2506 前に進む為のxの問い編 890
僕の目の前には日鞠がいた。けど彼女の瞳は固く閉ざされてる。まるで昔読んだ絵本のお姫様のように……彼女はどこにいたのか。それは都内の一つの一軒家。自分たちの住んでる場所とは二駅くらい離れた場所。
本当にここで良いのか? と思った。だってちょっと駅から離れてるが、都内でなら、豪邸……と呼べるような……そんな門構えの建物だったのだ。
ただでさえ土地だけで都会となると高いだろう。その上に立派な建造物を建てるとなると、それこそ数千万……この家なら億超えてそうだなって、初見でおもった。
こんなデカい家なら、子供たちのピンポンダッシュの対象にもならないだろう。だって周囲の家との違いでビビッてここはやめとこう……となると思う。
(けどここで帰るなんて……ない!)
僕は意を決して豪邸のチャイムを押した。するとインターホン越しに聞こえてくる丁寧な声。それは自分の電話にかかってきた声といっしょだった。
「あの……」
それだけで「お待ちください」と言ってくれた。僕をずっと待っててくれたらしい。門が両側に開いて中へと招かれる。高そうな車がいくつか見える。けど流石に建物の中に入る扉はすぐそこにあった。ガチャっと開かれたそこから、ひょっこっと顔を出すのは、エプロンをした、未亡人の様な雰囲気をかもしだす、目元の泣きボクロが特徴的な30代くらいの女性だった。
「えっと初めまして。スオウです。日鞠とはお付き合いしてて」
「聞いてますよ。入ってください」
ニコッと微笑んでくれるその人。十台の元気いっぱいの笑顔とか二十台のまだまだイケイケな笑顔でもなく、もっと落ち着いた感じの笑顔だった。
用意されてたスリッパに履き替えて、中に通される。メインの廊下をそのまままっすぐに進めばリビングとかなんだろうけど、そういう所は素通りすることになった。少し歩いて、一つの扉の前へ。この時に色々と聞けばよかったんだろうけど、僕は彼女と話すことはなかった。
ただ日鞠がいるという事……そしてその姿を確認したかったからだ。そっちに意識が向いてた。
「こちらです」
そういって扉を開いてくれる彼女。その部屋は生活感というのがあった。机に本棚。窓辺の花瓶……棚に床のマット。どれも品が良く、そしていきなり用意したというよりも長年の年季がある。
そしてそんな中、部屋の大部分を占拠する大きなベッド……普通のシングルとかじゃないクイーンとキングとかと言われそうなサイズの所に、日鞠は寝てた。ただ眠ってるように見える日鞠。そのベットの横には、病院とかで見るような点滴の器具がある。
それだけがこの部屋で異質感を放ってる。