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「くっ、うおおおおおおおおおおおお!」
そんな声を出して、白髪犬耳のその召喚獣の人がゴウ! って音がなりそうな剛拳を放つ。多分何かの技なんだろう。その人の拳の隣にはまるで白い大きな狼? みたいなエフェクトが一緒にあって、彼が拳を突き出したと同時に、その白い大きな狼の頭部に見えるそれがさらに前に飛び出して妖精王へとくらいついていた。
でも……私にも見えてた。
「危ない!」
私は背後に自身の手を差し込んだ。まあ自身の手というか? わっかを通じて自身の手を彼の背後に差し込んだという意味だ。その瞬間――
「くっ!?」
腕に痛みが走る。まるで肉にとげとげした棒を突き刺されてさらにはぐりぐりされてるような……そんなやばい痛みだ。とっさにかばったけど……損したと思った。それに
「力が入らない?」
ダラン……と私の右腕が無惨に垂れ下がる。どうやら何かされた?
「すまん」
そんな風に召喚獣の彼がいってくれる。そしてその鼻がヒクヒクとしてるのが見えた。イケメンはどこが動いてもイケメンだなって思った。でも妖精王が私たちの視界から消えた。それに……
「つっ……」
ちょっと動かそうとすると、痛み大きくなる。いやそれは違うかな? 大きくなる……というか、刺すような痛みが強くなる……といったほうが正しいと思う。私はすぐにインベントリから回復薬を取り出して飲んだ。けど……
「え? なんで?」
私がそんな風に謎の現象で困惑してると――「そこか!」――と白い召喚獣の人が地面を穿つようなかかと落としを放つ。
(甘い香り……さっきの夢……そしてこの腕……)
「気を付けて、妖精王の本当の力の本質は幻覚とかだよ!」
私はそう叫んだ。さっき私が見た気持ちのいい夢。私の望み……深層心理の中にあるような望み……社会なんてくそだって思ってるが、だれにも認められたいって願望だってある。それに英雄とかに簡単になれるのならなってみたいし? でも変な責任とか重圧とかはいやだ。
そんなの背負いたくない。だから、もっと気楽な英雄になりたい……ただただちやほやされたいって私は思ってる。だからあの夢はただただちやほやされるだけでとてもよかった。なんの責任もなかったしね。まあけど自分で責任感? を演出してたりはしてた。でもそれもいい。
あの孤高の感じも私好み。けどあれは幻覚だった。一瞬でそれだけの幻覚を見せられた。そのまえには今のわずかに鼻孔をくすぐってるこの甘い匂い……それがあったように思う。そして私の動かなくなった腕。回復薬は確かに飲んだ。HPは回復したはずだ。なのに……なぜか私の腕は動かない。
でもね。どうやらそうじゃなかった。何を言ってるのかわかんないかもしれないが私は逆の手で動かない腕をつかんでみた。いや正確に言うと動かしてるつもりの腕をつかんでみた……といったほうが正しい。.そうなるとどうなったと思う? そう、私が見てる腕じゃなく、私は何もないはずの場所をつかんでた。
何をいってるのかわかんねえとおもう。私もびっくりした。けどそれは単純なことだった。つまりは私は「動かなくなった腕」という誤認を脳にさせられてたってわけだ。




