2197 前に進むためのXの問い編 572
「さっきと同じ……でも……」
妖精の……いや一般普通妖精の歌が始まって少ししたら、アーシアがそんなコトを呟いてた。そして更にハッキリと続きを言った。
「フィアちゃんの方が上手かったね」
多分妖精には聞こえてなかっただろう。そうだといいな……と思った。だって流石にそれは……ね。ショック受けそうじゃん。なにせ妖精はいたずらとか歌うこととか……そういう事が好きらしい。勿論個体差はあると思うが、もしかしたらローレが偶々呼び出したこの一般普通妖精は自身の歌声に自信がある個体かもしれない。そんなやつだったら、流石に誰かの方が良かったよね? とか言われたらショックを受けてしまうだろう。
まあ歌い続けてるからきっと聞こえてなかったんだろうと思う。僕はとりあえずアーシアに向かって「シー」というポーズを取った。それを見てアーシアは自身の手で口元を抑えた。そしてコクコクと首を立てに振るう。了承してくれたらしい。
(まあでも……言いたくなる気持ちはわかるけどね……やっぱりだけど、フィアって特別だったんだな)
って思った。なにせ……だ。なにせこの一般普通妖精の歌声じゃ、周囲の植物たちが歌う……という事が起こらないのだ。いやね、ちゃんと花は咲いてる。それも勿論だけど、フィアよりも範囲は狭い、せいぜい彼女が浮いてる足元の地面くらいである。妖精は小さいから、それこそ半径50センチくらいである。狭い……狭すぎるといってもいい。それに……だ。フィアのときはまるで植物たちの合唱……更にいうと、ローレが力を貸したら森のオーケストラと呼ぶまでになってた。
それと比べたら、この一般普通妖精の歌声で起こる事象はしょぼいと言わざる得ない。
「きっとこれか普通なのだと思いますよ」
「そうですね」
僕はオウラさんに同調する。彼女の言葉は納得できるものだ。そもそもが僕たちはフィアを特別だとわかってる。わかってたはずだ。なのに最初に見たのがフィアの起こした事象だったから、それが僕たちの中では「基準」になってしまった。それがそもそもの間違いなんだよね。
なにせフィアは光の精霊。この世界でもかなりの特別な存在なんだ。だからそれと比べれらたらね……この一般普通妖精ちゃんが可愛そうだろう。
(ふむ……)
僕はでも何かフィアとは違う変化がおこるかも? と思ってコードを見てた。けど結論から言ってしまうと、一般普通妖精の歌でも妖精の里への道が開くことはなかった。
「な、なんで?」
「まあ今の歌、私の知ってるのと同じだったからね」
「え? ――――ひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
なんか一般普通妖精はフィアの姿を見て……そして数秒固まった後、喉を潰そうかというくらいの絶叫を上げた。でもそれは哀しみとか絶望を孕んだ絶叫じゃない。ぜんぜん違う。言う馴れば、なんか推しがいきなり目の前に現れたときのファンみたいな? そんな感じの黄色い絶叫だった。