2436 前に進むためのXの問い編 820
「あれが……」
そんな風に月人に狙われてた彼はいう。実際「あれ」とか言ってるが、まともにみえてはない。なにせその光は強く降り注いでる。リア・レーゼ全体に降り注ぐ月光。降りてきた存在を誰もが見上げてる。けどその姿は詳細にはわからない。けどそのプレッシャーがあれが、あれこそが月の女王……そしてこの世界、LRO全体の敵だという事はわかる。
「あいつを倒せば……」
そういって彼はその手にある杖に力を籠める。けど流石にこれでは倒せないだろう。魔法だけじゃだめで、結局のところ彼の決め手はもう一方の棒である。だからここそ、魔法の次に休むことなく追撃をするのが大切だ。そもそもが彼にとっては杖の魔法は当たっても当たらなくてもいいんだ。わずかでも牽制に使ればそれでいい。最初からその程度の手段でしかない。
だから大切なのは棒の方の攻撃。でも……
「まだ高すぎる」
月から降りてきたといっても、地上まで彼女は来てない。あれだと魔法は届いても、棒は届かない。いくらLROの中では身体能力が向上してるといっても、スキルも使えない今。ただ単にあの距離に届かせる……なんて不可能だ。そんな事をつぶやいてると、今こそチャンスと思ったのは彼だけじゃなかったみたいだ。なにせ彼女が表れてから月人は攻撃を止めてた。空を仰いで叫んでるだけ。ならば、詠唱を落ち着いてできるだろう。
だから彼の杖に籠められてる魔法よりも強力な魔法がガンガン飛んでいく。真っ先に炎でできた巨人が現れて、その両手で掴んで体内へと入れて業火を炸裂させる。続けてその炎の巨人ごと、周囲に現れた特殊な陣が紫色の閃光をバリバリと放った。さらにはそれら全てを覆い尽くして行く極寒の冷気が全てを凍りつかせて最後……パキィィ――と粉々に粉砕される。
きっとここに集まってる誰かが自身の最大最強の魔法を放ってるんだろう。それからも魔法は続いた。なにせここにいる沢山のプレイヤーの全ての攻撃……少なくとも魔法の照準がたった一人に向いてるとしたら、それはいったい何百とあるだろうか?
たった一人対みんなの構図が出来上がってる。こんなチャンスはこれからも無いかもしれない……というようなチャンス。LROで戦いをしてきた人たちの中で、このチャンスを逃そうとする者などいるわけはなかった。
卑怯? そんなのも思う人はいないだろう。だって相手は月の女王。つまりは敵の親玉。敵の親玉には皆で当たるのが当たり前だ。
「全くもう……んっんっ、こほん」
なんかそんな声が聞こえてくる。そしてきれいな声が続いた。
「皆さん。ごきげんよう」
その声には絶賛燃やされてるはずの焦りなんてものは一切なかった。