飛び続けるは他が為に
甲板に現れた奴は、本当に奴なのか? あの時シルクちゃんが封印したアイツなんだよな? だけどあの魔法は破れない筈が絶対だと言っていた。なのに奴はそこに居る。
だけど中身を知らないから、僕は最後まで疑うよ。だけどそんな思いはあっけなく崩れ去る。甲板に現れた奴は見えない力でバトルシップを吹き飛ばした。それはまさにあの時の奴の力。本当に封印魔法から自力で抜け出しって事か?
「え!? えええ!?」
僕は何度もクリスタルと甲板に現れてる奴を交互に見る。だって……え? どうやって? 確かそこいらの拘束魔法なんかよりもずっと強力な封印魔法で閉じこめた筈だったろ。
それをこんな何事も無かったかのように外に出てこられても反応に困る。だってシルクちゃんも出られないって言ってたじゃん! あの子が嘘を言うはずないし、それに彼女の魔法の腕は折り紙付きだぞ。
あんな簡単に外に出れるなんてあり得ない。一体どういう事だ? 中に残ったローブが鍵なのかな?
「何をする気だアイツ……」
もしかしてここでアイツにまで暴れられると手の付けようがないんだけど……それになんだかみんな唖然としてるし。バトルシップからの攻撃で甲板に張り付け状態なのも大きいな。誰も奴に近づこうとしないもん。
バトルシップからの音響爆撃で、耳を押さえて甲板に伏せるしか出来ない中、奴だけは何故か悠然とその場に立ってる。
まるで何事もないかの様にだ。そこに現れただけでも異様なのに、周りに全然影響されてないとかどんなオカルトだよ。
動力炉に届いたらしい攻撃のせいで推進力が落ちつつあり、さらに四機のプロペラも大破。折角ここまできたのに、バトルシップのチート性能のせいで、セラが我が身を犠牲にして撃った収束砲まで無駄にされた。
そして更に今は、やっとの思いで捕らえた筈のアイツまで解放されてる。状況が益々悪くなって行ってる気がする。
セラの奴に「起きたときはリア・レーゼだ」とか言ったけど、現状がそれを許さなく成ってきてる様な気がする。
「もうダメだあああ――!」
そんな情けない声を出すのは、縛られたままの僧兵。それを言うなよなって感じで僕は睨み付けてやるよ。思ったって口に出すなよ。ここまで頑張って来たんだぞ。
「お前たちのせいだ! こんな所で死にたくなんか無いのに……」
そう言ってポタポタと床に涙を垂らし始める僧兵。死にたくなんか無い……それは僕だって同じだ。まあ確かにただ巻き込まれただけのこいつにとっては泣きたくなる状況だよな。
本当なら気の利いた言葉でも返してやりたい所だけど、いかんせん僧兵に構ってる場合じゃない。状況は絶賛絶体絶命中だ。自分には舵を持っておく事が役目で放すことも出来ないから、飛び出すことも出来ないし……甲板に姿を現した奴が何をしだすかドッキドキだ。
落とされ続ける音響爆弾が飛空挺の木の外装を凹ませては削り取っていく。流石にやばいけど、避けることさえもう出来なくなってる。舵を回しても動けないんだ。大量に落とされるその強力な音が、壁みたいにこの船を押し潰してるかの様な……そんな感じ。
『くはははは! 潰れてしまえ。神にその罪を懺悔しながら――ゲフン!?』
その声は通信機じゃなくバトルシップからの拡声器から盛大に聞こえてきてた。そして突如として腹パンを貰ったかの様な声に成ったと思ったら、バトルシップ事態が大きく空中で反っていた。一体何が? いや、奴が何かをやったんだろうけど……色々とわからない事一杯だ。
まぁ、だけど奴の攻撃手段は見ぬけてないからな。だけどあれだけデカイものまでも弾けるとは相当だ。てかそろそろ疑ってもいいと思うけど、本当にあのローブの下の奴だよな? どうやったってシルクちゃんが自信満々に出れないと言ったのが引っかかる。そもそも僕達はあのローブの下の姿を見てないし、実は別人とか?
いや、そもそも人なのかって疑問も出てくるな。身長あるし、元からモブリではない事はわかってたけど、その姿はちょっと想像を超えてる。
風に靡く白銀の長い髪。まあそれは良いとして、問題はその体からもワサワサと出てる様な白銀の毛だ。腕から胸や背中にかけてまで、完全に覆われてるじゃないか! それになんだか腰から尻尾みたいなの垂れてるし……尻尾だよねあれ?
元から中身知らなかったけど、なんだかイメージと違いすぎて結びつかないな。
『くっ……きっさま、何――ええお!?』
飛空挺から聞こえる声が空でクルクル回ってる。てか声だけじゃなく機体自体もクルクルと空でコマみたいに回ってる。
同じだ。僕達に向けてた得体の知れない力……それをきっと奴は使ってる。やっぱりあのローブの中身はこの白い奴で決まりっぽいな。だけどローブが無くなってもわからない……どうやってあんな事をやってるんだ?
『貴様は……そうか……これがどういう事かわかってるのか!? サン・ジェルクとリア・レーゼの間で問題になるぞ!』
クルクルと回り回って高度が同じくらいまで落ちたバトルシップは、自己再生したらしい翼を大きく広げて、態勢を立て直した。そしてその砲台を開き、威嚇してるみたいな態勢のままこちらに近寄ってくる。
あっと言う間に並ばれた飛空挺。やっぱり振り切る事なんか出来そうもない。動力炉までやられた今の状態では尚更。それなのにあんなミサイルの砲台を惜しげもなく開きやがって……嫌みか。
「問題だと? それはこっちの台詞だな。貴様等は自分達が何をやってるのか理解してないらしい」
奴は横に居るバトルシップへと向けて堂々とそんな事を言ってる。てか聞こえるのか? 通信出来る場所はここ操舵室と監視室だけだった筈だろ。
バトルシップみたいに声をスピーカーか何かで拡声してるのならともかく、奴は完全にノーマルの声だったぞ。届いてる訳がない――と思ってたけど、さっきの言葉に反応した言葉がバトルシップから告げられる。
『我らが何をやってるか理解してないだと? 我らは誰よりもそれを理解してるつもりだ。神の反抗者達の拘束と、そいつ等に捕らえられた哀れな子羊達の救出。それが我らの命題だ! 何か問題でも?
確かそう、リア・レーゼの使者の方よ』
リア・レーゼの使者。やっぱり奴はリア・レーゼの関係者だったのか。最初に会ったときからそれを臭わせる様な発言してたよな。予言がどうとか、リア・レーゼには入らせないとかなんとか。
だけど今は僕たちに協力してるように見えなくもないけど……それもちょっと違うんだろうな。この船が落とされるのは自分の身的にも危ないからだろきっと。僕はそう睨んでる。
てか一体どうやって奴はバトルシップへその声を届けてるんだ? そこからして納得出来ないんだけど。それとも外に居るから、バトルシップ側が音声を拾い上げてるのかな?
それならまあ、わからなくもないかも知れない。あれだけの先進技術を詰め込んだ船だ、そのくらいの機能は有してるべきだろう。
勝手にそんな想像を確定してると、通信用のお札から可愛らしい声が聞こえてきた。
「スオウ君、聞こえますか?」
「シルクちゃん!」
テンション高めに反応する僕。いやだって、なんだかちょっと緊張して。今更変な感じだからさ、まるであれだよ。好きな子から電話を貰った時の様な感覚。
いや、好きって言うか気になる子ね。まあだけど浮かれてる状況ではないから、心を落ち着かせて僕は気になる事を聞いた。
「えっと分かってないかも知れないから言うけど、そこに居る白い奴はシルクちゃんが封印魔法で封印したはずのアイツなんだ!
なんでかわかんないけど、ローブだけを残して中身が外に出ちゃった状況なんだけど……そんな事って可能なの? 確か中からの脱出は不可能とか言ってたよね?」
僕のそんな言葉に、シルクちゃんが一瞬驚いた様に息をのが伝わった。だけど直ぐに、どこか納得したかのようにこう言った。
「不可能……の筈でした。でも確かにその人はここに居ます。さっきバトルシップを攻撃したのを見てもしかしてって思ったんですけど……やっぱりそうなんですか。
ああ、でもやっぱり信じれません。あの魔法は絶対に破られる物じゃないんです」
なんだかシルクちゃんが悲痛な表情で頭を抱えてる姿が声だけで想像できる。多分それだけ信じれない事なんだろう。彼女にとってはそれだけ絶対的な魔法。
いや、シルクちゃんが絶対って言うんなら、実際それはLROで絶対って事なんじゃないだろうか? だってシルクちゃんは謙虚な子だ。自分の魔法に絶対的な自信があっったって彼女はその言葉を使うことは決してしないだろう。
それを僕はよく知ってる。そりゃあまだ一ヶ月にも満たない付き合いだけど、それ以上の時間を凌駕する位の濃い時間を過ごしてきたと思ってるもん。
だからきっと、彼女が絶対を使うのならそれはシステム的にそう言うことに成っている――と言うことだろう。だけどそれでも……奴は彼女の目の前に居るんだ。それが今僕達が直面してる事実でどんなに絶対を叫んでも、認めなくちゃいけない真実がこれだ。奴は絶対を覆してそこに居るんだ。
「考えられません。ローブだけが封印されたままなら、もしかしてテッケンさんと同じように分身を使えたのかも。それならまだ納得は行きます」
「本体である奴自身が今の今まで隠れてた理由は? あの時に僕達を倒せてた筈なのに、分身を用意してまでそれをしない理由なんてないよ。奴は僕達を認めたとかそう言う訳じゃないんだろうしさ。
あの段階じゃそんな兆しもキッカケも何もなかった。つまりは奴が手を抜く理由なんて無かったんだ」
そう分身にまんまと身代わりをさせたのなら、油断してた僕達をあっと言う間に倒す事なんか造作も無かったはずだよ。
それをやらなかった……いや出来なかったのは、封印されたのが奴自身――つまり本体だったから。そう考えないとそこら辺がしっくりこない。
だけどそれじゃあ、シルクちゃん的には自分の封印術を抜けられる術があることに納得できない。そんな感じだな。
「くくく、神の反抗者と子羊か……確かに尤もな理由だな。だがそんな大義名分はこの空では行使出来ない事だ。ここは既にリア・レーゼの空域。
この全ての空と大地は我らが姫御子の管轄だ。サン・ジェルクに染まった神の名で、この空を汚す事が出来ると思うなよ」
僕達がコソコソと通信用のお札で話してると、奴らの大層な会話が割り込んできた。いや、まあそっちが重要だから良いんだけどね。
それにしても既にリア・レーゼの空域だったとは驚きだ。それなら流石に後少しって事だろう。もう少しだ飛空挺。もうちょっとだけ頑張ってくれ。
僕はそんな思いを心で呟いて舵を握る腕に力を込める。流石にたった一回操縦した物と心通わす事が出来るとかは思わないけど、だけど言わずにはいられない。だって僕達をここまで運んで来てくれたのは紛れもなく、この飛空挺なんだ。
それに僕達のせいである意味一番被害を被ってるのはこの飛空挺だろうしさ。幾ら頭下げたって下げたり無い位だろ。
「スオウ君! 飛空挺は持つんすか? なんだか動力炉からは火も出てるし、さっきから甲板にまで薄い煙が流れてるっすよ」
お札から聞こえてきた今度の声はノウイ。確かにノウイの言葉通り甲板には薄い煙が流れてる。船首部分から出てる煙が流れてるみたいだな。
さっきの音響爆弾の影響で、船首にあった砲芯になんらかの異常が出たのかも知れない。頼りにはしてなかったけど、これで使い物に成らなくなったか。流石に武器が一つも無くなると、心細い物があるよな。
セラもぶっ倒れて実質こちらから攻撃は出来なくなった訳だし……って、そうだセラは無事なんだよな? 僕は急いでそこら辺の確認をノウイにしてみる。
「おいセラは! セラは大丈夫なのか?」
「大丈夫っすよ。多分、眠ってるだけっす。セラ様は特別っすからきっと大丈夫。知ってるっすか? 二十機の聖典を操るなんて規格外もハンパないっすよ。それこそあのシクラとかのイレギュラーと同等っすよ。
普通は一機が限界で、二機を操ろうとするだけで、頭痛が出てくるっす。三機以上なんてセラ様が出てくるまで論外だって聞いたっす。
それほどスゴい事で自分達を守ってくれてたんすよ!」
ノウイの熱気が通信越しでも伝わるかのようだ。だけど実際、そこまでなんだと思った。前に軽く聞いた気がするけど、そりゃあ二十機も同時に操ったら倒れるよ。相当の覚悟と無茶が必要なんだろうな。
それこそ僕が命を懸けてるのと同じくらいかも。だって頭痛って頭じゃん。それは一番リアルと近い場所だろ。それだけ頭が痛くなるって、リアルに何らかの影響があるかもとか思えるだろ。
だけどそんなリスクを振り払ってでもセラはその力の全部で戦ってくれてたんだ。空で無力な僕達の代わりに、一人で五人分戦ってた。なんて頼もしい奴だよ全く。これじゃあ罵られたって文句言えないじゃないか。
「だからこそ、ちゃんとセラ様が頑張ってくれた分を無駄になんかしたくないっす! スオウ君、リア・レーゼにこの船は届くんすよね!?」
「それは……」
僕は口が動かない。だってどう見たって安易に届くなんて答えられない状況なのが浮き彫り過ぎだ。まず既に機体が空中分解しそうな程にガタガタだし、実を言うとさっきから舵が動かないんだ。それに四隅に設置してあったプロペラもモゲてるし、つまりはこの船は既に直進しかできないって事だ。後は止まることと下降位は出来るだろうけど、ホントそれだけ。
実際音響爆撃の後から、エネルギーの放出がハンパない。これはきっと致命的な部分に大きな穴でも空いてると思う。単純にこのまま飛び続けられるかが再び問題化してる。
だけど結局僕は素人だ。ここはプロの人に意見を求めることにした。この人は誰よりもこの飛空挺を分かってる筈だ。
「この船はリア・レーゼまで持ちますか?」
「……わからんな。全く持って分からん。だが一つ言える事は、この船はまだ空を飛んでるということだ。もしかしたらお前達をリア・レーゼに送り届けたいが為に飛んでるのかもしれんな」
なんだか感傷深くそんな言葉を口にした艦長。そんな、僕達を届けるためにって……そんなこと。
「もう既に、何故飛べてるのか不思議な位だ。そのくらい、お前達にも分かるだろう」
そう言って椅子の上で体を震わせる艦長。確かに、僕達にだって分かる。それだけこの船の損傷は激しい。だけど今までも、そして今も飛んでるから、なんとなくそれだけ強いんだって思ってた。
だけど違うんだ。既にこの船の限界はとっくに越えてた。当たり前だ……端から見たら完全に幽霊船が飛んでるようにしか見えない筈だしな。凹み所々無くなった船体に、欠けた船首と船尾。それにモゲたプロペラ。
本当に飛んでるのがおかしいだろ。これでまだリア・レーゼまでとか、どれだけの事を僕達はこの船に押しつけてたんだよ。僕は動かなくなった舵に額を当ててほんの数秒目を閉じた。心の中で「ゴメン」と言った。そして「ありがとう」とも伝えた。
顔を上げ、僕は前を見据えてこう言うよ。今度は声に出して。
「そうですね。僕達でもこの船の惨状は理解できます。本当に何で飛んでるのか不思議な位です。だけどそれが僕達の為ってのは多分違うと思います。
僕達は結局犯罪者ですよ。僕達がこの船に来たからこうなったんです。恨まれたとしても、こんな一生懸命に尽くされる事は僕達にはあり得ない。
もしもこの船が意志を持って頑張ってるのだとしたら、それはきっと……貴方達の為です。艦長やクルー、そして守ってくれてた僧兵。そんないつもの人達の為にきっと頑張ってるんだと思います」
「何を……今更…………そんな言葉……」
僕の言葉に、途切れ途切れで震えるそんな声が帰ってきた。見なくても分かる、きっと艦長さんは泣いてるよ。やっぱり僕達なんかの為じゃない、この船はずっと共に飛んでくれた人達の為に、最後の役目を全うしようとしてるんだ。
『やはり貴様等と我らはどうあっても相入れない存在の用だな。そもそも貴様のような化け物を飼う奴らと理解出来ようも無いがな。
この空がリア・レーゼの姫御子の管轄だと? この世界は全て、我らが神シスカ様が生み出した世界よ! この世界に隔たりなんて物は存在しない。全ての場所は我らシスカ教が連なってるのだから!』
そう言って一斉にミサイルが発射される。だけどそれらは次の瞬間あっと言う間に爆発をした。まるで見えない攻撃を受けたかの様……奴の仕業か。
「凄まじいエゴだな。我らノーヴィスが納める地など世界の三分の一にも満たない小ささだと言うのに。我らの巫女が嘆くのも当然だ。
サン・ジェルクは腐ってる。いや、元老院という体制がか。今回の訪問で明らかになった。貴様等は私がこの船に乗り合わせてる事も先刻承知だったんではないか?
都合が良かった。だからまとめと消すことにしたんだろう」
黒い煙の中からバトルシップが無傷で姿を現す。そして大きく前方に行きふわりと羽の様に上昇。この飛空挺の真上へと陣取った。この位置はまさか!
『くはははは! 勘違いしてるリア・レーゼの連中には良い見せしめになるではないか! 星羅がどこから派生したと思ってる? それは我ら聖院からだろう。引いてはシスカ教からだ。その教えを教授しないで予言などと言う物に頼る。その様なんたる無様な事か!
この世界に、神以上の存在など存在しないのだよ!!』
降り注いで来る音響爆弾。あれは不味い。今度あれを食らったこの船はきっと持たない。そしていつまでも敵だった奴に頼っても居られないよな。僕は艦長にこういって窓から飛び出した。
「やっぱり最後は、貴方が舵を握ってた方がきっと良い。貴方の為にも、そしてこの船の為にも。頼みます。今の貴方はきっと信用出来る! そう信じてます!」
僕は空中でセラ・シルフィングを抜き、そのまま「イクシード」を宣言。風のうねりと雷撃の光が刀身を覆う。そしてそれを僕は落とされてる爆弾に向かって振るう。船に影響の出ないもっと上で弾ける音響爆弾。だけどそれでも少しはミシミシと良い、僕達にはそれなりのダメージを残す。
特に鼓膜が刺激されて三半規管が狂う感覚。そのせいで操舵室の屋根に乗ろうとした僕だったけど、踏み外して一気に甲板へ。
くっそまだ全部じゃなかった――と、思ってると再び音の爆弾が弾けた。どうやら僕が打ち漏らしたのを奴が落としたみたいだけど、何故か奴は真っ直ぐ甲板に立ってる。
『さあ! 今度こそ木っ端微塵に吹き飛ぶが良い!!』
甲板に倒れてたら聞こえたそんな声。だけど気になったのは声じゃなく光だ。この赤紫した光は……まさか!
「スオウ君! 主砲がきます!!」
シルクちゃんのそんな言葉に、僕は必死に立ち上がろうとする。けどさっきの攻撃のせいでフラフラしてしまう。くっそ……そう思ってると奴の声がこの場に響く。
「貴様等は余計な邪魔はするな。死にぞこない共はおとなしくして――」
「バカな事言わないでください!! 一人でアレを防ごうなんてあり得ないです! どんな力か知らないけど、一人じゃ無理。それは分かってます。だから力を合わせましょう。
貴方だって私の魔法は知ってるはずです! 文句ありますか?」
なんと途中から響いたのはシルクちゃんの声。しかも噛みついてる。二人は数秒睨みあったと思ったら、主砲が発射されたと同時に動いた。シルクちゃんの障壁に他の陣が重なる様に展開して主砲を受け止める。空に強烈な光が舞い散った。
だけどその主砲のおかげか、一気にリア・レーゼへと近づいていく。
『着く前に押しつぶしてやるわ!』
更に勢いを増す主砲。だけど二人の障壁は破れない。だけどこのままじゃ勢いが着きすぎる。僕はなんとか立ち上がり船首へと駆ける。そしてそこから広がる森を見据えて、風のうねりを地面へと向かって延ばす。地面を抉り、船の勢いを殺そうとする僕。これでスピードを落とすんだ。迫る地面に、僕達三人の叫びが木霊した。
第二百九十話です。
ツイッターとかを見てくれてる人は知ってるでしょうけど、この話は一回全部消し飛びました。ポメラって時々そう言う事があるんですよね。しかも完成直前、後千文字位の出来事だったから、とてもショックが大きかったです。
実際嫌気が差しました。だけどそれから二時間で書いたのがこれです。まあ最初のと多少変わってますが、一応不満だった部分は直したから、これでも良いかなって感じですね。
前書いてたのには、奴の力の謎をテッケンさんが見つけた見せ場とかあったんですけど、書き直したらそこは削れて飛空挺と艦長が入ってきてました。まあだけど、奴の力の謎はもう少し引っ張っても良いので問題なしです。
テッケンさんの見せ場が飛空挺バトルでは殆ど無いけど、そこは大丈夫。次回にちゃんとあります。そして今回リア・レーゼにたどり着けなかったけど、次回はちゃんと出てきますよリア・レーゼ。
てな訳でなんだかんだと大変だった第二百九十話はここまでで、次回は月曜日に上げます。ではでは。




