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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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桜色の小竜と目的の証明

 僕達は鍛冶屋の登場でなんとか落ち着く事が出来た。そして今度こそ変換を実行。そして現れたのは噂とは全然違った物だった。物ともいえない代物だ。

 それから僕達はこれからを話し合う。僕達の目的はアンフェリティクエストの達成でセツリのリアルへの解放。それで良い筈だけど当のセツリはそこに大きな不安を抱えていた。

 でも僕達はみんなでその不安を振り払う言葉を紡ぐ。そしてその不安が取り払われた時、僕達の元に新たな事件の香りが飛んできた。

 

 僕達は一回落ち着くことが必要だった。てか、さっさと変換を実行しろよな。その時、カランコロンと宿屋の扉が開いた。


「何やってんだお前等?」


 その人物の呆れた声はしょうがないと言えるだろう。きっと開けた扉をもう一度閉めたいと思える光景だよ。彼の眼前には倒れて延びてる赤毛のエルフにその周りに集まって『神』と呼びまくってる奴ら三人。

 そして謎のポーズを取っている栗毛の美少女に、拳を突き出して荒い息を吐く僕の姿。ここには変態しか居ないのか!


「鍛冶屋……」


 僕はその人物を見て呟いた。鍛冶屋はシルフィングを作った鍛冶屋なのだ。シルフィングの鞘が無くなったからそういえば呼んでいたな。遠路はるばるご苦労様。


「「「ええ~コホン」」」


 第三者の登場で周りの空気が鎮静化していく。僕的には助かった。なんだか変な空気だけどね。


「そ、それじゃあ変換しましょうか」

「それが今回のコアクリスタルか?」


 アギトをほっといて僕らは今度こそイベントアイテムを手にする。


「変換!」


 シルクちゃんの叫びと可愛らしい演出の決めポーズの後にそのアイテムは現れた。コアクリスタルが砕け散りシルクちゃんの腕の中に現れたそのアイテムは果たしてアイテムと呼んでいいのか論争を呼びそうな物だった。

 何故ならそのアイテムは生きていたからだ。ゲームの中で生きていたなんて言うのもおかしいけど少なくとも無機物では無かった。


「クピ~」

(((か……可愛すぎる!!!)))


 その場にいた全員がそう思った。これはそう、ペットと呼ぶにふさわしい可愛さだ。

 透明感が有る桜色の鱗で体を覆い、二対の羽には白と先端には淡い朱色が見えた。長い尻尾を優雅に揺らし、その生き物はシルクちゃんの手の上から自身の主を見つめている。

 深い海の青を称えた瞳は生まれたてのヒナの様にどこまでも真っ直ぐに見えた。その生き物は何かを待ってる様だ。

 シルクちゃんもそれを感じ取ったのか、額をその生き物に近づけていく。すると近くまでくるとその生き物は首を伸ばしてシルクちゃんの額にキスをする。

 その瞬間、ファンファーレが鳴り響く。出現した頭上の文字には【契約の完了を祝います。その子に名前をどうぞ】と示してあった。直ぐ下に小さな文字入力のバーとキーボードも出現してる。


「わっ、ええっと名前……どうしよう」


 そう言ってシルクちゃんは僕達をみる。だけどそれは自分で決めた方がいいのでは? と思う。だってソイツはこれからシルクちゃんのパートナーになるんじゃないかな?


「シルクちゃんが思いついたのでいいんじゃない? ソイツもそれだけで満足するよきっと」


 僕の言葉の後に理解したかの様にその生き物は「クピー」と鳴いた。するとシルクちゃんとその生き物は見つめ合う。


「うん……そうですね」


 そう言ってシルクちゃんはキーボードに指を走らせた。そして決定をしてその画面は消えた。


「クピィィィ」


 その時一際大きく首を持ち上げて生き物は鳴いた。そしてシルクちゃんの腕から飛び立ち宿屋を旋回する。日差しに照らされたその体がとても綺麗に見えた。

 生き物は今度はシルクちゃんの肩に降り立った。そしてシルクちゃんもその顎を優しく撫でながらその子の名前を呼んだ。


「よろしくね、『ピク』」

「クピー」


 『ピク』がその子の名前らしい。いや、まさかと思うけどクピクピ鳴いてるからピクな訳ないよね? もっと深く実は昔リアルで飼ってたペットの名前とかだよね?


「いえ、クピクピ鳴いてたからですよ」


 なんてこった。確かに僕が思いついたのにすれば? とか言ったけどさ……それって――


「とっても可愛いよシルク! ピク、触ってもいい?」

「うん、どうぞセツリ」


 あれ? なんだか意外に好評だな。まあ、当人同士が良ければいいのか。まあ確かにピクって可愛いよ。


「この子ってドラゴンだよね。竜だよ竜。大きくなったら背中とかに乗れるのかな?」


 セツリがピクを撫でながらそんなことを言った。そこで思っていた事を僕は口にしてみる。


「てかさ、なんで生き物なんだよ。イベントのアイテムは心を読む物じゃ無かったのか?」


 それを求めてどれだけのプレイヤーが凌ぎを削ったと思ってるんだ。ピクもスッゴく貴重そうだけど、目的の物じゃなかったって事で少しガッカリだよ。


「元々あれは噂だったからね。しょうがない事だよ。誰かがあのイベントにこの町の伝承を重ねて言ったことが広まってしまっただけじゃないかな?」


 テッケンさんの言葉に納得するしかないね。そうだ、あれはあくまで噂だったんだよ。僕達は踊らされたって訳だね。でもそれじゃ、あの時僕が見た光景はなんだったんだ? 

 あの時、僕の手にはコアクリスタルが有ったんだ。そのせいで僕はあんな物を見てしまったと考えたけどそうじゃ無いって事か? じゃあ、一体何で……あんな……


「どうしたのスオウ?」


 僕の視線に気付いたセツリがピクに指を優しく噛まれながらこっちを見た。


「いや……別に」


 僕は思わず顔を逸らした。今、目の前にある光景がいつか壊れる。そんな暗示をしてたようなあの光景。そしてそれの中心はきっと、あの無邪気な顔をした奴だったと思う。

 信じられないし、信じる要素なんて無いけど、どこかで僕にあの光景を忘れさせない奴がいる。僕自身の中に。


「ほら、スオウもピク触ってみてよ。綺麗だよ。フワフワだよ」


 目の前に突如セツリに抱き抱えられたピクが入った。横から笑顔で顔を出してるセツリはとても幸せそうだ。そんな顔を見て僕は自分に言い聞かせる。

 あんな事、起きる筈無い。僕はそう信じる事にした。そして僕もピクの綺麗な体を撫でて一緒に笑顔になる。


「ホントカワイイ奴だな」

「どっちが可愛い?」


 ――なんて答えればいいんだよ。変な冗談を突然言うなよな。僕の笑顔が一瞬ヒキツっただろうが。


「どっちも素晴らしく可愛いよねスオウ君」


 恥ずかし気も無くそんな事が言えるのは貴方だけですテッケンさん。次に僕の言葉を期待するなセツリ。僕は言えないよ。


「所で、ピクってどういう扱いなんでしょう? 今まで、こんな事無かったですよね。ペットを持つなんて……サクヤさんのクーちゃんみたいな扱いなんでしょうか?」


 シルクちゃんの疑問の声。丁度いい。ここは乗ってセツリの視線から逃げるんだ。


「そ……そもそも、今のサクヤってどういう状態なんだって感じじゃない? クーも含めてだけどさ」


 まだ痛いよセツリの視線。じっとりとした視線が張り付いてるよ。誰か助けて。その時鍛冶屋が肩に白フクロウのクーを乗せた巫女服姿のサクヤを見ていった。


「サクヤってそこのフクロウ乗せた子だろ? 扱いってどういう事だ?」

「ああ、そう言えば鍛冶屋は知らなかったね」


 普通に見てるだけだとサクヤはプレイヤーにしか見えない。普通のNPCと違ってサクヤは表情も雰囲気も生き生きとしてるから事情を知らない人はサクヤがプレイヤーじゃないなんて思わないだろう。

 僕らだって時々忘れるよ。驚異のAIを搭載してるそれがサクヤなんだ。


「実はサクヤはさ――」

「私は自己自立型AIのNPCでプレイヤーではありません。スオウの質問に答えるなら、今の私の扱いはLRO内でのプレイヤースキッターです」


 僕の説明を遮ってサクヤは自分で自分の立場を説明してくれた。でも最後の方は僕らでも良く分からないぞ。なんだよ『プレイヤースキッター』って。


「聞いたことあります。NPCの中にはプレイヤーの不正を監視する役目のNPCがいるって。確かGMだけじゃどうしても見落としが出来るからとかで……」

「ええ、基本その通りです」


 シルクちゃんの補足にセツリは頷いた。なるほどね。プレイヤーの監視役としてセツリの側にいるわけだ。立場を利用してるわけだ。職権乱用みたいな感じだな。じゃあクーはなんなんだ? 


「クーは私の友達です」

「なんじゃそりゃ」


 説明になってねーよ。クーってモンスター……だよな? でもあんなモンスターはアギト達も知らないって言ってたんだよな。だからサクヤと言うNPCに付けられたオプションみたいなのと思ってたけど……それじゃあ、許容を越えたあの戦闘スペックは説明できない。

 姿形が変わるしね。


「おい、プレイヤースキッターってのは分かったけど、どうしてそんなNPCとお前等は行動してるんだ? 一から十までちゃんと説明しろ」


 たく、鍛冶屋はせっかちだな。僕はあの湖畔の事を話してやった。すると鍛冶屋は頭を抱えた。


「またか……お前達は本当に一回では信じられない事ばかり話すな」


 そんな事言われても困る。確かにサクヤが元々LROの外から来た存在なんてそうそう信じれないけど、僕達はその映像を見てるからね。

 それにサクヤの事を考えると一つの仮説が成り立つ。それは全ての仮想世界は繋がっているかも知れないって仮説が。それはもしかしたらとても重大な事かも知れないな。今はまだよくわからないけど。


「スオウ……いつまで無視しちゃうつもりかな」

「っ!!」


 僕の体に戦慄が走った。ダメだ……怖すぎて声の主を見れない。てか、まだ待ってたんだ。セツリは一途なんだね。

 こうなったら言うしか収まらないのか? その時、セツリの手からピクを自身に戻したシルクちゃんが何か耳打ちしてる。


「スオウ君は……だから……ね。……だよ」


 何を言ってるのか良く聞こえない。火に油を注ぐ事じゃなければいいけど。するとセツリは僕の方をチラチラ見て頬を赤らめてる。何なんだろう。


「そっか……それじゃあ仕方ないね。それならそうと言ってくれれば良いのに」


 何? 何なの? 一体シルクちゃんは何吹き込んだんだ。訳が分からない僕にシルクちゃんはウインクしてくれた。助けてくれたって事でいいのかな?

 なんだか変な誤解が生まれてる気がするけど。するといきなり大人しかったテッケンさんがいきなり声を上げた。


「そうか! 分かったぞ。ピクは近々実装それると言われてたサポートモンスターだよ」

「サポートモンスター?」


 なんだっけそれ? 周りの熟練の部類のシルクちゃんや鍛冶屋、NPCであるサクヤなんかは「ああ~」とか唸ってる。

 でも僕やセツリはさっぱりだよ。するとテッケンさんは説明してくれる。


「ほら、このLROって広大な割に移動手段が乏しいじゃないか。一度行ったことがある街とかなら転移出来るけど基本足で開拓だよ。目的のダンジョンにも飛ぶことは出来ないしね。

 取り合えず移動手段が乏しすぎたんだ。NPCが使ってる乗り物は運賃を払う以外使えないし……そこでプレイヤーの強い要望で近々実装されると噂に成ってたのが、普通のモンスターの飼い慣らしか、サポートモンスターの導入だよ」


 なるほど、それはなかなか魅力的な事だ。つまりここに居るピクがそのサポートモンスター第一号と言うわけだ。でも移動手段って事はこの小さな体でマスターを運んでくれるって事だろうか?


「多分、まだ運ぶ事は出来ないんじゃないかな? サポートモンスターは成長するんだよ。マスターと共に戦えるしそのたびに経験を蓄積して成長していく。

 最終的にどうなるのかはわからないけどね。多分ピクの実装は実験的な物じゃないのかな?」

「私が上手くピクを育てられたら実装されるって事ですか?」


 シルクちゃんに全部一任はしないだろうと思うけどね。


「そう言う訳じゃないよ。上手くシステムとして機能するかを見るんだろう。それで良好なら実装される筈だよ。堅く成らずにピクを育てればいいよ」


 テッケンさんの言う通りだと僕も思った。実装前にそのモンスターを得られるボーナスみたいな物だよね。イベントで得たんだから実験に使われちゃイヤだよ。

 殆どシルクちゃんは何もやってないけど……今更そんな事蒸し返しもしないよ。


「そうですね。ピクと一緒にこれからがんばります!」


 シルクちゃんの言葉に反応してピクが大きく鳴いた。本当に良く出来てるな。実装されたら肩にピクを乗せた人達が街に溢れる事に成るのだろうか。

 すると僕の考えをサクヤが否定した。


「それは有りませんね。実装される予定のサポートモンスターの中にピクと同種のドラゴンは居ません。文字通りイベント限定先行の特別仕様と言う所でしょう」


 そうなんだ。確かにピクは綺麗すぎると言えるもんね。こんなスペックで大量生産は流石のLROでも無理なのか。


「それにサポートモンスターの取得の条件はそう簡単には成らないと思います。よって実装後もそう見るものでは無いと思われますね」


 結構な難易度なんだ。確かにピクじゃないにしても色々と便利で助かるだろうサポートモンスターの取得はそう簡単には出来ないだろう。

 激レアだねシルクちゃんは。するとその事実を知って再び申し訳なさそうなシルクちゃんが目に入った。


「そ、そそんな貴重な物を……ごめんなさい!」

「はは、もういいって」


 本当に律儀な子だ。誰も気にしないのに。それにシルクちゃんの肩に乗るピクはとってもお似合いだ。様になってると言って良い。

 街を普通に歩くだけで注目されそうだ。どっかの白フクロウとは雲泥の差だな。するとそう思った瞬間何かが後頭部に刺さる感触がした。なま暖かい物がうなじを伝う。


「いってぇぇ! 何するんだクー!」


 おかしいだろ。心が読めるのかお前等! なんて優秀なAI達だ。すると僕を助けるためかピクが飛んできてクーに襲いかかった。


「ピク!」

「クー!」


 二人のマスターが同時に叫んだ。二匹の攻防は僕の顔の周りで激しさを増していく。クーの声が超音波みたいに頭に響く。そしてピクは炎を吐いて僕の顔を焼くんだ。


「や、止めさせて……」


 HPは減らないけど怖いよ。それにどうやらピクは僕を助けに来た訳じゃ無いみたいだ。二匹の間にはマスコットを掛けたライバル意識が目覚めたのかも知れない。

 なんだか同じ立ち位置だしね。


「ダメだよピク!」

「止めなさいクー」


 そう言って二人のマスターがそれぞれ二匹を抱き抱えて止めるまで攻防は続いた。冗談だったのになんて災難に発展したんだ。僕ってそもそも運が悪いのかな? 

 そもそもあの両親の元に生まれたのが運の尽きだったのかも知れない。そんな事を考えてるとなんだか変な臭いが漂ってくるような。そうだな、まるで髪の毛が燃えてるような……


「スオウ! 頭が大変に成ってる!」


 僕の髪の毛は度重なるピクの炎でシステムの壁を打ち破って炎の花を咲かせていた。なんてこったぁぁぁ!

 その場に満ちた笑い声を僕は一生忘れない。助けろよ!



 事の収まりと、頭の鎮火が済んだら僕たちは再びテーブルを囲み今後の事を話す事にした。これからどうするのか、どうすればいいのかは重要な事だ。

 僕たちの目的はアンフィリティクエストの達成。そしてセツリを現実へ戻す事だ。それもなるべく早く。イベントなんかに参加してる場合じゃ無いのに何やってんだ自分と言いたい。

 まああれは不可抗力。仕方ないことだった。それに殺伐とした空気の中にずっと居たくはないしね。楽しめる時には楽しまなきゃ損だから。それが楽しく人生とい労苦を生きるコツ。

 これ、僕のモットーね。

 はてさて、僕は目的を提示してみんなの様子を伺う。シルクちゃんもテッケンさんもサクヤも頷くけど後の二人はどうだろう。

 鍛冶屋はまあそこまで深く付き合ってる訳でもないし、仕方ないとして……なんでセツリが乗り気じゃないんだよ。


「私はやっぱり怖いよ。あの時スオウに言った帰るってのはここであってリアルじゃないもん」


 セツリの言葉に場が静まる。それはそうだろう。僕達は助けたいと思ってるけど、本人はそれを求めてない。望んでない。それじゃあ僕達はただの親切の押し売りなんだ。それは迷惑って事……そんなことを言われるとどうしてもやる気がね。

 でも引く訳には行かない。必ず現実に戻さないときっとセツリは……。その時、向かいのセツリの隣に座るサクヤの視線とぶつかった。なんでこっち睨んでるんだよ。分かってるからそんな目向けるなよな。

 僕は身を乗り出してセツリに詰め寄る。


「僕があの時言った場所はここじゃないよ。この先だ。これ以上こっちに居るのはダメなんだ」


 僕の言葉にセツリは顔を背ける。そして続いてシルクちゃんが続いた。


「そうだよセツリちゃん。一回出た方がいいよ。私達も協力する。もう友達だし、リアルでも会いに行くよ」


 シルクちゃんの優しい言葉。セツリはポツリと言った。


「私は向こうの自分がイヤなの。見たくない……見せたくない。だから帰りたくも無いもの」


 セツリは現実の自分が嫌いだ。それは分かっていた事なんだ。ここLROはセツリの描いた世界。彼女の好きなものが沢山ある。

 当夜さんは一体なんでこんな世界を造ったのだろう。セツリを助けたいのか助けたく無いのか分からなく成るよ。セツリの言葉に今度はテッケンさんが思いを込めた言葉を繋ぐ。


「セツリちゃんはもう昔の君とは違うと思うな。ここで出会った僕達を本物だと思ってくれているのなら、リアルでもそうあれるよ。君はもう、どこにも一人じゃないんだよ」


 セツリの肩が一瞬震えあがった。言葉は確実にセツリの心に届いてる。だけどまだ足りない。


「でも……私の生活は何も変わらない。白いベットの上で四角い空を眺めるだけ。一人じゃ何も出来ないの……そんなの……ヤだよ」


 セツリの頬を涙が伝う。リアルにはセツリが恋しく思える物はないのか? 辛い事しか本当に無かったのか? 僕には分からない。僕はそこまでセツリの過去を知らない。

 その時、震えるセツリの体をサクヤが包んだ。


「だからセツリはもう一人じゃ無いでしょう。いいえ元から一人では無かったではないですか。大切な人に、一番セツリを思ってくれてる人にもうずっと会えなくて良いんですか? 

 それにこれまで出来なかった事はこれから出来るように成れば良いんですよ。私も三年前とはセツリは違うと思います。大丈夫、それにリアルでの味方は一人増えてますよ」


 そう言ってサクヤは僕を見る。でも僕はサクヤを見返してしまった。何言ってんだこいつ……だって当夜さんは、その時サクヤは指を唇に当てた。

 その意味は万国共通だろう。まさか、セツリはそのことを知らないのか? いや、考えてみればそうだ。当夜さんはセツリが仮想の深部に行った後に二年を掛けてLROを作りそして同じように……。

 その事実を僕達が言ってないんだから、三年も眠っていたセツリが知るはずがない。嘘を付く事になるけど、それで少しでもリアルに戻る気になるのなら。


「帰ろうセツリ。必ず僕が……いいや、僕達が当夜さんの所まで連れて行くよ。その時は二人で当夜さんに冒険探を聞かせてあげよう。きっと喜んでくれる。セツリが望む幸せはきっと向こうにもあるんだよ」


 僕の言葉にセツリはサクヤの腕で顔を上げた。


「本当に……スオウも居る?」

「勿論だ。二人でって言ったろ。いつでも、どこでも居てやるよ」


 セツリは涙を流す顔に笑顔を浮かべ僕の方に掌を上に差し出した。僕は自分の手をその手に乗せて二人で握り合った。


「私……帰る」


 小さく紡がれた言葉は僕らに希望の火をつけた。その時宿屋のドアが勢い良く開かれた。

 そして現れたのはメイド姿のハイテンションガールだった。

 第二十八話です。ここら辺はちょっとスローペースな感じになってしまいました。でもこの後は怒涛の展開が……起きるかも。とにかく次まではまだセンラルトです。

 アンフィリティクエストが終わるまではLROの世界を余り広げたく無かったけど、そろそろ治まり切らなくなりました。では次の展開に願いを込めてサヨナラです。

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