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リア・レーゼの町へと潜入する影がある。全身を黒づくめにして、顔には白い鬼の仮面。そんな奴らが五人。隊長格の鬼の面の角は両側についてた。そして残りの鬼の面には片側だけに角がある。彼らは声を発しはしない。ならばジェスチャーで? と思うだろう。手信号を使うのはこの手の隠密の古来からのやり方だ。けどそうじゃないようだ。
彼らは常にウインドウを表示させてる。そしてそこで軽快なやり取りをしてた。
『潜入成功だね』
『いやーテア・レス・テレスも俺たちに接触するとはわかってるね』
『いや接触するというか、嵌められたんだろう』
『ちっ、あの会長とかいうやつ……まさかもう復帰してたとはな』
『花の城には案外簡単に入れたんだけどねー』
『テア・レス・テレスの核はあの女……その姿が確認できなくなって何かあんたんだろうといわれてたわけだが……』
『私たちのような奴らを誘い出してたのかな? めっちゃ元気だったし』
『わからんな。――が、俺たちは挑戦を受けたんだ。ならばやってやろうじゃないか』
『リーダー前から月人がくる』
緊張が走る。
『陰にひそめ』
その瞬間、影の中に落ちた。そして黒よりも黒い影だけが影の部分を移動する。そして月人が通り過ぎたのを確認して壁の側面からそのお面をつけた顔を出す。
『いったか』
『このまま影が多かったらよかったんだけど……』
そう一人がいう。それに対して隊長格の人物は世界樹を見上げた。巨大な世界樹はリア・レーゼの町を丸ごと覆ってる。そうなるとリア・レーゼの町自体が暗くなってしまうだろう。本来は。けど……リア・レーゼはその逆でまったく暗くはない。今は夜だ。なにせやっぱり潜入とかは夜がやりやすいし、彼等のスキルは影を利用するものがおおい。そうなると影ができやすい夜の方が都合がいい。
世界樹の大きな傘によって日光も月光もさえぎられるはずのリア・レーゼだが、この町が明るいのは当然別の光源があるからだ。そう世界樹そのものという光源が。それも町の端の方はまだ夜らしい暗さを携えてるが、彼らが目指すのは世界樹の幹に沿うように造られたリア・レーゼでも重要な施設が多くある場所だ。そこは夜でも世界樹の光を一番よく受ける場所でもある。
『なに、光が強い所には濃い影ができる。そうだろう?』
隊長格のその言葉に皆が軽い言葉を返す。彼らの役目は重要だ。けど、それを気負ってる感じはない。むしろ自分たちがどれだけできるのか……それを楽しみにしてるみたいだ。彼らは忍び寄る。陰に隠れて確実に。