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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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虚無の籠庭

 どうして……なぜ僕はここに居るのかが分からない。何をやって、誰とやって……何を目的に僕はここに居る? 何も分からないまま囁く草花の中を歩いてると、小さな背中があった。

 僕は目的も理由も無く、その背中を追う。何故かそうしないといけないと思ったから。


 肌を擽る優しい風。そんな風が鼻孔に香りを届けて吹いていく。暖かな日差しは肌に心地良い温もりを与えて、うたた寝をしちゃいそうな長閑さを誘発してる。


(ここは……)


 囁き有ってる草花の中で、僕はそんな楽園みたいな気持ちで目が覚めた。ここの空気に思わずボンヤリしてしまう頭。僕は首を振って無理矢頭を叩き起こす。

 そして目の前に広がる光景に、しばし呆然だ。


「あれ……なんだったっけ?」


 頭が上手く働かない。まだ寝ぼけてるみたいだ。第一声がこれって……自分がバカみたいじゃん。緑の草に混じって黄色い花が揺れている。空を見上げると蒼い蒼い景色と、白く大きな雲が広がって……その真ん中に太陽という輝きがある。

 それはどこまでも、今までとは違う。


「う……ん?」


 今まで? って何だっけ? 寝ぼけてるだけ……と思ったけど何をやろうとしてたのか、上手く思い出せない様な。頭に膜が張られてるみたいな……おかしな感覚。

 てか、そもそも何で僕はここに? 一端僕は深く深呼吸を繰り返してみる。きっと脳に酸素が足りないんだ。そう思ったから。


 体一杯に入ってくる空気がなんだかおいしいと思える。空気で体内がリセットされる様な――そんな新鮮さだ。だけど体内の空気を入れ換えて思い出したのは「そう言えば夜じゃなかったっけ??」位。

 けどここには燦々と日差しが降り注いでて……あっさりと自分の勘違いだなと納得した。なんか深く考えなくてもいいやって気に成るんだ。


 するとその時、目の前を蝶らしき生物が横切った。まあらしいってのはリアルじゃ見たことない蝶だから、そう断言するのは不味いかなみたいな配慮だよ。

 この蝶らしき生き物は姿形はまさにそれ……だけどなんと言うか……曖昧な感じ? 黄色い光がそんな形をしてるってだだけなんだよな。

 しかも羽を羽ばたかせる度に、りんぷんが舞ってるし、何とも綺麗な蝶だ。そしてふと気付くと、その後を追ってる小さな姿が見えた。


 なんだか見覚えが有るその後ろ姿を、僕は思わず追いかける。見渡す様な草原を下に進むと、そこには川が有った。そして例の蝶が一杯居た。キラキラキラキラしてる。どうやら水辺のあたりには、黄色い花が一杯咲いてるみたいだ。

 それを目当てに蝶が集まってる。

「ってあれ?」

 下の方に気を取られてる間に、小さな背中が消えてる。追ってた筈の一匹の蝶は見えるのに、あの子がいない。てか、何で後を追ったんだろう?

 なんだか追わないといけない気がした様な……するとその時、バシャバシャという音が耳に届いた。そちらを見ると、例のあの子が川に入って遊んでるじゃないか。

 何故かホッと息を吐き出す僕。その理由がわからないんだけど、でも何となく安心だ。小さな子が楽しそうにしてるのってそれだけでいいものだよ。


 てか、あの子白い宗道服ビシャビシャに成るんじゃない? まあだけど、全然気にしてなんかないな。綺麗な水と蝶と戯れるのに夢中みたいだ。

 それはなかなか絵に成る光景。絵画とかに描かれても良さそうだ。でも僕にはそんな芸術のセンスは無いから、取り合えず写真で……LROの写真の取り方はいたって簡単だからね。


 まずは両手の親指と人差し指を使って四角を作る。そしてその手を取りたい物へと向けて、被写体をその四角の中に納めます。

 後は「シャッターオン」の声で頭にカシャリと言う音が響き、撮影終了。そのまま手を解くと、そこには四角く切り取られた画像が、宙に浮いた状態で残るんだ。

 まあ、後はそれをウインドウにしまうか、気に入らなかったそのまま排除かの二択だね。後は勿論、取った写真は必要分に幾らでも増やせるし、データだから幾らだって引き延ばし縮小可能だ。

 てなわけで、そんな便利な機能を用いて、僕は自身の手というファインダーをあの子へと向ける。


「ん?」


 なんだかあの子が、僕の方へ手を振ってる様な……気付いたのか? じゃあ、あれは一緒に遊ぼう的な意がこもった誘い? 

 僕はファインダーから顔を上げてあの子を見る。まあ実際気持ち良さそうだし、悪くないかなとか思う。それにあんなに笑顔で手を振られちゃね。

 僕はしょうがない感を出しつつ一歩を踏み出す。すると後ろからもう一人の女の子が、手を振りつつ僕の横を通って行った。


(うわぁぁぁぁ)


 と、まさに僕は思ったよ。これは赤面物だ。勘違い……勘違いもはなはなしいとはこのことである。あの子は僕じゃなく、もう一人の子に手を振ってた訳だ。

 それをあたかも自分に向けられてるみたいに勘違いして……さらにはしょうがない振りまでして踏み出してたんだから、穴があったら入りたい心境だ。

 普通の人なら耐えられずに、一刻も早くこの場から何気ない感じで去りたいと思う筈だよ。まあ実際僕も、何も無かった事にして去ろうと思った。だけどついつい、視線があの子達へと向いてしまう。


 何か……気になるんだよな。後を追ったのだってそうだし、何か大切な事が頭のどこかに追いやられてる感じ。それも故意に。

 視線の先では二人の少女が大ハシャぎしてる。水を掛け合ったり追いかけっこしたり、その勢いのまま転んだり……だけど凄く楽しそうに笑いあってるよ。

 一人は白い宗道服に身を包んだモブリの少女。そしてもう一人は普通の人の女の子だ。体格からして七・八歳くらいかな? 肩よりも少し長い黒髪を、どっかの民族衣装的な柄のスカーフで纏めてるのが特徴的な子だ。

 服装は、タンクトップに短パンという何ともアグレッシブな格好してるよ。


 二人は気が合う親友みたいな物なのかな? 随分違うけど……なんとなく自分達の小さい頃を思い出す。微笑ましくなるな。

 てかモブリ小さい……今更だけど、あの年頃の人の少女よりも随分小さい。まあテッケンさんでさえ、膝小僧位までしかないから、子供となると当然だし、一緒に居たときに散々そう思った筈……ん?


「あれ? そうだ……僕はあの子を……アイツを知ってる筈で……」


 頭の膜の隙間から僅かに漏れだした物が映像と成って流れた。そこには確かに僕とアイツがいて……


「――っつ!?」


 だけど全てが流れ出す前に、再び曖昧な膜へと隠されていく。僕はなんとももどかしい気分を味わってた。あそこにいるモブリの少女……あの子の為に何かやってきた様な……


「って、居ない?」


 僕が少し目を離した隙に、川は静まり帰ってた。聞こえるのは僅かなせせらぎだけだ。まるでさっきまで見てた光景が夢か幻でもあったかの様な感じだ。

 やっぱり写真を撮っとくべきだったかも知れないな。今更後悔しても遅いけど。僕は取り合えずあたりを探して見ることに……どうやったってあの子(モブリの方)が気になって仕方ない。

 だけど幾ら歩いても人っ子一人見あたらない。やっぱり幻だったんだろうか? そう言えば、アイツ等の声……聞こえて無かったんだよな。

 よくよく考えたらそれっておかしな事だ。そして姿だけ見えて声が聞こえないってのも、最近体験してた様な……う~ん。


「ん? あれは……家?」


 適当に進んでる内に、一つの建物を見つけた。この場所にポツンと佇む様はなんだか寂しい感じだ。まるで雪だるまと言うか、円を二つあわせた様な作りの建物。

 僕は取り合えずそこを目指して足を進めた。そして目の前に到着すると、ちょっと驚いた。なんだか荒らされてないか?

 周りの花壇らしき物は踏みつぶされてるし、明らかに外には戦った様な形跡がある。それに窓は割れてるし、扉なんて立て付けが悪いどころか、既にブランブランしてるぞ。


 一目見た印象だと、まさに廃墟だな。まあだけど、長年放置されてきたって訳でもなさそうだけど……周りから焦げ臭い臭いとかもするんだよね。

 それに干されてる服も、地面に落ちちゃいるけど有るし、こうなったのはついさっきみたいな風だ。取り合えず警戒しながら中を確認だな。

 僕は忍び足で割れた窓へと近づいて室内を伺う。


(誰も居ないな……てか、これは酷い)


 室内は酷く荒れてる。家具は倒れたり壊れたりしてるし、床なんて抜けてる所もある。でもここからじゃ全てが見える訳でもないし、確認の為に中へ入った方が良いかも。

 敵……と呼べそうな奴らもいないしな。僕はブランブランしてた玄関へとまわり中へ。なんか中は妙な熱気という物がまだあった。

 これは……戦闘の熱だと思う。なんとなくそう感じるよ。まあこれだけ荒れてるんだし、きっとここに居た人達は抵抗をしたんだろう。


 だからこそのこの惨状だ。僕はまずはさっき窓から見た部屋へ――と言っても、あんまり部屋数が有るわけでもなさそうだ。

 てか円が二つ重なり有った感じの二つしかないような。まあお風呂は別になってたけど、寝室とかの概念が無いのかな? でもここにベットらしき物は無い。と思ってたら、上がどうやら有るようだ。

 あそこが寝る場所かな? なんだかここも僕は見たことある気がする。外はそうでも無かったけどさ、中に入るとそんな感じが強くなった気がするよ。


 特にここから見える反対側のキッチンとか、あの壊れた窓から見える外の景色とか……一回見たような。僕はまず一階を見て回った。それは酷い有様としか言いようがないな。食材とかもぶち撒かれてるし、戦闘の爪痕がそこかしこに見て取れる。

 次に僕は二階へ。まあ二階と言っても、二つの円の半分部分だけで、部屋として分けられるのかも微妙な物だけど。

 二階の敷居は布一枚。それも半分は斬り裂かれてる。それを越えると、そこにはなんだか哀れになったヌイグルミが沢山転がってた。それもかなりの量だな。

 それにヌイグルミだけじゃなく本も一杯だ。子供らしい絵本が多いようだけど……そうじゃないハードカバーの本も結構ある。


 なんか宗教関連の本が目に付くな。そう思いながら奥へ進んでいくと、パキッと何かを踏んだ様な音が耳に届いた。足下を見るとそこには写真立てがあった。中には当然ここの住人であろう写真が入ってる。

 僕は腰を下ろして、その写真立てを拾い上げる。すると壊れ欠けてるのか、貯まってた写真が漏れ出す様に展開された。


 そこに写ってるのは二人のモブリの写真ばかり。一人はさっき見た白い宗道服の女の子。それともう一人は黒い宗道服に身を包んだ、大人サイズのモブリの女性。

 そんな二人の楽しそうな生活の一ページが切り取られた様な写真の数々だ。いつも笑ってる小さなあの子を、女性が優しく見守ってるって感じが伝わる写真が一杯あった。


「クリ……エ?」


 写真を見てると不意にそんな名前が出てきた。そうだ……この子は確かクリエなんだ。僕は知ってる筈。


(なのに……どうして?)


 展開した写真に目を落として僕は考える。頭の靄をかき消す様に考える。だけどその時だった。大量のヌイグルミの中から、何かが飛び出してきやがった。


「十字架は……罪人を裁く矛となる!!」

「ぬお!!??」


 降り注ぐ等身大クラスの十字架。それが僕がめがけて降り注いだ。何とか床を転がって難を逃れたけど、いきなりなんなんだ? 敵か? 僕はセラ・シルフィングに手を伸ばす。

 てか、さっきの攻撃どっかで見たような……すると、十字架の向こうから小さな襲撃者の声だけがこちらに届く。


「まさかわざわざ戻って来るなんて……私に止めでも刺しに来たの? でも生憎と、まだ死ぬわけには行かないのよ!!」


 その声と共に、十字架が更にこちらへ向かって飛んでくる。派手で直線的な攻撃。避けるのなんて実際造作もないけど、僕はやっぱりこの攻撃を知ってる。

 この攻撃には裏が有ることも。


「――つっ!」


 かすりもしないで避けたはずなのに、腕には一筋の切れ目が入ってる。やっぱりだ。デカい十字架に目を奪わせておいての、小さい十字架の仕込み。

 それらを上手く使い分ける奴だった……そういう奴だった?

 僕はやっぱりこの相手も知ってるぞ。


「どうした? そんなもの? 私を殺しに来たんでしょう。ならもっと気合い入れないとウッカリ殺しちゃうわよ!

 まあ、降参して爺共の狙いを話すって言うのなら、私の慈悲深い神は貴方を許してくれるでしょうけど」


 なんかそんな事を言いながら、攻撃は更に激しくなって行くんだけど……絶対に降伏しても許してくれる分けないよあれじゃ。

 絶対に拷問とかが待ってるコースだ。てか、勘違いだと言うことに気づいてないよなあの人。どうにかしてそれを伝えた所だけど、二種類の十字架が邪魔してそれも難しい。

 デカい十字架は僕の姿を隠す事と、派手にこの家をぶち壊す事で邪魔すぎる。残骸飛び散らせまくりだし……小さい方は上手く避けた先とかに回られて行動制限される。


 まあだからって小さい方にはそれほどの致命的な威力はないし、いざと成ればデカい方を打ち落としつつ、小さいのは無視して突っ込む事も必要だな。


「おい! ちょっと待てって! 僕はっ――――敵じゃない!」


 敵じゃ……無かったよな? なんかよく考えると、自分の言葉に自身が持てなく成るのは何でだろう? まあだけど、僕はここで誰かを殺そうなんて思っちゃ居ないわけだし、それを伝える事が優先だ。


「何をふざけた事を。私達はもう明確なる敵でしょう! 私はあの子を利用するのは反対です! なので既に、止まることなんて出来なっ――!!」


 一つのデカい方の十字架が床に刺さって二階部分が耐えきれずに崩れさる。僕たちは二階から一階へと落ちていく羽目に。

 だけどそんな中、僕は見た。あの人……なんだか、動いてない様な? 頭から落ちて行ってないか? 僕は近づこうとしたけど、なんせ二階と一階位じゃあっと言う間だった。


「けほっ……ごほっ……」


 僕は瓦礫を押し退けて立ち上がる。一階部分は巻き起こった粉塵で白くなってた。そんな中、僕はあの人を捜した。なんか見た感じ結構ボロボロだったんだ。崩れさる前に言葉が途中で途切れたのって、崩れたのに驚いたからじゃなく痛みがぶり返したとかなんじゃないだろうか?

 てかモブリは小さいから、こういう時は結構不便だな。なかなか見つからない。そう離れてない筈だけど……するとその時、ガコンという音がすぐ近くで聞こえた。僕は直ぐ様そちら側へ。


「ぐっ……十字架は……」


 瓦礫の中から何とか体を這い上がらせた様な格好で、その人は居た。しかも手には攻撃しようとしてるのか、デカい十字架をまだ持ってる。なんという執念だよ。

 けど、既に虫の息なのは明白。僕は駆け寄ってその人の手を掴んだ。


「な……何を?」

「何をって、助けるに決まってるだろ!」


 僕はそう言ってその人を瓦礫の中から引っ張り出す。でも助けたのに何故か、強引に手をふりほどかれた。そして十字架を向けられる。


「なんのつもり……よ。あそこは止めを刺す……絶好の機会……だった……の…………に」


 次第にふらついて行ったその人は、その場にバタンと倒れ込んだ。どうやら限界が来たらしいな。てか、無茶し過ぎた。

 激しい戦闘の後は、僕がここに来たときから伺えたのに、更に動くから倒れてしまうんだ。僕は動かなくなったその人を無言で見詰める。

 なんだか似てるのかも……とか少し思った。上手く思い出せないんだけど、この人を見てると少し自分と重なる様な……そんな気がする。

 だから僕はそっとその人を抱えた。手に持ってたその人の十字架は光を放ち、胸に納まるネックレスへと戻った。やっぱり見覚え有るよこれ。


「僕にもこの人の様に守りたい物が……助けたいと思った奴が居たはずだ」


 僕はそう呟いて、瓦礫の山を踏み越えて外へ出た。取り合えずこの人を休ませないといけないだろう。それにこの状況……気を抜けばどうでもいいとさえ思考がそっち方向へ向く事が異常だと思えるこの感覚の正体を知りたい。

 それにはきっと、この人が必要だ。僕は取り合えず落ちた洗濯物からタオルを取って、川の方へと向かう事にした。




(歌が聞こえる……私が教えて、初めてで唯一あの子が笑顔を見せてくれた歌が。でも……一体誰の声? あの子の鈴の音の様な可憐な歌声とは随分違う。シスターの声とも違う……不器用でちょっと酷い旋律。

 だけど……優しさは伝わるわ。この声は……)




 「『幾億の星が~流れ落ちるその時~私はその星の一つに~なれているのだろうか。一人で輝く星になんて~成りたくはな~いよ~。孤独は罪で、それが罰。紡いだ声はどこへ行くの~』う~ん、ここからはわからないな。何となく覚えてたけど……これで良かったっけ?」


 僕は記憶の糸をたぐり寄せてその歌を紡いでた。川のせせらぎをBGMになんとも風情が有る感じでね。すると不意に続きが紡がれてくるじゃないか。


「『言葉の欠片を拾っても、私じゃ届ける事が出来なくて。時間ととも全てが移り変わっても、私はついて行く事さえ出来なかったの』」

「……起きたんだ」


 僕はちょっと恥ずかし気にそう言った。だって一人で歌ってた所を誰かに聞かれるって恥ずかしくない? 僕の言葉に彼女は「ええ」と返した。


「これは貴方が?」

「まあ、そうだけど」


 その人は枕代わりにしてたタオルを持ってそう言う。直接頭を地面につけるのはどうかと思ったんだよね。


「その歌って……」

「これは私があの子に教えたんですよ。まあだけど、さっきの歌詞はあの子が勝手に変えたバージョンですけど。でも私も、何となくこっちが好きなので」


 そう言う彼女はさっきとは全然違う表情に成ってる。なんというか……愛娘を自慢する母親みたいな。てか、僕には色々わからない事がある。


「あの子って?」


 だから僕はそう言った。すると明らかに呆れた。


「はあ!? 何言ってるのよ貴方。あの子と言ったらクリューエル様でしょ。まあ貴方からしたらクリエですよ」


 クリエ……と言うとあの川で遊んでた子だよな。モブリの方だ。僕は「そう……なんだ」と言う微妙な返事しか返せない。だって頭のフィルターが邪魔なんだ。


「そうなんだって貴方ね――って、ああそう言うこと」


 僕の微妙な反応に、何故か納得するような素振りを見せるその人は、やっぱり何かを知ってるみたいだ。


「何がそう言う事だよ? この頭に膜が掛けられてるみたいな感じが何か、あんた知ってるのか?」

「ええ、まあ何も対策をしてないのなら影響を受けて当然ね。貴方、どうして自分がここに来たのかも分かってないでしょう? 目的をすっかり忘れてる」

「確かにそうだけど……何なんだこれ?」


 目的……確かにそれが有ったって感じはするんだけど、やっぱり思い出せないんだよな。


「ここは箱庭。私達はあの子がここに居たくなるような仕掛けをしたわ。あの子がここで楽しく過ごせるようなそんな仕掛け」

「仕掛け? 何だよそれは……」


 少なくともあまり良い事な感じはしないな。そしてそんな僕の予想通り、その人の顔は僅かに曇った。


「それは……最も強い目的を失わせる事。ここに居ることに疑問を抱かせない為で、外に出ようと思わせない為にね。今の貴方もその状態でしょう?

 まあだけど、肝心のあの子には何故か効き目が薄かったのだけど……けど貴方を見る限り、その効果は抜群の様ね」

「最も強い目的って……夢とかそんなのか?」


 僕の言葉に「ええ」と頷く。僕は思わず、その人を強引に持ち上げてた。だってそれは……縛り付けるために……その為だけに……でもそれでも突発的な感情の現れだった。けど何故かそうせずには居られなかったんだ。

 僕にはその時、声が聞こえてた。聞き覚えのある幼い少女の声。


『私はねスオウ。月に行きたいの! 月に行かなきゃいけない気がするの!!』

 

 第二百二十二話です。

 今回からようやく箱庭な訳ですけど、最初から訳が分からない事が一杯。そして一番訳がわかってないスオウは混乱しまくりです。だけどそれでもやっぱりスオウは何かに導かれてるのかも知れないです。

 その先での意外な出会いは、クリエの謎を紐解いてくれるかも――的な。

 てな訳で、次回は金曜日に上げます。ではでは。

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