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「少しいいですか?」
そんな風に声をかけられた。まさか向こうから俺なんかに声をかけてくる……なんて思ってなかったから驚きだ。会議は終わった。大きな取り決めはおわった。やることも……それぞれの役割も……俺達スレイプルは裏方だ。それはいい。
むしろそれが良かった。むしろ下手にもっと戦力を出せ……とか言われてもこまる。まあモブリの代表はとても無茶を言ってきてたけど。
「我らのすべての兵にアーティファクト級の装備を求める!」
とかね。「はぁ?」――である。アーティファクトが特別なのは特殊な力で一点物……だぞ。もしかして一点物の特別な装備をすべてのモブリの兵士たちに作れと? いくらなんでもそんなのは無理だ。確かに一人ひとりが強力な武器と防具を得たら、この作戦の成功の確率はぐっとあがるだろう。
それだけ装備は重要だ。今のリアルでも、どれだけ最先端の兵器を持ってるか……そんなので戦争は決まるだろう。どっちがすごい兵器を持ってるのかは大切。そしてリアルと違って、LROはまだ兵士一人ひとりが戦力だ。
戦場に投入できる人数とかで戦力の大きさやら強大さが決まる。もちろん魔法とかスキルがあるから、一騎当千の猛者がいる。一人で戦場を支配する存在がいたりもするけど……体力ってやつはどうしようもない。
まあそれもいい装備を使えば限りなく伸ばせたりもする。それにそれはこっちの問題で敵側……つまりは月側にはそんなのはないかもしれない。月人に疲れ……とかはこれまでの戦いで見えなかった。
たしかにモブリの代表がいい装備を求める気持ちはわかる。だってこの戦いは所謂「絶対に負けられない戦い」――というやつだ。テレビが何回も口にするような、そんな軽い言葉でなく、本当の意味での絶対に負けられない戦いだ。だからこそ、むちゃを言ってくるのもある程度は理解できる。
けど最初の方でこっちが提供する装備の品質はワンランク上げることになってたはずだ。それをすべてアーティファクト級に? 流石にそんなことをしたらモブリの国の国家予算がなくなると思うが? けどあいつはきっとそんな事考えてもなかっただろう。世界樹の奪還はこの世界のすべての者達の宿願なんだから快く協力するべき……とか思ってたと思う。
もちろんそれにまともな返答なんてしてない。なぁなぁである。下手に言葉尻を利用されるのも嫌だからな。
「どうした?」
「いえ、少し相談が」
そう言ってくる会長。その笑顔がなにかこいつ企んでるなって思わせる。




