2618 前に進むためのXの問い編 1002
「自己満足……か」
自嘲気味にそういう当夜さん。その顔を見てると胸がズキンと痛む。だってそれが辛いことだというのはわかってるからだ。当夜さんだって本当なら摂理の傍に居たかっただろう。自分がいなくなるのなんて嫌だっただろう。
なのに……彼はもういない。ここにしかいない。けど、ここにはいる。
「当夜さん……すみません」
僕は謝った。酷いことを言ったとはわかってた。だから謝った。けどここでやり直したらいい……という思いまで謝ったわけじゃない。そこは本心だ。本心で思ってる。ここでならもう一度二人は「家族」をやり直せるんじゃないか? そのはずだ。だって、この人はこんなに近くにいる。
LROなら、ちゃんと感じれる。そして触れられるし、暖かさだって冷たさだって……それに鼓動も……ただ血が出ない事を除けばなにもリアルと変わらない。それだけの感覚がちゃんとある。
それを作り上げたのがこの人だ。だからここできっとやり直せると思う。
「当夜さん、摂理と会ってください」
僕はそういった。そっぽ向いてた当夜さんの指がぴくっと動くのを僕は見逃さない。でも当夜さんは何もいわない。
「当夜さん、あいつと――」
「スオウ」
日鞠が僕の手をぎゅっと握る。僕は日鞠と目を合わせた。優しい目をしてる。いや、日鞠はいつだって優しい目をしてるけど……でもここでは日鞠の目を直接見ることができる。
それだけいうと僕が誰かの目を直接見れないような陰キャと思うかもしれないが、そういうことじゃない。リアルではいつも日鞠は厚いレンズの黒縁メガネをつけてる。まああれレンズじゃないけど……
でもガラスで隔たれてるのは変わらない。けどLROでの日鞠は眼鏡はかけてない。だから、その目を直接見れる。深い、黒い瞳。LROでは自由に自分をクリエイトできる。だから日本人離れしたような容姿の人たちが多い。
日本人が持ってないようなカラフルな色の髪、カラフルな色の瞳というふうにね。けど、日鞠はキャラクリ出来ても自分に近づけようとしてる。だから髪も瞳も黒い。それでも完璧にリアルの日鞠じゃない。
瞳だってそのはずだ。でも……その奥に見える光。その思考の深さ……それは間違いなくこいつが日鞠本人だと幼馴染で彼氏の僕には思えた。
そこには日鞠だけの光があったから。そんな日鞠が目で言ってる。
「任せて」――と。