2306 前に進むためのXの問い編 681
(誰か……)
僕は動くことが出来なくなった。深く布をかぶって、小さく丸まってしまう。そんな事をしてると、月人? と呼ばれてた化け物がどんどんと来るようになった。なにやらでっかい頭を上下にカクカクと動かしながら、やつらは歩いてる。いや、時々変な声を出して壁にぶつかったり、壁に飛んで壁に張り付いたりしてた。怖い……奴らの動きが全く分からないから余計に怖い。何かを目指してる……とかじゃなく、なんかただ何となく奴らは衝動的に動いてる。だからもしもこっちに突っ込んできたら……奴らは壁にぶつかってその壁をへこませたりしてる。
あんなのが向かってきたら……確実に僕はばらばらになるだろう。鼓動が早くなるけど、僕はなるべく浅く呼吸をする。小さく小さく呼吸をして、なるべく月人にばれないようにってしてる。でも……だんだん苦しくなってきた。まずいかも……すでにすぐそこを月人が歩いてる。
(どっかいけ、どっかいけ、どっかいけ)
なるべく小さく、小さくなる。奴らは何やら話てるような……そんな風にも聞こえる。けどそんなペチャクチャとやってたのに……だ。なぜか歩いてた月人が僕の居るすぐそばでとまった。心臓が飛び上がる。口から出てくるかと思った。僕は息を止める。体が震える。震えるな! って念じてるのに、震えてて……それが止まらない。カタカタカタカタ――とそんな音が鳴ってるんじゃないか? と思えて、強く目をつむった。
そういえばお姉ちゃんがいってた。
「月人は人を見つけることが得意だから、あんまり近づいたらダメだよ」
――って。今、僕と月人の距離はそれこそ2メートルくらいだ。月人の歩幅なら一歩だし、踏み込んで腕を伸ばせばきっと届く。目を閉じてるから見えないし、見たくないけど、きっと月人はまだそこにいる。なにせ足音は聞こえない。離れていってない。むしろ……
フンフン――という鼻息? なのかそれか息なのかそれが近くにある。息が届くような距離? これってもうばれてるんじゃ? それでも僕は震えることしかできない。次の瞬間には殺されるんじゃないのか……それが怖い。怖い、怖い。けど次の瞬間、何やら突風が吹いて、そしてドンガラガッシャーン!! と聞こえた。流石に目をあける。すると、なんか月人が転がってた。そしてそれを見てほかの月人が笑ってる。
(何が?)
訳がわからない。けどもしかしたら、やつらはただじゃあってるだけなのかもしれない。ふざけあってるだけ……みたいな。吹っ飛ばされた奴は切れたのか飛んできてぶつかった奴をぶん殴る。そして二人の戦いに発展する。周囲の月人もはやし立ててる。そんな様相の中、僕はこそこそとこの場から離れようと動く。だってこんなところにいたら命がいくつあっても足りないよ。