打ちつける雨
僕達は逃げた。セラの犠牲のおかげで、祠から脱出出来たんだ。だけどそれを素直になんて喜べない。確かに命を繋げる為にはこうするしかなかった、だけど自分の情けなさは拭えない。
でもそれでも、まだ終わった訳じゃないんだよな。セラが繋げてくれた今から先に、もう一度のチャンスはがあるんだから。落ち込むのはまだ早い。
土砂降りの雨、街の光が少し先にうっすらと見えるような場所。森と街の中間に当たる位置で、僕とリルフィンはうなだれてた。
顔を上げる気になれない。この雨がそれをさせない。この雨が今の僕達の心情を完璧に表してるみたいだから、余計に痛く冷たく感じるよ。
僕達は甘く見てたんだ。アルテミナスでの戦いを乗り切って、大抵の事は何とか出来ると思いこんでたのかも知れない。
だけどそれは違った。僕達は特別な存在なんかじゃなく、やっぱりプレイヤーの一人でしか無かったんだよ。分かってたのに、過信してた。
聖獣はそれをまざまざと思い知らせてくれたよ。最初の一撃でテッケンさんと鍛冶屋がやられた時点で勝負は決まってたのかも知れない。
いや、そもそもワンパーティーで挑んで勝てるクラスの敵じゃないのかも。
目の前に小さな足が見える。そして感じる視線。そう言えばクリエを外で待たせてたんだっけ……はは、大口を叩いてたのにこの様って……なんと言おう。
クリエを不安にさせたくないけど……もう既にそれは無理だよな。それにお喋りなコイツが黙ってるんだ。何かをきっと察してる。
そしてその何かが悪いことなんだって……僕たちの様子を見れば一目瞭然だ。すると僕の目の前にお札が無言で差し出された。
それは本殿で買った雨風避けのお札だ。僕とリルフィンがずっと濡れっぱなしなのを気にしてくれてる様だな。
僕はちらりとクリエを見た。するとそこには不安げに眉根を下げて様子を伺ってる顔が見えた。このお札のおかげで、クリエは全然濡れてないから見やすいよ。不安そうな顔してるんだけど、なんだかこの暗さの中だと雨を受けてないクリエが暖かく見えるんだ。そう……暖かく。
(これを取ったら、もう一度始めよう。俯くのをやめて、コイツを安心させてやるんだ)
そんな思いを胸に宿す。まだ色々と痛いけど、コイツにこんな顔をさせといて良い訳ない。まだ僕は生きてるんだしな。
僕はゆっくりと手を伸ばしてそのお札を取った。そして数回深呼吸をして、胸に当てて「解放」を唱えた。弾け飛ぶ水気、それと共に何かがちょっと吹っ切れた様な感じも……強引に感じといた。
次の言葉は明るい奴でいこうと決めてるから、強引にでも吹っ切れた感じを出すんだ。僕は顔をクリエの頭に手を置いて、目一杯の笑顔で「サンキューな」と言う。
本当はもっと冗談とかで笑いでも起こしたかった所だけど、今の僕には無理して笑ってるのをそうじゃない風に見せるのが精一杯だったよ。
「スオウ……」
だけど僕がそうすると、クリエはプルプル震えて、下唇を必死に噛んで顔が次第に赤くなっていく。クリエは僕達の絶望感とかを感じ取って実はずっと怖がってたのかも知れない。
それでも僕達の為の我慢してた。だけど僕の行為でその感情のうねりが溢れだして来ちゃいそうだ。
「うん、心配させてごめんな。だけど、僕は大丈夫だからさ。僕は……」
なんかそう言う度に心がズキっと痛むな。クリエは喜んで泣きながら抱きついて来てくれてるけど、僕は実際落ち込みたい気持ちです。
まあ吹っ切るけどね。ここで落ち込んでる訳にはいかない。みんなを犠牲にして逃げ帰ったとか……そんなのは次で帳消しにすればいいんだ。
「余り気にするな。命には優先順位があるものだ。私は主の為ならこの命など差し出す。貴様の仲間も同じだということだろう」
後ろからリルフィンのそんな言葉がかけられる。だけどそれは納得できない言葉だな。
「優先順位? そんなの有るわけ無い。僕はローレ程偉くもなければ人徳も無いしな。それなのに優先順位が高いわけ無いだろ。
みんなは仲間だから……仲間をただ守ろうとしてくれただけだ。それに僕が一番リスクって奴を背負ってるしな。けど誰もが僕を真っ先に助けてくれる訳じゃない。あのみんなだから、僕を逃がしてくれたんだ」
「まあ確かに、貴様を救おうと思うのはあの数人しかいないだろうな。主と比べるべくも無かったか」
そう言ってリルフィンは雨の中、一人で街の方へ歩きだした。
「おいどこ行くんだ?」
言っとくけど戦いはこれからだぞ。一度負けただけで、これで終わりなんて訳ない。それなのにリルフィンの奴、逃げるのか?
「聖獣に勝つために必要な場所へ……だ。まさか今のままでアレに挑み続けて勝てるとか思ってる訳はないだろう。貴様たちはせめてあの聖獣の分析でもしてろ」
そう言ってリルフィンの奴は雨の向こうに消えていく。
「ぐず……えぐ……スオウ……また行くの?」
僕の胸の中で泣いてるクリエがそんな事を聞いてくる。僕は頷いてこう言うよ。
「ああ、まだ倒せてないからな」
流石にボロ負けしたとは言えなかった。無駄に不安にさせたくもないしな。だけどクリエは十分不安にはなってるみたいだな。
「ダメだよ。今度こそスオウ死んじゃうかも知れないよ! そんなのクリエはヤダ!!」
「だけどこのままじゃこの街も、そしてクリエの望みもどうにも出来なくなっちゃうんだ。それじゃあ困るだろ?」
「うう……」
もの凄く力一杯腕に力を込めてるクリエ。まあそもそも僕のせいだし、これで終わらせる訳にはいかんのだよ。聖獣が解放されてリア・レーゼが壊滅したら、それは大元を辿れば僕のせい……とかにされるじゃん。
だからこのまま無理だとは言えない。それにここは僕達の最後の砦なのだ。無くなって貰っちゃ困るのは本当。
「じゃあ死なないって約束して! もうクリエは……誰にも居なくなって欲しくない……」
「クリエ……」
もしかしてずっとシスターが消えたのとか、アンダーソンが目覚めない事とか、気にしてたのかな。アンダーソンとはまた会えるとは思うけど、クリエを育ててくれたシスターとはもう会えないんだもんな。
気にしない訳ない。というか、忘れられるほど時間も経ってないしな。ずっと寝てたクリエにとっては、箱庭からの脱出なんてついさっきの事のような物だ。
今度は僕がこいつの中では居なくなる筆頭なのかな? まあ確かに、そうなる要素は一杯持ってるけどね。だけど僕は居なくならないよ。
僕はクリエの力一杯握ってる腕を取ってこう言うよ。
「居なくならないよ。言ったろ、お前の望みを一緒に叶えてやるってさ。だから絶対に居なくなったりしない。ちゃんと戻ってきてやる。どんな所からだってな」
「ホント?」
「ああ……」
ついさっきやられかけてて何言ってるんだって自分でも思うけど、こういう約束ごとは力をくれるものだ。土壇場でも最後まで諦めないで入れるためのエネルギーにきっとなる。
だから僕はどんなにそれが難しいとわかっていても、この言葉を否定しない。
「んっ」
差し出されるのは小さな小指。それは指切りのサインだな。僕はクリエの小さな小さな指に自分の小指を絡ませれる。守れないかも知れない約束なんて、するものじゃないのかも知れないけど、覚悟は力だしな。
僕達は二人で定番のフレーズを口にして、指を放す。なんか前にも同じような約束したような気がしないでもないな。
最初のはクリエの望みを叶える約束だったっけ? 今度のは絶対に死なない約束な。
「ほら、約束もしたし笑えクリエ。おらおら~」
僕はクリエの頬を両側から押さえてムニムニしてやる。おお、マシュマロみたいな頬してるなコイツ。
「エッヘッヘ……ってこんな風にされたら無理だよ!」
切れられた。ムニムニし過ぎたか。あまりの気持ちよさに遂ね。
「ムニムニされすぎてジンジンしちゃうよ。てか、他のみんなはどうしたの?」
クリエは頬を自分でサワサワしながら、そんな疑問をぶつけてくる。そう言えばみんな遅いな。僕達が無事に離脱出来たんだし、みんなも出てきて良さそうな物だけど。
そう思ってると、丁度一人が出てきた。
「くっそ……なんだあの化け物は……何も出来なかったぞ」
「はは、不運だったよな鍛冶屋は」
後テッケンさんも。出てきた鍛冶屋もお札を使って雨を避けて、こちらに視線を寄越す。
「全くだ。だが意外だな。お前はもう少し凹んでるかと思ったぞ」
「まあ実際はそうだけど、それを見せちゃダメだろ」
僕はそう言ってクリエをみるよ。察してくれた鍛冶屋は「なるほどな」と呟いた。てか鍛冶屋が出てきたから次々とみんな出てくると思ったんだけど……なんか次がこない。
「他のみんなはどうしてるんだ? 何で戻ってこないんだよ?」
「中ではまだセラが戦ってるからな。パーティーが全員やられれば強制退場させられるが、一人でも残ってれば、やられても選ぶ権利が俺たちにはある」
死亡を認めての退場か、仲間からの回復を信じて待つか――ね。だけど後者は既にあり得ない訳だけど……それでもみんな残ってるってどう言うことだ?
「情報の為だ。死んでもその状況は見てられる。だからそれ等を次に繋げる為にまだ戻らないんだろう」
「なるほどな。みんな真面目でありがたいよ全く。で、その理論から言うと、鍛冶屋はなんで真っ先に出てきたんだ? 不真面目だから?」
みんなは聖獣を分析してるのに、鍛冶屋が一人だけ真っ先に出てきた理由なんてそのくらいしか……僕がそんな事を言うと、鍛冶屋は遺憾の意を示した。
「お前な……俺はお前を心配して早めに出てきたんだ。誰も出てこないと心配すると思ってな。それを不真面目とは、がっかりだ」
「はは、そうだったんだ。だって鍛冶屋がそんな気を使える奴とは思わなくて。まあでもそうだね。確かに不安になってたしありがたかったよ」
「ふん、今更礼など……どうせ俺の友は武器だけだ」
あれ? なんか拗ねられたぞ。鍛冶屋ってこんなキャラだったっけ? いつの間にか人間くさくなってるな。前はホント武器の事しか考えてない奴だったから、その言葉をまんま受け取れた筈だけど、今のは明らかに拗ねてるよな。
「所でリルフィンの奴はどこ行ったんだ? アイツも一緒に脱出しただろ?」
キョロキョロと周りを見回しながらそう言う鍛冶屋。ああ~アイツね。
「なんかこれからの為の準備をするって街に戻ったよ」
「んな……あの野郎、まだこれからだってのに……実はローレに慰めに貰いに行っただけじゃないのか?」
おいおい……僕もそれは考えたけど、色々と分析してそれは却下したぞ。
「それはどうだろうな? リルフィンってローレに頼られたいみたいだし、ノコノコ逃げ帰るとかないと思う。だから今度上へ上がるのは勝利の報告の時だろ。
勝つための準備って言ったんだから、何かあるんだろ? 秘策的な事が」
実はちょっと期待してるんだ。だってあの聖獣は……ちょっと所じゃない反則具合だったしな。でも今回は別にアンフィリティクエストの理不尽じゃなく、普通にLROをやってても出会うかも知れない理不尽なんだよね? それなら必ず攻略法はあるはず……だよな。
それこそリルフィンが勝つためにする何かが鍵かも知れない。国宝級の武器を持ってきてくれるとか、ヤバい魔法が封じられたお札を持ってきてくれるとか、色々と考えられるよね。
「秘策と言っても戦闘に直接影響するような事をNPCがやるとは思えないけどな。ストーリー上で必要な時は有り得るが、それでも倒せない敵が倒せるようになる程度だ。
結局倒せるかどうかはプレイヤー次第。まあそれが当然で当たり前だけどな」
ふむ……鍛冶屋の言うことはもっともではあるな。NPCが戦闘を決めるような事はしないか……そう言えば思ったけど、リルフィンってなんかマンガに有り得る展開で来てるような。
最初は敵として出てきて、その時はムッチャ強かった。だけどなんか和解してからはその強さが薄らいだと言うか……別に強さが変わってる訳はないんだろけど、あの圧倒感がないよね。
これが世に言う、強いのは敵のうち……って奴か。
「能力が落ちたわけじゃないし、んな訳あるかよ。マンガはバランス考えてああなってるんだろ。ドンドン敵が強くならないと盛り上がらないしな」
「でもそれってゲームも同じじゃん」
RPGは普通そうだろ。最後には神や魔王や宇宙的な何かを倒すのが通例です。次元の狭間の存在とかね。
「普通のRPGは進む道順とか、大体最初等辺は決まってるだろ。そこら辺でバランス取って効率よくレベルが上がる用になってるんだよ。
だけどLROは違う。まあ殆どのネットゲームは始める場所だって選べたりするし、一人でするゲームとは敵の配置は違うだろ。
街の側にだって時々強力な敵が出たりするし……そもそもMMORPGでストーリー展開とかあって無いようなもんだ。
特にLROは自分達で自分達だけの冒険というストーリーが出来上がるしな。用意された物じゃない方でスゴいボリュームになるんだ」
まあそれはわかるよ。鍛冶屋の奴は何か感慨深く言ってるけど、やっぱり僕達と出会う前にも色々と冒険やってたのかな?
てかやってないと、貴重なアイテムも材料も手には入ったりしないよな。
「まあだが、LROは普通に用意されてるミッション系のボリュームも相当だがな。何がストーリーに繋がるかわからんし……突如倒さないといけなくなる敵が破格の強さだったり……ホント飽きさせてくれない世界だ」
なんかいつの間にか鍛冶屋がしみじみとこの世界を語って終わってるな。確かそんな事を言ってた訳じゃないと思うんだけど……確かそう、リルフィンの奴が仲間敵ポジションに着いた途端に弱くなったな~的な話だった筈だ。
そしてそれはストーリーに関係してる? あれ? 結局してないんだっけ?
「LROの場合はしてない。アイツも弱くはなってない。ただ戦闘には相性もあるし、それこそ圧倒的な力の差ってのはあるだろ。
それを埋めるために俺達は人数を増やしたりするんだろ。ストーリーの関係上でアイツが弱体化なんてありえん。強いて弱くなったと感じるのは、俺達がアイツの事を知ったからじゃないか?
最初は何も知らずにぶつかった訳で、謎と威圧感がスゴかったとかな」
「なるほどね。確かにそれは有り得そう。僕達はアイツの意外な一面を知って、最初に感じた恐怖感とかが薄らいでる訳だ」
それでその恐怖感は新たな強敵に向くから、相対的にリルフィンがなんか弱くなったと思うわけね。そんな訳ないのに。てか二人きりに成ると良く喋るな鍛冶屋って。
「別に……普段は俺の他に喋る奴が居るだけだ。だから饒舌に喋る必要なんてない。それにお前達は一歩引いて見とく方が面白いしな」
そう言って鍛冶屋は珍しく笑った。何が一歩引いてだよ。十分中心に居るだろ。実は僕達の会話を冷静に分析してたのかコイツは?
なんかいつも気難しそうにしてると思ったけど、聞き耳立ててたのね。もっと中に入ってこいよな。だから時たま忘れちゃうんだ(いろんな意味で)。
「何が面白いだよ。もうちょっと仲良くしようとは思わないのか?」
「仲間や友だからと言って俺はズカズカ踏み入ったりはしない。適正距離ってのがあるんだよ。それにお前達とはかなり歩み寄ってる方だ。
俺がここまで付き合うなんて、実際早々ないしな」
ずっと武器の事だけ考えときたいんだっけ? それもどうかと思うけど……てか僕達についてきてるのってぶっちゃけコレだろ? セラ・シルフィング。
「そうだな。セラ・シルフィングには大いに興味をそそられる。こんな進化は初めてな訳だし、どうなるかを見届けるのが制作者の勤めで、鍛冶屋の未来の為に必要な事だ」
「大袈裟じゃね?」
鍛冶屋の未来って……実際シルフィングからセラ・シルフィングへ成るのって鍛冶屋関係ないし。何もやってないぞ。
だけど鍛冶屋はそんな僕の言葉を否定するよ。
「大袈裟ではない! これまで……というか今もLROでは武器はスキルを会得するまで使い、会得したら次の武器のスキルを求めて換装する。それが普通で強く成るためには必要な事だった。
だが! その常識を変えようとしてるのが貴様だ! そしてその武器『セラ・シルフィング』なんだ! この意味が分かるか!? 重要なんだよ……これはLROというゲームの楽しみ方に新たな選択肢を加える程にな」
なんかもの凄く近くまで迫られて熱弁されてる。流石に近いぞオイ。目の前に鍛冶屋の顔が一杯だ。
「おお、スマン。だが、そう言うことだ。今更ついて来るなと言われても、俺はお前にだけは付きまとうぞ」
「やめろよ変な事言うの。その発言は誤解を生むぞ。それに今更ついてくるななんて僕から言うわけないしな。これでも普通に頼りにしてるんだぞ」
色々と貴重なスキルとか持ってるしな。それに武器のメンテだって大切だし、旅をするなら一人は鍛冶屋みたいなのも必要だ。
いつだってベストな状態の武器で戦えるってのは案外心強いものだよ。
視界が極端に狭まる程の豪雨のなか、二人だからこその話に気を取られてた。すると雨の音の中から、別の声が聞こえたよ。
「こっちが大変な思いしてたっての、随分と緩い会話で談笑してる奴らが居るわね」
「――おわ!? セラ!!」
ビックリした……いきなり雨の中からヌワっと現れるなよな。そう思ってると、他のみんなも祠の周りから次々と姿を現すよ。
「全員戻ってたのか?」
「ああ、ついさっきだけどね。セラ君が石化されて強制退場だよ」
「ならさっさと出てこい」
「いや、二人が楽しそうにしてたから邪魔するのもどうかと思ったんだ。だけどセラ君は我慢できなかったみたいだね」
鍛冶屋とテッケンさんの会話で現状を把握した。つまりはしばらくニヤニヤしながらみんな聞き耳立ててたって事じゃないか。せめて最後の言葉だけでも取り消させろ。恥ずかしいから。
ああ言うのは一対一だから言えるものなんだよ。みんなの前では全員対象の言葉で言うのだ。
「スオウ」
「なんだよセラ? 言っとくけど今の会話は談笑じゃなく、これからの為にこう気持ちをだな……」
別に何もやましいことやってないのに何故かセラに言い訳をしだす僕。
「何よ、そんなに脅える事ないじゃない。別に談笑してた事なんか私的にはどうでも良いの。ただ、ちょっとだけムカつくだけよ。
人が体張って逃がしたのに、気付かれもしないんだもの」
「お疲れ様っした!! 本当に感謝してるっす!!」
「スオウ君、自分の言葉が移ってるすよ」
おお……思わず舎弟風に喋ったら何故かノウイの口調に。
「ちょっと待つっす! それはどういう事っすか!?」
「感謝も別にいらないわね。ただ忘れるなって事よ。言ったでしょ? 貸しにしとくって」
「はいはい貸しね。忘れないっての。でも本当に感謝はしてるんだぞ。ありがとうなセラ」
「クリエもクリエもありがとう!!」
「なんでアンタが感謝の言葉を述べるのよ?」
クリエの意味不明な言葉にしかめっ面でそう返すセラ。するとセラは元気にこう言うよ。
「だってだって、セラちゃんのおかげでスオウが戻ってきてくれたもん。だからありがとう!!」
素直でまっすぐな瞳でそう言われて、一瞬惚けた様に止まるセラ。だけど直ぐにしかめっ面を戻し横を向いて憎まれ口を叩く。
「ふ……ふん、そんなの当然でしょ。ここで死なれても困るし、まあ私は全然そんな事ないんだけど、進行上困るから仕方なくね。
別に進んで助けた訳じゃないわよ。たまたま残ってるのが悪運強いそいつしか居なかったから、私がおいしい所を持っていっただけよ」
まさかそういう裏があったとは!? まあ恥ずかしがって思わず言ってる事なんだろうけど、マジでツンデレっぽいぞセラ。激しい雨の降る中、今の僕達はまだそれほど悲観してる状況じゃないな。みんな結構普通だし、そこが僕の救いにもなるよ。
「あの~自分は無視っすか?」
悲しいノウイは雨の中小さく手を上げて自分の存在をアピールしてた。
第三百二十一話です。
聖獣戦後です。今回は何故か鍛冶屋との絡みが多かったですね。実際初期メンバーなのに、鍛冶屋ってなかなか絡んで無かったですからね。今回の話では意識的に出番を増やしてるのです。
アルテミナス編ではいつの間にか退場してたので……まさにうっかり忘れてたから、そんな不憫の思いをさせない為に、密かに鍛冶屋推しなのです。だから皆さんも鍛冶屋を忘れないで!!
てな訳で次回は日曜日に上げます。ではでは。