2468 前に進む為のxの問い編 852
「どうしたのかな? もうお転婆はやめたのか?」
「……」
私が下手に妨害をしなくなったからだろう。妖精王がそんな事を言ってきました。私はそれには返しません。実際私はなんとかダンスを妨害してきたわけだけど、どんな行動も月のダンスに組み込まれてしまう今では、それが意味を成してないんです。
だから体で妨害するのを辞めた……というだけ。私は裏では色々とやってます。でもこれには時間との勝負です。ここまで余裕がなくなったのは久々です。流石に暢気に妖精王とおしゃべりをしてる場合じゃない。
なんとかダンスに合わせてるんですからそこは見逃してほしいですね。今の状態は妖精王に都合良い事でしょう。それで満足していてほしい。でもどうやら、妖精王は用心深いみたいです。
「それでは、余裕も出て来たし、こんなのはどうかな?」
パチン――と妖精王が指を鳴らしました。すると……今まで妖精王の中でしか流れてなかった筈の音楽が周囲に流れ出します。まるでどこかで生演奏でもしてるのかの様な……そんな壮大な音楽が周囲に満ちます。宇宙を背景に、白亜の城の中庭のような部分で踊る私達。
きっと私じゃなかったら、映画のワンシーンにもできたでしょう。けど私は心で余計な事を……と思ってました。それが狙いなのか、それともただ雰囲気を作るためなのかは知らないですけど……音楽がかかるだけで余計なコードが増えますからね。
まあ下手に月人を召喚して、そいつらがオーケストラとかしてなくてよかったですけど。流石にそんなことになったら、ちょっと吹き出しそうですし。それにきっとこれは音楽を明確に聞かせることで、ダンスがどこまで行ってるか知らしめることでもあると思います。
今まではなんとなくダンスでリズムを推測してましたけど、こうやって音楽まで流れると確実にわかるわけですからね。本当なら私にここまで開示したら、それこそ簡単にテンポを崩してくる――という不安がちょっと前は妖精王もあったでしょう。
でもここまであからさまに聞かせてくるってことは……
(私の行動的疎外は問題ないって判断したってことですね)
そういう事だろう。私がこの肉体で何をしたって今のスペック差では妖精王が軌道修正をいくらでもやれる……その表れです。確かに否定はしませんよ。
私の下手な行動は意味ない。だからこそ、下手な行動をしない。これも立派な戦術です。クライマックスの音楽が流れる。全ての楽器が高揚してるのがわかります。
私はクルクルと回されて、そして交わる視線。二人でポーズをとると、静かに音楽が空気に溶けていきます。二人して「はあはあはあ」――と息を吐いてます。
月のダンスは最終段階まで完成した。白亜の月の城に光の線が走ります。いえ、もしかしたらこの光はこの月……全体に走ってるのかも……
「ありがとう。君はとても役にたった。流石だよ」
そんな事を言ってくる妖精王。けど私も負けてないですからね。私はこういってあげます。
「こちらこそ。なんとか間に合いました」