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「ありがとうございます皆さん」
「いや、これくらいのことで我らのために尽くすというのだ。よい心がけだぞ。これからも励め」
「ふふ、滅相もありません。けど私たちはリスクを取ります。そしてこれはそちら側が世界樹を奪還することが前提です。もちろんこの作戦に勝算はあります。けどそれが成功するかはそちら側にかかってることを肝に銘じておいてくださいね」
「と……当然わかってる……さ」
モブリの代表が途切れ途切れの声でそう言った。その声にはちょっとした怯えがある。最初、会長が「ありがとう」といった後の声は不遜……といえる声だった。自分が偉いんだって思いだした声。この会議が始まる前……その時はまだ世界樹を取られたことを反省してる風な態度をとってた。けど言葉を紡ぐにつれてこのモブリの代表は自分は偉いんだってのがあふれ出てる。
責められると途端に小さくなるんだけど、すぐにその言葉の節々には自分の地位をひけらかす部分が出る。そんな小物がにじみ出てるモブリの代表だけど、そんな彼もどうやら今の会長……には何かを感じたみたいだ。
会長は今までと同じように笑顔と優しい声音のままだ。けど言ってることはくぎを刺すようなこと。そしてそれがグサッとこのモブリの代表には刺さったんだろう。まあ実際その通りとしか言えないからな。確実に世界樹は奪還しないといけない。そうしないとこれからもずっとこのLROでは頭を押さえつけられてる状態になる。もしもそれが長く続いたら、それが普通になる?
もしも世界樹を取られた後に始めたプレイヤーなら、これが普通……だと思うだろう。けどそんなプレイヤーはきっと少ない。だって既存のプレイヤーよりも新規のほうが多いなんて、ありえない。確かにLROは大人気で毎日毎日、新たな新規は入ってきてると思う。けどだからと言って一日で数百万人が新規ではいる……ということはないだろう。
だから大半のプレイヤーは世界樹が奪われる前の状態がわかってる。だからこそ渇望する。あの状態を……あれが普通だった時を……これは責任重大な任務だ。もしかしたらある意味で月の攻略よりも……だ。
だって月の侵攻はいくらでもチャレンジできる。実際そうなのかはわからないが、月への侵攻はリスクこそあれ、世界樹のようにこっちにかかわること? があるわけじゃない。けど世界樹はすべての生命に関係がある。世界樹が奪われてることによって、スキルも魔法も本来の力を発揮できてない。そして自分たちの身体能力だってそうだ。
それを取り戻すことは次の戦いで絶対に必要だとみんな思ってる。むしろ曲がり間違って月だけ倒したとしてもきっと納得できないくらいだ。世界樹が戻ってこないと、みんなの低下したステータスは戻ってこないんだから。だからある意味で、世界樹の奪還は月の打倒よりも優先度が高いんだ。それを失敗? は誰もがきっと許さない。