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「そ、それにそっちの奴らは世界樹削ってでも素材にしそうだ!!」
「それは……」
やばいな……否定できない。エルフの代表は自分たちが「野蛮」だとモブリの代表にいわれたことにぢゃんと怒る事ができてるみたいだが、俺は……ちょっと自分でそれを納得してしまった。
だって俺達「スレイプル」はものづくりが好きな種族だ。大体の奴らが何かを作ることを生業にしてる。一番はそれこそ鍛冶と防具を作ることだろう。こんな世界である。武器も防具も食いっぱぐれ事がないのだ。
だからそっちに行くのは必然だと言える。でもそれだけじゃない。建築に装飾……芸術に音楽……実はスレイプルはとても多彩なのだ。大体鍛冶やってる奴ら……とか思われるが、それは俺達の一部分でしかない。
まあけど数が多いのは確か。そして貪欲だ。自分たちの造ったものに満足なんてしないのだ。もっと……もっと! 素晴らしいものを! と思ってしまう。だからやりすぎるやつは結構いる。
貴重な素材を得るために自分で冒険者になり危険に飛び込む奴らもいるくらいだ。まあけど、よくある設定だろう。こういうのは普通ならドワーフとかの種族に割り振られることだと思う。
しっかりと「定番」を踏んでるLROにしてはそれは珍しい「逸脱」だ。どうしてそうなったのかは俺にはわからないが……まあつまりはそういう奴らがいるから彼の……モブリの代表の心配も案外的外れではない。
だって前提として説明しておくと、世界樹というのは俺達「スレイプル」にとってはとても貴重な「素材」なんだ。世界樹の葉はそれこそ錬金術の素材でなら最上級だし、その繊維をうまく処理して取り出せば最上級の防具の材質になる。軽くて丈夫……最新の軍用素材も真っ青の性能である。
世界樹の枝とかだって使い方は千差万別。それに一番の特徴は世界樹の素材は「力の通り」が抜群にいい。魔力とかで例えるならその魔力を通す道が舗装されてるといっていい。
力やら魔力はそこらの石ころやそこらの木々の枝に通そうとしても、抵抗感を覚える。そこらの物体ならそれこそ抵抗率は90%は行くだろう。名のある名工が色々と加工したとしても、それは70%位にしかならない。
でも元々世界樹の素材はそこら辺がほぼない。10%程度だろう。そこで俺達名工の腕で更に0%に近づけることができる。それだけで伝説級の素材である。それが目の前にある?
我慢できるだろうか? 家の奴らは? できなさそうだな――って俺自身も思った。