい!!」
上空から一気に落ちて、まずは一発猪の首元に刃を振り下ろす。その瞬間爆発が起きて猪はふらつく。だけど切れてない。やっぱり凄い剛毛だ。
だけど――
「まだまだあああああ!!」
体をひねって私は反対側の刃をもう一度猪の同じ部分に当てる。首元で再び起きる爆発に、今度は耐えきれずに膝をつく猪。そして二回目の爆発で剛毛も吹き飛んだのか、内側の皮膚が露わになった。
私は仁王立ちして、両手にしっかりと武器を持ち、そして突き刺す!!
「ピギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
と泣き叫ぶ猪。効いてる。だけどこの巨体を倒すにはこれだけじゃ足りない。私は更に別のスキルを発動させる。
「スキル『雷針』発動」
あんまり使い道がないスキルだけど、今のこのリア・レーゼの天候なら意味がある。すると大暴れしだした猪に思わず振り落とされた。
(まあ丁度よかったわ)
だけど私はそんな風に思う。だってあのままあそこに居たら私も被害受けるもの。雷針は自己発生型のスキルじゃなく、環境干渉型のスキル。だから術者に対する配慮って奴が出来ない仕様なのよね。
なんたって扱いが自然災害と同じだから。私は地面に落ちながら猪の首元ら辺を見つめる。
(そろそろかしら?)
そう思ってると、ピカッと一瞬の光で視界が奪われたと思ったら、空からまるで空気が叩きつけられたかと思うほどの大音量の音が鳴り響く。
わかっては居たけど、いきなりで更に強烈過ぎて受け身取るの失敗した。
「い……痛い……」
私はそんな事を呟きながら起きあがる。目が潰されるかと思った光だけど、流石にそれはないよね。ゲームだし。ゲーム……なのかな。私も最近、少し怖くなって来てるんだよね。だけどそんな事、今考える場合じゃない。
今の光は雷。それがこんな近くで鳴ったって事は上手く行ったはずだ。私は目の前の光景に目を凝らす。するとそこにはまだ悠然と立ってる猪の姿があった。
(そんな……)
そんな感情が沸いてきたけど、次の瞬間グラ~~と体がこちらに傾いて来る。
「え? え、ちょっと待ちなさいよ!」
私はそんな文句を言いつつなんとか回避! 大きな振動と共に、近くの建物を潰しながら地面に倒れた。そしてそのままエフェクト化していく。
「全く、驚かせないでよね」
どうやら視界が悪かったから堂々と立ってる様に見えただけっぽい。倒れてきたのを近くで見ると、真っ黒焦げに成ってる。あんまりおいしそうじゃないね。猪の丸焼けって。
私は消え去る猪から武器を回収する。するとバチっと僅かに残った電気が私の指に。うう……これって苦手なのよね。ちょっと油断したわ。
私はもう大丈夫かどうか、チョンチョンと武器に触れて確認。安全を確認してから再度回収した。するとチョコチョコと周りに僧兵が集まってきた。
「あ、ありがとうございます! 確か貴方はローレ様の客人の……」
「セラです。それと別に客人ではないですよ。私達はローレ様にお願いがあっただけですからね。所で皆さん無事ですか?」
私は外面全快で対応します。まあ、別にこの程度の僧兵には普通に接してもいいと思うけど、あんまり普段から下劣な言葉を使ってると、思わぬ時に出たりするから、自分を律する為にもここはこの対応で。
最近スオウやノウイと居るときが多いせいでどうも油断がちだもん。前はもって凛としてる事を心がけてた筈なのに……全くあの二人は……特にスオウは私の調子を狂わせるのよ。
憎たらしい。うんうん、憎たらしい。憎たらし……けど……
【セラ!】
って、戦場で呼ばれないのはなんだか寂しく感じ……そこまで考えてふとハッとして私は頭を振るう。
(ななななな……何考えてるのよ私は! 寂しいだなんてそんな……そんな訳ない! ちょっと一緒にいただけじゃない。今の無し! 今の無しよ自分)
私がそんな事で悶々としてると、なんだか暖かい光に包まれた。これは……
「大丈夫ですか? さっきから何やら不思議な行動をしてらっしゃるから我らよりも心配です。ああ、後こちらは何とか全員無事です」
「………………コホン、それは良かったです。回復魔法ありがとう」
うっわあああああ、すっごく恥ずかしい。穴があったら埋まりたい。ついさっき凛としようって思ったのに既に崩壊だよ! これも全部スオウの奴のせい……やっぱり憎たらしい。あんな奴……帰ってきたら文句一杯言ってやる。
リア・レーゼがこんな状況だってのにホント何やってるのよアイツは! さっさと戻ってきなさいよ。無事なら……無事よね? まあテッケンさんさも付いてるし、最悪の事態にはなってない……と信じたい。
「あっそうだ、皆さんにはコレを。ローレ様からの贈り物です」
私は必死に名誉挽回するためにメイドらしく振る舞う。この服に恥じない様に今までやってきたんだから、こんな事で今までの自分の努力を崩しはしないわ。
「これは転移魔法符? こんな貴重な物をローレ様が我々に?」
「ええ、逃げ遅れた僧兵に渡しに回ってるんです。だからローレ様の行為を無駄にしないためにも早く転移を。本殿へと、転移先は指定されてますから」
ああ~さっきから思ってたけど、ローレをローレ様と呼ぶ度に眉がピクッて動いちゃう。拒否反応かな。アイツ、アイリ様をバカにしたからね。それは本当に許せない。
今は状況が状況なだけに、そんな不満は飲み込むけど、後できっちり謝罪を要求するわ。私が自分の中でそんな不安を語ってると、謝罪と共に僧兵達は転移魔法で消えて行ってた。
「ふう……」
これで三小隊位は送ったわね。一体残り何人の僧兵達が逃げ遅れてるのか……それがわかれば良いんだけど、あの混乱の中だったから、完全には把握出来てない。急遽張った世界樹周りの障壁もいつまで持つかもわからないし、いつまでもこんな事をやってるわけにも行かないわよね。
どこかで区切りをつけるのは大切。私はポケットから別のお札を取り出す。それを電話をするように耳に近づける。
「もしもし、聞こえるノウイ?」
「はっ、はいっす! セラ様!!」
キンキンとうるさいわね。もうちょっと声量押さえなさいよ。だけど元気そうではある。そこだけは安心。まあこういうミッションでノウイへの心配なんて誰よりも必要ないんだけど……コイツの生存率は異常だからね。
だからこそどんな無茶な潜入もさせられる訳だけど。
「そっちはどう? こっちは三小隊分位は送ったけど、まだ居そうなの?」
「そうっすね、こっちはこれで三十人位っすけど、この調子じゃまだいるかも知れないっす。だけど担当エリアは殆ど観たので、これからセラ様の分も観て回るっす!」
三十人って……驚異的ね。こんな短時間にどんなペースで発見してるのよ。まあ私も聖典を使えばもっと効率が上がるんだけど、今ここで使って良いものかが問題。数機なら問題ないけど、それだとあんまり効率良くないし、結局はその場まで私自身が行かないとだしね。
今思えば、ノウイと協力してやった方がきっと早かったと思う。本殿から聖典を最大展開して、街の中をくまなく捜索、そして発見次第ノウイにミラージュコロイドで急行……その形がベストだったのに、ちょっと自分の頭が痛くなるのがイヤで辞めちゃった。
今は後悔しかないわね。そもそもそこまでしてNPCを助けるべきとも思わないし。ローレが必要だって言うから、仕方なくしてるけど……まあスオウの奴が居ても「助けに行かないと」とか言うのよねどうせ。
「どうしたっすかセラ様??」
「なっ!? なんでないわ! 了解、こっちのエリアもお願いするわ。エリアEFは終わってるから、Gで合流するわよ」
「了解っす!!」
通信終了。ローレの力が効いてる範囲での通信と転送の魔法を封じ込めたお札。やっぱりリアルタイムでやりとり出来るって事は便利よね。
自分達は雨避けのお札も使ってるしね。これだけの雨でも濡れずに行動できるのは大きい。服とかビショビショはイヤだし。
「さて、もう一踏ん張りしましょう」
私はそう言って次のエリアに向けて走り出す。するとその時、変な声が周りから聞こえた。
「アハハハハハハ、君の事知ってるよ。それなりに厄介な奴。ここで死んどいてくれた方がきっと良いよね?」
「誰!?」
いや、モンスターの中で言葉を発せられる奴は限られてる。どう考えても聖獣でしょ。最悪だ。聖獣にはなるべく出会わない様に祈ってたのに。
私は懐の転移魔法符に腕を伸ばす。
(ごめんノウイ。後は任せるわ)
たった一人で無茶な戦闘は出来ない。それは最初に出発するときの約束ごとだ。まだ誰も欠けるわけには行かないもの。
だけど姿を見せない聖獣は私の行動を読むようにこう言った。
「転移する気? ダメダメさせないよ。て~~~い!!」
大きく空に広がる魔法陣。一体何を? 取りあえず、私は転移魔法符を使うことに。だけど……
(ちょっと、何で反応しないのよ!?)
まさか今の魔法で?
「アハハハハハハ、無駄だよ無駄。君たちの小細工なんてお見通しさ。逃げ遅れた奴らをそれで助けて回ってるみたいだけど、僕は凄いからそれの対応策も完璧さ!」
そう言ってどこかわからない所から笑い声が聞こえる。姿も見せずに勝ち誇るなんて……ムカつく。取りあえず――ガシャガシャと私は武器を組み替えて大きな手裏剣に。そしてそれを魔法陣が発生した中心に向けて投げてみる。すると「いってえええええええええええ!?」てな声が響いた。
「あっ、当たった」
私は戻って来た手裏剣を回収。同時に何かが空から落ちてきた。なんだか見えづらいけど、小さな体にモフモフした耳。そしてその顔には仮面……というか、あれは縁日で言うお面みたいな……安っぽい作りしてる。安っぽいって言うか……そもそも何もかかれてないし、真っ白だ。
へのへのもへじ位書いてあげよっか? と思う。他の聖獣は豪華な仮面を付けてたのに、どうしてコイツだけこんなに簡素なのよ。
最初からこんなのだったっけ? う~ん、そもそもこのモブリタイプの聖獣ってあんまり姿を現してないから知らないや。
「い……痛い。何するんだよ! どうして僕の位置がわかったんだ!?」
「どうしてって……大抵術者は魔法陣の発生する円の中心に居るでしょうが」
常識ね。それなのに雷でも落ちてきたみたいなリアクションを取る聖獣。う~んスッゴくバカっぽいわねコイツ。もしかして逃げなくてもいけるかしら?
そんな気がしてくる。
「な……なかなかやるな。僕程じゃないけど、お前はなかなかなエルフだ」
「それはどうも。それよりも何したのよ。教えなさい」
私がガン飛ばして睨むと、「ヒイイ」とか怯えながら瓦礫の中へ体を隠す聖獣。やっぱりもの凄く調子が狂うわね。
これじゃあ私が虐めてるみたいじゃない。だけど油断は出来ない。あんなでも一応聖獣なんだからね。
「な……何したってそんなの簡単。僕はお前を自分の障壁内へ閉じこめてやったのさ。そのお札は今の世界樹の御子の力の影響下でしか効力を発揮できないんだろ。
だからその影響を絶ったのさ! ふっふん、僕って天才! どうだ! まいったか!」
得意気にそう言う聖獣。だけど瓦礫から不気味なお面に包まれた顔だけを出した状態。全然格好良くないわよ。参った気にもなれないっての。
でも、どうやらお札の事はバレバレみたい。これはちょっとヤバいかも。だけど聖獣はその種族に徳化した能力を見せるんだっけ? それなら魔法が使えるのは多分コイツだけ。
ここで倒せれば、これからの戦闘が楽に成るかも知れない。なんせいつも自分の姿を消して隠れてる奴だから、これはある意味、思ってもないチャンスなのかも。
「確かに逃げられないのは困ったわね。だけどそれも術者を倒せば解決できる問題でしょ!」
私は聖獣に向かって手裏剣を投げる。瓦礫へ突っ込んだ手裏剣は瓦礫を吹き飛ばして戻ってくるけど、どうやら聖獣には当たらなかった様だ。
的が小さいから逃げ回られちゃ厄介ね。ここは接近戦が確実か……魔法使いに対処する術はそれしかない。詠唱を妨げる効果もあるし……私は武器を組み替えながら瓦礫の方へ走る。
「いきなりなんて事をする奴だ! やっぱりエルフは野蛮だな。今の五種族は欠陥だらけなんだ! だから僕達がとって変わらなくちゃいけない。
それがテトラ様の望みだからね。その為の僕達だよ!」
そう言いながら段々と姿が薄くなっていく聖獣。
「消えさせない!!」
私はデフォルトに戻した武器で、消えゆく聖獣を一線する。だけど感触がない。まるで煙を凪いだみたい。どうやら一歩遅かったみたい。
「あははは、言っとくけどさっきみたいなマグレはもう起きないよ。なんたって僕達は君たちよりも優秀なんだ。優秀な者達を世界は選ぶ。
それって当然だよね」
「アンタが優秀だとは私は思えないけどね」
私は投げやりにそんな事を言ってやった。
「むむ、僕はお前なんかよりも百万倍優秀だあああ!!」
大きい声が響く。確かに姿は見えなくなったし、その声も辺りから響いてどこが発信源なのかわかりづらい。だけどそれだけおもいっきり叫べば、さすがに分かるわよ!
「そこよ!!」
私はダッシュをかけて自分が狙いを定めた場所を切り刻む。すると空間が歪んで見えて、その中に聖獣が見えた。
「なっ!? そんな訳ない!」
「認めなさい。自分の劣等差をね」
そんな捨て台詞と共に、スキルを込めた武器を叩き込む。だけど叩き込んだ聖獣はなんだか妙に柔らかい? すると激しい光が聖獣の体から光り出す。コレはまさかー
「罠!?」
その瞬間激しい爆発に私は包まれる。爆風に吹き飛ばされて、燃え盛る建物へと突っ込む羽目に。
「いっつ……」
ヤバい、今のでHPが半分位もってかれた。
「ごほっごほっ」
ここはヤバいわ。この熱気だけでもHPを削られる。早く外に出ないと。
「熱そうだな。なら俺がこの火を消してやるよ。少々荒っぽくなるけど覚悟しとけよおおおおお!!」
その瞬間、私を襲ったのは凄まじい勢いの水だ。一気に建物は崩れて流される。
「がはっ……これは」
イヤな想像しか出来ないけど……まさかもう一体聖獣が来たとか言わないでしょうね。私は水に流されながらも武器を組み替える。
今度は弓を作り矢を、流されてない建物に向かって射る。そして繋がる金色の糸で自分をすくいあげる。
なんとか生還できた……だけど今のでもかなり……私はウインドウを開く。回復薬を取り出して数本一気に口に含ませる。
「死ななかったか。おいおい、どうだった俺の流れるプールはよ?」
そんな事をドスドス歩いて姿を見せるのは魚顔の聖獣。どうみてもウンディーネに成り損ねた可哀想な奴ね。男のウンディーネはそんなんじゃないから。
何を勘違いしてそんな姿してるのか……
「ちょっとアンタ……回復薬飲んでるのに笑わせないでくれる」
その顔見たら吹き出すのよ。
「おい、コイツ俺に殺させろ。許せねぇ」
なんだか怒らせてしまったみたいだ。
「全く、君はいつも強引だね。もうお腹一杯なんじゃないのかな?」
「うるせえよ。俺の顔を笑う奴は一人だって生かしちゃおかない。コイツもさっきの奴らみたいに食って、後悔させてやる!!」
さっきの奴ら? どうやらこいつ、僧兵達を……そんな事を思ってると、回復終わる前に仕掛けて来た。鋭い水の固まり銃弾の様に降り注ぐ。私は必死にそれを避ける。
「おらおらああ! さっきの威勢はどうした!!」
私は避けながら狙いを定める。だけどその時、私の腕と足に、光の輪が縛られる。
「僕の事も忘れないでよ」
どこからか聞こえるそんな声。ここに来て厄介な事を!
「逝けえええええええええええ!!」
迫る無数の水の銃弾。だけど今の私は防ぐこともかわすことも出来ない。聖典もこれじゃ間に合わない。ここまで……私は歯を喰い締める。
激しい衝撃。体を打ち抜ける幾つもの感覚。周りから聞こえる崩壊する様な音。
気づくと、私の目の前には気持ち悪い魚顔が。どうやらまだ生きてるらしい。だけど髪を強引に引っ張られた格好で何か言われてる? だけど言葉は届かない。さっきのダメージで聴覚が麻痺してる。
そして目の前でその口周りに集まってく水の塊。止めを刺す気だ。直ぐに分かった。どうにかしたいけど……ダメ……体が言うこと聞かない。
私はスオウみたいにここぞって時のバカ力があるタイプじゃないのよ。スオウ……本当に何やってるのあのバ――その時、私と聖獣の間に割り込む影が。それは聖獣を吹き飛ばして私を助けてくれる。
「けほっこほっ、スオ――」
「ごめんよセラ君。ご期待に添えなくて」
私は思わずアイツの名前を呼ぼうとしてた。だけどそこに居るのは比較的ちっちゃな姿のテッケンさん。間違えてごめんなさいとか言えない位に恥ずかしい。そして上から照らされる光。あれは……飛空挺? そこから更に沢山の僧兵達が降りてくる。
しかも何故か服の色が違うし……これはリア・レーゼだけじゃない。一体どういうこと? 訳が分からないけどなんとなく、またあのバカが無茶な事やり出したって事は察しがついた。
第三百六十三話です。
今回は久々登場セラです。どうしてもスオウと一緒に行動しないと出番が無くなるから、丁度良かったですね。リア・レーゼの現状も知れたしで上々です。まあほんとはもっとノウイを絡ませる予定だったんですけど、ちょっと足りなかったです。
一回でこれは終わらせたかったし、だから最後でテッケンさん登場! で次に引きたかったんです。
そしてテッケンさんがこちらに来たという事は……次回はスオウ側の話です。
てな訳で次回は日曜日に上げます。ではでは。