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「アーギャギャギャギャ!!」
背後から聞こえたそんな嫌な声。けど俺達は振り返りはしない。こういう状況では迷いや興味が致命的だとわかってるからだ。でも唯一の出口である階下へと通じる扉、そこに降ってくる上に乗ってた月人。でも後ろの月人は巨大で明らかに強そうだけど、この毛むくじゃらの月人は全身の毛が長いことは以外は別にそこまで特殊な感じはない。いやきっと特殊なんだろうけどな。
だが、一気にかかれば……そんな事を思ってると、ヤツのほうが動いた。動きつつ自分の長い毛に手を突っ込む。そして何をするのか? と思ったら、毟った毛を投げる。一本一本がヘビのように太く確かな長さがあるそれ……でもそれだけじゃない。何やらもぞもぞ動いてる? そう思った瞬間、毛の先端が口を開いて伸びてきた。まるで月人の顔のようになってたんだ。
「うわああああ!?」
「なによこれええええ!?」
「イテテテ!」
仲間たちもこのいきなりの攻撃に戸惑ってる。体に噛みついてくるこの毛はすぐに死に至らしめるような攻撃じゃない。けど本命はこいつじゃないんだろう。俺達が変な攻撃に戸惑ってると、影が落ちる。そして次の瞬間――
ズガーーーーン!!
――と巨大な何かが俺達がいた場所に落ちる。俺達はなんとか転がってそれを避けた。間一髪だった。一瞬でも気づくの遅れてたら今ので終わってたかもしれない。俺達は影で得意なのは不意打ちや奇襲だ。そして装備はスピードや音を消す特殊な隠密行動に振ってる。
なのでそんなにHPをモリモリにしてたり、装備は軽さに振ってるから防御力なんてのは紙である。だから一撃が致命的になり得る。もちろん回復役は十全に用意してる。けど一撃でやられたらそれを使う暇さえない。
まあ一応HPが1残る対策はしてる。けどそれに頼る……なんてことはできない。それが発動した時点で危機だからだ。
衝撃を起こした原因はどうやら拳……とかではなかったらしい。巨大な月人がのっそりと顔を上げてるのがみえる。つまりは今の一撃は顔だったのだ。腕も足も有るのに何故に顔? 一番自由度が高かったからだろうか? そして顔を上げた巨大な月人に毛むくじゃらの月人が再びのった。そしてこっちをみる。
その姿は「逃がす気はない」――といってるようだ。