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「それで話ってなんだ?」
僕はどうやって食べればいいのかわかんないグロテスクなパフェには手を出さずに対面の怪しい奴にきく。いくら……そういくらLROには怪しい格好の奴が多い……とはいってもだ。さすがにこのきゃぴきゃぴした空間にはこの目のまえの奴の格好は浮いてると言わざるえない。だって黒いというか、紫も混ざってそうな暗い色のローブをすっぽりまとってるからね。
ここにはおしゃれな女子たちが集まってる空間だ。そこに男と怪しいローブの奴がいたら……ね。それはそれは目立つ。どう考えてもチョイス間違ってるよな? 僕も外観に圧倒されて周囲の格好と自分たちの格好とのギャップにまで気が回らなかった。
だってここはLROだし? 武器を帯刀してたり派手な鎧を着てるやつとか普通にいる。リアルよりも変な髪形をしてる奴もいっぱいだし、髪色だってリアルに比べたら千差万別といっていい。だから大体の所ではどんな格好してたって出禁……なんてことにはならない。ここだって別に僕たちが入っても「それはちょっと……」なんてことを言われることはなかった。
けど……周囲をもっと確認するべきだったんだ。僕はあんまり誰かをジロジロとみたりしない。それは失礼かな? っておもってるからだ。まあ単純に他人に興味がないから……というのもある。それに、だ。それにあんまり女性をジロジロとみるのはリスクが高いだろう。
それはリアルでもLROでも同じだ。けどまさかここは……ここはLROでも特殊といえる。ふつうのLROの場所なら、それこそ武器とか防具とか関係ない。それがあるのがこの世界は普通だからだ。けどここはむしろ……
(誰も帯刀してないな)
そうなのだ。このカフェでは周囲の客は誰も帯刀してない。それにLROの姿……というよりもリアルの服装的な人が多い。そんな中でバリバリLROの恰好をしてる自分たち……目立たないわけないよね。
だってリアルで剣とか防具を纏ってスタバに来てるようなものである。うん……いたたまれない。でもどうやら目の前の奴は気にしてないみたいだ。
「うーーーー!」
と、派手なケーキ? 食べてほくほくしてる。深いフードをかぶってるが、幸せそうな顔が見えてる。隠したいのか隠したくないのかどっちなんだ? まあ面倒だから突っ込まないけど……てかさっさと答えてほしい。
ここから出たいし。
「おい」
「ああ、はいはい、この週末に月への侵攻が起きます」
「そんなの全員知ってるよ」
どや顔でいうことじゃない。
「せっかちですね。女の子の話はしっかりと聞くことをお勧めしますよ」
こいつに言われることじゃない……とか思ってるとまた一口食べてクリームがたっぷりと乗った……いやもうそれはクリームしかなくない? とかいう飲み物を口にしてる。甘さと甘さの波状攻撃みたいなことになってるが……女子はきっとそんなの気にしないんだろう。
ここなら実質カロリー0だしね。リアルの謎のカロリー0理論とは違って、実際LROならいくら食べてもカロリー0である。魔法である。
「それで皆さん、どうにかしてパワーアップを狙ってます。貴方もそうじゃないですか?」
「それはそうだけど……」
「そこで良い情報があるんですよ。とってもいい情報です」
「なら早くいってくれ」
実際もう結構待たされてるからね。いい加減はっきりと言ってほしい。すると彼女はヤレヤレという風に肩を竦める。むかつくなこいつ。
「今の問題って世界樹がなくなったから、全ての存在の力にふたがされたことですよね? 自由が制限されてしまった。でも……もしもその制限を一時的にでも取り除ける方法があるとしたら?」
「まさか――」
ガタっ! ――と僕は思わず椅子を押して立ちあがってしまった。周囲の視線が集まる。僕は恥ずかしくなって座りなおしたよ。そして小声で尋ねた。
「それ本当か?」
「ええ、もちろん」
得意げに笑う彼女の口元には、クリームがべっとりとついてる。本当……か? 説得力がない顔してるぞ。