2614 前に進むためのXの問い編 998
ジトーと僕は抗議の目を当夜さんに向ける。だってこのペナルティはなかなかに重くない? だってすべてのステータスが1って……リアルの肉体よりも脆弱じゃないか。何もできないよ。それに一番の問題はその状態が無期限ってことだ。だって期限がないのだ。いつまで……と期限が決まってたら我慢することが、耐えることが出来る。
でもゴールがないのではどうしようもない。心が折れる。もしもずっと1だとしたら……もうこのアカウントでやっていくのは無理という事になる。でも僕は他の人たちと違って別のアカウントとか……作れるのか? わからない。
「別に知らなければいい事だ。そうだろう? 興味ないんだろう? 実は後からこいつに聞くとか、そんな事をしても無駄だぞ」
こっちの考えを完全に見透かされてた。まあそうだよね。分かるよね。後からこっそり聞いちゃえばいいじゃんって普通に思うもんな。天才である当夜さんがそれを見透かさないわけがない。
(この自信、後から聞いたことを知る術があるのかも……)
当夜さんがここまで言い切るんだからな。やっぱり後から聞くとかはしない方がいいみたいだ。そもそもうん……本当に興味なんてないし?
「まあ、人の秘密をあばくのは良い趣味ではありませんしね。スオウが興味ないというのなら、これは必要ないですね」
「いいのか?」
「はい」
黒い表紙の本はサラサラと砂になって机に山をつくる。別に消すとかもできると思うが……なぜに砂にしたんだ? よくわからない。きっともう復元できない……みたいなことの表現?
「もう全部覚えてるから」
「おい、今すぐその頭を差し出せ。そうしないと、リーフィアの出力を上げて脳を焼くぞ」
めっちゃやばい事を当夜さんが言い出した。脳を焼くって……そんなの絶対に死じゃん。直行便だ。やばすぎる。
「ちょっ! 当夜さんそれは――」
僕はなんとか許してもらおう思った。だって既に日鞠は読んでしまってるんだろう。そうなるとこいつ僕とは違って全てを覚えてるのは普通にあり得る。なにせ日鞠はそういうやつだ。記憶したら忘れることもできる? いや、そこらへんよくわからない。だって僕は覚えておきたいことも自然と忘れるし……テスト前に詰め込んだ知識とかさ……
覚えるのは大変なのに、忘れるのは一瞬っていうね。でも日鞠はなんでも器用にこなす奴だ。脳だって実は自分の思う通りに動かしてたり?
「ふふ、大丈夫だよスオウ。この人はこういう冗談が好きなんです」
「冗談だと思うか? 試してやろうか?」
「無理に悪役っぽくする必要ないですよ。それにスオウ以外にはいう気はないですよ」
「それを信用しろと?」
「できませんか? 私ですよ?」
なぜかその言葉で当夜さんは納得した。いや、僕も日鞠ってだけで信用できるけどね。




