無欲の勝利
僕は針の雨を凌ぎきった。だけどピンチは終わらない。攫われたセツリの救出に初めてのパーティー同士でのPK戦。そこで僕は自分の初心者加減を思い知る。
それでも僕らはセツリを救い出し、コアクリスタルを巡って奴等に最後の一太刀を浴びせる。そしてイベント終了の時、コアクリスタルを手にしてたのは……
カンッ――と一つの針が地面に落ちた音が合図だった。その瞬間、無数の針が雨のカーテンの様に降り注ぐ。
だけど思いを新たにした僕に恐れは無くて……主を亡くした鞘を腰から抜き去った。大量過ぎる針の数はこの身を晒すだけじゃ一人も守れないだろう。
それじゃあ駄目なんだ。僕が立ち上がった意味は守ることだ。絶対に守って見せる為に僕は藁にも縋る気持ちだよ。その目に映る僕は、颯爽と立ってなくちゃ行けないと言われたから……ここで逃げる選択肢はもう無い。
体から沸き上がるこの感覚は何だろう。今なら乱舞を使わなくてもあの針の雨を全部叩き落とせる自信がある。神様の祝福を受けた様だ。テッケンさんの言葉に乗せられただけかも知れないけど、いい気分だ。
無数の針の雨の中、僕は避ける事なんてしない。一つも後ろにやる気はない。二本の鞘を駆使して僕は針を打ち落とす。だけど圧倒的な物量差は二本の腕でどうにか出来る物じゃない。
腕にも足にも胴にも次々と針が突き刺さっていく。だけど痛みに顔を歪めてる暇も、ましてやそれによって腕を止めるなんて事があったらいけない。
そんな事をしたら僕の後ろで気絶してるセツリ達に穴が空くんだ。それも今の僕の様な仮初めな傷じゃ済まない。HPと命が繋がった正真正銘な傷だ。
だからただの一つも通さない! 鞘が間に合わないのなら体で受けた。肉を抉る感触も、内蔵に届いた痛みも、飛び散る鮮血だって、今は全てを無視して振り続けろ。
「うおぉぉぉあぁぁぁぁぁ!」
雄叫びと共に僕は更に加速する。守りきる……絶対に! この時更に針の雨の密度が増した。これで決めるつもりだ。だけど裏を返せばこれを凌ぎきればまだ勝機はある!
そこら中に針が地面に刺さる音と、針をはじき返す音が響いていた。その時、酷使を続けて来た鞘に幾つもの針が立て続けに刺さる。
すると鞘は先端から消えていく。不味い! そう思った瞬間、密度を増した針の雨がダムの放水の様な圧力と迫力を持ち地面に到達する。
一際大きなドドドドドドドドと言う音が響いてしまった。それは大量の針が地面に突き立ったと容易に想像出来る音だった。
そんな針で埋め尽くされた場所の中心に僕はいる。両腕を伸ばし胸を張って僕は無数の針の餌食に成っていた。全身に刺さった針を数えるなんておぞましくて出来ない。
だけど針の雨の向こうに僕は輝く太陽を見た。黒く光って襲いかかってきた針はもう空に一つもない。するとその青さが良くわかった。
「はぁはぁはぁはぁ……」
耐えきったけど僕の腕にはもう何も残ってなかった。鞘も失ってしまったよ。突き刺さっていた針が次第に消えていくと思い出したように全身から血が溢れ出てきた。
流石に耐えきれず膝から力が抜けて地面に付いた。倒れかけた僕の体を支えてくれたのはアギトだ。こいつも実はかなりがんばってくれていた。
「お前、漏らし過ぎなんだよ」
「うるせぇよ。あの数で穴が空かない訳ないだろうが」
実は僕が討ち漏らして体にも刺せなかった針はアギトが処理してくれていた。僕の二刀の様に手数は多くないけど、それでも積み重ねた経験で限られた隙間から忍び込んで来る位の針の迎撃は出来た。
さすがは熟練だ。HPは減ってないけど流石に体が重い。町中のバトル制限でのバリアを貫通して来た魔法攻撃は滅茶苦茶だ。イベントで規制が緩くなってたから起こったのだろうか。
僕と奴等はコアクリスタルを持ってた訳じゃないから互いにPK対象ではなかったのにこのダメージ。HPは減ってないけど確実にダメージは受けていた。
そうだテッケンさんは大丈夫だろうか? 奴等の魔法を凌いだのにあのゲス共が何の報復もしないのはおかしい。
「おい、スオウあれを見ろ!」
アギトの声に僕はその視線を追った。地面に無数に刺さった針がオブジェクト化し消えていく様子の中で僕は彼を見つけた。テッケンさんはゲス共に囲まれてしまっている。その手にはコアクリスタル……鶏冠野郎のスキル魔眼でアイテム欄に収納出来ないんだ。
「助けないと……」
僕は立ち上がろうとするけど足に力が入らない。剣も鞘も無い今は普段より軽い筈なのに足は地面と癒着してる様だった。
「無茶するな! お前はやりすぎだ」
アギトにそんな事を言われてしまった。やりすなのは解ってる……でも助けないとこのままじゃテッケンさんが奴等に殺される!
「分かれよスオウ! 俺もテツも、お前とセツリとは違うんだ! いいや、このLROの大多数はいいか!? 戦闘不能は=死なんかじゃない! だから」
「だから仲間を見捨ててもいいってのかよアギト! 僕はそうは思えない。確かに僕は人一倍戦闘不能を気にしてるけど、そうじゃなくても仲間のピンチには駆け出すよ!」
僕は重たい体を無理矢理、動かして駆けようとする。だけど気持ちとは裏腹に体はなかなか言うことを聞いてくれない。そんな僕を見てアギトは僕の肩を押して無理矢理座らせる。
「俺が言いたいのはもっと自分を大事にしろって事だよ。そりゃ幾らホントに死ぬ訳じゃないからって俺だって仲間は見捨てない! でもなそれだって時と場合、状況ってのがあるんだよ。お前はたった一つの命で戦ってるのに無謀過ぎなんだよバカが!」
いきなりまくし立てるアギトにびっくりだ。そして何かゼリー状の物を口に押し込まれた。喉を通ると僕のHPが回復して傷が塞がっていく。これは回復薬か?
「ハイポーションゼリー版だ。ありがたく飲め。テツは俺が助け――ぐわぁ!」
アギトの声が途中で途切れた。テッケンさんがこちらに飛んで来てアギトの背中に激突したからだ。テッケンさんが飛んできた方を見るとコアクリスタルの輝きがそこにはあった。
「くはははは! とうとう手に入れたぞコアクリスタル! これで例のアイテムは俺たちの物だ!」
高らかに勝利宣言してるゲスども。これで奴等はPK対象か。やれるか? 僕は地面に転がった二つの剣の場所を確認する。一つは直ぐ近くだ。五メートル先の地面に転がっている。
そしてもう一つは見覚えがある宿屋の扉の前にあった。武器の場所を確認して視線を奴等に戻すと鶏冠がコアクリスタルを自身のアイテム欄へ収納しやがった。
これじゃあ手出しが出来ない……いや待てよ。
「うわぁぁぁ!」
なんだどうした? アギトとテッケンさんが赤面してる。そしてその視線はサクヤの二つの膨らみと自身の掌を行き来してた。こいつら触ったな。
「「てへ」」
二人同時に何やってんだ! 可愛くねーよ。寧ろムカつく。
「んん……あれ、何があったんですか? 確か目の前で閃光が……」
周りで騒いでたからかサクヤが目を覚ました。そしてセツリとクーも要約目を覚ま――
「よお、楽しそうじゃねーか。かわい子ちゃんは目覚めたのかよ?」
耳に響いた声に僕達は戦慄した。いつの間にこの鶏冠野郎は近づいてたんだ? 奴は剣を振り火球を出す。
僕は武器に手を――って腰にはない! 地面に落ちた火球が熱気と爆発で僕らを吹き飛ばした。
「くっそ……てめぇ」
地面に倒れた僕達は起きあがるのにやっとだ。今回はきちんとダメージがHPを数値分減らしてる。もうあいつ等はPK対象なんだ。
「スオウ?」
不意に耳に流れ込んできた声に僕は前を向く。するとセツリが鶏冠野郎の腕の中にいるじゃないか!
「うん? なんだい? キスでもして欲しいのかな。ンチュパチュパチュパー!」
あのゲス野郎。セツリの顔の近くで唇を尖らせてだんだん近づいて行きやがる。セツリは理解できない状況に一瞬呆けてそして目の前の奴が僕じゃないと気付いた。
「きゃぁぁ! いや! 違う! スオウじゃない! やめてよ!」
暴れ出したセツリ。その様子をウザいと思う鶏冠の表情が一瞬見えて、そして次の瞬間信じられない事をやりやがった。
バンッ! ……と激しい音が響いた。それは鶏冠がセツリを殴った事と理解するのが一瞬僕の中で遅れた程だ。だってそれは余りにも加減が無かった。
セツリはまだ何をされたか解らない感じで固まっている。
「たくさ~、LROの中の女なんて偽物って解ってんだよ。調子こくなよなぁ。どうせ男誘うためにそんな美人にしてんだろ? なら大人しくしてろ」
鶏冠の手はセツリの顎を握って顔を正面に向かせた。その瞬間、僕は何かが切れた。本気で人を殺したいと初めて思った。それほど……鼻血が出てて、怯えた瞳のセツリが焼き付いた。
「うあ、なんで鼻血なんか出してんだよコイツ。LROに血の表現は無いはずだろ。きったね~」
鶏冠の汚い声が脳内に響く度に『殺』の文字が浮かんでくる。今の僕はきっと何度生まれ変わってもアイツを殺す事だけは覚えていて実行出来るだろう。それだけ抑えられない感情が渦巻いていた。
痛みも疲れも吹き飛んで僕は立ち上がった。システムは今も必死に僕に倦怠感とかを届けてるだろうけど、こっちでシャットダウンだ。
システムに飲まれてばかりだった僕がシステムを飲み込んでやる。
「放せよ……」
「ああ? なんだって?」
僕の堪忍袋の尾は限界超えじゃぁぁぁ!
「セツリを離せって言ってんだよ!」
「セツリを離せと言ってるんです!」
いつの間にか重なってた声。それはサクヤだ。彼女も僕と同じ気持ちらしい。
「クー!!」
サクヤの一声で神々しい輝きを放ったクーが奴らに迫る。僕は武器も持たずに突っ込んでいた。そしてサクヤの高速詠唱が文字通りゲス共に火を噴いた。
僕の前の敵はクーが吹き飛ばしてくれる。僕は一直線に鶏冠に迫る。
「ふっはははは! 丸腰だって? 今度こそボイルしてやるよ!」
奴のマグマの剣が振られて火球が放たれる。ここは仕方ないけど避けるしかない。武器もないし、今のHPで直撃は不味いんだ。だけどその時声がした。
「真っ直ぐ走れ! スオウ!」
僕の横を何かが掠めて行ったと思ったら火球にぶつかり炎とマグマの大爆発が起きた。これで真っ直ぐ走れだと? 上等だアギト! 爆風を交い潜り、煙の向こうへ。すると今度は一個じゃない複数の火球が僕の居る所に既に投げられてる。
「ヤバい! 逃げ場がない」
目の前に迫る火球。熱を発して触れてもいない地面を溶かしている。それでも引くなんて選択肢はないぞ自分。どうにかしてセツリの所まで行かなきゃ行けない。
「そうだ、立ち止まるなスオウ君!」
それは後ろから飛び出して来たテッケンさんだ。彼は豊富なスキル技で自身の短剣に水を纏わせて水系スキルの連発だ。白い水蒸気が周りに立ちこめてそして再び爆発だ。辺りは真っ白な煙に包まれた。
「行け! 彼女を救い出すんだ!」
そんな声がどこからか聞こえてきた。ありがとうございますテッケンさん。だけどこう白くちゃどこにあのゲスがいるか解らない。取り合えず、真っ直ぐに行くしかない。
「スオウー!」
「セツリ?」
白い煙の中僕はセツリの声を目印に進む。そして前に影が見えた。
「はっ、ふざけんなよてめーら。うるせぇんだよ。さっきからスオウスオウな! 黙らせるぞこのアマァ!」
それは聞き間違える筈もない声。耳にへばりついて、まるでヘドロの様に嫌な声。間違いない、鶏冠野郎だ。
シルエットで奴の腕がセツリに延びるのが見える。これ以上、セツリに触るんじゃない! 僕は拳を握りしめて煙の向こうへ突進した。
「うおおおおおおおお!」
その時、強い風が吹いた。それが煙を流して僕の体は煙を飛び出す。それが丁度不意打ちに良い状態になった。
「テエェメェェ!」
鶏冠の武器が至近距離で突き出される。マグマを帯びたその刀身は常に熱を放っているのかその周囲の空気が揺らいでる。
でもそれでもただの突きだった。なんの変哲もないただの突き。それなら恐れる事なんて何一つない!
僕はその突きを最小限の動きで流して、そのまま拳を打ち放つ。
「吹っ飛べぇぇぇ!」
拳に肉の感触とその後堅い骨にぶつかった。その骨を打ち砕く様に願いを込めて僕は更に踏み込んだ。
「うらぁぁぁ!」
肘と健が伸びきったとき鶏冠は吹き飛んでいた。リアルではあり得ない人が飛ぶ行為。それが殴る事で実現した。
「スオウ!」
セツリは僕の胸に顔を埋める。何とも言えない良い匂いと暖かく柔らかな感触が伝わってくる。普段から思ってたけどセツリは体温が平均的に高いのかな?
「大丈夫かセツリ?」
「うん、うん……助けに来てくれてありがとう。もう来てくれないかと思ってた」
はあ、何言ってんだセツリの奴は。肩を震わせながら言う事じゃないぞ。僕はそんな薄情な奴じゃない。
「だって……朝、喧嘩しちゃったし。意地悪な事言ったもん」
ああ……セツリは朝の事を気にしてるのか。僕は自分が悪いと思ってたんだけど……こうなったら僕も謝って仲直りをしよう。それが一番だ。
僕はセツリの肩を掴んでその吸い込まれそうな瞳を見つめる。
「あのさセツリ……」
「うん?」
戦場の中の異常な空間だ。僕達は互いになんだか目を離せない。動機が激しくなって危険だから早く終わらせないと。
「僕も今朝のこおっと!」
「きゃあ!」
おかしくなったのは奴の火球が乱入してきたからだ。僕はセツリを引っ張ってそれを避けた。火球が触れた地面は円形状に溶けていた。
謝るのはやっぱり後がいいらしい。そうだなコイツからコアクリスタルを奪い返さないといけない。ウインドウ欄に入れられたけど僕達には幸いにもそれでもアイテムを取り出せる奴が居る。
「本当にムカつくガキだなおい。あぁ、ぶっ殺すぞテメー!」
なんだってこんなに僕が当たられなきゃ行けないんだ?寧ろこっちが切れたい。
奴は連続して火球を放つ。武器の無い僕には火球を防ぐ事は出来ないとしての判断だろう。
「セツリごめん。この話の続きは後でしよう! 今はアイツを倒してコアクリスタルを奪い返そう」
「ええ? あの人がコアクリスタル持ってるの?」
気付いてなかったのか。セツリは大きく腕を振って驚いている。感情表現の豊かな奴だ。僕はこくりと頷く。そして火球の隙間を縫うように走って回避。まずは一本、地面に落ちていたシルフィングを取る。
よし、これでなんとかなる。続けざまに放たれた火球を僕は調子を確かめる様に振ったシルフィングで切り裂いた。ここからは僕達の反撃の時間だ!
残りは後一分を切っている。その間に鶏冠を倒すかサクヤにアイテムを取り出させるかしないと負けだ。厳密にはこのイベントに負けなんて無いけどコイツ等にはコアクリスタルを渡したくない。
「セツリも協力してくれる?」
僕はセツリの顔を見て訪ねてみた。
「私も何か出来るの?」
当然の疑問だ。彼女はLROでは武器を装備できない特殊な存在。だから戦闘に関しては役に立つことなんてあり得ないけど、そんなのは気持ちの問題だよ。
「出来るよ。願ってさえ、祈ってさえくれたら僕達が必ずやり遂げてみせる!」
「うん、なら祈ってる。一生懸命お祈りしとくよ」
セツリは両手を合わせて後ろに引いてくれた。鶏冠の周りに分散してた仲間達が集まって来て、一気にこちらに駆けだしてくる。血の気の多い奴らだ。
だけど数が減っている。十数人いたのが一桁になってるんだ。向こうのダメージも相当だ。向かってくる二人が大きな斧と槍を僕に向けて来た。刀身にはエフェクト帯びてるから技だろう。
僕は受けずに二つの武器の攻撃を交わすモーションに入った。まずは槍がその長いリーチを生かして突進してくる。僕は体を横にしてそれを避けようとしたら後ろから別の槍がその敵の槍を止めた。
「スオウ、チーム戦で厄介なのは協力なんだよ。基本複数人に一人で挑むなバカ!」
なんと本日二回目位だバカを言われたのは。アギトは武器を離してもう一度行く。武器と武器の激しいぶつかり合いだ。そしてよろめいた相手を見逃さずにいつのまに接近してたテッケンさんが怒濤の連続攻撃で止めを刺した。
「逡巡するな躊躇うな! それが戦闘の基本だよスオウ君。来てる! 後ろだ!」
僕はその言葉でとっさに武器を後ろにやった。すると衝撃が伝わり前へ飛ぶ。危ない危ない。
僕は振り返って走り出した。そうだよ。戦闘中に迷ってどうする。こいつ等は僕とは違う。普通にゲームをやってるだけの軽い奴らなんだ。それにみんなが楽しんでいるLROを汚す奴ら。
僕の剣が横へ凪いだ。しかし浅い。なんだか一本じゃ感覚が違うな。もっと深く、踏み込もう。その時横からの魔法攻撃をもらった。風が僕の体の自由を奪う。
「わっわ……なんだこれ?」
斧が僕の頭上に降り卸される。万事休すか!? 僕が目を瞑った瞬間に何か大きな爆発音が響き斧の奴を倒した。上を見るとそれはサクヤがやったみたいだ。クーの上は絶対領域だな。そして一直線に鶏冠めがけて高速詠唱で互いの魔法をぶつけ合う。
鶏冠の周りには後四人の仲間がいる。そいつらの魔法だろう。だけど圧倒的にサクヤは早い。
「セツリに犯した罪を悔いて死になさい!」
僕達も後を追い互いの武器をぶつけ合った。それぞれの武器が火花を散らし、攻撃が交錯する度に複雑に相手が変わりやがる。
これはスイッチか? 上手く回されてる。どうみてもタイアップ狙い……ここは強引にでもねじ込まなきゃダメだ! 僕は数少ない技を使用する。青い光が刀身に帯びる。
「ダメだスオウ君! その状態では……」
テッケンさんの声を受け取る前に僕は動いてしまった。するとなんとぎこちない事か……上手く動けない。二刀流の状態じゃないからか?
そこに鶏冠の攻撃が来た。赤い刀身が幾重にも見えてはぜた。
「ぐああああ!」
僕はその衝撃で吹っ飛ぶ。そして近くの建物にぶつかって止まる。まさか自分がPK戦ではこんなに役立たずとは思わなかった。足手まといも良いところだ。
このままここで邪魔しない方がいいかなと思ったけどやっぱり火力というか爆発力が足りない。押し切れない。しびれを切らしたサクヤがクーから飛び降り奇襲を仕掛けるけど奴らの連携は上を行った。
サクヤの長い黒髪が舞う。それを見たとき離れた場所で祈っていたセツリが駆けだした。ヤバい! セツリが彼処に行っちゃだめだ。僕は一歩を踏み出した時何かを踏んだ。
それはもう一本のシルフィング。ここはそうだあの宿の前……僕は小さく呟いた。
「乱舞」
セツリが僕の乱舞範囲に入る前に風の壁を作った。僕達は風の空間の中にいる。
「なんだ、その姿……いや……さしずめあの話の……夜の王か。くははははは」
「夜の王?」
なんだそれ? 僕の風をまとった姿がその夜の王なる姿に重なるのか? 一体……それは……だけどそれを聞く前に鶏冠は小さく笑って全員で向かってきた。だけど僕は他を無視して鶏冠を切り上げた。風の尾が鶏冠を空に舞いあげる。
「今だサクヤ!」
僕の声でサクヤが奴の胸に手を突っ込んで引っこ抜く。そして手にしたコアクリスタル。これで僕達の勝……その時、鶏冠が僅かな力で武器を投げコアクリスタルに当てた。《五》
カン! ―――地面に落ち転がり続けやっとで止まった場所は宿屋の扉前。《四》僕とサクヤとセツリは必死に手を伸ばす。《三》だけどその時、宿屋の扉が開いて中からでてきたのはシルクちゃん。《二》
「あ、みんな遅いよ! もう何やってたの……って、わぁ綺麗!」
「「「あっ・・」」」《一》
シルクちゃんが拾う、僕達の重なった声、そしてタイムアップを知らせるアナウンス。《零》
【只今をもってイベント『水掛け祭り』を終了致します】
僕達は無邪気な彼女に何も言えない。それは無欲の勝利だった。
第二十六話です。やっとで終わった水かけ祭りです。長かった。どうしてこんな長くなったのか分かりません。いやいや、後五分でこれだけの攻防無理でしょ……て思われた方、僕もそう思いました。ごめんなさい。
時間配分がいい加減でしたね。ちなみに次の話は話的には進展しません。いや、進展する筈だったのが途中で変なノリになってしまってそのノリのまま終わったからイベントの後日談ですよ。
でもいつもと違う感じでキャラクターたちがとんでもない事に……良かったら感想、評価お待ちしてます。ではでは、明日の二十七話目も読んでくださる事を願ってます。ありがとうございました。