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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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泡の様な私

 私は信じてる? 信じてない? 帰りたいの? 帰りたくないの? 

 自分でも分からないハテナが一杯で良く分からなくなる。だけどきっと本当は助けられたくなんて……けれど二人は裏切りたくない。私に今、一番近くに居てくれる二人。

 そんな二人を思ってベランダで浸っていると眼下には集められた軍が見えた。そしてその陰ではアギトとアギトに関係ある人物が居た。それを見てたら遊び心が沸いてきて、恥ずかしい事をしてる所をサクヤに見られてしまった。

 だけど今度はサクヤも加わって対決に……そんな訳の分からない事の後に私は一つの事を決める。けれどその時、私の頭に突如、全てを否定する様な声が響いた。

「私は本当に助けられたいの?」


 幾らサクヤやスオウに言われて心を決めたフリをしても、一人で居るとどうしても心の奥ではそんな事を言う自分が居る。

 やっぱり私は怖いんだ。あそこに戻るのが怖い。

 でも……サクヤを……スオウを裏切りたくない気持ちもやっぱりあるし、信じたい。ううん、二人の言葉なら信じれる。

 そう思って私は決めた。二人は本気で私の事を思ってくれてる。

 サクヤはいつまで経っても……あんなに酷い事をしたのに、私を思ってくれていた。

 いつの間にか眠っていた三年間でも、サクヤは私をずっと待って居てくれた。そして今度もまた、あの頃と変わらず接してくれる。家族で居てくれる。


 スオウは私に居場所をくれる。私が辛いとき……望んだとき……願ったとき……いつだって一番傍に居てくれた。駆けて来てくれた。向こうでもそれは変わらないと言ってくれた。

 私は知らないけど、向こうでも何回もお見舞いに私に会いに行ってるっ言っていた。それは凄く嬉しいことで……同時に凄く恥ずかしい事だった。

 だって私は向こうの自分を三年も知らない。スオウが言うには変わらないらしいけどもっとほら、女の子の部分が心配だよ。

 ムダ毛の処理とかちゃんとされてないでスオウに見られてたら私死んじゃう。ちゃんと毎日、髪はブラッシングされてる? 私の髪は直ぐに横に広がっちゃうの。

 ここじゃあ忘れちゃうけど、昔は良くそんな髪をお兄ちゃんに櫛で解かして貰ってた。お兄ちゃんは今でも私の髪を解いてくれているのだろうか?

 お仕事が忙しいのは知ってる。だけどせめてスオウが来るとき位はお願いしたい。ここじゃあそんな方法も私には無いけど。

 今度スオウにお願いしておこうかな? ――ってそれじゃあ意味ないよ! どう言うつもりよ私。


「私、向こうでスオウに会う時の身だしなみが気になるからお兄ちゃんにちゃんとしててって言っておいて」


 とでも言う気? ダメだよそんなの! そんなこと言ったら……私の気持ち……(ブンブン)←首を振る音。 とととと取り合えず、スオウは私に向こうに行く勇気をくれる。彼が居るなら大丈夫……怖くない訳ないけど、それでも何度も見たスオウの背中が私に怖さに負けない勇気をくれる。

 いつだって私を守ってくれたあの背中……思い出すだけで、胸がキュンってなる。暖かい物が胸を押し上げて全身に春の木漏れ日の様な暖かさを届けてくれる。

 今なら分かるよ。どうして春がウララなのか。この感情がウララを表してるんだよ。春=恋い=ウララの法則が成り立つよね。

 ベットの上で過ぎて行く季節を眺めるだけじゃ分からなかったこと。私は初めてこの感情のおかげで春を春として認知出来た気がする。

 そして今もスオウは戦っている筈だ。今回は私の為かは微妙だけど、やっぱりああいう彼は素敵だと思う。


「ついて行きたかったなぁ……」


 私はアルテミナス城で貸し与えられた部屋のベランダ部分でため息を付く。今回は危険だと私はお留守番。確かに今の私は戦えない。あの場所……スオウが言うには私の精神世界って場所で私はスオウと二人戦った。

 あの力がここでも使えたら良かったのに……どうしてお兄ちゃんは私をプリンセスに設定したのかな。私は冒険者でありたい。自身の足で世界中を旅する事が出来る冒険者。

 仲間と共に幾多の困難と障害を乗り越えて、苦労を分かち合いたい。笑顔でハイッタッチなんてのもしてみたい。

 やっぱり戦えないとどこか蚊帳の外な感じを否め無い。今もこうやって外だしね。私は輪の中ってのに憧れてるんだ。それは一人では絶対に感じ得ない事。

 でもいつか……それはきっと実現できる。そう今は思う事にしてる。向こうに戻って、そしてもう一度ちゃんとしたルートでここLROに入るの。

 待ってくれてるのは今のスオウの仲間達。そしてもう一度冒険し直すの。今度は私もちゃんと仲間の数に数えて貰って。お兄ちゃんが作ってくれた私の夢の世界を自分の足で歩んでみせる。

 するときっと楽しいよ。今の百倍、ううん千倍は楽しくなると思う。隣にはスオウがいて、サクヤがいて、アギトとかも加えちゃってあげよう。

 楽しい想像がどんどん膨らんでいく。これは全部、スオウが見せてくれる夢。彼と出会って……見て感じて……集った仲間……その経験? 出会いと言うのが私にこんな夢を見せてくれるんだよ。


「うん、よし。大丈夫……私は信じてみせる!」


 思い浮かべた想像を一つ一つ大切に包む様に私は胸の中に納める。いつか叶ったら一つずつ出して丸をつけてあげるんだ。


 私はクスクス微笑みながら下を見る。街にはこの国の軍と呼ばれる集団が揃いつつあった。なんだか笑いも引っ込んで緊張感が襲ってくる。

 厳か……じゃないか。厳格な雰囲気を軍は醸し出している。統制が取れた動き。一指乱れぬ列の並びは壮観だ。


「あれ? あれってアギトかな?」


 すると城の広場の物陰辺りに二人の人影を見つけた。上手く隠れたつもりかも知れないけどここからなら丸見えだよ。

 物陰にいるのはアギトとこの国のお姫様……確かアイリって言ったかな。何か言い合いをしてるみたいだけど何て言ってるかな?


「何よ! アギトのバカ! ヘタレ! 根性なし! 少しはスオウを見習いなさいよね!」

「はっ、言っとくけどなぁ。バカって言う奴がバカなんだ。この理屈を当てはめるとヘタレも根性なしもお前だバカ!」

「ああ~バカって三回も言ったよアギト。酷いよアギト!三回繋げて大バカって事だね……私の事大バカ者って思ってるんだ。許してあげないからね。もう絶好よ。絶好絶好絶好だからね!!」

「ああ、せいせいするよ。絶好でも何でも好きにしろ。どうせ後から俺の魅力に戻ってくるんだからお前って簡単な女なんだよ」

「そんな事無いもん! 絶好は縁切るってことだから、アギトの事なんか忘れちゃう。そしたらアギトなんかより格好いいスオウの所に行くわ。優しくて強くて暖かくて大きくて私を包んでくれる王子様みたいな――――」

「誰に対してアテレコやってるんですかセツリ?」

「きゃっ」


 唐突に聞こえた声に思わず短い悲鳴を上げてしまった。振り返るとベランダに出てくる巫女服姿の女性、サクヤの姿があった。

 ヤバい、聞かれちゃった? ――って別にサクヤになら聞かれても困らないか。だって家族で姉妹だしね。でも一応フォローは入れておきたい。

 サクヤは私の全てを受け入れてくれるだろうけど、そこはね……プライドやら羞恥心の問題だよ。


「あのねサクヤ、今のはね」

「なるほど、あの二人の会話にアテレコしてた訳ですか」


 サクヤは私の隣に来て同じように城下を見つめて二人を見つけた様だ。視線の先にはやっぱり何か話してるアギトとアイリの姿がある。あっ・・アイリが泣いて走って行ったように見える。

 その後ろ姿に手を伸ばして何かを言おうとしてるアギト。


「スオウって実はウ○コなんだぜーーー」

「あああぁ……何するのよサクヤ! 折角私が繋げてきたアテレコが台無しじゃない! それに絶対あってないよ。いくら何でもあの場面でそんなの叫ばない。

 私の努力を壊すだけじゃない!」


 なんて棒読みで下品な事を叫ぶのよ。心がこもってないにも程があった。いや、あれに心を込めて叫ばれても困るんだけど……そんな子じゃ無かったのに一体この三年で何があったの? 

 ウ○コなんて……ウ○コなんて……


「勿論、セツリのアテレコを壊すのが目的です。セツリはちょっと彼に幻想入りすぎですよ」

「そんなこと無い! やっぱりサクヤ、意地悪になったよ!」


 昔は私の言うことを笑顔で聞いて頷いてくれてたのに。あまつさえスオウの事悪く言うなんて、幾らサクヤでも許さないよ。


「そうですか? すみませんセツリ。気分直しに二人で彼らにアテレコしませんか?」

「う……下品な事叫ばない?」

「叫びません」


 異様にニコニコ晴れやかな笑顔が何やら怖いけど、ここは乗っておいていいかな。そろそろ私の思いの強さをサクヤに知って貰って協力を仰ごうと思ってた。

 スオウの事になると直ぐにサクヤは機嫌を悪くするからね。

 だけどそう言えば、さっきアイリはあの場を離れたから二人でアテレコなんて無理なんじゃ……人数足りないよ。


「大丈夫ですよ。ほら、新たな贄が既にいます」

「あ、本当だ」


 下を見ると同じ場所に今度はアギトともう一人、ガイエンとか言う感じ悪いエルフの姿があった。二人の雰囲気は遠くからでもはっきり分かる位の敬遠色だ。

 少なくともガイエンはアギトを元の鞘に戻したいのかと思ってたけどそうでもないのかな?


「ではどうぞ。どちらでもいいですから」


 余裕の笑みを浮かべたサクヤ。何なのその余裕? このゲームは主導権を先行が絶対的に握りやすいというのに。あ、怪しい……だけどここで引くわけには行かない。


「良いよ。その笑みがどこまで持つか見てあげる。三年前とは違うからね」

「それはこちらとて同じです。ボキャブラリーが最新版広辞苑ほか諸々にアップロードされた私は文字通り最新版サクヤですよ。返り討ちにして更に打ち返してあげます」


 む……時々ボーとしてると思ったらそんな事やってたのかサクヤめ。私たちはにらみ合い、そして火蓋は切られた。

 こちらのターン。背を向けたアギトが見える。私はアギトで行こう。


「俺はアイツを追わなきゃいけないんだ! お前の相手なんてやってられるか! 俺はアイツの事……」

「まあ待てよアギト。久々に会ったんだから、コレでもやらないか?」


 眼下のガイエンは確かに腕を動かしたけど何コレって?もしかしてサクヤは私を誘ってるのかも知れない。ここは慎重に……アギトは振り返り腕を横に払っている。


「ふざけるな! アイツは今だってきっと俺を待ってるんだ! だから今度こそ……この気持ちのままに……」

「俺だってお前を待っていたさ」


 んん? 何その危険な発言。そこだけ切り取らないでよ。でも何故かガイエンの動きとシンクロしてる……怖い。

 今のアギトの様子は……動揺してるみたい。こっちもシンクロしてる。ペースにはまっちゃったか。ウムム――


「な、何が待っていただ。お前が……俺たちを……」

「そうしなければ、いけなかった。いいや耐えられなかったんだ!」


 あれれ、サクヤは一体どこのボキャブラリーを身につけたのかな? やめてよガイエン。アギトに一歩近づかないで! 私と同じようにたじろぐアギトの姿が見える。


「来るな! 変な事言うなよな。おかし…………ぞ、お前……」

「変? おかしい? それがなんだ。その程度の常識に俺のこの気持ちは負けたりしない!」


 言っちゃったよ! って……え? 何? その手がそんな所に延びちゃあダメ……だよ。それは禁断!! 横取りなんてダメ~~~!


「大丈夫ですかセツリ? 戻ってきなさい」

「あれ? ……サクヤ?」


 いつの間にか自分の中で想像が膨らんでいたらしい。ガイエンとアギトが……あんな事に……って、それはサクヤの変なアテレコのせいだよ。

 下品な言葉より質が悪い。


「ごめんね。セツリが余りにも可愛い反応をするから、からかっちゃいました」

「むぅ~」


 サクヤに一本取られた。昔は私がいつも取ってた物なのに。てか、延びてきた手はサクヤので対象は私じゃん。余りにもリアルに想像できてると思った。

 眼下の二人はそんな展開に勿論発展してる事無くて、近づき様に武器を絡めて権勢しあってるみたい。ふう、ある意味安心だよ。

 ベランダを吹き抜ける夜の風に火照った体を冷やして貰う。何やってるんだろ私達。暢気なものだよね。

 クスクスと笑っていたサクヤが不意に笑みを私に向けて来る。


「所で、セツリはどういう風に持っていく気だったんですか? まあ大体想像は付きますけど。アイツとはどっちを指してたんでしょう?」

「それは……」


 うう、今更分かりきった事を……お姉ちゃんモードに入ったサクヤは本当に意地悪だよ。だけど夜風に長い黒髪を揺らして遠くを……具体的には会議の後にスオウ達が目指した場所の方を見ながら優しく言葉を紡いだ。


「ちゃんと言ってくれれば、不本意ですけど……私も応援します。それなりに私もスオウの事は認めてますから」

「サクヤ……」


 サクヤの頬はちょっと赤い。言いたく無かった事なんだろうか。だけど私は嬉しいよ。やっぱり私達は家族だね。サクヤはやっぱり私の事分かってくれてる。


「ありがとう!」

「わっ……ちょっ……セセセツリ」


 私はサクヤに抱きついた。サラサラの黒髪、暖かな体温、ほのかに香る優しい香り……大好きな私のサクヤ。私の初めての友達。実はサクヤがここだけの存在って実感が私にはない。

 だってそうでしょ? サクヤはここにいるもん。私の前にちゃんとこうして存在してる。確かに向こうで会うことは出来ないけど、私にとって二番目に近くに居た。心に居てくれた。


「本当に甘えん坊ですね」

「うん……ずっと甘えられたらいいのにね」


 サクヤが私の頭に顔を埋めるのが分かる。こんな時間がいつまでも続けばいいのにと思う。でもそれは頑張ってくれているみんなには絶対に言っちゃダメなんだよね。

 私は望まないと行けない。帰ることを。きっと今度は、こんな時間を望む時間を向こうでも過ごせると思って。

 きっと過ごせるよ。もう私も甘えるだけの女の子は卒業しなきゃいけない。

 だから私は頑張ってみんなを信じぬくよ。甘えてばかりは程々にして頑張る。ブレない、揺れない、心がほしいから。だって心は向こうでも変わりはしない物。

 ここから持ち帰れる唯一の物じゃないのかな? だからここで育てた心であの体を強くしたい。もしかしたらこれも一つの夢に出来るかも知れない。

 ううん、してみせる。そしたらきっと、今より素直に向こうに帰りたいと思えるよ。


「そろそろ中に戻りましょう。なんだか冷えてきました」

「そうだね」


 確かに夜風は次第に冷たくなっていく感じがした。だけどそれは普通の事? 日光が無いんだし……夜は冷えるのが当然だと私は気にしない。

 二人で中に戻る直前、私は振り返りサクヤが見つめた彼方を望んだ。その向こうにはスオウ達が居るはずだ。彼は大丈夫だろうか? 

 シルフィングは元に戻せたかな? いつも通り無茶してなければ良いけど。私は満点の星空に祈りを捧げる。


『どうかスオウが無事に帰ってくれますように』


 私に出来ることはこれだけだ。ここエルフの国には『星の宅配人』という話がある。願いを届けてくれる宅配人。星にまたがり叶えるではなく届けるんだ。

 流れ星はそんな宅配人の交通手段。願いを当人に届けてくれる宅配人。どうか私の願いも届けてください。すると一筋の光が夜空に流れた。

 貸し与えられた部屋に置いてあった一つの絵本の他愛もないお話。だけどその願いを聞いた人々はきっともう一度頑張れると思うんだ。

 だから無茶してたら私の願いを聞いて絶対に戻ってきてほしい。どんなことがあっても絶対に。届くはずもない声だろう……けれど私達ならなんて思ってやってみた。届け、届け、と今度は祈ろうかな。


「セツリ?」


 その時聞こえたのはサクヤの不思議がる声。私はおかしくなってそれを結局やめた。彼ならそんなことしなくても帰って来るもん。ちゃんとまた私の元に……約束してくれたから。

 不安が襲うのは私がやっぱり信じきれてないから。さっき信じることを頑張ると誓ったばかりなのにね。


「何でもないよサクヤ。ねぇ、サクヤはスオウの事信じてる?」

「何ですかいきなり?」


 サクヤは部屋とベランダの間で私の言葉に首を傾ける。確かに私は何を確認したいのかな。何に確信を持ちたいのか……ダメだな私は。


「ううん。やっぱりいいや」


 私は首を振ってさっきの言葉を無かったことにした。だってこれは私がやり通さなくちゃ行けないことだ。誰かの言葉に左右される様じゃまだまだだからね。

 私はサクヤの横を通って部屋に入ろうとする。するとポツリと聞こえた言葉に頬がほころぶ。


「信じれますよ。彼なら」


 嬉しかった。ただ単純に嬉しい。この気持ちをどうにかして保管しておきたいくらい。自分の選んだ選択は間違ってなんかいない。



 そう思えて、そう確信できた。私は上機嫌に、だけどそれを悟られないように部屋の暖かさに浸る。きっと喜んでるのがサクヤにはバレバレだろうけど、私の興を削がないようにサクヤは後ろで黙って私を見つめるだけなの。

 しかしその時、おかしな言葉が頭に響いた。それは本当におかしな言葉。


【信じるの? 信じていいのかしら……本当に? あなたは二人の嘘に踊らされてるだけなのに……】


 私は思わず後ろを振り返ってサクヤを見た。だけどそこには優しい顔を称えたサクヤの姿があるだけ。それに今の声はサクヤの声じゃ無かった。

 私は部屋の中をぐるりと見回す。けれど私達二人以外の姿なんてない。


(何、今の? 私の中の声でもないよ……誰か居る? 見えないけど……誰か居るの?)

【あなたの曇った目じゃ私は見えない。真実を見ることも出来ず、安い嘘に騙されて……あげくにはそれが希望ですって。笑っちゃうわ】


 頭の中に深いな笑い声が響く。後ろから不振がるサクヤが近づいて来て私の名前を連呼する。ダメ……やめて……頭の中で二つが混ざりあってグチャグチャになるよ。

 サクヤにはこの声が聞こえないの?


(何なのよ……嘘って……)


 私はその場に耳を塞いでしゃがみ込む。これ以上聞きたくない。折角、強くなろうとした心が乱される。だけど頭に響く声は耳を塞いだところで消えることはない。


【あなたが信じる物は向こうには無いと言う事よ。それが二人の嘘。あなたは騙されてるの】

(そんなことない! それこそ嘘に決まってる!)


 スオウが……サクヤが……私に嘘を付くはずない。これもきっと私の弱い心が原因なんだ。強く、強く心を保とう。


【私はあなたの中の幻なんかじゃない。ふふ……信じられない? 信じたくない? だけど私が言った事が本当だといずれあなたは最も残酷な形で知ることになる】

(やめてよ! 何よ、何なのよそれ。私が信じてるのはあんたなんかじゃない! あんたの言うことなんか絶対に信じないぃぃぃ!)


 惑わされちゃ行けない。これはきっと敵の仕業だ。どうやってか知らないけど私の頭に直接声を届けて、私を陥れる気なんだ。

 幾ら耳を塞いでも無理なら……元を絶たなくちゃ。これ以上、聞きたくない。ねっとりと頬を舌で転がす様なこんな声……胸を突き刺す様な言葉の刃……全てが不快だ。


「サクヤ! お願い……敵がいるよ。私の頭に声がするの。見つけて……サクヤなら出来るよね?」

「!! ……分かりました」


 サクヤは私の言葉を信じてくれた。そもそも私を疑う子じゃない。信頼をそれ以上の信頼で返してくれる。そんな子だ。

 だからこんな言葉は嘘に決まってる。見つけてシバいてやるんだから。サクヤにはそれが出来る。システムを覗けるサクヤなら、ここのセキュリティの穴を付いてる奴を見つけれる。


「捕まえました!」


 その言葉と同時に私達は走り出す。大丈夫。この不安は自分自身で取り除く!

 

 第三十五話です。

 遅くなりましたごめんなさい。取りあえず時間がないから今日はこれだけで、また明日です。

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