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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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自分だけで進む道

 サン・ジェルク側の船に拉致られた僕は、何とか脱出方法を考えてる。元老院の老人モブリは出て行ったし、ここがチャンス。だけど近づいてきた僧兵を飼いならす事は出来なくて、結局は自分の身を削る事に。

 だけどまあ、それもいつもの事。僕はきっと何かの感覚が麻痺してると思う。


 ゴウンゴウンと響く音。お腹に響くようなそんな重低音はこの船の中心部分の駆動音か何かだろう。なんだか船自体が大きい分、伝わる音も大きい様な……感じがしなくもない。

 ここはサン・ジェルク側の旗艦で、しかも尋問魔法の空間だ。円錐に囲われた僕の周りは暗く、部屋の中は薄暗くしか見えない。

 そんな部屋の中に今は監視役のモブリが数人。僕は一番近くの奴と話してます。とりあえず力技でこの尋問魔法の空間は破れそうにないから、どうにかこうしてこのモブリを巧みに誘導できないか、僕は思案してるのだ。


「実は元老院は、お前達が信じてるほど高尚な組織なんかじゃない。知ってるか? 奴らはいたいけな子供をずっと閉じこめてたんだ」

「それもサン・ジェルクの為かも知れない」 


 むむ、そう言われると、完全には否定はできないな。奴らは自分達の権力の集中地点である、サン・ジェルクは手放さないだろうし、そこを中心に世界を物にしたいと考えてるだろう。そうなると一応は相対的にサン・ジェルクは大きくなるかも知れない。


「だけど、サン・ジェルクの為なら、その子を犠牲にしてもいいっていうのか? お前等が守るのは元老院なのか? それともサン・ジェルクの民衆か? どっちだよ!」

「どちらもだな。我らはどちらも守ってる。どちらも守らないといけない。だからこそ、より多くを守れる方を選ぶんだ。

 そのたった一人を犠牲にして、サン・ジェルク全ての人が助かるのなら、それは仕方ないとしかいいようがない」

「お前……」


 僕は拳を強く握りしめる。いや、間違ってるとは言わないけどさ……僕が憤るのはきっとクリエが知り合いだから。顔も見たこと無い奴と、きっと居るその街の知り合いを考えると当然といえる事か。でもな……


「確かにどっちかを犠牲にするしかないって状況なら、わからなくもない。その時のお前達の判断は否定できないよ。

 でもこれは違うんだ。元老院は自分達をより高い位に上げるためにその子を使おうとしてたんだぞ! それは誰の犠牲もかかってない。かかってるとすれば、奴らの私利私欲だけ……それでも元老院のやってた事を容認出来るのかよ?」


 そう……そこにはサン・ジェルクの民衆なんて関係ない。全ての命が掛かってた訳じゃない。それなら、仕方ないなんて言えないだろ。


「より高い位にいくことの何が悪い。神に近づきたい……その気持ちはあの街の誰もが持ってる物だ」

「その手段は何だっていいのかよ!!」


 そろそろムカついてきたぞ。なんでも元老院を肯定する側にいきやがって……ちゃんと自分で考えてるのかコイツ等は? 


「貴様の言葉だけでは信憑性がない。それで我ら僧兵はうごかせん。そもそも貴様側に付く利点も何も無いしな。我らは貴様から見たらただ使われる人形の様に見えるのかも知れないが……それで良い。

 それが兵と言うものだ。考える事は上がやることだ」

「その上がお前達の場合は元老院なんだろ? 意味ないじゃないか」


 ほんと、それじゃどうしようもない。考える事は苦痛だろうけど、考える事を放棄したら頭なんていらないじゃないか。

 兵隊には確かに、上の命令を聞く事が大事。忠実に動ける部下こそ、組織の中じゃ重宝されるだろう。だけどそれじゃあ誰が間違いを正すんだよ。

 なんでもかんでもホイホイ従うだけが正しい姿だなんて僕は思わない。でもそれを言ったところでな……僕が入手してる元老院の情報もコイツ等に話したところで「必要な事」とかの一言で問題になんてされないだろう。

 元老院のやることは全て国の為に繋がるとか……そんな風に盲目的に信仰してる……というか、そう思い込んでるのか?

 それこそ、考えるのがイヤだから? 話にならない。元から傾ける耳を持って無いじゃないか。


「それで問題なくあの街は回ってる。領土間闘争の時も我らサン・ジェルクはどこも失わずにすんだしな。今までこの国を守ってたのは誰がなんと言おうと彼ら元老院なんだ。

 だから我らは彼らを信じる事が出来る。その心が、シスカ教の最も大切な教えだ」


 そう言ってモブリは他の数人の所へ。もしかしたら僕が逃亡を考えてることを伝えてるのかも……しまったな、これで監視の目が厳しくなるよ。

 でも、信じることね……それはとっても立派だし、僕も大事にしてる。けど、ただ信じる――それは考えを放棄してることだ。女神様だって、そんなつもりじゃ無かったと思うぞ。


「はあ……」


 思わずため息を吐く。どうしようか……悉く思惑はハズレていくぞ。自分の無能さが嘆かわしいな。まあこうなったら派手でも良いからやるしかない……かな。体もきついけど、時間も無いしな。

 僕は両の拳に青い雷撃を纏わせる。こうなったら隠れることもないだろう。老人モブリが戻ってくる前に、この魔法を打ち破る!!


「うおおおおおおおおおあああぎゃあああああああああ!!」


 僕の声は轟きから悲鳴へと変わった。だっていきなり紫色の雷撃が僕を襲うんだもん。どうやらアレは老人モブリだけがやれる物じゃないようだ。いや、そもそも奴が出してたのか知らないしな。

 元から、老人モブリの指示を受けて他の僧兵がやってたのかもしれない。僕は伸ばしてた手を開いて、その柔らかい壁に倒れ込む様にして床に崩れる。

 青い雷撃が空しく萎んでく……


「くっそ……」


 僕は黒い幕の向こうの僧兵達を見る。これじゃあ力を込める為に派手に動くことも出来ない。奴らは思ったよりもちゃんと監視してるようだ。


「ん?」


 その時僕はあることに気づくよ。僕の雷が纏ってた手……その状態で手を開いて崩れたから、引っ掻いた感じに成ったその場所が五本の線に成って光って残ってる。


「これって……まさか!」


 僕は慌てて起きあがろうとしたけど、腕に力が入らなくて顎を地面に強打したよ。一人ジタバタする僕。マジで情けなくてちょっと涙がコボレそうだ。


(ここはポジティブに考えるんだ。ある意味いきなり動き出さなくてよかった。そう思おう)


 そうだな。どうやら向こうからもこっちはうっすらと見えてるみたいだし、あんまり派手に動くのは得策じゃない。また紫の雷撃浴びせられるのはイヤだしな。

 僕は爪を見つめるよ。一体どれくらいの強さで引っかいたら判定してくれるのか……取りあえず背中を向けてカリカリして検証してみる。


「ん……んん……んぬぬ……」


 なかなか判定されないな。一応雷纏ってるし、鋭さとかアップしてると思うんだけど。やっぱりこの魔法が傷つきにくいってのがあるな。


「つっ!!」


 僕は思いきって突き刺してガリっと行ってみた。すると判定された場所には雷撃の光が刻まれる。でも……爪からは血がにじみ出てきてた。

 ようはそれくらいじゃないと、刃物には迫れないって事だろう。上等だ。どの道、もう僕にはこれしかない。僕の持つ雷系の最強スキル。それは雷撃を加算出来る。傷を付けた分だけその威力を増す。これなら……まだ希望はある。

 そもそも傷付けるなんて素手じゃ無理……と思ってたけど、自分の身を犠牲にすれば、なんでも出来ない事はないな。でもこれには勢いが重要だ。

 それには座っては足りない。どうせなら、この痛みなんて考えたくもないんだ。でも確実に壊せるだけの威力が必要で、それには座ってカリカリやってたんじゃ、その間に時間切れに成りそうだ。

 だからここも覚悟を決めてやるしかない。大丈夫、絶対に死んだりしない。それは確実……後は歯を喰い締めて意識を保ってれば問題なんてない。


「はは……何でここまで……」


 そう思ったけど、全部口に出す必要なんてなかった。そんなの自分が一番わかってる。投げ捨てるなんか出来ないし……そもそも約束したからな。ローレとかの思惑の為じゃない。僕は帰らないといけないんだ。

 ここで道具になんかなってられない。必要な物はもう手に入れてる。後はローレとの契約条件でも満たして帰ればいいだけ。

 だから後少し……その後にはもう一回聖獣戦がありそうだけど、今度はきっと僕たちだけじゃない。そう思うとなんとか成りそうだと思える。

 聖獣も倒してしまえば、後はクリエの問題だけだ。あいつの望み、願い……それが最初の約束なんだよ。だから、僕は帰ろう。


 僕は立ち上がり、今までで一番強く雷をその腕に纏わせる。もうコソコソする気なんかないからな。鋭さが必要なんだ……それには出し惜しみなんか出来ない。刃物じゃないこの腕を刃物にしてこの魔法に傷を付けないといけないんだからな。


「大人しくしてろ。何をしようと無駄だ。痛い目に遭うだけだぞ」


 僕を見上げる様にして、戻ってきた僧兵がそういう。だけど僕は何も言わずに指を伸ばして僅かに丸めた感じの手を突き刺した。ズドン!! と重い音と共にかなり伸びたこの魔法の壁。だけどやっぱり突き破るには足りないか。

 その瞬間視界の端で弾ける紫の光。それは一気に大きくなり僕の体を貫く。もう何度も味わった苦痛と痛み。記憶も世界も忘れそうになる衝撃は正直辛い。


「だから止めろと……ん?」


 身を乗り出して見えにくい僕を見ようとする僧兵。その目にはきっと、煙を上げながらも膝を付かない僕が映ってる事だろう。

 そうだ……幾ら辛くたって、ここで大人しくしてる訳には行かない。僕は一度大きく大きく息を吐いて、吸って――――そして一歩を踏み出し、体をひねって雷撃を纏わせた手を振り被る。

 横斜めに一線の光の筋が入った。それと同時に床に爪の間から滲む血が飛ぶ。だけど……まだまだだ!!


「うおぅらああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ラッシュラッシュラッシュラッシュが続く。遠慮も自分の心配もしない。腕を凪ぐ度に壁に刻まれる痕。それだけを考える。


「な…………んだと? や、やめさせろ!!」


 そんな声が響いて再び僕には紫の雷撃が降り注ぐ。だけど……


「止まれるかあああああああああああああああああ!!」


 よろめいた体を気合いで立て直す。地につく足がふらついても、それでも倒れるまでには行かせない。気合いだけで大きく腕をこれでもかって位に振るう。体が腕に引っ張られる感覚。更に続けざまに紫の雷撃が僕の体を襲い続けてる。

 けど、僕は止まらない。勢いのままに体を回転させて更に逆の腕を振るう。これぞいつもの感覚だ。セラ・シルフィングで風に乗る……そんな感じ。ちょっとリーチが短いけど、感覚がなれてきたと思う。


「止まれ!! 止まれ!! 止まれ!! 回復が追いついてない! 死ぬぞ!!」


 確かにさっきからずっと僕の体はこの凶悪な紫の雷撃に包まれてる。回復も行われてるんだろうけど、僕が無茶な事をやり続けてるせいで、攻撃が止まらず相対的にHPは減り続けてる。

 だけど僕の感覚としては……今止まった方が死なんだよ。ここで出れなきゃ僕は道具なんだ。そんなのやってられない。

 だから僕は生きるためにこの体を動かし続けるんだ!!


「さぁて、考えは纏まったか? まあ答えは決まってるがな」


 そう言って、再び長帽子を被った老人モブリがこの部屋に戻ってきた。その時僕は「ここだ!」と思った。刻まれた痕は十分な程の筈だ。指先の感覚なんてもうとっくにない。爪もきっと何枚も剥がれて床に落ちてる事だろう。

 十分……そう思って僕は再び、全力で壁を突く!! 青い雷撃がその瞬間この円錐に広がる。そして僕は叫ぶよ。


「サンダー・ブレイク!!」


 そして今度は傷の一つ一つが大きく光り、そこから僕の青い雷撃が出始める。そしてそれらは大きく……大きく膨らみ、一気に爆発した。激しく揺れる船体。


「うおおおお!? な……なんじゃ? 何事じゃ!?」


 そんな声が近くから聞こえてた。大きく震えた船。部屋に充満した煙が僕の視界を遮ってる。だけど……わかる。ここは魔法の中じゃない。

 だって、あの中と違って明るいんだ。フラフラする。息を吸ったら噎せてしまいそうだ。この煙は余計だったかも。でも僕だけじゃなく、奴らの視界もこの煙に遮られてる筈だ。

 もうちょっとがんばろう。取りあえずこの部屋から出て、まともに息を整える場所へ!!


「奴が! 捕虜が逃げ出しました!!」

「なっ……何をやっとるんじゃお前達は!? さっさとつれもど――――――ぐえ!?」


 取りあえず入り口付近に居た、老人モブリを雷撃纏わせた拳でブン殴っておいた。そして壁に寄りかかりながらもなんとか脱出。でも……このままじゃ直ぐに見つかってしまうな。

 取りあえず、闇雲に進んでみる。飛空挺の中じゃ、空気が滞っててなんだかイヤだ。そう思っていくつか扉を開けて進んでると、飛空挺の横っ腹みたいな部分にでた。強い風が吹いてるけど、空気は旨いな。取りあえず新鮮な空気をいっぱい肺に納める。


「はぁはぁはぁはぁ……」


 さて、脱出出来たのは良いとして……かなり体力を使ってしまった。武器もなく、もちろんアイテムもない僕はここから回復する事も出来ない。改めて手を見たらなんだかかなりグロい事になってるし……指を閉じる事も苦痛だな。

 夢中でここまで来るときは全然気にならなかったけど、一度気にしだすと、涙が溢れる位に痛い。取り合えず血の跡を辿られないように服を千切って無造作に手に巻きつける。僕がそんな緊急処置してると飛空挺に響くような声が聞こえた。


【この船の全ての全乗組員に告げる! 人質の人間が脱走した。速やかに発見して捕らえろ!! 全ての匙は投げてでも、この命令が最優先事項だ! 必ず捕らえよ!! 必ずだ! 殺さぬ程度には痛めつけても良いからわしの前に差し出せ!!】


 むむ……もう命令が下ったか。てか、殴ったの相当根に持ってるご様子です。ここでグズグズなんてしてられないな。でも、かといって内部に戻っても袋の鼠……そんな気がする。僕はこの船の構造を知らないしな。

 普通の飛空挺じゃなく、旗艦用にデカくなってるし、その分中身だって広く複雑になってるだろう。既にここまで出るまでで、今まで乗ったのと違うもん。しかも旗艦だけあって、僧兵の数も多い。打ち倒して進めない僕が、目的の場所にたどり着けるのか……それは相当危険な賭だ。

 そんな考えをしてると、まだマイクを切ってなかったのか、こんな会話が聞こえてきた。


【あの~】

【どうした? 発見したのか!?】

【いえ、実はリア・レーゼの僧兵の一人がトイレに行ったままで戻ってこないんです。確認に行かせてるんですけど……】

【ふざけるな!! 最優先事項だと行っただろうが!! そんなのは方っておけ!!】

【りょ……了解です!!】


 リア・レーゼの僧兵……ね。トイレぐらいまあ静かに行かせてあげればいいよ。


【いいか、どんな仕事よりもこれは優先するべき事だ!! 奴にはこれからのサン・ジェルクの未来が掛かってると思え!!】


 そう言って今度こそ船内通信は切れた。てか……僕にはサン・ジェルクの未来が掛かってたのか? まあ、いろいろと大きく動こうとしてるし、そこでの優位な立場をどっちが取るか……は掛かってるかもしれないな。


「取りあえず、どう動くべきか……だよな」


 少しだけ元来た扉を開けてみると、明らかにドタバタした音が響いてた。ヤバいな、メッチャ怖いぞ。こんな事をノウイの奴は良くやってたのか……考えを改めた方が良いな。アイツ凄い。

 だってどう動けばいいのか全然わからない。見つかったら……そう思うと動けなくなるよ。中は危険だし……僕は身を乗り出して下や上を覗いてみる。


「アレは……」


 甲板の少し下に窓みたいなのがいくつもある。あれはきっと、海賊映画とかでよく見る、側面から大砲を出す所じゃないだろうか? つまりはあそこには森にぶっ放せる武器がある。

 この船は移動用じゃないだろうし、それなりの武装を積んでるって事だろうな。でも問題は、どうやってあそこに行くか……だ。僕はジッと上を見据える。今、僕はとんでもない事考えてる。


「だけど流石に無理か……」


 この壁をよじ登っていければ最短じゃね? っとか思ったけど、引っかかりなんてないし、そもそも、今の僕の手の状況じゃどのみち無理だな。

 こうなったら覚悟を決めて、中を進むしかない。僕は壁に体を寄せて反対側の扉に迫る。そして扉を僅かにあけて、そこからまずは安全を確認。滑り込むように体を入り込ませて、扉を閉める。

 ミッションコンプリート!


「ふう……って、全然コンプリートじゃないし……」


 この緊張感がまだまだ続くんだ。胃までも痛くなってくるな。慎重に……でも急がないといけない。足音をたてないように進み。周りの音には耳を澄ませる。

 どこかで話し声や妙な音が聞こえたら直ぐに反応しなきゃだからな。そう思ってると、前方から迫る足音が! これはきっと複数人……見つかるとアウトだろう。どこかに隠れないと!

 旗艦だけあって、なかなかに立派な通路を僕はキョロキョロ見回す。デカい分部屋もいっぱいある。僕は慌てて、一番近くの部屋に――と思ったら、ドアノブに手をかける寸前に、中から話し声が聞こえる事に気づいたよ。


「いいの? 命令が出てるわよ」

「大丈夫さ。だってシスカ教は愛を大切にしなさいと言ってるよ。僕はその教えを守ってるだけ。大好きだよ」

「もう……」


 突撃してやろうか! と思ったけど、無益にしかならないだろうからやめました。どうせ、前から迫ってきてる僧兵に見つかってこっぴどく叱られる事になるだろう。

 取りあえず、隣の部屋に僕は逃げ込む。


「ふう、緩やかにカーブしてる通路でよかった。もしかしたら僕の居る位置は船首か、船尾の方なのかな? さっき居た風に当たれる所は間違いなく胴体部分だったから、まあそうだよな」


 それならカーブしてるのも納得。直線だったら今頃鉢合わせてた所だ。でも、ここも安全じゃないよな。取りあえずベットの下にでも隠れて……


「んんあ! ダメ!」

「ダメなんて酷いじゃないか。本当は気持ちいいんだろ?」

「はぁ……はぁ……もう……そんな事……言わせないでよ」


 何やってるんだ隣は!? 確かに日も落ちてきた頃合いだけど、早いよ。まだ勤務中だろお前等!! まあ僕の捜索には加わってほしくないけど、もうちょっとこう……防音対策をだね……


「ほら! ほら! 言うんだ! 口に出して言ってごらん! 恥ずかしくなんかないんだよ!!」

「んん! ああっ! はげしっ……んはぁっ」


 ヤバい、なんだか夢中で壁に耳をつけてる自分が居るぞ。だんだんと激しくなっていく感じが艶めかしく伝わって来る。ヤバいヤバい……もうすぐイっちゃうんじゃないか? ドキドキだぜ。


「来ちゃう! 来ちゅあううう――!!」

「行け! 行け! いっけええええええええええ!」

 うおおおおおおおおおおおおおおおお!! 興奮は絶好調に達した! まさにその時だ。


「何をやっとるか貴様等ああああああああ!!」


 ドアを突き破るような音と共に、隣の部屋に響く足音と、怒声。一気に冷めた様な空気が僕にも伝わって来たよ。ご愁傷様……あとちょっとだったのに惜しかったな。僕は頭を振って雑念を追い払う。あの二人の空気に流されてたけど、そんな場合じゃない。危ない危ない、夢中になりすぎてて迫ってきてた僧兵の事忘れてたよ。

 だけど隣が激しくしてくれてたおかげで僕はなんとかここを乗り切れそうだ。

 僕は静かに扉を開いて、通路に出る。そして壁に張り付いて、隣の部屋をのぞき込む。

 中には五人のモブリの姿がある。ベットに居る二人が今の奴らか。女性の方はシーツをマルッと被ってるな。二人は当然、こっぴどく怒られてる。誰もがそこに気を取られる間に僕はササッと通り抜ける。するとそのとき、


「あああ! アイツは! あっあっ」


 とか聞こえた。礼をしたのに気づいたかな? 「ご愁傷様」って意味でペコリとしてあげたのだ。だけど他のモブリが振り返った時には僕は既に見えないだろう。通路にはモブリの怒られる声がやっぱり響き続いてた。

 さあ目指すは森を攻撃できる、武器がある場所だ!

 第三百四十八話です。

 なんとか脱出したスオウだけど、大変なのはまだまだこれからです。武器もアイテムもない。頼れる仲間もいないこの状況で、やらなきゃいけない事は大胆不敵なんだから、ローレの奴は無茶な事を強制してますね。

 これからどうなるのか……最後ら辺のモモブリが一杯なら楽なんだけど、そんな事はないでしょう(笑)

 てな訳で、次回は金曜日に上げます。ではでは。

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