2620 前に進む為のxの問い編 1004
なるほど、もう一度……か。それが当夜さんは不安なんだ。自分がもう一度セツリに接触したとして、それでもう一度家族になれたとして、それがいつまで続けられるのか。僕は単純にここならいつまでも……って思った。
だってここにいられる当夜さんが居なくなる? ……なんてかんがえてなかった。だって既に言っちゃ悪いけど、もう当夜さんの肉体はないわけで、そうなるとここにいる限り彼は老いとかもないわけだよね? ならば死ともかけ離れてるって思った。
一度死んでるからこそ、その死は遠くにいってるような……さ。でも……どうやら当夜さんも日鞠もいつまでもここにいられる……とは思ってないらしい。どういうことなんだろう? 自分でやった……んじゃないのか?
「ここにいるのは、当夜さんの意思じゃないんですか? そうやったんじゃ……」
自分の死を自覚したから、こっちに意識だけでも……とかしたのかと思ってた。でもどうやら僕のその考えは違うらしい。
「ふしぎだな。そんな事をした覚えはない。そもそも意識を丸ごとバーチャルに全て逃すなんて出来るとおもうか?」
そんな事言われても……そもそも僕からしたらフルダイブゲームだって革新だった。いや、この世界にとって革新だっただろう。世間が騒いだ。それは確かで、それを作ったのはこの人だ。つまりは当夜さんは世間になかったものを生み出した存在だ。
そんな彼なら……出来そうではある……様におもうじゃん。僕は日鞠に視線を向ける。そんなに難しい事なのか? という意思をこめて。だって僕にはわからない。そういうことは……ね。
「それは、自分にはわからないですけど……じゃあなんでここに?」
前も思ったけどね。この状況は当夜さんも予想外の事なのか。
「死んだと思った。いや、受け入れてもいた。だから色々と対策はしてた。ここに残しておく自分の意思だって用意してた。いつか、これを遊んでくれる摂理がそれを見つけてくれるように……と」
やっぱり残してる物はあったんだ。それはそうだよね。だって摂理はたった一つの家族。そして自分が作ったものに自分の最後の言葉……辞世の句を残そうとするのはなにもおかしなことはない。
いつか摂理がそれを見つけて、兄の本当の気持ちを知る――感動のエンディング。そんなのを当夜さんだって死の間際に考えてのかも。でも……
『俺はいつからかここにいた。だから、いつか不意に消えてもおかしくない』
原因がわからないから、摂理に安易に知られるわけにはいかない。そういうことなんだろう。頭がいいって難儀だなって思った。