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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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2282 前に進むためのXの問い編 657

「えっと俺……いえ、自分は……」


 セインに抱き着かれてる彼はもうあきらめたのか、セインのことはそのままに話してくれる。きっと普段は俺……とか言ってるんだろうけど、自分たちの方が年上だからだろう。彼はわざわざ丁寧な言葉へと言い直す。大人に囲まれて続きを待たれる……となればきっと緊張が凄いだろう。だからしどろもどろになってる。けど伝えたいことははっきりとあるんだろう。彼は数回深呼吸をしていってくれる。


「い、妹を探したいんです。妹まだ小さいから、きっと泣いてる」

「妹さん? でも私たちがこの里を回った時にはそんな子はいなかったよ?」


 ユズがそんな事をいう。最初に俺たちが月人と遭遇した時、遺跡から出てくる月人は俺たち男たちで抑えて、里に残ってた人たちはユズやセインに任せたんだ。だから俺たちはなんともいえない。なにせ全くわからないからだ。


「妹は儀式に参加してたから……」

「それって……」


 沈痛な面持ちでその子はいった。儀式に参加してたという事はこの子供の妹も遺跡にいたという事だ。月人があふれ出してた遺跡……俺たちは言葉を詰まらせる。きっと俺たちの思いは同じだ……それはもう……手遅れ。だって月人が今も溢れ出てるんだ。もしも生き残りがいるのなら、もっと前に、真っ先に逃げ出してきてるはず。けど俺たちは遺跡の近くで月人を迎え撃ってたが、そんな人は一人もいなかった。つまりは……中の人たちはもう全員やられてる――と俺たちは判断してた。そして一回月人が出てくるのが止まった時がある。最後のチャンスはあそこだった。あの時に自力ででてくるか、それか俺たちが中に入る選択をしてたら……何かが変わってたかもしれない。

 でもそれを今更考えてもしかたない。仕方ない……と思ってても、それをどう伝えるかが難しい。なにせ相手は子供だ。大人がそろって「諦めろ」といえるか? そんな事を言ったらこの子はきっと泣くだろう。そんなことになったら、月人にばれる。そしたら俺たちだって……いや俺たちは大丈夫だ。死ぬことはない。けど俺たちがやられたらこの子も……きっと妹の後を追うことになる。

 けどなんて言ったらあきらめるだろうか? きっとこの子はそれを確かめるまで納得なんてしない。なら、ここは落とすか? 意識を落とす――リアルでは難しいがLROなら簡単にできる。それにこの子と俺たちでは圧倒的にこっちが有利だ。強いといっていい。だって絶対に説得なんてできない。絶対に後悔が残るし、俺たちはこの子に恨まれるだろう。

 けど……けどこれしかない。だって遺跡の内部に人が生きてるなんて……万が一もないと思う。確かめるなんてできない。だってそこまで行くこともできないし、行こうとすることも自殺行為だ。諦める……それが最善だと俺たちにはわかる。この子の妹を探す……なんて行為が自殺行為だ。生きてる可能性なんて限りなく0に近い。


 でもきっと……この子は理屈じゃ納得しない。だからこそ、恨まれる覚悟か必要なんだ。この子に一生恨まれる覚悟……なかなかに重い選択だ。

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