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心臓の音が体から飛び出しそうな程に刻んでる。いつもは気にもしない筈のドクンドクンという音は今やデカいスピーカーの前にいるかのように重低音を響かせて、体を震わせに来てる。
特殊な月人がこちらをみてる……ような気がする。本当にみられてるのかはわからない。怪しんでる状態かもしれない。人間だっでふいに視線を感じてそちらの方に視線を向ける……という事はあるだろう。
けどその状態ではまだ確信はしてない。もしもその相手と目とか合えば「あいつか!」とかなるかもしれないが、大体そんなのは誰かわからない……というのが定番だろう。だから動くな……と視線だけで仲間たちに支持を出す。息を吸うのも最小限に……いや、ここはLROだ。それを最大限に意識すれば、実は息をしないで活動だって出来たりする。
それを本当に思い込むことが出来るのなら、やれるらしい。
「○○○○×××」
何かその頭に布をかけた月人がいってる? それを受けて歪な形をしてる杖を持った月人かこっちにやってくる。やっぱりバレてるのか? そんな思いが湧き上がってくる。
「ね、ねえ、やばくない?」
「いやまだだ」
小声で俺たちはそんなやりとりをする。仲間が不安になってるのもわかる。もしも既にバレてるのなら、近づかれる前に逃げた方がいい。それにそれぞれ別方向に逃げれば、かなりの確率で蒔ける自信は俺たちにはある。
だから判断は早い方がいい……と常々言ってる。でも……だ。でも、もしもここで俺たちの存在が露見したら、ここの警備は厳重になるだろう。月人の数だって増えるはずだ。そうなるともうルートを選定するどころではない。ミッションは失敗という事になるだろう。
それでいいのか? いやだめだ。あの……あのテア・レス・テレスの会長が俺たちに依頼してきたんだ。皆が派手目な活躍を求めるであろうこんなゲームの中でもいぶし銀的な活躍で勝手に「俺かっけー」をやってた俺たち。
他者からの賞賛なんてのは求めてなんてないはずだっだ。けど、ずっと陰に潜み続けてたからこそ、大きな存在に認められる……というのは誇らしかった。こんな凄いチームでも、俺たちを頼りにしてるんだという事実。
もちろんそれをどこかに書き込んだり、ひけらかしたりなんてしない。結局の所は、これだって「俺かっけー」の範疇でしかない。でも、自分たちの格好よさを貫くためには失敗は許されない。
大丈夫だ。俺は成功にすがってるわけじゃない。失敗することを恐れて無茶をやってるわけじゃない。俺たちだって少なくない数の月人と戦ってきた。その経験則がいってる。こいつらはそんな慎重じゃない。
いつもの普通の月人とは違う? 確かにそれはある。
(けど、異常個体の月人の情報も頭にある。そのどれもが知性を獲得してたとはいいづらい奴らだったはずだ)
情報は武器だ。俺たちのような影の者たちにとっては特に。だからこそ情報収集を怠ったりはしてない。今だ月人に知性を感じた形態はない。確かに奴らは強くなれる。進化できるのだろう。
けど……だからって賢くなるのと強くなるのはきっと違うんだ。奴らが賢くなれないのなら、ここは動くべきじゃない。俺はそう、判断してる。