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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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止まるしかない

 沸き立つみんな。アキバの街に勝利の声が響いてた。勿論なんとかなってよかったと思う。だけど僕の心は複雑だった。バカラさんが言ってた。ここだけじゃないと。

 それを考えると、今この瞬間を手放しで喜べない。僕は選択しなきゃいけない。進むか止まるか。


「くっそ、やられたか。一旦退くぞ!!」


 そんな荒々しい声が辺りに響き、劣勢だったチンピラ共が退いていく。そんな様子を見て、沸き立つ声が所かしこで上がり出す。

 僕はそんな様子に取り合えず胸をなで下ろす。これで怪我する人の増殖を押さえられる。みんな変に深追いもしないし、やっぱりどこかで規律でも作ったかの様な冷静さが熱さの中に混じってる様だ。


「ご苦労様です」


 僕が周りに目を向けてると、背中側から柔らかい口調でそう言われた。振り返るとそこには、僕のスマホを拾ってくれた人が居た。

 肩よりも長く伸ばした黒髪が、なんか不自然な程似合ってる男の人。普通男のロン毛ってあんまり良い印象を持たないけど、この人は違う。

 なんか清潔感が漂ってる感じ。


「みなさんのおかげですよ」


 僕は感謝の念を込めて、お辞儀をする。するとその人は「私は何も」そう言って謙遜した。奥ゆかしい人だな。まあ確かに乱闘の面ではわかんないけど、でも僕のスマホを拾って届けてくれたのはこの人だし、「みなさん」の中には当然入るよ。


「そう言って頂けると恐縮です。まあですが、私たちだけじゃ動き出せ無かったでしょうがね。お恥ずかしながら、私達にはそのような度胸は殆どないんですよ。

 数十年という人生を歩んで共通に培った物が、厄介事を見て見ぬ振りをするスキルですからね」


 そう言ってちょっと情けなさそうに「ははは……」と笑うその人。だけどそれは別に恥じる事じゃないと思うけど。誰だって大体そうだろ。

 仕事もあって家族とかまで持つように成るとさ、きっと日常って奴を守る方が重要なんだと勝手に想像する。学生時代位だよな。非日常が降ってこないかな~なんて想像に胸を躍らせるのは。

 きっと僕達とは責任とか背負ってる物が違うんだ。そのくらいはわかる。だから卑下する事なんかない。それにこの人達は、そんな厄介事に進み入ってくれたんだ。誰がなんと言おうと、僕は尊敬しちゃうね。


「はは、それはそれは、とっても嬉しい言葉です。ありがたく受け取らせて貰いましょうかね」


 そうその人が言うと、僕をチンピラの拳から守ってくれたオジサンが、ミンティアっぽい物を口に含んでガリガリかみ砕きながらこう言った。


「ふん、自分はただ、この年になってもヒーロー願望が捨てきれなかっただけだ。別に感謝されたくてやった訳じゃない」


 ミンティアをガリガリとかみ砕きながら、オジサンは殴られた腹を気にするように手を当ててる。やっぱ無理してるんだろうか? ちょっとぶっきらぼうな言葉だけど、でもその顔は結構晴れやかにも見える。

 周りの他の人達もそうだった。鼻血出てたり、服が擦り切れたりしてる人達も入るんだけど、なんかみんなそれなりに良い顔してる。

 中には今更震えだしてる人も居るけど、けどそんな人も震える自分を見て笑う、みたいな。そんな感じで、チンピラと一戦交えてたとは思えない程、結構和気藹々だ。

 みんな知り合いとかじゃ勿論ないだろうに、同じ敵を退ける為に取った大胆な行動のおかげで、なんか仲間意識が既に出来てるみたい。

 するとそんな雰囲気の中、投げかける様な質問をメカブがした。


「けど、それじゃあどうしてみんなは行動を起こせたの? それが一番の疑問なんだけど? あっ、私からもありがとうございます」


 最後に思い出した様にお礼を付け足したメカブ。こいつちゃんと感謝してるのか? してない訳ないと思うけど。だってメカブは傷物にされかけたんだし……けどまあ、メカブの疑問は最もだった。

 僕もそこら辺は気になるよ。自他共に認める厄介事スルー主義の人達が、何をきっかけにあんな大胆極まりない行動に至ったのか。


「そうですね。実際自分達でもびっくりなのですが、私達の背中を押してくれたのはこの人ですよ」


 そう言ってその人は自身のスマホの画面をこちらに向けてくれた。そこには掲示板が表示されてる。そして沢山の書き込み。

 今はチンピラ共を追い払った勝利の書き込みが絶賛殺到中って感じだ。てかこの板はこのイベントで僕達が得た情報を随時暴露してた場所じゃないか。

 てかまあ、ここを知ってないと、先には進めないか。みんなここで情報を得てた訳だね。けどここは情報と意見交換の場みたいな物の筈で、誰かの行動を促すような事ってやるか? 

 ネットでの書き込みなんて、受けて次第だろどう考えても。それがこんな風に成るなんて信じられないんだけど。

 そんな事を思って画面を見てると、新たな書き込みが発生した。投稿者は豚の饅頭さん……この板を立ち上げた人だな。


【みなさん怪我はないですか? 大丈夫ですか? 素晴らしい行動だったと思うけど、怪我の治療は忘れずに! みなさんが行動を起こしてる間、私は祈り続けてました。

 みなさんは立派な人。この行動はきっとみなさんの人生の見方を少しだけ変えてくれると思います】


 そして書き込みがズラズラ~~と続いてる。まるで教祖を称える信者みたいな反応だな。しかもこの豚の饅頭さんも自分を立てずに周りを立てようとするから、ますますその謙虚さに皆さん熱中だよ。


「この人が私達を助けるように?」


 スレを見つめてたメカブが、その人の「ええ」という言葉を受けて、自身のスマホに目を落とす。どうやら、他人のスマホを無理な体勢で見てるより、自分で見る方がいいと判断したんだろう。

 僕はと言うと、そのままの態勢で他人のスマホをスクロールしてた。過去の分の書き込みを見ればみんながこの行動に至った理由がわかるだろう。

 そんな事を思ってると、頭上からその人の声が降ってくる。


「けど助けるようにとは言ってないですね。貴方達の姿を見て、確かにどうにかしなければ……という感情は誰もが持ってた筈ですが、けどそれは私達には難しい事です。

 私達には、誰かの為に立ち向かう事を、損得無しでは考えられない。恥ずかしながら、そう言う大人なのです」

「なるほど。だからこの豚の饅頭って人は、その損得を絡めてみんなを焚きつけた訳ね」

「ええ、まあそう言う事です」


 そうニコリと微笑むその人。結果的には助けられた事に変わりはないんだし、理由なんて実際どうでもいいよ。損得を考えたってさ、奴らに立ち向かう事はやっぱり容易じゃなかったはずだし……善意だけじゃ人は動けない事も知ってる。

 まあ中には百パーセント善意で動く人だって居るだろうけど、それは少数だろ。

 けど……この豚の饅頭さんはある意味あざといというか、過去スレを見ていくと、確かに良いこと言ってるよ。それに決して強制はしてない。まあ出来ないし、そこら辺は間とかを考えて次の書き込みをしてるようにも見えるな。


【大丈夫、誰かがみんなを責めるなんてしない。そんなその他が誰もなんだから。けど、考えて見てください。みんなそこにいて、その他大勢とは違う人に成れるんです。

 その殴られてる人たちを助けるなんて大層に考える必要はありません。もっと自分に都合のいいように考えても、周りには格好良く映る方法がありますよ】


 なかなかに大胆な発言してるじゃないか豚の饅頭さん。まあまさしくそうこの人たちは周りに映っただろうけど……僕のイメージでは豚の饅頭さんが小悪魔位に思えてくる。


「でも、スゴいわよこの人。上手いもん。これだけの人達を誘導出来るって、普通じゃ考えられない」

「はは、実際普通の状況じゃそもそもなかったので、少しは元から感覚が麻痺してたのかも知れないですね。この暑さの中歩き回って疲れてた筈ですし。

 何かこうパァっとする事を求めてたのかもしれないです。普通なら思いとどまる所ですが、LROは特別だったという事でしょう。

 あの場所に救われてる人達は多いんですよ」


 なんかこの人の言葉を聞いてると、この豚の饅頭さんに誘導されたのもわかるかも。豚の饅頭さんはこの人たちの黒い部分だけじゃなく、根底にあるLRO好きの部分も刺激してた訳だ。

 前の情報であのチンピラ共がLROでも犯罪者集団ってバレてるし、自分の関係ある範囲の善意も突いてたのかも。

 それがいろんな葛藤になって、そして一人が決断して行動をした。あの最初に助けてくれた人が、実は一番偉大だったんだよ。

 きっとあれがきっかけで他の人達が続いた筈だしね。何でも最初が一番怖い。それにこんなに人目があると羞恥心も働くし、難易度はさらに高くなる。

 そして勿論痛い目に遭う(これは物理的な意味でね)リスクも当然あるんだし、自分から進んで殴られたいと思う人はいない。


 それでもあの人がそれら全てを乗り越えて、行動した事がキッカケで、ここに立ってる人の大半は動き出せたんだと思う。

 豚の饅頭さんもそこに今まさに触れてるしね。

 するとそこでどこからか、こんな声が聞こえた。


「でもこれで終わりな訳じゃないんだよな」


 その言葉に続いて、周りから声が挙がる。


「そうだな、さっきのチンピラ共は一旦とか言ってたし、あいつらって結局下っ端だろ? 確か黒幕が居るはず何だよな」

 そこで僕は「あっ……」と思ったよ。そうだ、ここにハゲがいない時点で続きがあることに気付いても良さそうなものだった。

 この装置を守るのが奴らの役目なら、必ずハゲだって居る筈なんだ。それなのに姿が見えないのなら、この戦いはこれで終わらないって考えるべきだった。

 大変だったから、そこまで気が回らなかったな。普通にバカラさんに言われるまでここが最終地点だと思ってたもん。

 でもそんな事はなかったんだよな。


「行くわよ無限の蔵! 私達がやらなきゃダメなのよ!」


 そう言って僕の腕を引っ張りだすメカブ。こいつはあんな事あったってのに元気一杯だな。


「だって無事だったじゃない。何も問題ないわ。それにあいつ等をこのまま野放しにしてる方がよっぽど胸くそ悪いわよ」


 はは、まあメカブはそんな奴だよな。けど……僕は歩みを止めて、メカブの進行を阻害する。


「ちょっ、何するのよ。速く行かないと残りの装置が起動しちゃうわよ」


 ああ、確かに。それはわかる。急がないといけない……急がないと……ブリームスの人達が消えて、アイテムは結局犯罪者共の手に……僕は静かに口を開く。


「なあメカブ、ここまでにしないか?」

「え?」


 振り返ったメカブの髪が柔らかく揺れた。その様はとっても女なの子らしくて良かったんだけど、その瞳が頂けない。

 どうみても「何言ってんのこいつ?」的な瞳だもん。僕は僕でいろいろ考えたんだけどな。そんなに意外な事か?


「どういう事よ」


 メカブは直ぐに眉をつり上げて、きつい瞳を僕に向けてくる。それにやけに顔を近づけて来やがるな。言いづらいんだけど。


「いや、ちょっと考えればわかるだろ?」

「わかんないわよ! ここでやめるなんて、そんな戯言抜かす奴とは思わなかった!」


 ええ~なんだけど。そこまで怒るか? って位にメカブはご立腹。この状況だぞ。何度も言うけど、今の僕はメカブを守る自身がない。


「別に守って貰おうなんて思ってない」

「お前な……お前がそうだったとしても、メカブが危ない目に遭いそうになったら、こっちは守ろうとしないわけには行かない。放置なんて出来る分けないだろ」


 目の前で傷つく様を放置できる程、僕はまだ腐ったつもりはないよ。けどそんな僕の言葉を聞いてメカブはこう言った。


「誰かを守る為に、頑張ってきたことを諦めるの?」

「違う。今の僕の状態じゃ、どのみちハゲ共を出し抜いてアイテムを手にするなんて不可能に近いんだよ。そしてこんな自分は、お前を守ることは出来ない。

 無駄な可能性に掛けて、友達を危険に晒すほどの事じゃない。そう判断しただけだ」


 僕はきっぱりとそう言ってやったよ。ここまで頑張ってきたけどさ、限界だよ。こんな展開じゃ僕たちには不利すぎる。

 まだまだ手下を抱えてるハゲ共と、こんな満身創痍な自分。寄せ集まったみんなも居るけど、けどこれって一時的な物だろ。

 仲間とかじゃ僕たちはない。今の今まで顔だって知らなかったくらいだし、てか誰からも名乗りを受け取って無いぐらいに、関係としては曖昧だ。

 頼れる物なんて……今の僕たちには無いんだよ。僕がそんな風に考えてる事を伝えると、メカブは一際苛立った様な表情とそして舌打ちをかます。

 女の子がやっちゃいけない事だよそれは。なんか異様に傷つくし……印象悪い。そして無造作に手を伸ばしたかと思ったら、神業的速さでスマホをかすめ取られた。何こいつ、どんだけ手癖悪いんだよ。

 プロかと思ったぞ。


「ふふ、鍛えからね」


 何をしてだよ……とは突っ込めなかった。変わりに「返せよ」といってやる。てか、何でかすめ取ったんだ?


「やだよ~だ。これは私が借りとくわ。そして無限の蔵の変わりに私がイベントを引き継いであげる」

「は? 何バカな事言ってるんだお前? 一人で何が出来るわけもないだろ」


 メカブだけでイベントを続けるとか、そんなのライオンの檻にウサギを放つような物だろ。ようは奴らに餌というご褒美を与えるだけ……そんな事させられる訳がない。


「じゃあ続ける? 言っとくけど、私が諦めるって選択肢は無いからね」

「なんでお前……そこまでアイテム欲しがってたか?」


 そんな記憶全然無いんだけど。どっちかって言うと、僕をおちょくって楽しんでたろ。それで満足しとけよ。バカなチンピラ共は勢いだけで最後までヤっちゃうかも知れないんだぞ。

 そんな事になっても良いのかよ。


「そんなの良い分けないじゃない。私は下劣な男に、体を捧げる気なんて無い。けどね、私が一番嫌いなのは下劣なバカが幅を利かせてれる様なこんな状況よ。

 ただの抗争でもない、こんなイベントだから私達にだってあんなバカを叩き潰せる機会があるのよ。

 ここで逃げ帰れる訳無いでしょう」


 そういって口の端をつり上げて妖しく笑うメカブ。その顔はチンピラ共に復讐してる様を想像してるような……物騒な顔だった。


「リスクが高すぎるって言ってるんだよ。ここはLROの中じゃない。女の子が男に対抗出来る手段はそうそうない。それともお前は格闘技とかやって……る訳ないよな」

「どこ見て勝手に結論付けたオイ」


 無駄に起伏が激しい部分を腕で押さえてこっちを睨んでくるメカブ。こういうのって女の子は敏感だよな。別にそこを見てだけじゃなくて、今までのメカブの行動から推測したことなんだけど。

 だってメカブ、今までそんな素振り微塵も見せなかったしな。酷いことされそうな直前まで出し惜しみする理由なんて無いだろ。

 それにこいつ……まあ女の子は結構大体だけど柔らかかったしな。筋肉あるの? って感じ。同じ成分で出来てるのか、時々疑わしくなるよ。


「とにかく私は一人でもやるの! アンタはそこでヘタレてなさいよ!」

「そうは行くか!」


 僕は歩きだそうとするメカブの腕を掴む。けどそこまで力が入らない、ついさっき握力も限界まで使っちゃったからかも。

 スマホを操作するくらいは苦も無かったけど、こうやって誰かを引き留める力じゃ心許ない感じだ。そしてそれをメカブも敏感に感じ取ったっぽい。


「ほんと、なんか脆弱ね無限の蔵。掴まれてる気がしない。それじゃあ添えてるだけだよ」

「確かにな、自分でもだからイヤになるって言ってるだろ。ここまで頑張ったんだ……諦めたくなんて本当はないさ。

 でもダメだろ! 暴力を主体にあいつ等が妨害してくるのなら、これ以上は踏み込めない。情けないけどさ、これが今の自分の状態なんだよ」


 力を入れようとすると小刻みに震える手。本当に添えるだけしか出来ないこんな状態じゃ、何にも出来ない。さっきの事でそれを嫌という程味わった。

 ここから先はきっとハゲも居る。あのチンピラ共だって増えてるかも知れない。それに向こう側に付いた人達だって居るはずだ。

 奴らは金で人を雇ってたみたいだし……その数は計り知れない。どう足掻いたって僕たちが太刀打ち出来るレベルじゃない。


「そうね。私達はきっと勝てないかも知れない。無限の蔵の思うとおり、私格闘技の経験なんてないし、一人で行ったら酷い目に遭うのは確実よ。

 私きっと泣いちゃうな」


 そう言いながら、メカブは僕の手に自身の手を添える。細くて白い綺麗な手だ。でも今は、そんなメカブの手の方が力強く感じる。それだけ僕が弱ってるって事か。

 でもこれは……メカブもわかってくれたって事だろうか? 

 周りは未だ興奮抑えられない感じ。そんな中で僕達だけが異彩を放ってると思う。進むか止まるか。既に僕に選択肢は無いと思ってる。

 この人達はまだ続けようと思ってるのだろうか? 今回は上手く行ったけど、ハゲ共も引けなくなったら必死に守るだろうし、実際そうなったらこんな程度の被害じゃ済まない。

 それこそ警察沙汰になりかねないよ。


「ねえ無限の蔵。もう一度聞くけど、本当にもう良いのよね? 後悔しない? 今までの頑張りが無駄に成ってもいいのね?」


 真っ直ぐに見つめてくるメカブ。けどその顔はなんだか睨んでる様な。


「なんか表情と言葉が合ってなくないかお前?」

「しょうがないじゃない。よく見えないんだから」


 そこで僕は思いだした。そう言えばメガネ取られてたんだっけ? 視力悪いからそんな睨んだ感じで見てるんだな。

 僕はキョロキョロと当たりを見回す。するとまた、人の良さそうなあの人が「どうぞ」と言って黒縁メガネを渡してくれる。

 凄いなこの人、なんだか執事みたいじゃね? 僕は「どうも」と言ってメガネを受け取り、メカブに装着させてやる。


「ほら、これでどうだ」


 ようやく見慣れた顔が戻ってきた感じ。メガネ無しも良いけど、メガネあっても別に印象はさほど変わらないな。僕的にはだけど。

 まあもっとデザインに優れたメガネにすれば、違和感も無くなるんだろうけどね。なんでそんな古くさいタイプのメガネを掛けてるのやら。


「うるさいわね。別に良いでしょ。メガネなんて度さえ合ってればいいのよ」


 まあそれはそうだろうけど……メカブを眼鏡を整えて、もう一度「良いのよね?」って聞いてくる。今度は柔らかくその瞳の奥にちょっと寂しい光が見える……そんな顔だ。


「いいよ。言っただろ。アイテムよりもお前を傷つけたくないって」

「そっか……じゃあ、まあしょうがないかな」


 そう言ってメカブは僕にスマホを返してくれる。納得してくれたって事だよな。良かった良かった。諦めるのは残念だけど、あんな事二度とあっちゃいけない思う。

 もう一度の時、取り返しの付かない事になったら最悪なんだ。


「じゃあ諦めたんだし、イベント終わりまで変わりに買い物に付き合いなさいよね。それで納得してあげるわ」

「言っとくけど、金は出さないぞ」

「そんなの期待なんかしてないわ。無限の蔵ってどうみても富裕層には見えないもん」


 悪かったな貧乏学生で。僕の親……と呼べる人達は教育費と実家の高熱費と、最低限の食費しか振り込まない奴らなんだ。

 そもそも既に十年位は姿も見てなければ声も聞いてないし、親と呼べるかも怪しい奴ら。だから下手に金の催促なんて出来ないんだ。


「やめてしまうのですか?」


 僕達の会話をずっと聞いてたであろうその人が、不意にそう言った。僕はちょっとぎこちない笑顔で「はい」と答える。

 けどその時、僕のスマホからコール音がした。通話ボタンを押して耳に当てると、知った声がこう言った。


「こんな所で終わらせないよ☆」

 第二百六十六話です。

 今回はスオウが初めて自分から何かを諦める回かもしれないです。いままでずっと何かとかなってきたけど、リアルとLROは違う。それを思い知る事になる今日このごろ。

 これ以上をやめたスオウの判断は自分的には正しいと思えるけど、どうでしょう。スオウらしくないのかな? だけど最後の最後に一言だ登場したあいつが、まだ終わらせてくれない……かも。

 てな訳で次回は火曜日に上げます。ではでは。

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