ただの水じゃない
世界樹から生成される水。それを飲むとなんと体が光るのだ。人間太陽とかクリエは言ってたな。そんな人間太陽は明らかにおかしいけど、リルフィンいわく大丈夫だそうだ。
だけどそんな言葉と裏腹にセラの様子がおかしくなる。だけど苦しんでたり痛い訳では無いようで……それはこの水の力の片鱗が見える前触れだったわけだ。
リルフィンの暴露に動揺したけど、僕達は光ってさえ居なかった。嘘だなコイツ。実は僕達をからからって腹底では笑ってる、そんな奴なんだ。
「貴様な……あの料理に実際使われてはいる。だが、そのままは使わないんだよ。元々薄めるし、それに調味料とか色々な要素が混じりあうだろ。
体まで光るのは原液を直接取った時だけだ」
「ふ~ん」
僕はいぶかしみながら相づちだけは打ってやった。まあそれなら理解できるけどね。確かに料理行程を経たら、別物なのかも。純度百パーセントだからこんな事に成るって事か。
僕も自分の姿を映すその池の水を一掬いしてみる。水面に波が広がっても姿が消えないとか、本当に光りまくりだな。透明度とかのレベルじゃない。
だけどやっぱりここまで光ってると口に含む気には成れないな。そんな事を思ってると、不意にセラが苦しそうにしだした。
「どうした?」
喉を押さえて、目をしばたかせてる。なんだかやばそうだぞ。
「何……これ……なんか……」
「なんか?」
セラは微妙に震えてるような。まさか原液はやっぱり毒なんでは? 強すぎる効能だから使うときは薄めるとかじゃないのか?
「そこまでは私も知らん。だが毒という事は聞かないがな」
冷静に……というか、人事みたいにそう言うリルフィン。だけど現にセラはこうやって苦しんで――
「なんかスッゴい感覚が研ぎすまされる感覚……うっうう……」
「おいセラ!!」
「セラちゃん!!」
「大きな声出さないで!!」
セラの怒声に女の子二人はビクリとする。感覚がどうとか言ってたから、想像以上にうるさく聞こえたのかも知れない。手のひらに掬ってた水を落として、僕はセラへと駆け寄るよ。マジでどうなってるんだ? ここは取り合えず回復魔法? 毒とか状態異常を解く魔法をシルクちゃんに掛けて貰うしかないか。
でも同じ水を飲んだクリエはこんな事には……はっ!
(そう言えばさっき世界中の声が聞こえるとか言ってたな。あれもこの水の影響?)
僕はそう考えてクリエの方にも声をかける。
「クリエ! お前は大丈夫なのか?」
だけど反応がない。てか、空を仰いでじっと固まってる? 時折何かを呟いてるのか、「うん、うん」と聞こえるけど、明らかに何かおかしいよ。
「おいリルフィン! これはどういう事なんだよ!?」
僕はこの水を一番良く知ってるであろうリルフィンに詰め寄るよ。てか、それしか出来ないし。だけどどうやらリルフィンもこんな事は初めてなのか、今まで喋った情報以上の事は知らないらしい。むむむ、役に立たん奴だな全く。
「どの魔法が効くかわからないけど、色々やってみます! もう少し我慢しててねセラちゃん。ピク!」
シルクちゃんが杖を構えてそう呼ぶと、暗い空から桜色に輝く小竜が現れた。どこに行ったのかと思ってたら、この広い宇宙を飛んでたのか? まあピクもこんな場所は初めてだろうから、興奮してるのかもしれないな。
ピクも揃った所で魔法詠唱に入るシルクちゃん。だけどその時、シルクちゃんのスカートを引っ張ってクリエがこういうよ。
「大丈夫だよ。別に苦しくて痛いわけじゃないもん。ちょっといつもよりも凄いから怖いだけだよ」
「クリエちゃん?」
光ってるクリエはいつもと同じ……だけど何かちょっと違うような気がした。相変わらずの要領を得ない言葉だけは同じだけどさ、光ってるからか雰囲気がちょっと昇華されてるような……そんなクリエはシルクちゃんの詠唱を止めて、セラへと近づく。
「セラちゃん、怖がることないよ。解放してあげればいいの。その感覚を注げる所へ」
「解放……」
そんな言葉を受け取ったセラ。実際クリエの言葉なんか華麗に無視するかと思ったけど、案外真面目に受け取ってそうだ。本当に、大丈夫なのかな? 僕達は言葉を発さないセラを心配気にみつめる。
するとようやくセラは何かを思いついた様にスカートへ手を伸ばしてこう言った。
「聖典解放!!」
その瞬間僕たちの間をリリースされた聖典が猛スピードで抜けていく。思わず声を漏らして尻餅を付くシルクちゃん。いきなり何しやがるんだ?
そう思ってると次から次へと聖典が空へと昇ってく。おいおい、幾らなんでも出しすぎだろ。頭痛くなるから普段は二・三機程度じゃなかったのかよ。
「痛くないの……」
「は?」
「だから全然痛くならない。寧ろ今までよりも楽に扱える感じ。脳が冴えてる。それがわかるわ。今ならこの数でこんな事も出来るかも」
そう言って目を閉じたセラ。ざっと数えても既に二十機全て出てるんだけど。それでも頭が痛くならないなんて、この水の効果って事か?
そう思って空を飛ぶ聖典をみてると、なんか向こうにも徐々に光が移ってきて、流れ星が流れてるみたいになってた。しかも航空ショーみたいな演出をセラがやってるから、迫力満点で綺麗だ。二十機も操れたら、流石に違うな。
空に光の残滓で星を書いてそこを射ぬいたりしてるよ。後はまっすぐ並んでの動きとか、横一列とか、重なりあってクルクル回るとか、どれも一歩間違えば聖典が墜落しそうな動きばかりだ。
こうやって聖典が動いてるのを見るといつも思うんだけど、今日は一際思うことがある。マジでセラの頭はどうなってるんだろう? ってさ。どう考えてもニュータイプだろ。リアルでアムロ来ちゃったよ。いや、セラは女の子だし、ララァなのか? まあどっちでもいいことです。
大切なのはリアルニュータイプが目の前に居るって事だよ。僕も出来る物なら、聖典を手に入れてみたいな。ここだけはマジでセラに憧れる。
だってこういうファンネルっぽい武器って、憧れだもん。キィン!! と何かを感じてみたい。「なんだこのプレイッシャーは!?」とか言ってみたい。
「スゴいスゴい! セラちゃんすごおおおおおい!!」
ハシャぎにハシャぐクリエが空の聖典を追いかけて周りをチョロチョロし出す。うざったいけど、確かに凄いなあれは。これもクリエの助言のおかげだな。
そう思ってると、ショーを終えた聖典が各機セラの前に戻ってきた。
「大丈夫なのかいセラ君?」
「ええ、驚くほどに好調です。今まで処理しきれなかった情報が嘘みたいに快適に流れていきます。まるでサブルーチンでも構築されたみたいな?
とにかく頭痛はないですね。もしかしてこれがこの水の効果何じゃないですか?」
テッケンさんの心配する言葉に快適に答えたセラは、自身の変化を水のおかげというよ。まあ誰もが薄々思ってた事だけど……実際それしか考えられないよな。この水、とんでもなく使えるんじゃないか?
「能力の底上げ? でもそれじゃあちょっと矛盾するよね。感覚自体を高めてるのかな? それともその人に有った所をピンポイントで上げてるとかでしょうか?」
う~んそれだともの凄い事になりそうだな。セラの場合は聖典事態じゃなく、セラの感覚を上げての操作性向上。クリエの場合はよくわからないけど、これも感覚的な部分だよな。
この情報を鑑みるとやっぱり感覚部分だよな。肉体強化じゃなく感覚強化? ある意味斬新ではあるかもしれない。だけどまだ完全に判断は出来ないな。
「もう一人位試さないと何とも言えないよね。感覚が上がってセラにはメリットだけど、僕たちもそれと同等のメリットが有るとは思えないし。
本当に感覚を強化してるのか、それともスキル事態を強化してるのかで価値が大きく変わるよ」
「そうですね。もしも後者なら戦闘で大いに役に立ちそうです」
僕の言葉に同意してくれるシルクちゃん。お手軽なレベルアップアイテムとなるのならとってもありがたい。今の僕達には【力】って奴が必要なんだ。最近力不足を感じさせられたからな。
なんてたって僕達の敵は強大だ。だけどシステムの内側に居る内は、あいつ等に勝てそうに思えないってのも事実なんだよな。
この水で多少能力値が上がっても、それが勝利に繋がるとはやっぱり思えない所がある。まあないよりはマシだろうけど――って、その考えの前に、この水の力を把握するのが大切か。
「とりあえず今度は誰が飲んでみるかですね」
僕とシルクちゃんとテッケンさんは顔を見合わせるよ。まあだけどシルクちゃんにリスクを背負わせる訳にはいかないから、自然と僕かテッケンさんって事になるよね。
「とりあえずアンタが飲みなさいよスオウ。スキル強化なら、スキルを豊富に持ってるテッケンさんよりも、アンタの方が検証しやすいでしょ」
「ぬぐ……」
残念な事に全く言い返せないな。確かに僕のスキルは極小だよ! シルフィングがセラ・シルフィングに変わってもそんな変わってないからな。最近ようやく二桁? 位だっけか? 実は防具とかは、徐々にグレードをアップしてるのだ。まあそれでも初心者の域を出ない装備な訳だけど……まあスキルに関して僕は数じゃなく質で勝負してるんで、全然オーケーだけどね。
「良いのかいスオウ君?」
「良いですよ。悔しいけど、確かにセラの言うとおりですし、僕が適任です」
イクシードを発動させればスキル事態が強化されてるかどうかわかるだろうしね。僕は再び泉の前で膝を折るよ。するとそこで待ったをかける人物が現れる。
「おい貴様等、私はこんな事の為に付き合ってる訳じゃないぞ。早く目的を果たしにいくぞ」
リルフィンはどうやら、今のこの状況がどれだけ重要かわかってないらしいな。全く、もうちょっとよく考えろよな。これはそっちにとっても重要だろ。パワーアップ出来るかも知れないんだからな。
「これだって目的の一部だろ? 僕達は何かが起こるかも知れないからってこの場所を巡ってたんだ。そして今、結構凄い事が起こってる。その筈だけど?」
「私は貴様等の案内しか言いつけられてない」
全く頭の固い奴。もうちょっと柔軟になってほしい物だよね。
「だからこれも案内の一部で良いじゃん。大切な事だからさ、後ちょっとだけ」
「そうだよそうだよ! これは大切な事だよ! クリエもそう思う!」
「お願いします」
クリエとシルクちゃんも加勢してくれる。そしてセラが脅しにかかったよ。聖典全ての砲門がリルフィンへと向けられる。
「飛空挺では遅れを取ったけど、今はきっとそうはいかないわよ。あの時の続きやってみる?」
頼む気ゼロの態度です。一応こっちは世話になってる側なんだけどな。セラはどうやら飛空挺で一度負けたの根に持ってるみたいだ。まあこいつの性格上、水に流せる訳もない事は容易に理解できるけどね。
「この程度でまだ私に並べるとでも思ってるのか? それならなんと愚かしいことか」
そう言うとリルフィンのローブが風に煽られた様に、浮き上がる。その瞬間何かを感じたのか、セラは聖典をリルフィンの近くから離脱させるよ。
だけど数機の聖典は炎と共に消えていく……おいおい何が起こったんだよ。レベルが高すぎてわかんなかったぞ。いや、まあ集中してたら見えたかも知れないけど、こいつらいきなりマジに成り過ぎなんだよ。
「くっ! だけどまだまだあ!!」
「良い反応だ。だが、まだ拙いな! 手足と同じ感覚で操れる様に成らなければ、私は勝てん!!」
「言ってなさいよ!!」
セラとリルフィンの一瞬の攻防。それはもうなんか一瞬の間に色々とまた起こってた。更に二機撃墜されたらしい聖典。一瞬にしてセラの喉元までどこから出したか知らない白いトゲトゲの武器を突き立ててるリルフィン。
なんかあの武器はアイツの髪の毛の色とそっくりだけど……まさかね。だけど実際、この勝負は引き分けっぽい。セラも聖典をリルフィンの全方向に展開させて既にエネルギー充電完了してる。
ようは互いに止めを指す一歩手前で止まってる状態だ。
「どうかしら?」
そう言ってセラは不敵に微笑んでるよ。一矢報いた感じだね。リルフィンの白い武器は喉元数ミリにそのトゲが迫ってる訳だけど……ちょっと挑発しすぎだろ。
こいつがちょっと動けばプスッと言っちゃうぞ。流石にその一撃で死にはしないだろうけど……どう考えても二人ともやりすぎだ。
僕がそう思ってると、どうやら同じ考えだったテッケンさんが間に入って声を張る。
「そこまでだ二人とも! 僕達はもう敵じゃない。争う必要なんてないんだよ。どうしてもと言うのなら、然るべき手順を踏んで、然るべき場所で決闘を行えばいい。
だけど今はダメだよ。こんな事をするために僕達は行動してる訳じゃない。双方武器を納めるんだ!」
微動打にしない二人の視線がテッケンさんへと向く。そして訪れる沈黙。そんな時、いきなり小池に何かが落ちたような激しい音が響いた。僕達の視線は一気にそちらへ。
「ふえぇえ~、びしょ濡れだよ~」
「お前な……何やってるんだよ」
「落ちた!」
シュピッと右手を挙げてそう宣言するクリエ。全く、なんか空気壊れたな。有る意味良い意味で。
「ふん、確かに反応は良く成っていたが、貴様自身が疎かに成ってる事に変わりはない。最大数の聖典の扱いにもう少し馴れるべきだな。
頭が痛いからと敬遠しててはいつまで経っても変わりはしない」
リルフィンがそう言うと、白いトゲトゲが一杯付いた剣は紐の様な物に解けて行き、ローブの中へと戻っていったよ。ええ~、なんなんですかアレ? やっぱり髪の毛とか? リルフィンはもしかして、シクラと同じ系統の攻撃をするのか? ようは髪の毛を使うと言う感じの。
もしかして飛空挺の時の攻撃は髪の毛を飛ばしてた? どんだけ丈夫で強力な毛を持ってるんだよと言いたいけど、あり得ないことも無いと思う。
「親切にどうも。頭の隅にでも置いててあげるわ」
一応、心にも無い礼を言うセラ。そしてセラも聖典を解除してその手に戻す。二人ともクリエの行動で気が削がれたみたいで引いてくれた形だな。もしかしてこいつ……それを狙って? ――ってんな訳ないか。
僕は池に落ちてたクリエを抱えて引っ張り上げるよ。
「たく、ほんとびしょ濡れだな。てか、貴重な水の中に落ちるなよ」
「えへへ~、はいスオウ飲んで良いよ」
そう言って脳天気に両手の平で掬った水を差しだしてくるクリエ。まさかこれを飲めと? お前が落ちた池の水を僕に飲めとそう言うことか?
「大丈夫、クリエ汚くないよ」
「いや、どう考えても汚いだろ。外を歩いてきたんだぞ! 既にこの水は汚水と化してるんだよ」
「あっはは~スオウは大袈裟だな~~そんな訳ないよ~」
あっけらかんと笑いながら僕の言葉をスルーするクリエ。くっ、コイツマジでこの水を僕に飲ませる気か。いや、さっきまでは仕方ないと思ってたよ。だけどもろにクリエ落ちたじゃん。ここが室内ならまだしも、外をおもいっきり歩いてきたし……抵抗感が増したよな。
「何が汚水よ。幾ら何でもそれは酷いわよアンタ。子供が一人落ちた位どうって事無いわよ。きっとクリエの方が綺麗に成ってるんじゃない?」
「お前……いい加減な事を……」
人事だと思いやがって。確かにクリエの光はさっきよりも強くなってるけど、それは表面にもこの水が付いたからだろ。綺麗に成ってるように見えるだけだ。
「たく、どうでも良いから早くしろ。私も暇ではないんだよ」
くっ……とうとうリルフィンまでけしかけて来やがったか。そもそもセラとリルフィンがぶつかった原因は僕がこの水を飲んでその効能の調査をするかしないかだったしな。それなのにリルフィンがわざわざ早くしろと言うことは、その行為を認めてくれたと言うこと……飲まない訳にはいかないじゃないか。
「あの~やっぱり私が飲みましょうか? 私はテッケンさん程スキル豊富じゃありませんし、それに大丈夫ですよ。クリエちゃんが落ちた水なら平気です」
そんな事を笑顔で言ってくれるシルクちゃんはマジ天使。だけどそれはなんかダメな様な気がする。シルクちゃんの優しさにいつまでも甘える訳にはいかないんだ。
「全く、どれだけ甘ちゃんなんだか。どうせここはLROなんだから泥水飲んだって現実に腹を下す訳じゃないのよ。覚悟決めなさい」
「ち……わかってるっての。飲めば良いんだろ、飲めば。シルクちゃんの気持ちだけありがたく受け取って起きます」
僕はそう言ってクリエが背伸びして差し出してる水を口に含んだ。小さなモブリの中でも更に小さなクリエの手だ。その手のひらに有った水なんてほんの微々たる量。一吸いでなくなった。実際この程度で大丈夫なのか? と思う量だ。
味は実際、普通の水かな。変に冷たいし、確かにちょっとしょっぱいかもだけど、水だな。さてさて体は光るかな。そう思って見てると、次第に体全体が薄く輝き出すよ。キタキタキターーー! って感じだな。
「どう? 変な感じする?」
「う~ん、別にそんな感じはしないな。体は楽かも。軽くなった? 気のせいかも知れないなこれは。とりあえずイクシードを発動させるか」
強力になってるかな? ドキドキだ。僕は両腰に差してあるセラ・シルフィングを抜くよ。そしてその言葉を紡ごうとしたとき、また頭に響く声が聞こえた。
【悲しい……悲しい子。どうかその運命を変えられたら……】
なんだか今一瞬、その人の姿が脳裏に浮かんだ様な気がした。この池に自分を映したその人の姿……それを見たような……
「どうしたの? さっさとイクシードしなさいよ」
「あ……ああ」
僕は気を取り直してイクシードを宣言。すると風のうねりが刀身を包み込む。これはいつもと同じ。だけど直ぐに僕は異変に気づいたよ。
「なっ!? っつ……これは!」
風のウネリが制御出来ない位に大きくなる。両腕が震えて、押さえ込むのに僕は必死だ。
「ちょっ……なんかヤバい感じするわよ。大丈夫なの?」
セラの言葉に返す余裕すら無いけど、一言だけ伝えなきゃ不味そうだ。僕は必死にイクシードを押さえつつ叫ぶ。
「ここから逃げろ!!」
その瞬間波打つ様に暴れ出した風のウネリが世界樹の枝葉を毟り折っていく。
「スオウ!」
「クリエちゃん、こっちに!」
シルクちゃんに引かれてクリエもみんなと共にこの場から離れてく。それでいい。だけどこれって……イクシードを制御出来ないなんて……今まで無かった事だ。どうなってるんだよ。
「言うこと聞けよこの野郎!!」
僕はどうにかしてイクシードを制御しようとするけど、どんどん風のウネリは巨大化してる。だから僕自身の体が支点に馴れずウネリに押されて浮くことに。
「ぬあああああああああああ!!」
「スオウ君!!」
地面のテッケンさん達が小さく見える位の場所まで体が持ち上がる。
「この野郎!」
僕は必死に腕を動かす。だけどその度にウネリは予想外の動きをみせて世界樹を傷つけていくよ。ヤバいこれは相当ヤバい状況だ。このままじゃいつ、クリエ達の場所を襲うかわからないぞ。
そんな事する訳にはいかない。そう思いつつも僕の体は空中でウネリに弄ばれる様にクルクルしてる。下からはリルフィンの怒った様なお声が聞こえるよ。当然だけど、悪気は全くないんだ。
くっそどうにかしないと。このままウネリが下に向いてる状態だと、世界樹がボロボロに――ってそうか!!
「下が不味いのなら、果てのない空に伸びてやがれ!!」
僕は一気に両腕を頭上へと振り上げる。下に……ウネリが阻まれる傷害があるから変な風に動こうとするんだ。だからそんな傷害が無い場所なら、ウネリはまっすぐに延びる筈。そんな僕の予想通り、ウネリはしなりを効かせて天高く、宇宙を突き進む。僕はホッと一安心。だけどそのとき、ウネリに再び衝撃が走る。ウネリの先を見ると、宇宙空間で何かにぶつかってる様な……僕は押されてようやく地面に足を付く。そして再び踏ん張るよ。進めないウネリはその場で膨らんでいき、そして――何かが砕ける音と共に宇宙の海へ伸び続ける。
第三百十二話です。
簡単なレベルアップアイテムの登場! って訳じゃないですよ、勿論。時間がないしこれで済ませようとかじゃないから。まあこれはキッカケみたいなものです。レベル制ではないけど、みんなのレベルアップは必須ですからね。
その為にみんな色々と考えてる訳です。まあどういう風になるかはわかんないけど、その時の為は遠からずきます。
てな訳で次回は水曜日に上げます。ではでは。