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「貴様、今……」
「はい? お許しくださってありがとうございます。さすがはエルフの代表です。その慈悲も広いのですね」
とぼけた。会長はなんの気はなくただそう言ってのけた。ここにはその種のトップが集まってる。そんな場所に武器の帯同は認められてない。だからここに入る前に武器は預けてある。
なのでエルフの代表は手甲を外して投げようとした。きっとそれは手袋を投げつけるのと同じ意味を持ってると思われる。つまりは決闘の申し込みだ。だからこそ会長はそれを止めたんだろう。
だって勢いに任せて……となっても種の代表がそんなことをしたら……それをスルーなんてできない。目撃者は同じ立場の代表たちともなれば、それは種の沽券に関わるだろう。
するとプライドが高いエルフの代表が引くなんことはない。ここでは決闘はできなくても、日を改めて絶対にあいつはやる。そしてそれは負けても勝ってもいいことはない。だから、会長は事前にその無駄な決闘を止めたんだ。
この世界には魔法もある。モブリとかは魔法の方が得意だ。武器だけ取り上げても、脅威を排除することはできない。だからもちろんだけど、魔法もここは使えない様になってる。それは個人への対処じゃない。この部屋ごとそういう特殊な状態にされてるんだ。
そうやっていろいろな対策がされてる場所がここだ。だから「力」を使うのが難しい。その筈。それはこの場にいる誰しもがそうなんだ。じゃあどうやって会長は今、一瞬だけエルフの代表を拘束した?
やっぱりそれは会長のやつの力……文字? だろうか? 会長は文字を使う。綴った文字に力を持たせる……それが会長の……会長だけの力だ。ペンや紙はここにもある。だからそれを使ったのだと思われる。
「ふん、だが我らエルフは簡単にちび共には手を貸さんぞ! なにせこれまで世界樹を独占してきたのはそいつらだ。なのに困ってるときだけ手を貸せ? それは道理が通らないと思うが?」
なんとか冷静さを取り戻したらしいエルフの代表はなんとももっともらしいことを言ってきた。そしてその言い分は至極全うで、更には心当たりがモブリにはあるんだろう。縮こまってる。
実際そのさまはありありと想像できる。世界樹の管理者という立ち場をこれまでずっと傘にきて大きな顔をしてたんだろう。実際俺が初めて代表の立ち場でモブリに会った時もそうだった。
ならばきっとずっと長くモブリと接してきたエルフの代表……いやエルフの代表だけじゃなく、他の代表達だってそれはわかってる。だからこそ、下手にモブリを擁護することしないのかもしれない。
なるほど……人望がないんだなっておもった。自分のこれまでの行いやら態度……それらがただ自分に帰ってきてるだけ。もっと周囲に優しくしようと俺はおもった。