女の意地
僕達はジェロワさんの協力を取り付けて、イベントは核心部分へと近づいていく。ついに拝めるのは大地研究所の機密――そのはずだった。だけど何故かバレたジェロワさんの裏切り。
酷い目に合う彼女を僕は助けたかった。けど……メカブが言ったとおり、女は予想以上に強かったようだ。
「ふう、なんて今日の自分みたいな天気だ」
空にビルと同じ位に高く、それかもっともっと大きく聳える入道雲がある。今の季節は、こんな都会の中でも、ちょっとした緑が眩しいくらいに鮮明で、少しは見習いたい程、その姿は生き生きしてた。
太陽は、天辺を過ぎても順調に地球を焼いてる様だし、今日も世界は事も投げに暑い。ちょっとは日本の伝統を取り入れたい風流な店は無いのかね。
どこもかしこ音楽をバンバン垂れ流しやがって……チリンチリ~~ンとしたアレを聞きたいよ。アスファルト天国な混沌の街で、混沌とするイベントなんかやるから、ただの暑さと変な熱が入り乱れちゃってるんだ。
「はぁ」
僕はタオルで汗を拭き拭きしつつ、ため息が漏れた。もうホント、なんて言うかそろそろ終われ。マジでやる時期を間違えてると思う。
後少しまって緑色の葉っぱが色づき地面を所々彩る位なら、散策気分で楽しめたと思う。でもさ、今の時期はそうも行かないよ。五分もしないうちに、人の間欠泉は全快に成るような日差しなんだもん。
「ため息とかやめてよ。それに自分みたいって=暑苦しいとか? 大層な愛の告白だったじゃない」
プププと僕を明らかにカラカいたい……そんな分かりきった目で見てくるメカブ。こいつの言う愛の告白って、アレだよ、僕がコイツに愛を語った訳じゃないよ。
愛に植えた三十路の人に、僕は大きな愛を与えただけ。でもそのおかげでようやく確信へと至る事が出来そうでもある。
僕たちはついに国家お抱えの機関の情報を手にする事が出来るのだ。勘の言い方はお気づきだろうが、僕は女の人の心を弄ぶ、悪い奴に成ってしまったのだ。
「まあでも良いんじゃない? 無限の蔵には引っ張ってって言ってくれる感じのお姉さん系が似合うと思うよ。幸せになってね」
なんかやけにニコニコしながらそんな事を言うメカブ。お姉さん系ね。ジェロワさんってあんまりそんな感じはしなかったけど。
最初にあった時点ではまだ大人びた印象もちゃんとした清潔感のあるイメージもあったけどさ、ついさっきなんかはもう、浮かれすぎ感が全快だった。
まあ、僕のせいだけど……いや、イベントの展開のせいだな。僕はただアイテムを手に入れるのに必死なだけだ。
あれから第二研究所まで行き、そこでジェロワさんが第一研究員の権利を使っての情報収集。そして再び駅まで戻り、今度は第一でのこれまでの研究との情報統合でアイテムを見つける。
遂にここまできたわけだ。
「そろそろだよな、ゴールは?」
「一個でゴールにするの? 貴重なのは三つあるみたいじゃない」
「三つなんてそんな贅沢言えるかよ。一つで十分」
てか一つが限界。時間的にも、これだけ一個で掛かってるんじゃ、残りの二つなんて無理すぎるだろ。
「まあ確かに。けどね無限の蔵、無理だと思った瞬間から、ゴールには届かなく成るのよ。一パーセントの可能性があれば追いかけるのが無限の蔵でしょ?」
「どこの熱血漢だよそれは」
今時のマンガでもそれだけ暑苦しい奴は出てこないぞ。それに僕はクールを売りにしたい年頃だ。周りが騒ぐ中で、一人冷静さを装って自分の中でカッケーって思いたい感じなの。
だからそんな熱い人はしらんな。
「LROでの無限の蔵はこんな感じだって聞いてる」
「LROとリアルは違うんだよ」
そんな風に僕が言うとメカブはイタズラな笑みを浮かべてこう言った。
「そんなに変わらないでしょ? てか、一番リアルとLROとの壁の薄い部分に居るのは君でしょ?」
「うぅ……」
言い返せないな。確かに薄い部分をなんとか渡ってる感じだし、落っこちたらリアルと同じ死が待ってそうな雰囲気なんだよ。
LROとリアルの境は確かに、徐々に僕には薄く成ってるのかも。僕は横目でメカブを見る。コイツ本当に誰なんだろう?
僕の事を知ってるようで、だけど所々初めて感がちょっとあるような……まあそれはリアルで会うのが初めてだって仮定すれば、誰でもそうなんだけど。
もしかしたらセラやリルレットとか全く関係無い人なのかな? ちょっとそんな気がしてきたかも。でもそれじゃあ疑問も残る。
メカブは僕のLROでのID知ってた訳だし、それを元に僕がスオウだと分かってコンタクトしてきた訳だろ? それなら向こうでの知り合いの誰かでしか無い筈なんだ。
てか、そうじゃなかったら情報漏洩だろ。でもLROは天才が作った世界一強固なセキュリティで守られてるって聞いたし、流石にそれは無い様な気がする。
だってやっぱり当夜さんってガチで天才なんだな~って最近思うもん。LROこんな事まで出来て凄すぎ。実際このイベントはLRO事態をやってなくても参加出来る様だし、LROの片鱗にでも触れて興味が出たら本物へ……とかそう言う狙いだって絶対にあるよ。
「ねえ無限の蔵、実際どんな感じなのLROで血がどばって出るのって?」
「いやな事を聞く奴だな」
そもそもそんな事聞いてどうするんだよ。それって興味を持つところか?
「だって気になるじゃない。私たちも痛みはあるけど、それって一瞬でしかも鈍い感じだし……血まで吐いちゃう無限の蔵ってそこら辺はどうなってるのかなって」
「どうって言われても、あんまりそこら辺の感覚は覚えてないかも。痛いは痛いけど、腹を貫かれても死ななかったし、リアルな痛みじゃやっぱ無いんだろうな。
僕の命はHPに依存してるみたいだし、だけど血なんて見えない方が幸せだよ。あんなの大量に流れ出てたら、幾らLROと分かってても死ぬんじゃね? 位思う」
実際LROってもっと殺伐としててもオカシくないじゃん。けど、あんなに長閑で居心地よくなってるのは、血を表現してないからだとも僕は思う。
だってLROでモンスター相手にしてたら、傷つかない方が珍しいし、本当なら血で地面が赤い……なんて事もあってオカシくないよ。
そうなったらみんなちょっと怖い感じなりそうじゃん。血っていつまでも見てると変な感覚に陥るんだよね。それが自分のでも他人のでも……あの真っ赤な色とかさ、絶対に人を狂わす何かがあると思う。
だから血を表現しないのは大いに大正解だよ。
「まあ私も血を積極的にみたいとは思わないわね。それにお気に入りの装備が血で汚れるとかイヤじゃない。あっ、ねえ無限の蔵。
LROの装備って見た目と防御力があんまり吊り合ってないと思わない?」
何を言い出すんだコイツ? 暇なのか? 血の次は装備かよ。確かに今はジェロワさんも第一の方行って、戻ってくるの待ちの状態だけどさ、何が起こるともわからないんだぞ。
なんてたって一応これもLROだからな。
「そうだけど、ただじっとしてたんじゃこの暑さにやられるわ。ねぇねぇだから、もの凄く仰々しい、それこそ騎士が来てる様な鎧に匹敵するみたいなメイド服ってオカシくない?」
僕はその瞬間ズルッと行きかけた。これは痛恨のミスでは無いだろうか? 何故にここでメイド服。そんな物を着るのはLROでも限られてるぞ。僕が知る限り、ある王国の一つの部署くらい。
さもメイド服が一般的みたいな言い方するなんて、こいつやっぱりセ――
『ちょっとやめてよ!』
「ん?」
――スマホから聞こえたそんな声に目を向ける。これは確かにジェロワさんの声。僕はヨドバシの入り口へとスマホのカメラを向けた。
人の出入りが頻繁に行われてるその場所。だけどブリームスではそうじゃないその場所で、数人の同じローブを来た人たちに締め出しを食らってるジェロワさんが見える。
どんなヘマをやらかしたんだあの人。
「――って、ん!?」
僕はその瞬間思わず、画面内を覗き込む。なんか見覚えのある顔がNPCとして登場してる様な……
「ねえ、あれってハゲじゃない? なんであそこから出てくるのよ」
僕と同じ様に画面を見てたメカブがそんな事を言う。そうあれはハゲだ。今日何度も対立してるヤクザ。だけどまだ関係あるとは……てかNPCな訳ないな。
「いや、ただ出てきただけかも知れない。変に関連づけるのは良くない事だ」
「けど……なんかボスっぽいNPCの斜め後ろについてない? 携帯かざしたまま動く気配ないわよ」
「それはまあ……確かに」
なんかイヤな予感がするな。完全に第一側についてる構図に見えるんですけど。僕達は取り合えず画面を凝視した。
『何でこんな事……』
『ジェロワ君、君には失望したよ。あれだけ可愛がってあげたのに、ミスを犯すとは』
『ミス?』
『ああ、大きなミスだよ。私という者がありながら、その心はどこにあるかね? ん? 君の持ちだそうとしてた資料は何かね? それをどうしようと!?』
どうやら、ジェロワさんを罵ってる奴が、不倫相手みたいだな。すっげぇ性格悪そうだ。
『私……は』
俯き弱々しくそう呟くジョロワさん。なんか見てて痛々しいぞ。
『ふん、浅ましい女だな。三十路になっても男を知らないと、そうなるのか?』
唇を噛む……そんな様が僕には見えた。胸くそ悪い。どうにかしてあのクソ野郎を殴る術はないか考えた。するとそんな思いを受け取って――って訳じゃないだろうけど、ここで画面には願ってもない選択が出てきた。
それは「助けに行く」「堪える」のニ択。猶予時間は三十秒と意外と長い。でも僕は一瞬で決断してた。だって堪えてどうなるよ。
例えこの小さな画面の中で繰り広げられてる事がただの虚構でもさ、自分がどうにか出来るのなら、どうにかしたいだろ。
てか、悲劇を回避するために自分が立てる。それがゲームの醍醐味じゃん。これは小さい事だろうけど、あんな最低野郎にボロクソ言われてる彼女を助けない理由なんて無い!
僕の指は「助ける」に迷わず伸びる。けどそこで横から僕の指を掴むメカブ。
「何だよ? なんで止める?」
「ダメだよ。あの人はまだ泣いてない。きっとまだ頑張れる。女の執念は怖いのよ」
何言ってるんだコイツ? 執念とか今はどうでも良いことだろ。だけどメカブは離してくれない。
「無限の蔵に良いことを教えてあげるわ。いつでもどこでもどんな状況でも、自分が助ける事が正解とは限らない」
「!」
なんだその意味深な言葉。僕がその意味を頭で考えてる間に、掴んだ腕を動かて隣の選択肢をポチリするメカブ。気付いたときには遅かったよ。
「ああ! おまっ……なんて事!」
「大丈夫。これは同じ女だから分かることよ」
なんでそう自信満々に言えるのか僕には理解できない。別にそんな……女の人が弱いなんて偏見は持ち合わせちゃいないけど、でも男が女を助けるのは当然だとは思ってるぞ。
そういう奴でありたいだろ。
「はいはい、自分に酔うのはそのくらいでいいよ~」
「酔ってねぇよ!」
失礼な事を言う奴だな全く。まあ今更なに言ったって選択は戻れないから、どうすることも出来ない。ここはメカブの女の勘って奴を信じるしかない。
『私は……遊ばれてただけ……』
『今更何を。家族を捨てれる訳ないだろ。私はな、気楽な独り身とは違うのだよ。たく、自分の勝手な問題を私には押しつけるな。
本気にするなよ。重いんだよ君は』
僕は出来る限り画面の中のクソ野郎をグリグリする。だけど当然そんなのノーダメージだ。本当にこれで良かったのか? そんな思いが増していく。
そしてまだ得意気にペラペラとクズは喋り続ける。
『だけど感謝はしてほしいな。誰も相手にしない君を慰めてたのは私だよ。それだけで感謝すべき事なんだ。それをよりに寄って裏切るような……私は悲しいよ。
行き遅れた女の相手をした結果がこれじゃあね。取り合えず君はクビだ。二度と私の目の前に現れないでくれたまえ』
一回二回殺した程度じゃ足りないなこの野郎。マジでそう思う。完全にこのままバッドエンドに直行しそうな雰囲気なんだけど……ジェロワさん何も言い返さないし。これじゃ余りにも彼女が不憫だよ。
『私は……私は……私……は!!』
背中を向けたクソ野郎。その時画面に現れたそんな言葉。隣でメカブが何故かグッと拳を握る。
『本気だったのよ!! それの何が悪い!! 裏切ったのはアンタじゃないいいいいいい!!』
『うお!? 貴様!』
キレたジェロワさんがクズに飛びかかった。よっしゃああやったれえええ!! と思ったね。だけど周りに居た同研究員に引きはがされる。
『くっそ、これだから女は……』
『うるさい! うるさい! うるさい! 行き遅れて悪かったわね!! ちょっと優しくされたら誰にでも惚れて悪かったわね!!』
両腕を捕まれたままわめき散らしてる三十路の女。ちょっとこっちが悲しくなるのは何でだろう。いや、でももう行っちゃえ! いけるところまで。てかどうにかしてあのクズを殴り倒してほしい。
そう思ってると画面から『イテ!』『うわ!?』とかの声が聞こえた。どうやらジェロワさんは噛みついたらしい。それで拘束を解いてもう一度クズへと突撃。
勢いついでに押し倒す。
『遊ばれた私が悪いの!? 本気で恋した私がバカなの!? やっちゃいけない関係だって分かってた!! それでも……信じていいって言ったのはアンタでしょ!!』
胸ぐらを掴んで地面にガンガン打ちつける彼女は結構なバイオレンス具合だ。
いいぞ、もっとやれ。
『やっやめ……ろ!! 私を揺さぶるな!!』
『やめない! やめれるか!! 一言くらい謝りなさいよ!』
『謝るだと? ふざけるな! 良い夢見せてやっただろうが!』
揺さぶられながらもまだ強気にクズはゲスな言葉を吐く。筋金入りだなあれは。
『お前はどうせ、今の男にだって騙されてるんだよ! お前を本気で愛する奴なんているかばバ~~カ!!』
『そんなこと……そんな事ないわよ!!』
酷い言葉に必死に食いかかるジェロワさん。だけどそれは胸が痛いやりとりだ。実際僕達だって彼女を良いように利用してるのは事実だからな。
ゲームのキャラなんだから深く考えなくても良いんだろうけど、良い気はしない。よくよく考えたら僕達って実はあのクズと同じじゃないか。
そうこうしてる間に、ジェロワさんは復活した同研究員の一人に髪を強引に掴まれ後ろに投げ捨てられる。地面に背中を強打して悶絶するジェロワさん。
そしてそんな彼女に覆い被さる様に二人の研究員が迫ってる。
『やってくれたなジェロワ! 所長、俺たちが所長の分まで可愛がって良いですか? ちょっとコイツにはお灸が必要でしょう。それに色々と知りすぎですし。
こうなったら無理矢理懐柔させるのも手かと』
なんだかヤバい雰囲気になってきたぞ。これはどこのエロゲームの展開だ? ジェロワさん大ピンチ!!
「おいこれは流石に助けない訳には行かないぞ」
「う~ん、まあ女の子には限界があるしね。流石に大の大人三人には勝てないよね。けど助けるにしてもどうやって……」
僕達は狭い画面を二人で眺めて選択肢でも出ないか期待する。けど今回は気持ちに同調したような選択肢は現れない。
やっぱバッドエンド直行じゃねーか!
『やめろ! 触るな!!』
そんなか弱い声が漏れ聞こえる。ああ、このままじゃジェロワさんに癒えない傷が付いてしまう。なのに僕達には何も出来ない。
どうしてここで選択肢が来ないんだ! こうなれば画面に見えない所に居るであろうシクラ動かしてでも……そう思うけどでも、それはやっちゃいけない事だろう。
だってこれがイベントに元から入ってるプログラムの一つの筈だ。余計なイレギュラーはこの真新しいアプリ自体に不味い影響を与えかねない。
今だってシクラの奴が無駄に要領を掛けて圧迫してるだろうし、ストレスになることは避けたいよな。LROみたいに一斉に落ちたら、ここまでの苦労も水の泡。
僕達だけじゃない、沢山の人が今日という日に、このアキバに集まった意味が消えるよ。
『はは、いい眺めだな。確かにそうだな……お前達やるならもっと人目に付かない所でしろ。ここは誇り高い第一研究所だぞ』
『くっ!』
遠くから眺めてる僕達にでも分かる絶体絶命具合。てかこの所長、マジで鬼畜だろ。そこは止めろよ。
『なあジェロワ。今から私の所に戻ってくるのなら、まだ待遇を考えてやるぞ。今までの関係を続けてもやるよ。ここの研究員の肩書きを捨てるのも惜しいだろ。
お前は頭が良いから分かるだろう? 合理的に考えてみろ』
研究員の中央を陣取って、ジェロワさんに顔を寄せてそう言うクズ。これで彼女が受け入れないなら、両隣の研究員が酷いことをやるんだな。
「これ、流石にこのままの流れで行かないわよね?」
流石に不安がってメカブもそんな事を聞いてくる。だけどそんなのわかんない。わかんないけど……
「LROがそこまでするとは思わない。思いたくない。何とかなる、これはまだ純粋なゲームの筈だから」
僕は自分に言い聞かせるようにそう言った。まだシクラに頼らないのはそう言うことだ。このイベントは今LRO内で起こってる事とは違って、人の手で管理がされてる筈だろう。
それなら十八禁の様な内容をするわけはない。そんな期待と言うか願いが僕にはある。
汚らしい顔を近寄らせてるクズ。
『ほら、どうした。答えは簡単だろ?』
そんな事をクックとイヤな笑いをしながら言ってる。押さえつけられたジェロワさんは、そんなクズへ向かって『簡単ね』そう呟く。そして次の瞬間、おもいっきり力一杯に頭を上げて額を近づいてたクズの鼻っ柱にぶち込んだ。
『ぶっ!? ぎゃああああああああああああ!!』
断末魔の叫びが響く。鼻が潰れた音が聞こえるほどに、綺麗に入ってた。余裕をぶっこいてた分、ダメージは大きそうだ。地面を転がる所長を部下の一人が拘束を解いて歩み寄る。
『それが答えよ!! アンタに捧げる体も心も、私にはもう一ミリもないわ!!』
格好良い宣言。キッパリとジェロワさんはそう言いきった。
『あっ……あっ……このくそアマァァァアアァア!!』
そしてパンと乾いた音が連続で響く。次にドス、ボコとした鈍い音。完全に頭が弾けたクズがジェロワさんを押し倒して殴る蹴るの暴行三昧。
これには流石に部下の二人もどん引きだ。ジェロワさんは暴行を受けてる間、体を丸めて何かを守る様にしてた。
そして結局選択肢は一度も現れなかった。
『はぁはぁはぁ……お前の研究者としての道を終わらせてやる!! 私に逆らう事がどういう事か、思い知るといい!!』
そう言って部下を引き連れて中へと戻ろうとするクズ。
『私は……私を必要としてくれる人の為に研究をする……そこには認めてくれる人は一人で良い。世間体もデッカい施設だって……そんなのいらないわ。
私は誰かの為に、役に立つ研究をしたいんだもの。貴方とは……違うのよ』
纏うローブも服も顔も体も全部ボロボロで、なのに最後にそう言った彼女は格好良かった。そう思う。だけどそこで再びクズが狂ったような笑いを上げる。きっと心底苛ついてるんだろう。
『くっくくくはははははははは!! 綺麗事だなそれは。落ちる所まで落ちて絶望を知ろ! 我らは新しい協力者も得たし、遂にこの地に眠る三つの秘宝を手に入れに行くとするよ!! ハァーッハハッハハハ!!』
画面内にでクズが高笑いをする中、こちらにハゲが歩いてくる。そして真っ正面に立ちこう言った。
「追いついたぞ。さあ最後の競争と行こうじゃんねーか!」
どうやらマジで、こいつは第一側についてるらしい
第二百六十一話です。
今回は頑張る三十路女の話でしたね。彼女の頑張りは決して無駄になりません。きっと良い出会いがあることを願っててください。まあゲームのキャラだし、このイベント限定の場所のブリームスがこの後もあるのかは謎ですけどね。
次回はハゲ達と激突しながらアイテムを求める事に……なるかな?
まあ取り敢えず次回は土曜日に上げます。ではでは。