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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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神の地の反抗者

 迫りだす水に嫌な思い出が回帰する。上下左右から沸き立つように注ぐ大量の水は、どう考えても異常な量。一体どうなってるんだろう? この部屋がある建物は周りが水に囲まれてるのか? 

 どういう訳かはわからないけど、取りあえず脱出しないとやばそうだ。泳ぐのは苦手だけど……やれないなんて言ってる場合じゃなかった。

 そして僕達はサン・ジェルクへと戻る事が出来た訳だけど……そこで待ってたのは犯罪者とされてた僕達を追う、僧兵のモブリ達だった。


 周りで激しく炎が上がるこの部屋に、何故か流れ込んでくる大量の水。火災が発生してるから、魔法での消火機能か何か? かとも一瞬思ったけど、よく見ると別に炎が上がってる所に直接掛かってる訳じゃない。

 僕が最後にあの元老院をぶっ殺した場所が一番損傷が激しかったのか、そこがきっかけ。後は水圧で順次、柔く成ってた所からも、水が押し寄せてる感じ。


「おいおい、どうなってるんだよこれ?」


 既に足首まで水で埋まってちょっと狼狽える僕。だっていやな記憶がつい最近、出来ちゃってるからな。そのせいで水が迫るというのがちょっと怖い。

 苦手意識って奴だ。


「どうなってるって……アンタがあんな強力な攻撃をズカバカ打つからこういう事に成るのよ!!」

「う……でもだって、あの時はプッツン来てて後の事も周りの事も考えられなかったんだ。それにどうしてこんなに大量に水が入ってくるんだよ!

 どういう構造の建物の中にある部屋なんだよ! あり得ないだろこれ!?」


 下からは水が湧き出る様に出てるし、上の方はあたかも滝の様な勢いでこの部屋を埋め尽くそうとしてるよ。まあ確かに、後先考えずにイクシード3を使ったのは悪いと思うけど。

 あのクズだけは許せなかった。自分の手が汚れても良いからぶっ殺したかった。

 まあこうなったらセラに謝るのは取り合えず後回しにして、ここから脱出する手段を考えた方がよさそう。これじゃあまるで水責めだからな。


「あり得ないって言っても、私たちだってこの場所がどこにあるかなんて分からないのよ。言ったでしょ? 気付いたときにはアンタは寝てたって。

 思い出してみなさい。私達は転送されてここに来たんだから、更にここから別のどこかに続いてるって思う?」


 成るほど、セラはここが一つの終着だと言いたいわけだな。確かにそれはあるかも。イヤでも待てよ。


「ちょっと待て、あの元老院の奴とこの僧兵達は違う所から入って来た筈だろ? そこから脱出出来ないのか?」


 そうだよ。元老院のアイツが、同じ道を辿ってるなんて思えない。きっと楽にこれる道を用意してた筈だ。箱庭を造ったのがアイツ等なら、直接ここにこれる道だって作ってるはず。


「それは無理なんすよ! 確かに奴らは違う道から来たみたいっすけど、やっぱりここに至る道は転送に変わりないっす。

 自分達にはそれを起動できる手段が無いっす! スオウ君が奴を半殺し程度に止めておいてくれたら、まだやりようもあったっすけど……」


 うう、またもそこに返ってくるわけだ。確かに怒りに任せた暴走だったけどさ……ノウイにまで言われるなんて。


「と、言うか殺すのはやりすぎだ。何があったか知らんが、元老院自らが直接出向いてくれてたんだ。奴らの目的やそこのガキの事を聞くチャンスだった。

 それを有無も言わさずに葬り去るとは……お前はもうちょっと考えて行動する奴だと思ってたけどな」


 ここでようやく声を出したかと思った鍛冶屋まで、僕を責めるのかよ。確かによくよく考えて見ればそうかも知れない。元老院の目的……それにクリエの事……ミセス・アンダーソンの意識がもう戻らないとしたら、それらを解く足掛かりは奴だったのかも知れない。


「ああもう! 悪かったよ! 僕が全部悪い! 後先考えない事してごめんなさい!」


 僕はそう言ってみんなに向けて頭を下げる。いつの間にか水位が足首から太股位まで来てる。こんな短時間でここまで来るなんて……後数分もしたら、この部屋は埋まってしまいそうだ。


「謝って済むなら警察はいらないのよ」

「ちょ、セラちゃんスオウ君は反省してるし、謝ってくれてるんだから……それよりもどうにかしないと全滅だよ。折角クリエちゃんを取り返せたのに、これじゃあまたここまで来ることに成っちゃうかも。ううん確かもう道はないも同然。

 ならここで言い争ってる暇はないよ。どうにかして脱出しないと……」


 セラの容赦なさに、優しくフォローをくれるシルクちゃん。やっぱり僕の味方はシルクちゃんとテッケンさんだけだな。ってあれ?


「テッケンさんの姿が見えないですけど……まさか溺れ――」


 既に太股まで迫ってるって事は、モブリなら頭まで浸かってる筈。だとしたらそれもあり得なくない。とか思ってると「プハァ!」と水の中からテッケンさんが顔を出した。


「うん? どうしたんだいスオウ君。ハハハ、僕は無酸素で水中活動を十五分維持できるスキルを持ってるからこの程度の水はどうって事はないよ。

 あと他にも色々あるしね」


 そう言ったテッケンさんはスイスイとカエル泳ぎをしながら周りをクルクルしてる。てか、無酸素で十五分も活動出来るのかこの人。

 どれだけスキル豊富なんだよ。水中までちゃんとカバーしてるんだな。流石テッケンさん。頼りになる男の代名詞。


「テッケンさん、そんなに水中で活動出来るのはウンディーネと貴方位です。私達は普通に泳ぐ事で精一杯なんですから、どうにか出来ないんですか?

 ここがどこか位、検討付いてますよね?」


 シルクちゃんはそう言って、壁際をペタペタと触ってるテッケンさんの答えを待つ。僕達もここがどこか、テッケンさんなら……とか思ってるから口を挟まない。

 そもそもここはモブリの国だしね。モブリであるテッケンさんが一番詳しい筈だ。まあ、言いたいこともあったけど、ここはちょっと我慢。僕は普通に泳ぐことも結構まま成らない……どうしてだろう? 前は上手くとは言えなくても、泳ぐ事は出来たと思うんだけど……何故か箱庭では溺れたからな。

 だから今回もどうなるか……それにクリエを抱えたままってのも気になる。けど、こいつを放り捨てる選択肢なんてあり得ないからな。

 そんな事を考えてる間に水位は腰まで来てた。炎を上げてた機械とかが水で鎮火する所か、次々と爆発していく。そのたびに水に浸かってない所へは黒い煙が充満するんだから、たまったものじゃないな。

 まあこれもガムシャラに力を振るった僕のせいなんだろうけど。そしてしきりに壁へ関心を示してたテッケンさんがようやく言葉をくれる。


「ここは……もしかしたら湖の中なのかも知れない」

「湖の中って……サン・ジェルクの街が浮いてる湖の下って事ですか? でもどうやってそんなの作ってるの?」


 そのシルクちゃんの疑問はごもっともだな。だって湖の中って……まあだからこそ転送魔法で出入りするってのはわかるけど。


「僕もあんまり見たことはないけど、そう言うのがあるって噂はミッションをやってると時々出てくるんだ。お偉い人達の秘密の場所って感じだね。

 魔法の国だから、その位出来たっておかしくないだろう? それにこの大量の水……周りが湖だからなら説明が付く。建物の中の一室なら、こんな上下左右から水が入ってくるなんて事はないよ」

「それは……確かにそうかもですね」


 テッケンさんの言うことは納得出来る。確かに水の勢いが有りすぎる。まあどういう構造してるのか全然わからないし……この場所だけが湖に沈んでるとは言えないかもだけど、確かに説明は付くかも知れない。

 でも解決には成ってない様な……


「で、どうやって脱出すればいいんですか?」


 僕は最悪なケースを頭からなるべく追いやりながらそう聞いた。するとテッケンさんが、何も問題は無いという調子でこう言った。


「それは簡単だよスオウ君。ここはどこかの異次元でも亜空間でもない、僕たちが戻るべき場所の真下なだけだ。ここは多分、さっきスオウ君がイクシード3で暴れたせいで、魔法が解け掛かってるんだよ。

 その隙間から水が入ってて崩壊寸前。だけど逆にその隙間から外へ出て上を目指せば、直ぐそこはもう街なんだ。僕達はちゃんとクリエ様をこっち側に戻せるんだよ!」


 テッケンさんは既に勝った気になってるみたいだけど……それってやっぱり僕の想像した最悪のケースなんだけど……結局泳ぐの前提だし。どうせなら、転送を使う案が欲しかった。だけどそれをテッケンさんに求めるのは酷だよね。

 テッケンさんってモブリなのになんか肉体派だし。まあ例え魔法に徳化してたとしても、他人の魔法を使うなんて出来ないのかも知れないけど。


 テッケンさんの言葉を聞いて、みんなは「まあ、上に上がるくらいなら」って言ってるから出来そう。一人……というか一匹がやたら「ピーピー」鳴いてるけど、ピクの場合は仕方ないよな。

 シルクちゃんがそんなピクを優しく抱きしめて、一緒に泳いで行くようだし、問題は僕だよ。みんな当たり前に泳げる様だけどさ……僕は何のスキルも持ってないんだ。

 そして一回溺れかけてるし……これは意地を張ってる場合じゃないよな。誰かを直ぐにアテにする事は、恥ずかしい事かも知れないけど、自分じゃ危ない事って解ってる事を確実な仲間へと頼る事は間違ってないと思う。


 このまま僕が意地を張ってクリエを抱えたまま、水に飛び込んだとしても結果はほぼ見えてるしね。僕は別に危険や無謀に飛び込む事に迷いはしないけど……それにこいつを付き合わせていい訳はない。

 だから僕は、一番頼りになる人にクリエを任せる事に。


「テッケンさん、済みませんけどクリエを頼んで良いですか? 僕は泳ぎ関連のスキル持ってないから、水中ではどうなるか……実際解らないんで」

「ああ、そうなのか……そうだね。その方が良いだろう。わかったよスオウ君。必ずクリエ様は僕が地上まで責任を持って送り届けよう」


 テッケンさんはそう言うと、快くクリエをその背に乗せてくれた。この人なら安心だよ。小さいけど、誰よりも頼もしいからな。


「ああ、そうだ。スキルが無いのなら、武器や防具はなるべく外して置いた方が良いよ。使い慣れてるだろうから、普段は感じないだろうけど、水中ではその重量が結構掛かるからね」

「はい、それはもう身を持って体験しましたから」


 まさにイヤと言うほど……てか一回死地をみたからね。装備は外そうと思ってたよ。取りあえずウインドウを出して、防具やセラ・シルフィングをアイテム欄へ戻す。これでよし。同じ鉄は二度踏まないんだ。

 そして僕達は、いよいよ胸のあたりまで来てる位の所で外に出る覚悟を決める。そんな覚悟を多分僕が一番してた筈だけど……どうやらヨ~イドン的な感じで行くことは出来なくなった。

 何故なら、水が部屋全体を埋め尽くすよりも、ボロボロに成ってた部屋が崩壊する方が早かったからだ。大きな揺れが起きたと思ったら、足下が崩れ去った。


「うっぷ!」


 突然頭の先まで水に引き込まれる形に……しかも次々と頭上から天井部分だった筈の壁が落ちてくるものだから危ない危ない。

 いっとくけど、上から何かが落ちるのもトラウマだからな。怖くて仕方ない。形その物が崩れ去っていく箱庭を造りだしてた場所。あんな機械に愛着なんて無いはず何だけど……何故か寂しく感じる。

 それはあの中にシスターとかが居たから……かな? それにミセス・アンダーソンはまだ戻って来てないし……あれが無くなろうとしてる所を見ると、もう本当に終わりの様な気がする。

 自分自身のこの目で見届けた筈だけど、まだどこかで戻って来てくれるんじゃないかって都合の良いことを思ってた。けど……それはもう……シスターとミセス・アンダーソンの心を捕らえたまま、箱庭の元と成ってたであろう物は暗い湖の底へと消えていく。


 するとその時、何かが光った様な……沈み行く機械の少し上の方に何かが有る? 外した装備のおかげで、普通程度には泳げる僕は、上を目指してるテッケンさん達から離れて、下を目指した。

 沢山の瓦礫が沈み行く中を縫って行き、見つけたのは何故かイルカのストラップ? 水族館のお土産とかで良くあるクリスタル系のそれが何故か一緒に落ちて行ってた。


(なんでこんな物がここに? いやLROに?)


 もしかしたら土産物屋とかで売ってるのかな? 誰が買うかは謎だけど。たまたま誰かが投げ捨てた物が混じったとか? 

 無駄な労力だった……かとも思ったけど、なんだかわざわざ拾ってまた捨てるのもなんだから、一応それを握ったまま上を目指す。ちょっと息も苦しく成ってきたしね。

 上の方はほんのりとした明かりが点在してる。僕はそれを目指して足を動かした。



「プハァ!」


 案外かなり深かったから危ない危ない。限界かと思ったよ。てか、本当にテッケンさんの言ったとおりだったな。僕の視線の先には、提灯明かりに照らされたサン・ジェルクの街がある。

 ほんのりと見えてた明かりは、湖に浮かべられた灯籠だったみたいだ。リアルじゃ死者をあの世に導く為の物だけど、今回は僕達の道を照らしてくれたみたいだな。

 助かった……灯籠が無かったらどっちが上かもわからなかったかも知れないもん。


「あれ?」


 僕は周りをキョロキョロする。だって周りに誰もいない。僕が倒したモブリは浮いてるけど、みんなはどこに? そんなに離れた訳はないと思うんだけど……すると頭上の通路の所から激しい声が聞こえてきた。


「居たぞ! 重犯罪者の一人だ。攻撃許可は既にある。抵抗せずに我らに従え!」


 僕は更に周りをキョロキョロする。え~と誰に言ってるんだろう?


「貴様だそこの貴様!! 自分の犯した罪を知らんとは言わせんぞ! 抵抗をすれば命はないと思え!」


 随分怒りながらそういうリーダー格のモブリ。どうやらこの人達は僧兵は僧兵でも、元老院お抱えとかじゃない、普通の治安維持の人達みたいだな。

 奴らと違って腐った感じがないもん。まあ犯罪者を見る目はしてるけど――って、やっぱり狙われてるのは僕なんだ。随分と手回しが良いじゃないか元老院の爺ども。


 通路に展開してるモブリが僕に向けて杖を構えてる。どうやらマジで攻撃許可は出てるらしい。まあ犯罪者に成り下がった僕に、遠慮することなんてないか。

 仕立て上げられた犯罪者……ここでこの人達に捕まって元老院の悪行を話した所で、どうなる物でも無いよな。この人達だって内輪な訳だし……それなら握りつぶすのだって簡単だろう。

 ようはここでの投降はあり得ない。てかみんなもそう思ったからこそ、姿を見せてないんだろう。僕は取り合えずストラップをポケットに押し込んで、僧兵を見据える。


「そのまま大人しくしてろ。無駄な抵抗は命に関わるからな。我らは本気だ。下手な事は考えるなよ」


 僕が考え込んでる間に、笹舟がこっちに迫ってきてた。そこにも僧兵が数人……それが六隻って。どんだけ警戒してるんだ。

 遠くの祭り囃しと不釣り合いな事が起きてる。一体どれだけのプレイヤーがこの事に気づいてるのやら。いや、気づいてる訳ないか。

 僕はまあ、取りあえずこれだけは聞いてみる事に。


「下手な事ね……そう高圧的に来られると反抗したい年頃だよな。てか、僕の罪状ってなんなの?」


 一応それ重要だよ。まあ想像は付くけどね。すると僕を狙ってる部下に魔法の充填をさせながら、リーダー格の奴がこう言った。


「貴様に掛けられた罪状は、重要人物の殺害に特務第一行の誘拐――それとその他諸々だ。どれもこれも神をも恐れぬ悪魔の所行だな」

 殺人に誘拐ね……まあ間違っちゃ無いけど、その他諸々って何だよ。無駄に罪状付け足しやがったな。特務ってのはクリエの事だろうけど、僕は不満タラタラだ。

 元老院の奴ら、こうなることも想定してたのだろうか? そう言えばアイツは元老院の中では若い方とか言われてたっけ……元が捨てゴマみたいな奴だったのかも知れない。


 てか、どうやってここを切り抜けるか……みんなは上手く逃げたみたいだけど……僕は泳ぎには自信ない。ここで武器を取り出す訳にも行かないしな……そうなったら溺れるだけで抗戦も出来ないよ。

 絶対絶命って奴だ。笹舟もどんどん近づいてるし、このままじゃ何も出来ないぞ。一か八かもう一度イクシード3でもやろうかと考えたけど、まだ時間がそんなに経ってない。

 するとその時「ピーー!」と言う声が聞こえた。


「何だあれは?」


 そんな風にモブリ達は言ってるけど、僕にはわかる。あれはピクだ。きっとシルクちゃんが僕の為にピクを寄越したんだ。

 ピクは空中で旋回すると、左の方へ飛んでいく。きっと向こうにみんなが居るんだろう。


(よし!)


 僕はピクに従って泳ぎ出す。だけどそれは許される筈もない。


「動くなと言ったはずだ!!」


 威嚇の為に一撃が打ち込まれた。大きな水柱が僕の直ぐ近くであがる。


「我らは本気だぞ。逃走を計るのなら、死ぬことを覚悟しろ」


 満タンに魔法が充填された杖が僕を狙ってる。確かにあれが火を噴いたら、死を覚悟したほうが良さそうではあるな。だって今は防具だってつけてないし……ただの服だからあれだけの数の魔法を受けたらひとたまりもないだろう。

 けど……だからってここでみすみす捕まるのも願い下げだ! するとそこで閃いた。奴らに効果的な盾が、そこら中に浮いてるじゃないか。僕は近くを漂ってた僧兵を掴み上げてこう言ってやる。


「撃てるものなら撃ってみろよ。そしたらきっとこいつも死ぬぞ」

「なっ……更に犯罪を重ねるとは……神への冒涜も甚だしい……この外道が!!」


 外道言われちゃったよ。でもまあ仕方ない……今は言わせておくさ。それに自分でもそう思う。こんな事して……モブリの人がキレるのは当然だろう。

 でもキレたからって攻撃をしようとはしなかった。流石まともな奴だ。これが元老院とかだったら、ここで見逃す筈がない。

 部下の一人二人位、平気で犠牲にすると思う。大儀の為とか神の為とかのたまってさ。


「何をしてる。刺激しないように追うんだ! 犯人は興奮してるぞ。慎重に行け!」


 どうやら攻撃は諦めたけど、追跡は諦めない様だ。当然と言えば当然だけど……けどピクはどんどん暗い湖の方へ向かうから、必然的に僕を追えるのは六隻の笹舟だけに。そしてそれも突然のピクの攻撃に炎上した。

 今回のピクはなんだかひと味違うな。頼りになる。追っ手もいなくなったところで、ようやくみんなと合流できた。よくもまあこんな所まで逃げてたものだ。

 マジでいつの間に? だよ。


「ようやく来たわね。たく、シルク様に手間を掛けさせるんじゃ無いわよ」

「しょうがないよセラちゃん。何も伝えれなかったし、無事に合流出来ただけで良かったよ。でしょ?」


 シルクちゃんの言葉に、僕をチラチラみながら頷くセラ。まあ今のはセラなりの心配してたって態度だろう。


「で、どうするんですか? こんな所にいつまでも居るわけにはいかないですよ」

「大丈夫。考えてあるよ。ここまで来て貰ったのは攪乱の為だよ。しばらくの間、彼らには湖の上を捜索して貰おう。僕達はここから一気に、ミラージュコロイドで街へ戻る」


 なるほどね。確かにそれなら攪乱にはなりそうだ。いつまでも持つ手じゃないけど、取りあえずこの場は切り抜けられるし、外に出たとでも思ってくれれば万々歳だ。いや、外に出るには直接泳いでもダメなんだっけ? 周りは滝だしな。

 サン・ジェルクの街に転送場所があるんだっけか?


「じゃあ行くっすよ。 ミラージュコロイド展開っす!」


 透明な鏡が空中に一直線に展開される。そしてそんな鏡に、僕達は手を繋いで入っていく。



 ガヤガヤザワザワとした喧噪が、通りを挟んだ向かい側からしてる。一気に街に降り立ったは良いけど、案外まだ僧兵が多い。クリエ達をどこかで休ませたいけど、これじゃあどうした物か……僕達は顔が割れてるみたいだからな。

 どうにかこそこそと移動して宿屋を探す。するとその時だった。


「くふふ、これは掘り出し物の一品だな。だがここから更に昇華させるのが私の役目――――どわっ!!」

「ん?」


 その瞬間ガシャアアンと響く音。砕けた盆栽の鉢……そしてそこには一人のモブリが居た。

 第二百三十話です。

 さて、サン・ジェルクでも敵一杯です。てか、もう既にモブリ事態が敵と化したと思っても良いかも知れないです。それだけ元老院という肩書は大きいという事でしょう。

 まあ奴等がどこまでの規模で手配してるのかは謎だけど、少なくともサン・ジェルクでは自由が効かなくなってるかも。周りを滝に囲まれたこの街で、それはとても痛い事です。

 だけどそこで出会った新たなる登場人物は一体!?

 てな訳で、次回は日曜に上げます。ではでは。

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