2274 前に進むためのXの問い編 649
「くっ……」
「リーダー、これ以上は……スキルの封印が増えすぎてる。このままここで戦ってると俺たちだってやられるぞ」
最悪、それでもいいと思ってた。なにせ俺たちプレイヤーは復活できるのだ。ゲームの中なら、普通はNPCだってそうだろう――と思うのが普通だ。
なにせNPCにはクエストの発生の起点になってるNPCだって普通はいる。そういう起点となりえるNPCがいなくなってしまうと色々と物語を紡ぐのに不都合が起きてしまう。
それこそまだ寄り道のクエストくらいなら良いだろうけど、物語の根幹に関わるような……そんなクエストにかかわるNPCは居なくなってしまったら駄目だろう。
だから普通のゲームではNPCは殺せても、それでも復活したりするのは普通だった。でもLROは違う。全ては記憶されてしまう。起きてしまった出来事は不可逆で戻ることはない。このままだと、この里の存在は誰にも知られることなく、ここにいた人たち共々、歴史の闇へと消えていくことになるだろう。月の侵攻によって哀れにも消えてしまった一つの場所として。
それなら……だ。そんなことになってしまうのなら、復活出来る俺たちプレイヤーがなんとか出来るんじゃないか? って思うのは仕方ない。
いや、そういう高尚な理由では実際ない。そう、これはもっと俗物的な……そんな理由だ。もっと単純で、もっと欲にまみれてる。
「なあ、ヒーローになりたいって思ったことはあるか?」
「なんだよ急に」
戦闘中にいきなりそんな話しをふると、仲間は訝しげにこっちをみてくる。仕方ないよな、なにせ結構ギリギリだ。月人の特徴はスキルを使えなくしていくことだ。それは時間が経つ事にどんどんと封じられるスキルは増えていく。
そうなると、どんどんとこっちが不利になっていくのは仕方ない。だからこそ、めっちゃ大変。そんな大変な中、いきなり今の質問である。
(何いってんだ?)
と、思われても仕方ない。そもそもがこの大変な状況だ。返答を期待してたわけじゃない。ただ、俺のことを聞いてほしかっただけだ。
「俺はなりたかったんだよ。ヒーローに。リアルではそんなの笑われるし、出来るわけもないって思ってる。けどさ、ここじゃあ、やれるんじゃないかって……まあ大抵ただ楽しんでるだけだったけど」
そう、最初はそんな想いがあった。けど普通に俺はこの世界、LROを楽しんでた。エンジョイ勢だった。色々とあったけど、それでも俺がスポットライトを浴びることなんてなかった。
きっと俺はモブなんだろう。けど……LROはいつだっていってる。『自分だけの物語を』と。ここで頑張れば、世界を変えるようなヒーローには成れないかもしれないかも……でもそれでも、小さな誰かのヒーローにはなれるかもしれない。
そんな私欲。だから皆が否定したら……そんな事をおもってた。
「まあ俺だって? 子供の頃はライダーになりたいとか思ってたよ」
「おれも良くやった。漫画のヒーローの技とかさ」
そんな風に言ってくれた。男は一度はヒーローに憧れる。それに今、挑戦しよう。