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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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近くて遠い場所

 落ちかけたクリエを引き上げる僕。本当に本当に……本当に本当に本当に本当に本当に心臓に悪かった!! 何やってんのこいつ? こっちがショック死するかと思ったわ!

 まあなんとか無事だったから良かったけど、はしゃぐクリエの気持ちもわかるしね。そしてここにはクリエが目指す場所に一番近い場所。それにクリエも気付くよ。


「あわわ~あわ――!!」

「クリエ!」


 僕は何とか踏みとどまってたクリエの手を取る。そしてその小さく軽い体を引っ張り上げてその場に尻餅を付いた


「はぁはぁはぁ……このバカ!! もっと気をつけろ!」

「ふぇっ……ぅぅ……ごめんなさい」


 僕が本気で怒鳴ったからか、クリエが涙を溜めて謝った。てか、マジでビックリしたよ。今までで一番の衝撃だったかも知れない。

 だって……今のは心臓に悪すぎる。まだ心臓がバクバクしてるよ。


「本当に……まぁ良く無事だった」


 僕はそう言ってクリエをギュッてした。ただ怒鳴るだけでもなんか……だから、心配したことと、無事なのが嬉しい事、伝えるにはこれが良いかなって。


「うん……ごめんねスオウ。だけどここって……街?」

「ここは世界樹の木の部分なんですよクリエ様。リア・レーゼの街はこの下にあります。きっと下にも行けるのでその時はこの街の素敵な場所を案内して差し上げます。ですけど、一番の丸秘スポットはここな訳ですけどね」

 そう言って仲居モブリさんはウインクするよ。まあ確かに下の街にここを越える何かがあるとは思えないよね。一番のスポットに真っ先にくるって、これ以上の期待が出来ないって意味でダメだよね。

 まあ遠目で見ただけだけど、下の街も綺麗そうだったよ。


「下……それってこのおっきな丸いの?」


 そう言ってクリエは僕の腕から出ようとしながら首を伸ばすよ。こいつはまた……さっき言ったばっかりじゃん。僕はしょうがないからしっかり抱き抱えたまま下を覗ける用にしてやるよ。


「うほほ――! さっき落ち掛けた時も見たけど、スッゴい綺麗だね!」


 興奮気味にそう言うクリエ。てか、あんまり暴れるな。ヒヤヒヤして心臓に悪い。


「そうですね。ここから世界を見てると、私達の世界がどれだけ美しくて愛おしいか、それを確認できます。クリエ様、ここは世界で最も願いが届きやすい場所なんですよ」

「願いが届きやすい?」

「ええ、ほら下だけじゃなく、上も見てください。満点の星空です。ここは星々に近いので、神様が聞き易いんですよ」


 そう言われたから今度は「上上!」とうるさいクリエ。てかさっきハシャいでたのはこの星空に感動してたからだろう? わかってる癖に良くそんなに興奮できるな。いや、まだ興奮が続いてるって事か?

 僕はクリエを抱えたまま、今度は仰向けに寝るよ。立ってみるよりさ、こうやった方が星空って堪能出来るからね。そしたらなんか、僕までちょっと感動。


「おお! なんか思ってたより凄い」

「いつも見てる星空と違う感じがするよスオウ。なんだか丸くないし、吸い込まれそうって言うか」


 確かにクリエがそう言うのもわかる。まさにそんな感じだよ。星々が離れてる闇の部分とか、なんだかマジで飲み込まれそうな感じ。

 それに一番はやっぱり丸くないんだよね。それは星の外側に僕達が居るって事なんだろうな。これは新鮮だ。でもだから感じる恐怖が「吸い込まれそう」と感じるのかも。


「そうだ!」


 いきなりそう言ったクリエは、突然僕の腕を解いて胸の辺りに立ち上がる。なんだなんだ?


「ねぇ、ここは空なんだよね? だったら月にも一番近いはずだよね」


 あっ……と思った。確かにクリエならそれに関心あるよな。ずっと行きたいと思ってた場所。そこに一番近いのがこの場所なんだ。クリエはそう言って人の上で月を探してる。

 せめて降りてくれないかな。なんか屈辱的なんだけど。てか、月らしい物体は見えてないと思う。だって月なんてあったら一発で分かる筈だろ。

 距離が遠くの星とは違うんだからな。


「今は星の裏側にあるのでしょう。まだ見えませんね」

「それじゃあ待つ! クリエは月に行きたいんだもん。これだけ近かったらジャンプすれば届くよね!」

「それは……」


 いやいや、流石にそれは無理だろ。仲居モブリも困った顔してるぞ。別に気を使わずにはっきり言ってやれば良いのに。しょうがないから僕が直球でクリエにかましてやるよ。


「行ける訳ないだろ。お前は自分の跳躍力がどれだけあると思ってるんだ?」

「ちょうや……ん? そんな事よりクリエ知ってるもん。こういう所ではフワフワ跳べてクリエのジャンプ力は三倍増しになるんだよ!」

「お前……それはどこで手にした知識だよ」


 なんで限定的に三倍なの? 宇宙空間では三倍増しがデファルトなのか? どっかから赤い彗星が落ちてくるの? まあ宇宙空間なら重力の縛りは無くなるだろうけど……今さっき下に落ち掛けたの忘れたのかコイツ。きっとまだこの星の引力下に僕達は居るんだろう。

 だからフワフワもきっと跳べないよ。


「そんな! こんな星に近い場所に居るのに行けないなんて……」


 ハシャいでたクリエが僕の胸辺りに腰を下ろす。いや……いい加減マジ退けよ。僕がこの態勢から動けないじゃないか。何故に僕は地面と同化してないと行けないんだよ。

 だけど落ち込んでるクリエの姿を見ると、なんだか言えないし……しょうがないから口を動かすことに。


「ここじゃあまだ行けなくても、必ず連れてってやるから安心しろ。どうにかしてやるさ。必ずな」


 なんの保証もないけど。けど、実際僕とクリエは既に一蓮托生みたいな感じだと思うんだよね。きっとこの物語のどこかで金魂水を使う時がくるはずだ! と願ってる。てか、このルートが外れだと、僕が生き残る未来はないし。

 やってやるさ。例えその目的地が月でもさ、LROなら月までも行けそうな気がする(何となく)。


「本当に? クリエの願い、スオウは叶えてくれるの?」

「前からそう言ってるだろ。どこまでも付き合ってやるってさ」


 僕がそう言うとクリエは胸に頬をすり寄せてくる。なんか機嫌が戻ったみたいだな。僕はクリエを支えて体を起こす。目の前に広がる闇に浮かぶ、星の美しさ。雲が動く様とか、この星が生きてると思わせる物だ。

 そして空を見るとどこまでもどこまでも輝く星が見える。本当にこのLROって奴はどこまで続いてるのかな? 途方も無く思える……けどだからこそ、どんな可能性だってあるんだって信じれるんだ。


「では、そろそろ戻りましょう。みなさんお待ちの筈ですし、食事も用意されてますよ」

「食事! ご飯減った!!」


 おかしい言葉を気にもせずに僕の腕から飛び出たクリエは、急いで鳥居の方へ走る。なんて現金な奴。まあずっと眠ってたから、お腹減ってるのは当然ではあるけどね。


「ほら、二人とも急いでよ!!」


 そう言って待ちきれない位にソワソワしてるクリエ。その場でジャンプして僕達を急かすよ。


「たく、アイツは……」


 僕はそんな文句を呟きつつも歩き出す。やっぱりなんか安心なんだ。眠ってて大人しかったクリエもある意味良かったけどさ、やっぱりクリエはこうでないとと思う。誰かを無邪気に振り回すのがらしいって言うか。

 僕達はそんなクリエと共に、アトリエへと帰還します。



「遅かったわね。ほら、偉大な私に言うことがあるんじゃなくて?」


 アトリエに付いて通された部屋は最上階じゃなく、なんだか大きな和室。宴会場みたいな場所な訳だけど、その一番奥のモニターに布越しの姿だけが映ってるローレの第一声がそれだった。

 なんかこう……辟易するな。たく、自分で言わなければ、本当に良いのに。自分の評価を下げてる事に気づけよ。


「へいへい……流石の姫御子様のお力のおかげで無事、クリエはこの通り目を覚ましたよ」


 僕は感情を込めずにそう言ってやるよ。お望み通りの言葉だろ。


「言い方は気に入らないけど、まあ今は許してやるわ。それよりもこうやってみると、その子にそんな力があるとは思えないけどね」

「それはそうだけど、事実だろ。とにかくこれからどうするかだ」


 僕はそう言ってクリエの方を見る。僕がクリエを目覚めさせて連れ帰った今は、みんながその目覚めに沸き立ってる状態。そんなみんなに囲まれて、クリエはニコニコ無事の報告中。

 そう言えば今更だけど、アイツあの社の中で起こったことは覚えてないみたいだ。寝てたからって事なのか……それともアイツにとっては夢だったからなのか……とにかくあそこで起こった事も一応伝えて、ローレには話して貰う事があるな。あの場所の事。


「まあ、今は少し休みなさいよ。あの子の事もあるしね。楽じゃ無かったでしょ? 連れ戻すの。食事の後にこれからの事は話しましょう」


 そう言ってプッツンと画面は無くなったよ。なんかただ早く飯を食いたいだけみたいな感じだったような……まあいいけど。

 そう思ってると、どこからか「グルルルッギュル」ってな感じの雄叫びが聞こえた。なんだ一体?


「えへへ、お腹の虫さんがご機嫌斜めみたい」


 そう言って照れ笑いしてるのはクリエ。今のが腹の虫とか、お前のその体の中には何が存在してるんだよ。なんかもの凄い音がしてたぞ。


「ふふ、目の前の料理があるのに、私達が構ったせいで我慢させちゃったね。スオウ君、お話が終わったのなら、一緒に食べましょう」


 そう言ってシルクちゃんが呼んでくれる。まあまずはこの食事を終わらせないと行けないみたいだし、一息付くためにも堪能するかね。

 僕は適当な所に腰を下ろすよ。すると何故か僕の膝の上にさも当然の様にのっかってくるクリエ。


「おい、何でそこに来る? 邪魔なんだけど……」

「ここが一番落ち着くから~」


 そう言って目の前の料理に手を伸ばすクリエ。おいおい、可愛い事言ってくれたけど、行動は卑しいぞ。僕は直に手づかみしそうだったクリエの手を取り合えず止めた。


「たく、別に良いけどとりあえず直で取ろうとするなよ。箸使え、箸」

「ええ~、箸って苦手なんだもん」


 ブースカ頬を膨らませてそう言うクリエ。たく、ワガママな奴だな。そう思ってると、仲居さんがクリエ用の箸を用意してくれた。なんかチッチャくてキャラ物の奴だ。


「可愛い!」

「それは良かった。お食事は楽しくしないと行けないですからね」


 そう言って飲み物を置いて出ていく仲居の人達。なんか至れり尽くせりだね。そう思ってると、他のみんなもそれぞれ思いの場所に、僕の両サイドにはシルクちゃんとテッケンさん。正面にはセラで、その両側に鍛冶屋とノウイ……までは良いけど、何で一番の上座っぽい所にリルフィンが? てか、僕たちに混じって飯食う気かよコイツ。


「誰――?」

「私の事は気にするな」


 クリエの疑問に答える事無く、リルフィンは一人で「いたたぎます」をして箸を動かし出した。客に対する気遣いがないねコイツ。まあ元は敵として出てきたし、客の対応されてもなんか違うけど……しょうがないからクリエには僕から説明しといてやる。

 そこまでコイツの事知らないけど、とりあえずで一応な。


「そいつはリルフィンだよ。ここリア・レーゼの姫御子様の右腕みたいな奴だな。それなりに偉い奴らしいぞ」

「ふ~ん、でもなんか怪しいよ。服汚いし、せめてその黒いローブは脱げばいいのに。なんだかテンション下がっちゃうね」


 初めて会った奴に対して、随分な言いようだなクリエの奴。だけどリルフィンは聞いてないのかそれとも耐えてるのか、進む箸を止めることはない。


「良いじゃないですか、ここが彼のお家なんですよ。自分流で食させてあげましょう。それよりもご飯の前にはちゃんと頂きますをしないとダメだよクリエちゃん」


 横からシルクちゃんのお姉さんみたいな言葉が入ってくる。うん、やっぱりシルクちゃんが隣だとなんだか安心するね。お世話好きみたいだし、クリエの事何かと構ってくれる。実際僕は鬱陶しく思ってるから、ホント助かる。

 クリエもシルクちゃんの言うことは聞くしね。お互い好き合ってるよ。ちゃんと「は~い」と言ってくれたクリエに対して、シルクちゃんはにっこり笑顔でこう言うよ。


「はい、それじゃあ両手を合わせて『頂きます』」

「いただきま~~す!!」


 そしてそんなシルクちゃんとクリエに続いて僕たちも頂きますして食事は始まった。結構豪勢な料理だよ。日本を意識してある国だからか、なんか和食っぽい。懐石料理って奴かな? まあLROだからそこら辺は謎だけど。

 味は流石に街の代表も食す物だけあって美味しいよ。だけど実際、LROでこういう食事って取らないんだけどね。食事って概念って言うよりも、戦闘に入る前の補助魔法的な感じ? 手軽に口に入れて、心と体を満たすみたいな。

 それにLROでの本格的な食事は推奨されてないしね。満腹中枢を刺激するおかげで、LROで食事してリアルでは食べない『疑似満腹ダイエット』なる物が流行ったからね。

 そのせいで過度の栄養失調者が続出したんだ。リアルの体に還元されるエネルギーを何も取らずに、頭だけは腹一杯と感じるんだから、確かにダイエットには最適だけど、やりすぎるから問題になるんだよね。

 まあだからこそ、LROの街にはカフェとか一杯あるけど、食事所って奴はないのだ。まあ居酒屋とかならあるけどね。

 祝勝会とか開くために、そういうのはある。それに逆にそれを利用も出来るしね。実際、LROなら未成年でもアルコールが飲める。法律上問題ないです。

 なんせ妄想と一緒だからね。そこまで法律は規制出来ないのだ。まあだけど、リアルよりはお高めに設定はしてあるよ。

 でも大人と同じ条件で子供も稼げるし、どこまで意味あるかは謎だけど。高くすることで、特別な時しか行けなくしてあるってのは有効ではあるかな。まあ僕は行ったこと無いけど……だって色々と僕の場合は後が大変で……そんなのに参加できないんだよね。

 確か、アルテミナスの時だってやったって聞いたけど……僕、入院してましたから!! 勝利の美酒の味を知りません。そもそもLROに来て、こんな感じに食事を取ること事態初めてだな。こんな何も補助効果とか気にせずに、ただ楽しく食事だけをするって……変な感じだ。

 これで浴衣姿とかだったら、完全に旅行だよね。冒険とは言えないよ。


「スオウ、アレも食べたい!」

「ん? へいへい」


 僕はクリエの指定する物を小皿に取り分けてやる。その間にも目の前の料理を凄い勢いで食べてくクリエ。コイツのこの小さな体のどこに入って行ってるのか疑問だな。

 そう思ってると、勢い良く頬張りすぎたのか、僕の膝の上で盛大に噎せるクリエ。


「ゴホッ!? ケッホックッガッ……」


 ヤバいヤバい、かなり苦しそう。そう思ってると、隣からシルクちゃんが素早く水を差しだしてくれる。それを勢い良く掴むと豪快に喉に流し込むクリエ。小さいのに行動だけはパワフルな奴だな。


「んぎゅ……ごく……あぐ……プッハァ!! 死ぬかと思った!!」

「僕は戻されるかと心配になったよ」

「ひど~い! もっと心配してよスオウ! クリエはクリエは心外だよ!」

「たく、食事の時までお前の心配なんてしてられるかよ。飯は逃げないんだから、もっと落ち着いて食え」


 なんだかさっきから一人争奪戦でもしてるかの様な食いっぷりだったからな。何を慌てる事があるんだよ。


「逃げちゃうよ! てか取られちゃうよ! セラお姉ちゃんに!」

「は? お前なセラがそんな大食漢な訳がないだ――」


 クリエの言葉に目の前のセラへ目を移す僕。するとそこにはこちらをジト目で見据えつつ、目にも留まらぬ早さで箸を動かしてるセラが目に入った。

 おいおい、なんかずっとモグモグしてるぞ。モグモグしてるのにそれでも口に食事を運ぶから、両頬がハムスターみたいになってるよ。


「ふふ、セラちゃんは可愛いね」


 そんな様子を微笑ましく見てるシルクちゃんの感想です。だけど僕にはそうは思えない。てか完全に「何やってるんだ?」状態だよ。可愛いとかじゃないよね。明らかに目が逝っちゃってる、


「おい、セラ……お前どうしたんだ?」


 てか、何で僕を睨んでるの? 


「別に……睨んでなんかないわよ。私は食事を吟味してるだけ。思い上がらないでよね」

「そんなに気に入ったんだ……ここの料理」


 なんか今一信用できない答えだな。だって、全然視線が料理に注がれてねーよ。ずっとこっち見てる。なんだろう……また何かやらかしたっけ? 僕はそんな事を思ってるとセラの言葉に左側のノウイが反応するよ。


「セラ様セラ様! そこのお団子っぽいの美味しいっすよ! とってあげましょうすか? それともそれとも――」


 ノウイの奴、頑張ってセラの好感度でも上げようとしてるのか? まあ殆ど視線も向けて貰えてないけどね。


「――これなんて最高に美味いっすよ!!」


 いや、ただ単に楽しんでるだけかも……結構お気楽な奴だったか。てか、セラの両サイドはハッチャケてる感じ。特に右側の鍛冶屋とか、既に顔赤いし。


「酒だぁ~~! 酒もってこ~~~い!!」


 まさか本当にこんな事を叫ぶ奴がいるなんて……完全に出来上がってるじゃねーか。酔っぱらった鍛冶屋は酒を片手に、リルフィンへちょっかい出してるよ。

 一応客に当たるからかリルフィンも強引に引きはがしたりはしならしい。だけど黙々と食事を続けるだけのリルフィンに鍛冶屋はしつこく酒を勧めてる。

 やっぱ酔っぱらいはうざったいな~とか思ってる間に再びノウイを見ると、全然反応してくれないセラのせいで、ノウイまで酒を煽ってた。

 けどそれにさえ、微動打にしないセラ。既にそっち側は異空間に思える様相を呈して来てるぞ。


「はい、クリエちゃんあ~ん」

「あ~ん。モグモグ……美味しい! もう一個!」

「はいはい、可愛いねクリエちゃんは」

「えへへ~シルクお姉ちゃんもとっても可愛いよ!」

「ありがとう。はい、あ~ん」

「あ~~ん」


 なんだこれ!? 前方はカオスだけど、こっちの癒し空間度がハンパない! この二人は僕を萌え殺す気か? この位置からシルクちゃんの「あ~ん」を聞くと、あたかも僕に言ってくれてる様な錯覚に陥れるな。

 僕はこっそりと目を閉じて、シルクちゃんの声を聞きながら料理を口へと運ぶ。するとなんか喉にプスってする痛みと共に、歯にはガリッと言う何とも前衛的な食感が伝わってきてこれはこれでなかなか――な、訳あるかぁ!?


「ゲホっ、ゴホッ!!」


 僕は目を開けて口に入った何かを吐き出す。すると何故かそこにはお箸が一本ある。まさか僕が食べたのはこの箸だとでも言うのか? ――って、んな訳ないから! 自分の箸を誤って噛んだとかでも当然ない。

 これは明らかに誰かからの攻撃……嫌がらせ。そしてそんなのが今この状況で出来るのは一人しかない。僕は目の前のセラに視線を向ける。するとアイツは、悪びれる事も隠す事もなく、一本になった箸で皿に載ってる食事をブスブスと指してるよ。


「………………」


 文句言おうと思ったけど、なんかその光景見てたら声が出なくなった。あれ~さっきの箸が刺さったダメージが案外大きいぞ。やっべ……なんかスッゴいセラが怖い。こんなに病んでたっけ? 一体、僕がクリエを目覚めさせてる間に何が?


「テッケンさん、何かセラの様子おかしくないですか?」


 僕は一番の常識人で、信頼が置けるテッケンさんに相談することに。やっぱりこの人しか僕には頼る人がいないよ。なんか黙々と食事してたけどさ、お願いします。助けてください。


「そうかな? アレじゃないかい。クリエ様が帰ってきて、それにスオウ君が掛かりきりだから寂しいんじゃないのかな?」


 またまたテッケンさんまでそんな冗談を! セラが寂しいとか意味不明だよ。てか、その程度で不機嫌になって貰っても困る。なんだかカオスのこの状況、辟易してくる。楽しい食事? になってるのかな?

 第三百八話です。

 皆さん忘れてるかもしれないですけど、クリエの目的地は月なのです。まあ安易に月って訳じゃないかも知れないですけど。これからスオウ達は一応そこを目指す事になります。

 それしかないしね。それがきっと全てを解決するために必要かな? とスオウ達は信じてます。

 てな訳で次回は火曜日に上げます。ではでは。

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