2605 前に進む為のxの問い編 989
日鞠が取り出したのはとても強烈なタイトルが金字でつづられた黒いノート。それが何なのか、タイトルを読むとわかった。それに当夜さんのあのうろたえよう……きっとあれは若気の至り……と言う奴だ。当夜さんにもそんな過去があったんだなって、ちょっと親近感がわいてくる。
だって彼ってLROを創った天才……という印象が強いからね。ここでこうやってお茶をすることでそこそこ近づいてたと思うけど……でもそれでもやっぱりすごい人……という壁はあった。でも今回取り出してきたそれによって、なんか初めて当夜さんを一人の人間として感じたというか? ちゃんと生きた人だったんだなっておもえたというか? そんな感じである。まあ本人にとってはとんでもなく迷惑なことだと思う。
こんなの掘り起こされたくなんてないだろうし? 過去の黒歴史なんて消し去りたいのは誰でも一緒だと思うんだ。それはどんなに天才な彼でもあっても……ね。てかそんなのなんでそもそもがこの仮想空間にあるのかって感じだけど……
「どうやって……それを……」
震える声で当夜さんは日鞠にそう問いかける。さっきまで余裕綽々というか? 優雅にコーヒーを飲みつつ、我関せず? みたいな態度を貫いてたのに、このノートがでたらもうワナワナとしてるといっていい。
どれだけそのノートにトラウマを持ってるのか……てかこの反応。もしかして当夜さんもこのノートがこんな所にある……なんてしらなかった? そんな反応な気がしないでもない。
「これは私が貴方からの課題をこなすうえで見つけました。星十極論の所ですよ。本当に大変でした。常に変わる変数に対応するのは」
「あんなところに?」
「あれの極論の極致で再構成したのがこれです。ピースは散らばってましたよ? 復元が課題なのかと?」
「違う……そんな事望んでない」
そういって当夜さんは頭を抱えた。どうやら日鞠はここで当夜さんを師事して何やらコードの事、思考間ネットワークの事、LROの事を学んでた? その過程の課題でさっきのなんかよくわからない課題をこなす中で、コードの海の中から、このノートを再構成して取り出した……ということなんだろうか?
「これの存在は……当夜さんもしらなかったんですか?」
自分で作っておいて? という皮肉がちょっと込められてる。当夜さんは僕の皮肉に気づいたのか、嫌な感じに見てきてこういった。
「仕方ないだろう。俺は意識をここに残すために雑に脳をスキャンしたからな。全てを残そうと思ったら、ありのままを纏めてスキャンするしかなかった」
なるほど……つまりはこういう事か? PCで例えると、前のPCのデータを丸ごと何も考えずに新しいPCに移した。それでなんの問題もなく動いてたから、別にその前のPCのデータの精査は後回しにしてた……と。
そんなデータの中から、これを日鞠が発掘してきたから、今当夜さんは「しまったぁぁぁ!!」とか思ってるんだろう。だってちゃんとしてたらこんな恥? がさらされることなかったんだから。