29
「でも! 我々は選ばれた民で! 私はその中でも名門で、特別なんだ!」
モブリの代表はそんなことをいってる。シラーとした空気なのが彼にはわからないのだろうか? いや、わからないんだろう。彼は周囲なんてどうでもいい。問題はモブリという種だけ。それしか彼はみてない。
代表だから種の利益を一番意識するのは正しい。けど……それをあからさまに出したらだめだ。そこら辺を彼に言うのはいないのか? と思う。いや、言ってるのかもしれないが、彼はそれを聞いてないのかもしれない。
だって俺達は代表だ。それぞれの代表が、それぞれの種の為に戦ってる。種の利益の為になんとか不利益を被らないようにって頭をつかってる。俺の場合は最悪貧乏くじをひかないように……にしか考えていない。利益よりも、不利益を被らないことを一番に考えてる。だって欲をかくのはよくない。
なにせ俺は自分がこんな場所にふさわしくない……というのはわかってる。頭だってそんなによくない。そんな俺が何を間違ったのか代表なんて者になってしまった。ならば……ならば下手にやる気を起こして色々としたって迷惑になるだけだ。
だからなるべく何もしない……これが正解だ。でもそれは俺はこの立ち場を自分にふさわしくない……とおもってるから謙虚でいられるのかもしれない。けどあのモブリの代表は違う。
あいつはきっと自分が代表に相応しくない……なんて全く持って思ってないだろう。むしろ当然だ! と思ってると思われる。だからこそモブリという種が長年大切にしてた世界樹の管理人というその役目を他の種にも任せるなんて……できない。
それがモブリの権威の一つだからだ。
「そうですね。それはわかってます」
会長はハッキリとはモブリの代表を否定なんてしない。でも遠回りには否定する。
「それぞれの種がそれぞれの役目を持ってる。でも一人ひとりがそれに縛られる訳じゃない。そして天もそれだけをやらせたいわけじゃない。いろんな人がいるはずです。違いますか?」
「それは……確かにいろんなやつはいる」
「誰も今回の出来事でモブリのみなさんが不甲斐なかったなんて思ってません。あれは仕方なかった。月側の目的は明らかに世界樹でしたからね。世界樹の大切さ、それを皆が今回の騒動でわかったのです。
だから皆さんが協力したい……と言ってるんですよ。今、世界樹の価値はこれまでにないくらいに高まってるのです」
そんな会長の言葉に何故かモブリの代表が胸を張ってる。世界樹の価値が高い――つまりそれを守ってるモブリの価値も高い……なのかもしれない。