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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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あの頃の情景

 高校に上がって何カ月か経った時の事だ。世間ではLROが話題を攫っていた時期。僕の親友の秋徒もLROに魅せられた一人だった。

 ある日、秋徒は僕達にLROの事を話してくれた。普段は滅多に向こうの事をリアルに持ち込まない秋徒にしては珍しい事だ。僕と日鞠は勿論快く相談に乗ってあげるさ。それが親友って物だ。

 秋徒の相談はいたって簡単だった。それは気になる子に指輪をプレゼントしたいというものだ。

 その日は空に沢山の羊の大群が押し寄せ、澄みだした空気に季節の変わり目を感じるそんな日だった。白い校舎から照り返される日差しも柔らかくなり、緑から赤や黄色が目立ち出す季節。

 そんな風に僕が日本の風情に思いを馳せている時、後ろからなにやら情緒をぶち壊す声が聞こえてきた。


「ぐお~……ががが……むにゃむにゃ……ごあ~」


 ここ最近毎日である。迷惑極まりない。僕は一般的な学生より勉強をする方と言う訳じゃないけど、決してまったくしないわけでもない。

 テスト前とかにまとめて勉強をするタイプだ。そして今はテスト前な訳で僕は唯一の勉強促進期間をこの声に潰されてるというわけ。

 どう責任とるんだ。僕が遂に赤点の大台に乗ったらさ。そしたら補修という刑罰が待ってるんだ。ついでに教師陣の小言がよく降り注ぐようになるというオプション付きだ。

 この学校の教師達は今時珍しく熱血指導がモットーで誰かを見捨てるなんてしない。出来ない子には更に課題を、が当たり前だ。

 だから一回でも落ちたらしつこい。目が厳しくなるからね。良いことだとは思うけど我が身に降り掛かると思うと遠慮したい。


「ぐあ~……がががが、くが~……ううう……」


 ああ、もううるさいな。僕は後ろを振り返り、その頭に手を伸ばし髪の毛をおもいっきり引っ張ってやった。


「ぐが~ががが……ががががが! いってぇぇ!」


 奇声と共にそいつは目を覚ました。よしよし、これで僕の勉学を邪魔する奴は消え去った。ワックスで手がべたべたするしもう放すか。僕は髪の毛を掴んでいた手を放した。その瞬間に堅い物がぶつかった音が教室中に響く。 


「ぶべ!!」

「秋徒君、何やってるんだね君は。頭突きを鍛えたいのなら我が空手部に入りなさい」


 そんな教師からの注意で教室中で笑いが起こった。僕も笑わずにはいられないよ。だってまさか重力に従って勢い良く落ちるんだからね。起きたんじゃ無かったのかよ。


「スオウ……てめえ……」


 恨みがましい声が聞こえるけど気にしない。だって悪いのは秋徒で今のは不可抗力だよ。僕はこれっぽちもあんな事が起きるとは期待してなかったし、考えても無かったんだからね。

 目も覚めたみたいな秋徒だけどなんだか落ち着きがないな。今度は妙に椅子をガタガタしやがるんだ。コイツは僕に嫌がらせしかしないのか? 寝ても覚めてもさ。


「秋徒、うるせぇよ」


 僕は顔を少しだけ秋徒に向けて文句を言う。少しは落ち着けよ。すると秋徒はボケーとした顔を僕に向けて失礼な事を言う。


「今更、必死にノート取ったって何もかわらねーよ。ふぁぁぁ……」


 なんて事を……それは今の僕に言っちゃ行けないワード、ワーストワンだ。必死に言い聞かせてる『やれば出来る子』が消えちゃうじゃないか! 

 盲目した親か、言い訳しかしなかった奴らがあの時を思って吐く都合のいい言葉。でもさ、そう信じたいんだ。『やれば出来る子』良い言葉だよね。夢を見せてあげられるし、自分も夢を見続ける事が出来る。残酷で優しい言葉。誰もが一度は言われたことあると思う。


「そんなのやってみなくちゃわかんないだろ。少しでも加算されればいいんだよ」


 それで僕は赤点を免れる筈だ。いや、まあそこまで悪いわけじゃないけどさ、保険ってのは必要。


「……すぴー……」


 秋徒の野郎、再び眠ってやがる。僕は諦めのため息を吐いてノートを閉じた。意味ないよこんなもん。誰にも勝る事も望まずに安全線を引くだけの行為なんて何も向上するわけない。

 僕は空を走る羊達を見やることにした。

 授業合間の昼休み。日鞠も加わった三人で弁当を摘んでいる時にアギトは雑誌をめくりながら言ったんだ。


「なあ、指輪ってどんな意味があるかな?」


 んん? 唐突なその言葉に僕と日鞠は顔を見合わせた。秋徒は雑誌を見つめて独り言の様に呟いたから、それに応答していいのか一瞬分からなかったよ。


「指輪の意味? なんだっけ?」

「それは繋がりとか、輪廻とかじゃないかな? 後はやっぱり指輪は『好き』や『愛』を込めて贈るものよ」


 なんだか日鞠の視線が間近に迫ってるんだけど……何を想像してるんだよ。


「私はいつでもスオウの繋がりの一番前にいるからね」


 やめろ、僕の一番前に卵焼きを持ってくるな! そんな繋がりいらないよ。僕達のいつものそんなやりとりを傍目に秋徒は寝ぼけ眼を擦りながら雑誌を眺めている。


「どうしたんだよ。てか、指輪なんてどうするんだ?」


 僕の質問に秋徒は雑誌をこちら側に向けてくる。


「LRO……ライフリヴァルオンラインでさ、楽しい奴とあったんだ。そいつにちょっとな……」

「プレゼントね! そうでしょ秋徒?」


 秋徒の机に乗り出す日鞠。女子って恋バナが大好きだよね。だけど秋徒は頬を赤らめながらもそれを否定する。


「ち……違うぞ。別にそんなんじゃない。そんなんじゃないんだよ」


 じゃあ、何なんだよと言いたくなる挙動の秋徒。コイツがLROと言う完全なバーチャルシュミレーションゲームを始めてそろそろ二ヶ月くらい経ったかな?  

 世界中で話題をさらっているLROの優先権を取れたコイツは本当に幸運な奴だ。余りの嬉しさに日々オーバープレイで学校ではほぼ寝る事が日課になっていた。

 それもここ最近になって更に拍車が掛かったと思っていたけど、原因は女か。秋徒は普段プレイボーイ風に振る舞ってるし一人の女の子に……なんてあり得ないと思ってたけどそういう事か。


「おいスオウ! お前までニヤニヤするな! 何想像してるんだ!」


 秋徒の照れ隠しの怒声が飛んでくる。だけどそんなの気にしない。だって秋徒がね~へ~。


「それで、良い指輪があったのか? うん? 親友のよしみだから是非協力するぞ」

「勿論私も、秋徒を応援しちゃう!」


 僕達二人は秋徒を応援する事に決めた。実は最近ちょっと心配だったんだ。こいつが余りにもLROに入り浸るからさ。向こうの事は全然話さないし……でも今ようやく親友の口から聞けたのは恋の悩みって訳だ。

 僕は殆ど分からないけど、指輪選び位手伝えるさ。僕と日鞠は秋徒が見てた雑誌を二人で眺める。ジュエリーが一杯乗った、いわゆるファンシー雑誌って奴?

 見てるだけで目がチカチカするよ。プフゥ、これなんか秋徒の彼女には持ってこいじゃないか? 


「結構可愛いけど幼すぎるかな。イルカで作ったリングなんて水族館のお土産だよ」

「じゃあこっちはどうだ? おっかなさが良く出てると思うんだ」


 僕と日鞠はそれぞれ思い思いの指輪を探す。だって一体どんな子か……僕達は重大な事に気付いてしまった。


「お前等、なんだか異様に楽しんでないか?」

「そんな事よりお前の片恋相手はどんな子だよ? 情報なくちゃ、どれが似合うかも判断できないぞ」


 それは根本的な問題だった。とっても大切なこと。だけど秋徒はその彼女の情報を出そうとはしない。頑なにそれがナニだと認めたくないみたいだ。

 たく、往生際が悪いんだから。誰の目から見たってそう見える事間違いなしだよ。


「お前にだけは言われたくないなスオウ」


 なんだその台詞。さっさと白状しやがれ。逃がしはしないぞ。


「秋徒、その感情は恥ずかしい物じゃないんだよ」

「俺はお前を見てると自信が持てないぞ!」


 日鞠の言葉に秋徒は激しく言葉を返した。たく、贅沢な奴だ。ここまで親身になってくれる親友が二人も居るのに話せないのかよ。

 確かに日鞠の行動は犯罪めいてるから秋徒が自信を持てないのは仕方ないとわかるんだけどさ。犯罪者をもう一人増やしたくないし。

 日鞠はもう少し恥ずかしいと思った方が良い感じだな。いつか警察のお世話になりそうで怖いよ。

 窓の隙間から流れ込む風が雑誌をめくる。草木の青い匂いもそろそろなくなりそうだ。これは僕達の当たり前の優しい時間。

 その時、めくれた頁に僕らは目を引かれた。ちいさい写真だ。メインのジュエリーの端に控えめに乗っているその指輪が「良い」と僕らは思った。


「どうかなこれ?」

「うん、なかなかだ」


 僕と日鞠は同時に秋徒を見る。最後に選ぶのはやっぱり自分自身でないとな。他人に選ばせたプレゼントなんて価値半減だよ。

 それに秋徒には自信が必要みたいだし……僕達は秋徒の返事を息を整えて待つ。そして――


「良いなこれ。アイツに良く似合いそうだ」


 と言ってくれた。秋徒の目にはきっとこの指輪をはめた彼女が浮かんでるに違いない。そう言えばさっきの日鞠の発言を否定しなかったな。

 片思いをとうとう実感したか?


「違う、そんなんじゃないって言ってるだろ。たださ……喜ぶ顔がみたいだけだ」


 赤らめて視線をハズす秋徒はそれでも気付いてないと言い張るか。ふざけるな。それだけで十分じゃないか。

 でも所でずっと気になってたんだけどリアルの指輪をどうするんだ? 仮想空間には持っていけないよな? オフ会とかでその人に渡すのだろうか。


「手に入れたイベントアイテムがあるんだよ。貴重な奴。それを使えば完全なオーダーメイドの指輪が作れるんだ。だからその参考にな」


 なるほどね。そんな事も出来るのか。もう出来ない事なんてないんじゃないのかLROは。秋徒は何度も確かめるようにその写真を指でなぞっている。


「よかったね。きっと喜んでくれるよ」

「ああ、そうだといいな」


 秋徒の染み入るような声が静かに響いた。こいつのこんな表情は初めて見た気がする。でも一抹の不安もあるよな。こいつがこんな顔するほど好いてるであろう彼女はLROの中の人って事だ。だってそれって……


「なあ、秋徒。LRO……向こうで見えてることは幻なんだぞ。分かってるよな」


 そう、LROは仮想だ。その秋徒が思いを募らせてる相手だってその姿形は作り物なんだ。こいつ最初に言ってたよな。「リアルとゲームの境界線ははっきりしてる」って。

 だけどそれは本当にそんなにはっきりとしてる物だろうか? 僕は知らないけどLROのフルダイブシステムと言うのは凄いらしい。

 その仮想世界はこちらとなんら遜色なんて無く、むしろリアルではおきえない幻想的な現象に魅せられてしまう人は少なくないと聞いた。

 『フルダイブ』の危険性はLROが発売されて日夜、テレビのニュースでいろんな人達が言っている。人々の誰もが思う『if』を叶えた世界……それがLROライフリヴァルオンラインだ。


「そんなの分かってるさ。でも、LROを体験してないお前には分からない。伸ばした腕が、誰かと向

こうの世界では繋がる奇跡……みたいなものがさ」

「なんだそれ?」


 なんて臭い事を言いやがるんだ。確かにリアルは科学の進歩と共に人間の関係性は希薄に成っていると昨今叫ばれてるけど、それが今の最先端のバーチャルリアリティシステムでは反対の事が起こってるって事か?

 それは確かに僕には理解しようがないけどさ。


「お前にとってLROは幻なんかじゃ無いってか」

「少なくとも、見かけとかじゃない物はそうだな」


 この時の僕にはそれがどういう事なのかいまいち分からなかった。結局、現実とはここ意外あり得ないのにそんな所に求める物があるなんて現実逃避だろ。みたいなネガティブな感情だって抱いてた。

 だけど同時にこいつがここまで言う、LROてのに興味を持ったのもこの時かも知れない。この時の秋徒は本当に真っ直ぐな恋する男子だったからな。

 こいつが見てる世界を見てみたいと思ったのかも知れない。


「スオウは見た目とか気にしす気だよ。私は分かるかな。きっと世界平和の礎になれる考え方だよ」


 なんだか日鞠がいきなり世界平和を語りだしたぞ。何考えてるんだこいつ。


「何言ってんだよ日鞠?」

「みんなが繋がれて誰かが誰かに手を伸ばしていけば世界平和は完成すると思うんだよね。だからまずは私たちが晒しあおうよスオウ。お風呂と言う夢の場所で!」

「世界平和の前に変態の国が成りそうだ!」


 結局日鞠は混浴狙ってるだけか。高校生なんだからそこら辺は弁えろよな。僕だって男で日鞠は女なんだからさ。


「だから私はもっともっとそれを感じてほしいだけだよ」

「だから見せたいのか? どんだけ自信あるんだ。露出狂かよお前は」

「見せるのはスオウだけにだから安心してね」


 ああ~もう、頭が痛い。女の子に免疫が無い僕がこいつの相手をするのは荷が重いよ。誰か引き取ってくれないかなマジで。


「本当にそんな事思ってるのかよスオウ」


 唐突に秋徒がそんな事言った。どう言うことだよ。


「お前は本当に指輪でも買ってやれって事だよ」

「ええ~スオウ、私に指輪買ってくれるの? 婚約? 結婚? どっち?」


 ふざけるな。秋徒が変な事言うから日鞠がトリップしてるじゃないか。こいつにこれ以上機能障害を併発させるなよな。指輪なんて贈った日には両親にまで報告されて三日後には結納だよ。

 僕は結婚風景を思い浮かべてトロケるような表情に成っている日鞠を必死に説得する。どうにかして別の物に最悪しなくては。


 

 結局、放課後を使って僕は日鞠へのプレゼントを贈ることになった。指輪はなんとしてもここで回避しなくちゃいけない。


「それじゃあ踏ん張れよスオウ」


 そう言って校門前で僕達に背を向ける秋徒。協力してやったのになんて奴だ。一刻も早くLROに入りたいって感じだな。


「じゃ~ね~秋徒。大事なのは気持ちだよ」

「おう! そっちも良いもん買わせろよ」


 なんて事言いやがるんだアイツ。折角UFOキャッチャーのヌイグルミで済ませようと考えてたのにそれじゃ許されなく成るじゃないか! 

 本当に楽しそうに人に迷惑かけやがって……


「振られろ! お前なんてなぁ!」


 僕の精一杯の罵声に秋徒は腕を上げるだけだった。その背中は直ぐに小さくなり道を曲がって消えていった。


「じゃあ行こうかスオウ」


 日鞠がおもむろに僕の手を取ってくる。やばい、胸がドキドキだ。でも従っては行けない。これは破滅への誘いなんだ。


「あ~そう言えば今日は部活のミーティングが」

「テスト期間一週間前は部活全面禁止だよ。心起きなくデートが出来るね。そもそもスオウは帰宅部でしょ」


 ダメだ。瞳をこれ以上無いくらい輝かせた日鞠には何を言っても通じないだろう。ああ、もうしょうがないな。今回のテストは赤点覚悟するか。

 くそ、これじゃ秋徒の思惑通りだな。でも結局の所、僕は日鞠に弱い。いつも世話されてるし……この後はきっとスーパーで夕食の買い出しだな。

 僕がまだLROという世界を知らない時の日常は毎日こんな物だった。別にLROを知ったからって何が変わった訳でも無いけど僕の世界は広がっただろう。



 だけど次の日から三日ぐらい秋徒は学校に来なかった。中間テストも初日は受けず補修確定したんだ。その原因はLROだったと何となく僕達は分かっていた。

 だってそれからアギトはLROに行くのを抑えたみたいで授業中に寝る回数は減った。それでもLROはしてるみたいだし考え過ぎかなとも思ったけどこの質問に秋徒は言葉を濁らせるだけだった。


「あれからどうなったんだよ? 指輪渡したんだろ」

「ああ……まあ、もういいんだよそれはさ。結局俺はヒーローには慣れないって分かった」


 僕と日鞠は首を傾げた。日鞠が言うには上手く行かなかったらしいからこの話はこれ以上突っ込むなとの事だ。僕もそれくらい分かるけど……少しは何か言ってもいいだろ秋徒。向こうを知らない僕達に言っても何も出来ないって思ってるって事か。

 これからしばらくして秋徒は僕を前より強引にLROに誘う様になった。そして僕は拒み続けていたそれを受け入れた。これはもしかしたら秋徒からのメッセージじゃないかと思ったんだ。

 それに向こうを知ることでこいつは何かを話してくれるかも知れないとも思った。あの時の……指輪を見つめるお前は本当に輝いていたからさ。

 校舎に紛れ込んだ猫に楽しそうに餌をやっている秋徒の顔がいつからか仮面に見えるようになった僕はそれを親友として外したいと思った。

 あの後でもLROをやめないのは何か理由があるからだと感じてたんだ。もしかしたら秋徒は何か違うキッカケを求めて僕を誘ったのかも知れない。

 でもそれでもいいんだ。僕だってこの頃にはLROに入る日を待ち遠しく思っていたんだから。



「あのアイリって子に指輪やったんだな」


 会議は騒然としたなかで取り合えずやることを決めて終わった。そして通された部屋で一時休憩中に僕はアギトを連れ立って城のテラス部分で話してる。


「なんでそう思うんだよ」

「あの時のお前の態度見てたら誰だって分かるだろ」


 当然だ。何かあったのは直ぐにわかるよ。するとアギトは顔を逸らして呟く。


「スオウの癖に……覚えてたとはな」


 とかなんとか。失礼な奴だな。僕だってそのくらいの機微を感じる感性は持ち合わせてるし、そこまで頭緩くないよ。


「まあ、何があったか知らないけどさ。大丈夫かこの国?」


 さっきの会議でもエルフ以外の種族の僕らに対してあからさまにイヤな感じを放っていた。自分達は神に一番近い種族……そう思っているとシルクちゃんが教えてくれた。

 LROの設定としても一番古くから繁栄してたのはエルフとなってるらしいからね。でもそんなのは設定の一部でしか無いはずなのに……ここの一部の狂信者ってのかな? その人達は本気でそう思ってそうだ。

 体は心を表すって奴か。違う体に僕達の心は少なからず影響を受けてるのかも知れない。


「大丈夫……だとは思うけど。まさかアイリの周りがあんな面子で囲まれてるとはな」


 アギトは頭を抱える様にしてる。まあ、その気持ちは分かるな。アイツ等は気に入らなかったよ。心配になって当然だ。


「どうするんだよアギト。お前このままでいいのか?」


 これはキッカケだろ。望むも望まないにしても訪れた二人の邂逅じゃないのか? アギトは口を紡ぐ。ヒーローには成れないとあの時こいつは言ったな。でも僕は思うんだ。


「好きな人を助ける為にヒーローになんて成る必要が有るのかよアギト。お前の思いは変わってないんだろ。なら這いつくばってでもその場に居てやれよ」


 どんなに蔑まれても、どんなに罵倒されたって、どんなに格好悪くたって……離しちゃ行けない物がある。それをお前なら分かってる筈だし、知ってるだろう。

 僕の知ってるアギトなら、確実にこれを実行する奴だ。


「あの頃と言ってる事違うだろスオウ。幻だって知ったんだよ。この思いもさ。ここを現実として本当に感じてるのはお前とセツリだけなんだよ。だから許されるのはお前達だけだ」


 アギトの言葉は僕の心を落とすのに十分だった。なんだってこいつ……


「幻なんて、お前が言うかアギト! もう僕は知ってるぞここを! だからお前があの頃に感じてた思いもわかる。言ってやろうか! ここは幻でも、気持ちや思いはお前の物だ!あの頃お前はそう言った。そう信じてただろうが! 分かってる癖に格好付けるなよなアギト!」


 アギトは明後日の方向を向いて拳を握りしめている。今にも飛んできそうだ。だけどそれが行われる前に僕達は遠ざかる足音に気付いた。

 僕はその足音を少しだけ追ったけど影も見えなかった。でも誰かは分かる。柱の裏には溜まった滴があったからだ。


「アイリ……」


 小さく呟くそんな声が僕には聞こえた。

 第三十一話です。

 三人の学校での事は書きたい事でした。日常って奴も見せれたらキャラとして深みでも出るかなと……どうだろ? 見せ方次第かストーリー次第ですよね。上手く三人のリアル感なんて物が出せてたら幸いです。

 それにようやくアギトの話で気合入りますね。この話はなんだか長くなりそうです。見捨てないで優しく見守ってくださると幸いです。久々のリアルはなんだか書くの大変でした。

 次は絶対バトルの筈です。想像の通りなら。また遅れ気味なので頑張ります。

 感想とか評価とか随時受け付けてます。感想なら絶対に返信するのでよろしくです。ではまた明日。

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