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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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変われない関係

 夜が明けて日が昇る。そんな当たり前の日常が始まった。そして僕の日常には絶対に欠かせない奴がやっぱりいた。いつだって一緒に歩いてると思ってて、だけどそいつは僕や秋徒の少し前をいつも歩いてる奴だ。

 だけどそいつは僕達に合わせて今を生きてるんだと思う。それは枷なのか縛りなのか……僕はいつだってそんな彼女に追いついて、例え鎖だったとしてもそれならどこまでも伸びる鎖を……いつか与えられる程に強くなりたいと思う。


 真っ暗な道を走ってる。自分の足下以外、何も見えない真っ暗な道。そしてその足下さえも、酷く細く脆い物で……踏み外すのはとっても簡単な道だった。

 そんな道を、僕はただ走ってる。何で自分が走ってるのかもわからない。だけどただ、走り続けなくちゃいけない気がして……脆く危険な道を全速力で駆け抜ける。

 すると突然体のバランスが崩れた。なんだか片側の腕がとてつもなく重くなったような……視線をそちらに向けると、僕の腕がおかしな模様に光ってる。

 崩れたバランスは、幅が靴一個分よりも狭いこの道での修正は不可能だった。僕はその重みを増した側へ、為す術も無く落ちていく。

 闇からさらに深い闇へと、どこまでも行っても暗かった世界で更に下へ。木霊する叫びは、きっと誰にも届かない。



「あああああああああ!!」

「きゃ!? ――わっとと!」


 口が勝手に動いて、夢での叫びを続けてた。ベットの上で嫌な気分で目を覚ますと、見慣れた天井と今日はもう一つ見慣れた女子がそこにいた。

 三つ編み姿の彼女は僕の家の隣に住んでる幼なじみ『日鞠』だ。今日もまたエプロン姿してるのは、朝食を作りに来てくれたんだろう。

 僕はこの幼なじみにかなり実生活でお世話に成ってる。てか依存してたんだ。


「もう、いきなり叫び声と共に起きないでよ」


 膨れ面して、ブツブツ文句を言ってる日鞠。まあいきなり叫び声上げられちゃビックリするよな。でもまさか、リアルにまで引きずるとは。

 てか、なんで今日は部屋に来てるんだこいつ? いつもは忙しいのかなにか知らないけど、朝食時は既に居なかった方が多いのに。今日に限って起こしに来たのかな?

 どれだけ子供扱いだよ。最近は日鞠から自立しようと頑張ってるんだよこれでも僕は。ずっと日鞠の優しさに甘え続ける訳にもいかない。お節介の度が過ぎてるからね。

 

 僕だってもう高校生だし、一人で生きていく術を身につけておきたい年頃なんだ。てな訳で、話し合った筈だけど……今までとそこまで代わりはしない。

 ちょっとだけ、顔を合わせるのが減ったくらい。日鞠はこの長い休みを利用して何かしてる様だし、僕もLROで忙しいからね。

 だからだと思うんだ。ちょっと寂しいとか、そんな感じだから、目の前に居る日鞠は何故か朝の僕の部屋で大仰なカメラを手にしてるんだと思う。


「おい、その文句はもっともだけどさ、お前の手にあるゴツイカメラは何用だそれ?」


 どう見てもプロが使ってそうな一眼レフだよ。日鞠の細い指じゃどう見ても扱いずらそう。アンバランスだよ。僕の指摘に日鞠は慌ててこう言い返す。


「こ……これは違うんだよ。別にこの暑さで服をはだけさせた格好のスオウを撮っておきたいとか、全然そんなんじゃないんだから。

 まあでも折角だから――――ポチリっと」


 そう言って何気に見下ろすアングルから、僕を撮った日鞠。カシャっと言う音が蒸し暑い部屋に響いた。


「お前な……てか、なんだか異様に暑くないかここ? 幾らそんな季節だからって、流石にまだ朝方だろ?」


 汗腺から汗が染みでそうな暑さだ。カーテンの隙間からは強烈な日差しが既に見えるけどさ……流石にこれはおかしい。


「何言ってるのよスオウ。そんな季節だから当たり前でしょ」


 ピッ……「ピッ?」なんかそんな音が聞こえた様な。その後にウィィィンと言う機械音も聞こえる。おいまさか、この暑さって――


「お前、まさか暖房入れてやがったな!」

「はてさて? 証拠は既に消えちゃったよ。それにしてもスオウは大胆だね。そんな格好で迫ってくるんだから。まあ私は嬉しいよ」


 僕の追求なんて何のそのな日鞠。こいつを懲りさせる事はなかなか難しいんだよな。てか、僕の事に成ると飽きないしな。

 今まで一体、どれだけの恥ずかしい写真を撮られた事か。だからこそこの程度、パジャマがはだけて上半身の露出程度は今更恥ずかしがる事じゃない。

 僕はカメラのレンズを押さえて、強引にその手から奪う。力はどう足掻いても僕の方が上だからね。


「取ったああ!」

「ああ! 言っとくけど、そこのデータ消したって意味ないからね!」


 大事なカメラ取られたのに強気な奴。まあ理由はわかってるけど……前に言ってもんな。


「ふん、データはどうせ転送される様に成ってるんだろ。でも、どんな写真かはチェックする権利が僕にはある」

「今回はスオウが恥ずかしがる様な、ブランブランしたものは撮ってないよ」

「ブランブランってなんだよ!?」


 寧ろそんな写真があったら大問題だ。こいつとの関係を考え直す写真だよそれは。でも日鞠は笑顔でこういうんだ。


「ブランブランはね~~ほら、前は脱衣所にもカメラ仕掛けてたし。……今はもう取り外されたけど」

「当然だろ。どこで不機嫌に成ってるんだよお前は。よく考えろよ、同い年の女子に監視されながら生活なんか出来るか」


 最後の方で頬を膨らませた日鞠に呆れつつ僕はそう諭す。諭しながらカメラの液晶画面を操作。フォルダを開いて画像一覧を表示させる。

 まあ確かにそこまで恥ずかしい写真じゃない。そう思う僕は、何だろう? 慣れたのかな。このくらいなら……と思う自分が居る。


「別に監視じゃないよ。スオウの成長の記録を私個人が付けてるだけだもん」

「やりすぎだって言ってんだよ。それはお前の日記程度に止めておけよ」


 成長の記録って……日々の成長を一番知られたくない奴がある意味日鞠なんだけど。幼なじみだし。これ以上何を曝け出せと? 


「日記程度じゃ私の煩悩は満たされないもん!!」

「堂々と煩悩言うなよ!?」


 女の子だろお前は。てか、なんかヒートアップしてきたせいで更に暑い。ベットの端で汗を垂れ流しながら、二人で朝っぱらから何を言い合ってんだろうと思わなくもない。


「お前、エアコンのリモコン隠し持ってるんだろ? 暑いから冷房入れろよ」

「あ~あ、これで地球の温暖化が進むね。この程度の暑さは我慢できる範囲だよ。地球が暖かいから私たちは誕生出来たんだよ。

 もっとこう地球を感じるべきじゃないかな?」

「これは地球じゃなく、暖房の暑さだろうが」


 誰のせいで朝っぱらからここまで暑くなってると思ってるんだ。日鞠が無駄に電力を使ったせいだろう。てかこいつ……僕と違って涼しい顔してやがる。

 なんで同じ部屋に居て、汗一つかいてないんだよ。前々から思ってたけど、どういう体の作りしてるんだ? 日鞠が病気に成った所を僕は一度も見たことないぞ。


「はいはい、もうしょうがないなぁスオウは。冷房ね冷房」


 ピッという音が鳴ると、再びエアコン機動。これであとちょっとすれば快適空間へとこの部屋が変わるはず。流石人類。偉大な発明してるよ。

 外で鳴いてる大量の蝉共に「羨ましいだろ」と言いたいな。


「おい日鞠、なんでやたら部位にこだわって写真撮ってるんだよ。鎖骨やへそや……乳首とか……流石におかしいんじゃ無いのか?」

「スオウは何にもわかってないね。自分の魅力に気付いてないよ。スオウは鎖骨の張り具合も、へその形も、乳首の色も激萌えなんだよ?」


 可愛らしく首を傾ける日鞠。何か問題でも? 的なその顔がムカつく。


「何が激萌えだ。男のなんて気持ち悪いだけだろ」


 ゴーーー(エアコンからの風の音)


「ええ~、じゃあスオウは私の鎖骨や、おへそや、その……乳首とか見たくないの?」


 ゴーー


「お前……良くそんな事……てか、だから女子と男子じゃその意味が違う。お前のって訳じゃないけど、そりゃ興味あるよ」


 何言ってるんだろ僕。なんか暑いな。

 ゴーー


「そう言う事だよスオウ。男の子が女の子の体に興味があって胸やお尻や脚に魅力を感じる様に、女の子だって男の子の体に魅力を感じるんだよ。

 スオウは今、私って訳じゃないって言ったけど……私は、スオウだからだよ」

「は?」


 ゴーー


「だから私はスオウだから写真に残して置きたいって思う。スオウは私の体に興味は無いの?」

「それは……」


 無いとはいえない。日鞠は胸はそんな無いけど、健康美を表した様な体は魅力的だ。脚だって細くて綺麗だし、なんと言っても柔らかいよなコイツ。

 女の子ってみんなそうなのかも知れないけどさ。でも口が裂けても言いたくない何かがあるんだよな。てか、上目遣いで僕を見上げてくるなよな。

 思わず可愛いじゃないか……とか思っちゃう。汗が一筋額から流れ落ちて行く。やっぱり暑いな。うん暑い……なんだろうこの暑さ。胸がドキドキするのとはちょっと違うような。いや、胸もドキドキしてるけどさ、なんか外的要因の様な暑さ。

 そうそうゴーーってな暑い風が部屋全体を暖めてるみたいな――


「――って、あっっつううう!! 日鞠、お前暖房入れてるだろ!」

「ああ、バレちゃった? でもドキドキしたでしょ?」

「ドキドキって言うか、ムンムンしたわ!」


 暑い、暑すぎる。色々とヤバい位に温度が上がってるって。僕はまたも強引に日鞠の手から今度はエアコンのリモコンを奪い取る。そして速攻で冷房に切り替えた。

 はあ、これで安心。少しでも日鞠を信用したのが間違いだったんだ。


「ふう」

「あ~あ、スオウはとんでもないミスを犯したよ」

「何だよミスって。これ以上の適策は無いと自負できるけど」


 まだ何か言いたいことがあるようだな日鞠の奴。でも冷房の効いた部屋では、僕の心は春の草原の様に麗らかに成るはずだ。ドキドキ? は、何それ? 


「暖房でドキドキ大作戦は、あれだけじゃ無かったんだよ」


 暖房でドキドキ大作戦って……残念なネーミングセンスだな。あまりにも残念だから「ふ~ん」とだけ言っておいてやろう。

 よしよし、冷房が効いてきたぞ。はぁ、文明最高と叫びたい。


「最後の詰めは、暑くなったから私も服を脱ぐまであったのに、スオウはそんな一世一代のチャンスを逃したんだよ。残念でした」


 そう言って胸元を引っ張って、パタパタ風を送る日鞠。何のアピールだよ。そんな薄い胸で。


「あーそりゃ残念。マジミスったわー」


 めんどいから棒読みでそう言ってやったよ。すると日鞠が頬を膨らませて不満気だ。納得してくれない。


「全然残念がってない! スオウはちょっと、私の体に興味なさすぎだよね。もしかしたら小さい時に一緒に沢山お風呂に入ったからって、それで今の私の裸が想像出来ると思ったら、勘違いも甚だしいんだけど!

 想像と生身じゃ違うんだよ」

「残念な方に? まさかパッド入れてるのかそれで?」


 大抵想像の方が綺麗に作ってる物。人間ってほら、思い出を勝手に美化するじゃん。だから日鞠の理屈じゃそうなるよな。まさかそこまで残念な事に成ってるとはしらなんだ。

 すると僕の言葉を受けて、日鞠はピクピク眉を動かしてるぞ。そしてこういう時の日鞠は決まって暴走しがち。なんせ負けず嫌いだからな。


「スオウはほんと……冗談でも言って良い事と悪い事があるよ。私だって日々成長してるんだから!」


 そう言って日鞠は僕の手を強引に掴んで引き寄せた。そして自分の服の中に手を招き入れて、そのまま胸へホヨヨンと重ねた。


「どう? 私はパッドなんかに頼ってないわ。だって私は、自分の事胸張れるもの。スオウはこんな私でも受け入れてくれるって信じてる」


 そう言って重ねた手で僕の手をやたら胸に押しつけやがる。ヤバいって、これはヤバい。ブラの質感とか……なんか日鞠の鼓動までも伝わりそうで、流石に赤く成らずにはいられない。


「お……お前な、自分が何やってるかわかってるのか?」


 僕はしどろもどろに成ってる口を動かしてなんとか発音した。いや……うん、流石にこうやって触ると柔らかいし、暖かい物だな。

 てか、パッドじゃない位わかってるっての。冗談なのに……結構取り返しのつかない事だよこれは。パッド入れるのなら、もう少し大きくしそうだしな。


 日鞠が近い。流石に恥ずかしいのか、次第に頬を染めて横に顔を逸らしてるけど、何故か僕の手を解放してくれない。てか、かなり危うい状態だよこれ。めくり上がった服の下に見えてる形の良いおへそも何気にイヤらしいし、さっきまでの熱のせいでちょっと頭がボーとしてしまう。

 そしてちょっとだけ無言の時が流れる。うるさい蝉の鳴き声と、エアコンの風を出す音が響いてる。


「よく考えたら……スオウは自分から私に触って来る様な事しないよね。それって結構寂しいよ。私ワガママだから、実はもう手を握りあうだけじゃ満足はしても、お腹いっぱいには成らないの」

「それは……でもそれが普通だろ。幾ら幼なじみだからって、いつまでもベタベタ出来るわけない。それに僕たちは異性だし……それに……」


 僕は色々と考えてそう言った。別に昔だってそんなベタベタしてた訳じゃないとは思うけど……いつ頃からか、ちょっと日鞠を遠くに感じる瞬間があった気がする。

 コイツは凄くて、何だって出来て、太陽みたいでヒーローみたいでとにかく眩しいから、一緒にいると自分が普通以下に思えて仕方なくなる時があった。

 その頃は、きっと一緒に歩けなくなるとか思ってた様な気がするな。だから僕は一線引いたんだ。自分は日鞠の隣を歩けてないから。


 そんな僕が、一人で日鞠を独占してる訳にはいかないじゃん。まあやっぱり体も心も成長過程に入ったってのも大きかったけど、一線を引いた先は追いついてからの事だと心に決めたんだ。

 でもなんか……今その先にちょっとフライングしてる。胸を触るなんてフライングじゃ済まないかな? ブラ越しだしまだマシなのかな?


「それに……何? 異性だったのは良いことだって思ってる。運命だもん。スオウも私もそんな言葉はあんまり好きじゃないけど、でも私は出会うべくして出会ったって思ってる。

 でもそれって私の一方通行な思い? こんなにドキドキしてもスオウは感じない? スオウって全然家にも来ないよね。

 居心地悪くなった?」

「別にそう言う訳じゃ……それに自分だけがドキドキしてると思うなよ。された方だってドキドキしてる」


 マジで心臓が飛び出しそうな位だよ。手を誤って動かさないように緊張しまくりだし……てか出会うべくしてか。そこまで日鞠が思ってたんだ。どっちかって言うと、僕の方が運命とかそんなの感じてたと思ったけど……僕がコイツに救われたんだしな。

 誰かが困ってたら誰にでも手を差し伸べる奴だって今ならわかるけど……あの時は変な勘違いをしたんだよ。それに家に行かないのも、僕の身勝手な枷のせいだよ。

 別に行きたくない訳じゃない。


「ねえスオウ……後何年、私達は一緒に居られるのかな? 考えた事ある?」


 激しい光のせいでカーテンだけが浮かび上がる様に見えてた。後何年……こうして一緒に居られるか、か。早ければ後三年位だろうな。

 僕と日鞠じゃレベルが違うし、同じ大学なんて到底無理。それに自分が何をしたいのか、何に成りたいのかなんて全然全く、最近は考えてる余裕無い。LROで一杯一杯なんだ。

 そんな僕に振りかけられた難問……どう答えるべきか。僕が沈黙してると日鞠は更に続ける。


「私は最近良く考えるよ。最近スオウが危ない事してるから特に。いつだって本当は気が気じゃない。ずっと傍で見守っててあげたい。

 でも信じてるから……そんな事はやっぱりしない。けどそれって意地でもあるのかも。このまま意地を張り続けると、その瞬間が来たときに後悔するのかな~とかちょっと思っちゃう」

「意地ね……それなら僕だって意地張ってるよ。ずっとさ。それにLROに関わり続けるのも意地みたいなもんだし。

 もしかしたら僕は、証明したいのかも。ずっと張ってた意地の為の証明。それが摂理を助ける事で一区切り出来るような……勝手な思いこみ。

 まあだからこそ、摂理にとっては迷惑だろうな」


 日鞠の奴に並ぶための証明……こんな自分でも誰かを助ける事が出来るのなら、この目の前の凄すぎる奴に近づけたと思えると。

 そしたらもう少し色々と許せるかも知れない。


「私の胸を触ってるのに、他の女を考えるなんて……でも、私達は互いに意地張ってるんだね。じゃあここで約束しようよ」

「約束?」


 急に何言い出すんだ日鞠の奴? てか、その前に早くこの状態をどうにかしてほしい。本当にさ、自分が女って事と同じくらい、僕が男って事も意識しろ。

 幼なじみってフィルターが、日鞠にはいつだって掛かってるみたいだけど、僕はそうじゃないんだぞ。この状態は男の理性を壊して、本能を呼び起こしても文句は言えない。

 でもここでそんな獣に成るわけには行かないから、グググッと我慢だよ。そんな事とはつゆ知らずか、日鞠は赤く染めた頬を……ってか、顔自体を近づけて来る。

 僕はちょっと体を引かせたけど、とうとうベットの上に完全に進出した日鞠を交わすことは出来なくて……手も握られてるしさ。血流が逆流しそうな程だった。

 そして期待に胸を膨らませ――じゃなく、どうしようかと頭で悩んでる間に、膝立ちした日鞠はコツンと額と額をくっつけた。


「約束だよ。きっと離れ離れに成っちゃう前に、お互い意地を取っ払おう。そしてその時は本心で、気持ちを言い合うの。その約束」


 日鞠の声が、耳にくすぐったい位に近い。日鞠の熱が額を通して伝わってくる。もうかなり部屋は快適な温度に成ってるはず……なのに、全然火照りが収まらない。

 だけどまあ、こんなドキドキは悪くないとも思う。


「ああ、了解。僕にとって丁度良い帰る理由に成りそうだ。日鞠との約束は反故にしないって決めてるからな」

「当然、約束は守るためにするものだもん」


 契約終了と共に、日鞠は額を離す。それでも互いに近い近い。日鞠の香りが火照った頬が……浅く呼吸する唇が、全て悩ましく見える。


「スオウ……そろそろ手を退けてくれないかな?」

「へ?」


 そう言う日鞠の指摘で手を見ると、いつの間にか日鞠の奴は重ねてた自身の手を退けてるじゃん。これじゃあまるで僕が僕の意志で日鞠の胸を触ってる様な物。

 僕は慌てて日鞠の服の中から手を抜き取る。


「ご……ゴメン」

「いえいえそんな……」


 ゴメンと言うのもなんかおかしいけど、ついついね。するとその時、携帯から音楽が……この昔の暴走族風メロディー「パラリヤパリヤ~」は秋徒の奴だな。よし、無視しておこう。


「良いの? 秋徒からでしょ?」

「別に良いよ。朝っぱらからアイツの声なんて聞きたく無いし、それよりホラ返す」


 僕はそう言ってカメラを日鞠に渡す。消しても意味ないんじゃな。どうしようもないじゃん。嬉しそうにしてるけど、僕は疑問だな。


「何でそんなに知りたがるんだよ。僕は基本だらしないし。カメラなんて使ったら幻滅すると思うんだけど」

「それは違うよスオウ。私はスオウに幻想抱いてないもん。だから大丈夫。スオウが私の全部を見たくないのは、きっと私の綺麗な部分ばっかり想像してるから怖いんだよ」


 ふ~ん、確かにそれはあるかもね。男は美少女には夢を押しつける物だ。


「でもお前だってオナラをしたり、鼻くそホジったりするって一応わかってるぞ。人間だしな」

「しないわよそんなこと! 私のオナラは無音無臭なの!」


 んなバカな。何食ったらそうなるんだ?


「実は毛が濃かったりして処理が大変だとかを晒しても仕方ないだろ?」

「私の毛はそんな剛毛じゃない!」

「じゃあその……自慰行為とかは困るじゃん。僕だって男だぞ」

「そそそそれは…………無いとは言えないかも」


 なんか互いに真っ赤になった。でもこれで、僕の苦しみの一端はわかってくれたみたいだな。よし、カメラの台数を減らして貰おう。まだまだ僕の知らない場所に隠してるとも限らないしな。

 第二百三十五話です。

 なんか今までと関係無い感じだけど、しょうがない中ではいいのかな~みたいな。これからの為に……それに帰ってくる為には日鞠と言う存在はスオウには欠かせないので。

 覚悟の再確認みたいな。まあそこまで深くはないですけどね。

 次回は水曜日に上げます。ではでは。

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