2650 前に進む為のxの問い編 1034
「日鞠!」
「スオウ!」
なんと……日鞠の奴は玄関にいた。この屋敷の玄関は家に直接入れるという作りじゃない。まさに昔の日本家屋よろしく、最初の玄関は、この屋敷を取り囲むようにぐるっと塀があって、その塀の二か所、それこそ正門と裏門という場所があるのだ。
そしてその玄関から入ると、中の日本庭園を眺めつつ本館へと至る……と言う感じになってる。立派な第一の門……玄関はそんなドドーンとどっかのマンガの様にそびえたつ……という感じはない。寧ろ明らかにお屋敷ぜんとしてる割には日本らしく控えめというか? 小ぢんまりとしてる。塀は下は岩が組まれてて、上の方は木製だ。
昔ながらの雰囲気が残る、歴史を感じる形になってる。玄関部分は屋根もあって、横にスライドして開くような……そんな形。車は入らない。人が通る用だ。
その屋根の下に日鞠はいた。
僕はその姿を見た瞬間、思わずラオウさんを見て彼女に車を止めてもらった。専用の駐車場にいって車を止めてまたここに来る……なんてのを待ってることは出来なかった。
それだけ日鞠の姿を見たら気が逸ったのだ。自分の気持ちを抑えることができなかった。
「スオウ、おはよ――きゃっ!?」
ゆったりとした服を着てた日鞠。けどそれはこれまで見てた寝巻ではなかった。それに、髪もそうだし、体もそうだ。抱き着いた僕の鼻に香ってくる優しい匂い。
きっとお風呂に入って僕が来るのを待ってたんだろうってのがわかる。だって寝てる間はお風呂に入れる……なんて出来ない。お世話はちゃんとやってくれてる人がいたが、女性の力ではお風呂に入れる……というのは難しい。
なにせ意識がない人体は重いのだ。だからって異性がお風呂に入れるなんて出来る訳ない。だから体を拭く程度だった。
それが気になったのかもしれない。それにうっすらとメイクもしてるみたい。いつもの三つ編みじゃなく左肩の方にシュシュでゆるくまとめた髪が流されてる。足元は靴ではなく、サンダルだ。
でもなんでもいい。だって……こうやって日鞠が目の前にいるんだ。僕は強く……けど痛くないように日鞠を抱きしめる。
知らないうちに、目からしょっぱい水が出てた。