逃げ晒し
旗艦である飛空挺内で逃げ回る僕。なんとか最初のピンチを乗り越えた僕の前には香ばしい香りが立ちはだかる。それは体力のない僕にはまさに天敵。だって無視出来る筈もない。
上手くいけば体力回復に体の状態も元に戻せるかもしれないしね。てな訳で、僕は厨房にそのままになってた、めでたい料理に手を付けます。
バカな恋人同士のおかげでなんとか危ない場面を切り抜けられた僕は、通路を進み新たな部屋に入ってた。通路の先の比較的に大きな扉、そこを慎重に開けて進入したんだ。
入ってみるとかなり広い空間でびっくり。なんなんだろうここは……戦闘用の船とは思えない場所だ。右側は光が射し込む用にガラス張りされて風景が一望出来るようになってるし、周りはソファがいっぱい。談話室か何か? それにしては豪華と言うか……この広さは観光船で使うべきだろって程だ。
「あっ……」
中央にまで行くと、左側奥に厨房みたいなのが見えた。もしかしてここが食堂なのか? 何という豪華さ。でも、それならこの広さも納得かもしれないな。
「う~ん、それにしても食欲を誘う臭いが……」
体力が減ってるからなのか、妙に僕の意識を引きつけるな。てか、絶対に調理途中で投げ出したんだろうって感じが見て取れる。覗き込むと、誰もいないのにグツグツ煮立ってる鍋はあるし、さばきかけの魚もまな板の上で無惨な姿をさらしてる。
この船の全員で僕を捜す召集はコックの人たちも例外じゃなかったんだ。
ゴクリ……思わず喉を鳴らして唾を飲み込む。僕は左右を確認。そして一応、入った側とは反対の扉を確認。通路の先に人影なし。足音も――――――――なし!
「よし」
僕は静かに扉を閉めて、キッチンの中へ。さあて、まずは何に手をつけようか? 実際こんな事、町中でやったら泥棒騒ぎになるし、捕まったら悪い噂が流れたりもするけど、ここなら何の問題もないだろ。
今はどうにかして体力を回復させないといけない。幸い料理はHP回復に、補助効果までつくし、これは一石二鳥だろう。
上手く行けばこの手の状態だって治せるかも知れない。僕は取りあえず、煮込んであった鍋に手を伸ばす。暖かい物をお腹に入れたかったんだ。
鍋の蓋を取ると、香ばしい香りが鼻孔を擽る。
「おお、なんだか和食っぽいぞ」
そう言えばノーヴィスは和よりの国だもんな。リア・レーゼでの食事も懐石料理だったし、これも当たり前か。独特の香りとスープに浮かぶ黄金色した油。頭ごと入った魚の粗。
これは鯛の粗汁だな。おいしいよねこれ。てな訳で、早速お玉を使って中身を拝借。このキッチンもモブリサイズだから少し腰を屈めて中身を掬う。
そして火傷に注意しながら、唇に触れた汁を口の中に流し込む。豊潤な鯛の香りが口いっぱいに広がる。そして濃厚なのにこのさっぱりとした喉越し……うん、何杯でもいけるよ!!
「うまうま!!」
思わず夢中ですすってしまう。だけど激しく動かしすぎたのか、途中でお玉がポロリと落ちた。うぬぬ……煩わしい手だ。
それにしても何の効果も発揮されないな。何故だろう? やっぱりこういうやり方での食事では適応外なのか? ちゃんと金を払って食うか、自作するか……それか許可を得て貰い受ける。そのいずれかじゃないと、補助効果は付加しないのかも。
食事に関しては良くわかないからな……腹が膨れるだけじゃ、気分しか持ち直さないよ。
「もしかして組み合わせで補助効果は発揮されるんだっけ?」
僕はボソボソ呟いて、周りを見回す。もっと他にあるはずだ。すると三つ位並んだ大きな釜を発見! これはまさか……そう思い、モブリには重そうな蓋を開ける……開ける……あけ――
「あっちっっちちっち!!」
ガチャンガシャン――ガババンと、床に落ちる蓋。熱かったのもそうだけど、今の僕の手にも厳しい重さでした。いやはや、失敗失敗。
まあだけど蓋は取りあえず放置で。この手じゃ拾いなおせないよ。それよりもどうにかして回復したいんだ。
「中身は一体なにかな~?」
重要な中身に興味津々な僕。のぞき込むとそこには、横たわったまま僕を見据えるモンスターの姿が!!
「――って、また鯛かよ」
そう言えばまな板の上で捌かれたままの魚も鯛だし、どうやら今日は鯛付くしらしい。ようは祝い事か。サン・ジェルク側は気も早く、既に勝利の宴の準備をしてるということらしい。
「もう勝利は決まってる気で居るのか……」
僕は近くのシャモジを手に取り、無造作に鯛とご飯を解してく。はっは、残念だったな。宴に一番乗りしたのは僕だと証を立てておいてやろうじゃないか。
「おら、解れろ。もっと、満遍なくだ」
うん、いい感じになってきたな。茶碗に移すのも面倒だから僕はシャモジのまま、鯛飯を食べ始める。うほっ、流石土鍋、シャリが立ってるとはこのことを言うんだな。それに鯛の香ばしいうま味がご飯全体に満遍なく染み渡っててこれは――――僕は急いでお椀に鯛汁を装って一口すする。
「最高だ!」
まあつまりはこういうことだな。だけどこれでもまだ変化なしかよ。こんなに旨いのに……野草食っても適用されるんじゃなかったのか?
それはフィールドに自然に成ってるから……なのかな? 流石にこうやって調理品を調理者の許可無くは窃盗と同じ。そんな物に補助効果なんて認められないのか。
「いや、待てよ。それなら……」
僕は鯛飯をムシャムシャ食べながら一つの案を導き出す。ここは厨房……材料はまだまだあるはずだ。もしかして回復薬とか常備されててもおかしくなくないか。
それか回復薬に使う、薬草! それは確かハーブの一種だったはずだ。添えるためにあってもおかしくない。直接食べれば文句はないだろう。
料理としての補助効果は期待できないけど、この際だからしょうがない。
僕は食べるのをやめて、薬草を探し回る事に。元々戦闘するための船なら、どっかに大量に保管しててもおかしくはない……と思うんだけどな。
そう思ってると、ドタバタとした音が聞こえてきた。
(ヤバい!)
僕は慌ててキッチンに身を隠す。ガチャ……ガチャ……とドアを開く音と足音が響いて、そして直ぐに静かになる。あんまり注意深く見てないな。
これならいけるかも知れない。
「まあ、その為にも早く薬草か回復薬を手に入れねば」
そう思ってたどり着いたのは、冷蔵庫? っぽい箱。だけどこの世界に冷蔵庫なんて文明の利器があるなんて……いや、飛空挺とかリアルより進んでるか? でもアルテミナスとかじゃ冷蔵庫みなかった様な……そもそも向こうじゃそんな場所に行かなかったか。
まあ、冷蔵庫は食品の保存には欠かせないし、ある程度の文明ならあってもおかしくはないよね。取りあえず開けてみよう。冷蔵庫なら、材料が沢山保存されててしかるべきだ。
両開きの扉をドキドキしながら開いてみる。するとヒンヤリとした空気が顔に触れた。これだよこれ。このヒンヤリ感こそ冷蔵――――――――――――――――――――――――庫? 僕は一度閉めなおしてもう一度開けてみる。
「変わらないな」
そして目をゴシゴシこすって確認してみてもやっぱり変化無い。当然だけど。
「なんだこれ?」
僕は恐る恐る冷蔵庫の中へと進入を試みる。既にここからおかしいけど、ようは冷蔵庫の中に侵入出来うるだけのスペースがあるのだ。身を震わせる寒さ。広さは一部屋分位はあるな。七・八畳位の薄暗い空間に棚があって、そこにいろんな食材が並べられてる。天井までびっしりと。
これは流石にモブリは届かないだろう。だって僕だって無理だ。どうやって取ってるんだ? そもそもこのおかしな空間は何だよ? 僕は一度出て、この箱の奥行きを厨房から確認する。うん、普通だな。全然全く、外見と中身が一致してない。
「これも……魔法って事か」
僕は魔法の凄さを改めて実感したよ。内部の空間をねじ曲げたりしてるのかな? どういう原理かは全く持ってわかんないけど、取りあえず凄いよな。
もう一度冷蔵庫内へ戻り、薬草とかを探してみよう。これだけ広いんだ。どこかに保存されてるだろう……きっと。
そんな願いを込めて僕は辺りを見回す。棚を一つ一つゴソゴソと漁り、なんとか薬草が詰まった箱を発見。試しに一摘みしてみたけど、苦いだけでした。
薬草もダメなのか……こんなの回復目的じゃなかったらまず食えないよ。何かの制限がやっぱりかかってるぽい。でも……ちょっと疑問があるな。
盗んだもの……まあこの場合はNPCからはダメって事なんだろうけど、プレイヤーだったらいいんだよね? PKなんてまさにその最たる物だよ。泥棒というか強奪だよ。それが出来るのに、NPC側から盗ることは出来ないのか?
なんかおかしいような……やり方でもあるのか?
「ふむ……んっ!」
僕の直感にピキ~~ンと反応する感覚。ガチャっと扉が開いて再び現れる僧兵達。だけど今度はなんだか上からガチャって聞こえたような?
そう思ってると、上の方から階段を使って降りてくる僧兵達が見えた。
(そっか、上もあったのか……)
気づかなかった。ようはあの階段を使ってあがれば、一階分上に行けるって訳だな。てか、これだけ広いんだし、ここがいろんな場所に繋がっててもおかしくないよな。左右にある緩やかにカーブした階段。
そこから降りてきた僧兵は何かを喋ってる。
「マーキングは後何カ所だ?」
「大体終わってる筈です。今は上手く隠れてる様ですけど、この魔法が発動すれば直ぐに見つかります。ここにも既にしてありますしね」
「そうだな、残りのポイントに急ぐぞ」
「「「了解」」」
そんな会話をしてそそくさと別の扉から出ていく僧兵達。さっきからろくに調べもしないから、サボってると思ってたんだけど、どうやらそうじゃないらしい。マーキングなる事をして、それで僕を見つける……そんな計画だと言うこと。
一体どんな魔法なんだ? 一気にこの船全体をスキャンしたりするのかな? だからこそ特定のポイントにマーキング(印)を付けてる?
まあ今は何ともいえないな。だけどどうやら確実に追いつめられてるっぽい。こんな所で食事に明け暮れてる場合じゃないな。
僕は取りあえず冷蔵庫にある薬草を自分のアイテム欄に詰め込む事に。空っぽだから詰め込めるだけ詰め込んでやる!! 一応持ってると安心くらいは出来るかもしれない。
アイテム欄にしまっておけば荷物にも成らないしな。
「よし!」
僕は薬草を詰め終わると、厨房から出る。するとこの部屋の中心部分に魔法陣があった。これがマーキング? 僕がのぞき込んでると、内側から外側へ光が広がってく。
「なんだ? 発動してる……のか?」
なんだかヤバい感じがする。僕は階段を駆け上がるよ。上には扉は一つしかない。今までは外側を回ってきたから、カーブしてたけど、ここからはきっと船の中央部分を歩く事に成りそうだな……つまりは敵の内側に攻め入る様なものか。
僕はドキドキしながらドアを僅かに開く。
「大丈夫みたいだな」
てか、さっきの奴らが通ったばかりだし僧兵が居ることは無いか。僧兵の数は多いけど、その分この船はデカいもんね。
僕は慎重に真っ直ぐに伸びる通路を歩く。外の光は入らず、ここは等感覚におかれたランプの光が暖かく照らしてる。部屋も幾つもあるし、いきなり開かないかドキドキだよ。
「うん?」
僕は何かを感じて後ろを向く。だけどそこには誰もいない。居るとしたらモブリだから下を重点的にみてもやっぱり誰もいない。でも何か視線を感じた様な?
もしかしてスキルで透明になってるとか? いやいや、そんな事するよりもさっさと、周りに知らせた方がいいよな。向こうが不利に成ることないし、隠れる必要性がない。
「気のせいだな」
そういう結論に達した僕は再び歩みを進める。だけど……どうしてだろう? やっぱり視線を感じる。こうなったらいきなり振り向いて見るか。
チラチラやってるから警戒されるんだ。何かが居るのなら居るで、早く発見した方がいい。そうしないと取り返しがつかなくなるからな。
僕は覚悟を決めて素早く振り返る。するとそこには大きな目玉が浮いてました。
「うあっ――――つ!?」
危ない危ない。危うく大声で叫ぶ所だった。僕は自身の口を自分の手で抑えた。だけどなんだあれ? 大きな目玉から羽とほっそい根みたいなのが垂れ下がってる不気味な生物……気持ち悪。
取りあえず、いいこと無さそうだし倒した方がいいよな? 今の僕でもこの程度の奴なら、雷撃をまとわせた拳で倒せるだろう。
僕は速やかにこの不気味な生物を排除する為に動き出す。だけど……
「あれ? ぬあ!?」
案外すばしっこいな。フワフワ揺れてるのも狙いが定まらない様に狙ってるのか?
「こんの野郎!!」
僕はフェイントを使って奴の動きを固定させた所でズバって一突きしてやった。ふう、ちょっとだけマジに成っちゃったぜ。
なんだったのか結局わかんなかったけど、取りあえず先を急ごう。そう思って僕は振り返る。すると――――
「え?」
――――何故か目の前にはさっき倒した筈の目玉が居る。あれ? あれれ? 頭が混乱する。どうなってるんだ。確かにちゃんと倒した筈……僕はまた後ろを向く。するとそこにはまたまた目玉が浮いてた。しかも今度はニ体だ。
「えええええええええええええええ!?」
分裂でもしてるのか? それならあり得る。
「くっそ!」
取りあえず僕は増えてる目玉に襲いかかる。だけど基本逃げる事を最優先する目玉はなかなか倒せない。しかもその間にもなんだか増えていってるような……くっそ、こんなのの相手してられない。
僕は相手をするのをやめて走り出す。だけどその時、何もない筈の通路で、何かに引っかかった。そしてそのまま床に倒れる羽目に。
「いっつつつ……なんだ一体?」
僕がそういいつつ後ろを見ると、そこには床から半分くらい顔をだす目玉の姿があった。どうやらこいつに引っかかったらしい。
潰れてなくてよかった……目玉が潰れてる映像なんか見たくない。絶対にグロテスクだもん。だけどそれよりも……僕は今大変な瞬間を目撃してると思う。
「こいつら、壁を通り抜けれるのか……」
まさにそんな場面。僕が引っかかった目玉も、床を通り抜けてた最中だったんだ。そんなスキルを利用して上からも横からも次々と目玉がこの通路に集まってくる。
やばいぞこれ……逃げれそうに無い。そう思ってると、なんだかバタバタした音が沢山聞こえてきた。
「まさか、僧兵!?」
僕は慌てて起きあがり、周りの目玉を押し退けて通路を進む。たどり着いた場所は十字路で、上と下に続く階段があった。
ヤバいヤバい……目玉が僕を逃すまいと追ってきてる。取りあえず上へ! そう思ってると「居たぞ!!」ってな声がこの通路に響いた。ヤバい、ついに見つかった。僕は螺旋状に成ってる階段を駆け上がり扉を強引に開いて、閉める。
今まで慎重にしてたけど、もうそんな事言ってられない。一刻も早く武器庫にいかないと。
「はぁはぁ。取りあえずこれであの目玉も……」
そう呟いてドアから手を離そうとしたとき、一斉にニョキッと目玉が扉を通って顔を出す。そうだった、こいつらに物理的な障害物なんか意味をなさいないんだっけ。扉から大量の目玉が顔を出してギョロギョロ動く様は不気味すぎる。
しかも直ぐに僕に照準あわせるんだから思わず逃げ出すよ。だけど全然逃げきれる気がしない。マジでなんなんだよアレ!? まさかアレがマーキングって奴? てか、それしか考えられないよな。
確かにあんなの放たれたら逃げられない。こっちは通路に従うしかないのに、向こうはどこだってすり抜けられるんだからな。なんてズルいんだ。
二階上に来て、そろそろ下から見た場所があってもおかしくない階層の筈。だけど出た場所はさっきとあまり変わってない感じ。だけどここからじゃ上には行けない様だ。
この上は甲板なのか? それともこの上が僕のみた場所なのかな? わからない。とりあえず、右の通路を進む事に。だって側面から大砲を出すスペースがあったから、こっちに進めば当たりを引けるかもしれないじゃないか。その願いがあった。
だけど直ぐに前から僧兵が!!
「ちっ」
僕は目玉共をかき分けて通路を戻る。すると今度は階段からさっきの僧兵が数を増して上ってきてるじゃないか!
どうやら下にいた何組かが合流したらしい。僕はしょうがないから適当に今度は左側の通路に行くよ。こっちは船首のほうか?
少し進むと、今度は前と左右に扉が! 一体どれが正しいんだ? てか、これってどれも行き止まりに続いてそうな……後ろを見ると僧兵と目玉の軍団が迫ってる。引き返す事は既にできない。
どれも普通の部屋の扉よりもなんだか豪華でデカい。どうせなら下の階の食堂みたいな感じの場所なら、どうにか成るかも知れない。
それを願うなら……
「真ん中だ!!」
僕はそう信じて真ん中の扉を開ける。するとその瞬間、赤い火の玉が僕の体に直撃した。
「ぐあああああああああああああああ!?」
皮膚が……体が熱い!! 僕はよろめいて、通路に戻り倒れる。炎が収まっていくと、部屋の中に何人ものモブリの姿が見えた。どうやら待ち伏せされてたらしい……でも、なんで?
「訳が分からない。そんな顔をしてるな。まあ折角だから教えてやろう。貴様の周りを飛んでるその目玉。その目玉の見てる映像は我ら全僧兵に伝えられてるんだ。
だから先回りなど造作もない事だ。無駄に騒がしくする必要もない。優秀だろう? 我らがマーキングは」
得意気に一人のモブリがそういう。なるほどね……僕の行動は筒抜けだったわけだ。まさに目印でも付けたかのよう……だからマーキングか。
「ま……だだ!!」
僕は体を起こし、両腕に雷撃をまとわせる。ここで捕まる訳にはいかない。だってここで捕まったらおしまいじゃないか。なんとしてでも自分の役目はこなす。
そうしないと、ローレの奴がクリエに何をするかわかったものじゃないし、ここでの失敗のしわ寄せはどのみち僕達に来るんだ。
それなら今、頑張らないとだろ。体中が焦げて痛い……今ので一気にHPは赤に届きそうな程減った。下手したらマジで死ぬかも知れないな。
でもある意味、今の僕の状態は使えるかも知れない。こいつらは僕を殺す事を許されてはいないんだからな。
「やめておけ。この人数相手に、武器もない貴様が勝てる見込みなんて無い」
「確かに……僕は勝てないだろう。だけど……手が出せるのか? 後ちょっとで僕は死ぬぞ。一応大事な人質だろ? 僕は大人しく捕まる気はない。派手に暴れるからうっかり殺さない様に気を付けろ!!」
僕はそう言って、一番偉そうに講釈垂れてた奴に襲いかかる。
「こいつ、自分の命を盾に!? ――――なんてな。やれ!!」
一瞬怯んでた僧兵。だけどそいつの声で杖を掲げた僧兵達は、既に詠唱終了してる魔法を僕に向かって発動させる。
それは沢山の泡が浮き上がってくる物だった。しかも大量の僧兵の一斉魔法。その泡の量も半端じゃない。僕は直ぐに逃げ場を失い……そしてその泡に包まれる。
「ぶあぁぁ!!」
すると泡は僕を飲み込んで大きな一つの泡の牢になった。中から拳で叩いてもビクともしない。つまりは僕は今この瞬間に再び捕まった……ということだ。
「はーはっははっはははは! 我らに生け捕りの手段が無いとでも思ったか? 我ら魔法の民は、他のどの種族よりも争いを好まない平和な種族だ。
敵を打ち倒すよりも、平和的に捕らえる事の方が得意なんだよ」
何が平和だ。とか思っても今の僕は何もいえない。まさに詰んだんだ。ミッションは失敗。ここまで。一安心をする僧兵の面々。僕以外、和やかな空気が流れてる中、突如大きな音が響いた。そしてそれは何度も響き、夜の空を次第に紅く始める。
第三百四十九話です。
やっぱりだけど捕まったスオウ。だけどそこで新たな展開が!! てな感じですね。さて、一応目的は誰かによって達成された訳だけど、一体これからどうなるのか……まあ、きっとまた大変な事になるでしょう。
てな訳で次回は、日曜日に上げます。ではでは。