2622 前に進むためのXの問い編 1006
「えーと、どういうことですか?」
だって悲しませたくないっていってた。それはわかる。当然だ。だって摂理は当夜さんの妹だ。たった一人の妹を悲しませたくない――そんな思いは当然だろう。なのに……だ。なのに……
「悲しまないのは……なんか悔しいぞ」
??? ――だよ。どういう事? 摂理が悲しまないのならそれはとてもいいことでは? そういう僕に対して、日鞠の奴が「ふふふ」――と軽く笑ってる。こいつは当夜さんの謎のこの言葉の意味が分かるのか? やっぱりちゃんとした家族を持ってる奴とそうじゃない奴の差なのか?
「わかるのか?」
「うーんそうだね。当夜さんは本当に摂理ちゃんを悲しませたい訳じゃないんじゃないかな? けどね、自分がいなくなった時になんの感情も持たれないのは当人にしたらさみしい……みたいな? 哀しいって事は、それだけその人の事が摂理ちゃんにとって大切だった……って証みたいな物だといなくなる人は感じるんじゃないかな?」
「俺はまだいるがな」
「あはははは、そうですね」
なるほど……と思った。日鞠のいう事ならわかる気がする。もしも……だ。もしも日鞠を置いて先に僕が確実にこの世からいなくなる……とわかってるとしよう。それなのに日鞠から――
「私、皆がいるから大丈夫。悲しくないからね!」
――とか元気いっぱいに言われたら……僕はそれを想像するよ。
「確かになんか悔しいな」
僕はボソッとその場面を想像してつぶやいた。確かに悔しい。日鞠を悲しませたくなんかないし、つらい思いなんてしてほしくない。当然だろう。けど……僕がいなくなるというのに、「大丈夫!」と言われるのはなんか……なんかそう……モヤッ――とする。うん、モヤッとするのだ。心のなんか奥の方に黒いシミが出来るような……そんな感覚だ。決してそれは大きくはない。小さなものだ。
でも……そういわれると――
「え? そんなもん?」
――という感情が湧き上がるのも事実。僕が死ぬのにそれだけなの? という気持ち。今まで考えた事もなかったけど、なんか人間って複雑だなって思った。
「それじゃあ、もしもその時が来たら思いっきり摂理には悲しんでもらって、その後に僕たちがなんとか引っ張り上げるってことで」
「そもそも元からそうなると思うよ? だって大切な人がいなくなって悲しくならないわけがないもん。ただそれでも、友達とか信じれる人たちがいたら、また前を向いて歩きだせるってことじゃないかな? 私達は悲しみを無くす手伝いをするんじゃない。
引っ張って背中を押して一緒に歩いてあげるんだよ。もういなくなった人の代わりに」
日鞠のその言葉に、僕はストンとなんか心にハマった気がした。そしてそれはきっと、当夜さんだって一緒じゃないのだろうか? だって彼も別に反論なんて一切しない。そしてさらに続けて日鞠がいうよ。
「だから何も考えずに当夜さんは摂理ちゃんと楽しい時間をいっぱいもてばいいと思います!」
そう、貴方がいなくなった後、沢山悲しむ摂理の事は僕たちがなんとかするから……