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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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僕とアイツの事情

 文句を言う、これは外せない。今回ばっかりは僕だって思いっきり怒る! その権利がある筈だ! なんとか飛空挺には乗れたけどさ、もう色んな不満が溜まってる! あれとかこれとかそれとか! やってられっか!! 

 


「もう、誰も信じられない!!」


 水滴を甲板に垂らしながら、僕は涙ながらにそう叫ぶ。いや叫ばずにはいられない。だって……だって、みんな僕を置いて行こうとしたんだ。

 行っちゃおうとしやがった! そんなことされたら、いくら僕だってやさぐれちゃうよ!!


「落ち着いてくださいスオウ君。あの、私達は置いてくつもりなんて……」

「シルクちゃんだけは僕の味方だと信じてたのに――――――――――!!」

「ええ!? わ、私ですか? セラちゃんとかじゃなく」


 僕は意外そうにしてるシルクちゃんに向かって頷きまくる。てかセラに置いてかれるとか、大抵の酷い事されたって今更だよ。

 そんなの気にしてられない。あまりに日常過ぎて、今更セラのそんな行動どうでもいい。あんな奴は僕の中ではその程度なんだ。

 てか、セラよりもシルクちゃんに決まってる。セラには幾ら嫌われようが構わないけど、シルクちゃんに嫌われたら、泣くもんきっと。

 今まさに泣いてるけどさ……


「いや~すまないスオウ君。僕達は、彼の事は『心配ない』と言われたから飛空挺に乗ったんだけどね。するといきなり出発するじゃないか、こっちも慌てたんだよ」


 そう言って前に出てきたのはテッケンさんだ。僕はこの人に見捨てられたのも、シルクちゃんの次にショックだ。


「へーーーー」

「なんだか全然信用してないね」


 僕の余りに冷めきった目と乾いた言葉に、何かを感じたらしいテッケンさん。流石鋭いね。まさにその通りだよ。僕は全然その言葉が信用できない!

 だって楽しそうだったじゃん。いや、面白がってた様に僕には見えたもん!


「だって……随分ワイワイと賑やかに面白がってたじゃないですか。僕が魚みたいに投げ網漁で捕獲されてるときとか」

「いや……あれは」


 言葉に詰まるテッケンさん。そうみんな笑ってた。僕が必死に飛空挺を追いかけて、死に物狂いで頑張ってた時も、ようやく入った救助の手がマジで網で捕獲だった時も、面白がってたのを僕は視界の端で捕らえてたよ。

 あの後、しばらく僕は網で吊されたまま、空中遊泳したんだ。あれは絶対にわざと引っ張り上げなかったんだと思う。僕が一体、どれだけ恐怖したか……テッケンさんやシルクちゃんはそんな人じゃないと信じてたのに……


「もういいんです……結局人は一人で死んでいくんですから!!」


 僕はこぼれ落ちる水滴を飛ばして走り出す。この水滴は、僕の心の涙と言っても過言じゃなかった。それだけショックだったんだ。


「は、早まっちゃダメだよスオウ君!!」


 後ろからそんな声が聞こえたけど、僕は振り返ることはない。そりゃあ、そりゃあさ、テッケンさんやシルクちゃんが僕の事を心配してなかったなんて思う訳ないよ。

 自分視点からの一方的な印象が全部正しいとも思わない。あの二人は本当に良い人だし、それは僕が一番知ってる。

 これまでの恩義を考えたら、こんな事で何怒ってんだよ位言われてもおかしくない。けどさ、そうじゃないとかよりも、今の僕にはあの瞬間の気持ちが引きずってるんだ。


 そして何より、あんな事が起きた事がショックでショックで堪らない。飛空挺が動き出したあの瞬間……「そんな訳無い」って思った。

 「冗談だろ直ぐに止まってくれる筈」とも思ってた。だけどそんな僕の願いに反して、飛空挺は空へと向かおうとしてた。

 僕はそれでも必死に「嘘だ嘘だ嘘だ」と信じながら、無いスキルで必死に泳いだんだ。けど無情にも飛空挺は水面から浮き上がりだした。

 そしてその時、ようやく掛けられた救出手段が投げ網漁って……僕は人としての尊厳を失った気がしたよ。


「ああの! スオウ君ごめんなさい!! だから待って!」


 テッケンさんに続いてシルクちゃんのそんな叫びが届く。だけど僕は止まらない。振り返らない。


「ごめんシルクちゃん……本当は二人のせいじゃないって事くらい分かってる! だけど……今の僕は一人に成りたいんだ!」


 シルクちゃんのお願いなら、何だって無条件で引き受けても良いくらいだけど、この時の僕はたった一人に成りたかった。

 だってやさぐれたこんな心じゃ、幾ら何を言われてもダメだと分かってるから。しばらく一人に成れば落ち着く筈だ。


 だからせめて、この飛空挺が目的地に到着する位までは一人にして欲しかった。でも、その時だ。そんな僕の心からの願いをぶっ壊す奴がいやがった。


「お兄ちゃん! クリエがクリエが、ちゃんとお兄ちゃんの救出をお願いしたんだよ! だからちゃんとお兄ちゃんはここに居るの!

 えへへーー偉い? クリエ偉い?」

「そりゃ、どうも!」

「ほえ?」


 僕は前方で笑顔満点だったクリエを飛び越えた。何かを期待してた様だけど、今の僕にはそれに答える余裕がない。

 てか、誰のせいで僕が夜の湖に飛び込む羽目になったと思ってるんだ。そのくらいは当然と思って欲しい。まあクリエは子供だから無理だろうけど。

 すると今度は、僕の心の傷をいつも作る奴が無碍にこう言ってくる。


「ちょっとアンタ、別にそこのクソガキはどうでも良いけど、さっきのシルク様に対する態度はどういうつもり? あの方は何も悪く無いじゃない」

「うううううううううううるせぇえ!!!」


 僕は唾を飛ばす勢いでそう叫ぶ。だからそんなの分かりきってるっつってんだろ。これでも僕は妥協してやった。本当はセラに向かって「悪いのはお前だ!!」位言ってやりたかったよ。

 シルクちゃんもテッケンさんも、何も悪くない……そりゃそうだ。なのにあの人達は「本当に済まない事をした」とか思ってくれてた。

 なのに本当に悪い、僕の傷の一番の理由であるこいつがこの態度ってどう言うことだよ!! 言うことおかしくね? 


 でも今の僕はその一言だけで精一杯。だってマジに女の子に手を上げる事なんて出来ないじゃん。女の子がどんなに酷い事を男にしてたって、許しちゃったり仕方ないとかの描写の物は良くあるけど、それを男がしたらただのDVに成るんだよ。


 理不尽だけどそう言うものだ。女の子って見えないいろんな物で守られてる。だから僕はあれが精一杯だったんだ。それにやり合う気力も残ってない……今は一刻も早く一人に成りたい。

 けど、そうは問屋が卸さない。最後に待ってたのは、ようやく邂逅出来たNPCミセス・アンダーソンだった。僕が立ち塞がる奴らを全て一言でかわして、室内へ続く扉へ手を掛け様としたその時、僕が力を加えるよりも先に、扉が開いたんだ。


「あらあら、これは随分と男前な格好をしてますね。お兄さんとやら」


 出会した僕に、そんな事を言うミセス・アンダーソン。彼女を囲む様に僧兵って感じの人達が居るな。しかも邪魔だこいつら。

 ずっと追いかけて来て、ようやくって感じだけど、今は話す気分じゃないんだよ。けど踏んづける訳にも行かないから、取り合えず道をあけてやることに。


「そりゃどうも……」


 僕は生返事をしながらモブリ達が通り過ぎるのを待つ。てかこの格好を見て男前って……嫌味だろそれ。くっそどいつもこいつも……するとすれ違い様にミセス・アンダーソンは更に言葉を続けた。


「クリューエル様に大分懐かれてる様ですが……その態度を取って貰えると助かります。どうせもう、二人が出会う事は無くなりますから」

「――――!!」


 僕は思わず後ろを振り返り、その背に向かって「どういう事だ?」そう訪ねた。するとミセス・アンダーソンは歩みを止めて、だけど振り返らずにこう言った。


「そのままの意味ですよ。あの子は元の場所に戻り、あなた方は冒険者。元の鞘に収まれば、もう二度と会えなくなると言うだけです」


 本当に……それだけ? 僕はその言葉を聞いてそう思ったよ。少しその場に止まっただけでも、僕の足下には水たまりが出来ている。

 体を落ちる水が、この時期なのにやけに冷たく感じるじゃないか。


「そんなのおかしいだろ。別に死に別れる訳じゃないんだ。時々会いに来る位、冒険者にだって出来る」

「貴方も分かってるでしょう。クリューエル様は高貴なお方なんですよ。こういう機会でも無い限り、あなた方と出会う事なんて無いくらいに。

 ですから立ち寄ったついでにフラリと会える――そんな飲み屋の娘的な位置には存在してません。これが最後です」


 最後……それを呟いたミセス・アンダーソンはその時だけ、強く拳を握ったのが見えた。でも、その思いは僕には想像できない。

 だって、僕は何も知らない。でも、だからこそ知らなきゃいけないとも思うんだ。


「なんで……どうして……クリエは一体、何なんですか?」


 僕のその言葉に、ミセス・アンダーソンは沈黙した。言ってもいいのか考えてる……では無いだろう。じゃあどうして……何で彼女は迷ってる?

 それも僕には分からない。少しの沈黙の後、ミセス・アンダーソンは口を開く。


「それは冒険者風情が知っていい事ではないわ。これは忠告と受け取ってください。アレには深入りしない方が身のためです」


 僕からは背中しか見えない。だからミセス・アンダーソンがどこを見て喋ってるのなんか分からない……その筈なんだけど、僕も彼女もきっと同じ所を見てると思う。

 それは甲板の中央付近で、僕に悲しい目を送ってるクリエ――――きっとそうだろう。トコトコと再び歩き出すミセス・アンダーソン。すると「ああ、そうそう」てな感じでこう言った。


「クリューエル様は私たちにお任せくださって結構ですよ。それよりもそんな状態では床が汚れてかないません。下の部屋にタオルがあるのでそれをお使いください」 


 何? それは暗について来るなって警告か? これもイベントみたいな物なんじゃないのか? でも立ち去っても良いイベントなのか?

 なんだか分岐ポイントみたいだな……はっきりとルートがある訳じゃないだろうけど、この選択で何かが変わるのかも知れない。

 ようはびしょ濡れのまま、ミセス・アンダーソン達の会話を聞くか、それとも一人に成りに行くかの二択みたいな。さてどうした物か。


 ミセス・アンダーソンの言った事は気になる。でもここで何が出来るって訳でも無いよな。ここは空の上だし、見ておかなきゃいけないイベントって訳でも無さそうだ。

 それなら強制に成るだろうしさ。船の上である限り、クリエがどっかに連れて行かれるなんて無いだろうし、ある意味目を離せる機会でもある。


 それにやっぱり寒いんだ。幾ら暖かなこの時期だからってびしょ濡れで風をまとも受けてたら寒いよ。ミセス・アンダーソンが近づく度にビクついてるクリエ。だけど僕がいないからどこにも隠れれずにあたふたしてる。

 その姿はちょっと可哀想だけど、さてどうするか。クリエは迷ってる僕に向けてジッと視線を寄越す。そんな視線を感じてると、いろいろな場面が頭の中に蘇るな。

 この村を山の上から見てた時の会話とか、湖での事とか、そしてさっきのミセス・アンダーソンの言葉とか。いろいろと気になる事一杯で、そしてなんで僕かは知らないけど、アイツには僕しかいないんだよな。


 シルクちゃんとかテッケンさんでも良いと思うんだけど……でもアイツが視線を投げるのはいつだって僕だ。しょうがない……自分のお人好し加減にいい加減イヤに成るけど、こればっかりはそう簡単に直るものじゃ……


「へっへっへ――――ヘクション!!」


 吹き抜けたより一層の冷たい風によって、僕はくしゃみを催した。ズズズと鼻を鳴らす僕。


「…………」


 びしょ濡れはやだな。そう思った僕はクリエに背を向けて歩き出す。まあここなら離れるって言ってもたかが知れてるし、大丈夫だろ。

 それに甘やかしてばかりじゃダメなんだ。そういう都合の良い考えを頭に巡らせる。


「ちょ! お兄ちゃん!!」


 そんな驚愕するような声が聞こえるけど、僕は無視して扉を閉める。実際、僕の心はまだやさぐれてるんだ。さぁ~てと、タオルタオル。

 僕は階段を一段飛ばして降りて、タオル捜索を開始した。



 スオウ君が怒って階下に消えて既に数十分。おかしい……どうやら、この飛空挺は普通の飛空挺とは違う仕様に成ってるようです。

 LROは普通のゲームと違って、一瞬で目的地に着くとかそんな事はありません。船なら基本三十分位はリアルに時間が必要ですし、飛空挺なら十五分程度を消費します。まあそれでも、実際の距離を考えたらあり得ない速さですけど。


 だから今回の飛空挺の時間は、まだ五分猶予があるとも考えられます。けど、それはアルテミナスからノーヴィスの二大都市の一つ『サン・ジェルク』までの時間な訳です。

 それが十五分……なのにあの村は既にノーヴィス領。それなら距離を考えると五分位で着いたっておかしくないのでは無いでしょうか?

 けどこの飛空挺はまだ飛んでいます。しかもソレらしい明かりも見えません。まさにその距離をちゃんと移動してるって事なのかな。


「ピー」


 私がそんな考えをしてると、ピクが夜の散歩から帰ってきたみたいです。大空を自由に飛び回れるこの子がちょっと羨ましい。

 こんな夜空を自由に飛べたら、人が抱く悩みなんてちっぽけだな~とか思えるんでしょう。


「おかえりピク。……スオウ君に嫌われちゃったかな?」


 そんな事を呟くと、ピクは理解してるのかしてないのか、私の頬に自分の頭を押しつけてきます。一応、慰めようとしてくれてるのかな?


「ありがとうねピク」

「ピーー!」


 私のお礼の言葉に、ピクは一声鳴きました。そして船の端から再び飛んで、今度は私の直ぐ膝元で膝を抱えて丸く成ってるメイドさんの頭へと降り立ちます。

 てか、なんて所に……それは鞭を打つような所行だよ。けどメイドさん……改めセラちゃんは微動打にしません。というか、つい十分前位からこんな感じです。

 ミセス・アンダーソンが私たちにお礼を言って、クリエちゃんをいやいや連れて行った間中、心ここにあらずな感じ。


 一体どうしたものでしょうか。私的には、セラちゃんの事も、連れて行かれたクリエちゃんの事も、増してスオウ君の事も気になります。

 まあスオウ君の方には、さっきセラちゃんに打ちのめされたノウイ君が向かったけど、どうでしょう? クリエちゃんの方も嫌がってたし、これでいいのかな~とか思ったけど、テッケンさん曰く、これがそもそもの目的と言うことです。

 つまり私に出来る事は、セラちゃんの側に居ること位です。でも側に居るだけで、さっきから言葉を掛けても返してくれません。

 だからピクの止まり木にされちゃってる……


「……ですよ」

「え?」


 余りにも小さくてなんて言ってるのかわからなかったけど、確かにセラちゃんが反応した。これは逃せません。私はセラちゃんに近づくために腰を落として、顔を近づけます。すると埋まった顔の隙間から微かな声が漏れてきます。


「大丈夫……ですよ。シルク様が嫌われるなんて無いですから。だって……あのバカ……シルク様の事大好きですもん」


 うむむむむ――思っては居たけど、やっぱりそういう事なんだね。セラちゃんって周りにはかなり評判良いのに、なんでスオウ君だけはあんな態度? ってずっと疑ってはいたんだけど……でも確か最初の頃はアギト君だったから、最終判断は出来ないで居たんだけど……ここ最近の行動でハッキリしたかも。

 それにこの状態だし……私は取り合えず気持ちを持ち上げる様な事を言ってみる事にしました。


「そ、そんな事無いよセラちゃん。だってスオウ君、セラちゃんと言い合ってる時が一番楽しそうだよ。私にはどうあってもあんな顔してくれないもの」

「それは……私が女と見られてないからですよ。シルク様の事は間違いなく女の子としてます」


 ギュムッとさらに縮んだセラちゃん。なんて事でしょう、気づきたくない部分を言わせたのかも知れません。ええ~と――


「ちち違うよ! それは被害妄想だよセラちゃん! だってほら、そんな可愛い服着てるんだし、誰がどう見ても女の子!!

 スオウ君だってそう思ってるって! 寧ろ照れ隠しかも知れないし……私聞いたことあります。男の子は好きな女子のスカートをめくりたがる物だって!」


 うん、確かお婆ちゃんが言ってたよ。


「それは……私が好きなんですか? それともメイド服が好きなんですか? 知ってますシルク様? 男の大半がメイド服に萌えるそうですよ」


 え? そうなの? まさか論点がそっち側だったとは。それだと私の言ったことは、スカートを履いてる女子が好きなんじゃなくて、スカートをめくる行為事態が好きって事に……恐ろしい男の子。

 自分に悶えちゃってるじゃん。そんな願望を覗かせてスカートを見られてたかと思うとゾッとします。って、今はそんな場合じゃないですね。


 セラちゃんは想像以上に重傷です。言うこと言うこと、ネガティブにしか受け取れません。一体どうすれば……私の浅はかな片思い遍歴と少女マンガ知識では役に立ちそうにありません。

 ん? でもそれは少女マンガの場合では? もっと幅広く私は網羅してるはず! 私の恋はいつだってマンガが参考書なんだから。


「だ、大丈夫だよセラちゃん。セラちゃんのメイド服はやっぱり武器だよ。執事やメイドってやっぱり人気高いもん。

 スオウ君だってメイド嫌いな訳ないよ! メイド服萌をメイド萌えにしちゃえばいいんだよ!」


 うん、我ながら妙案です。最近はメイドや執事に限らず、職業系萌えみたいな、職人気質の男女が人気だけど、一昔前には確かにそれがあったし、間違いない。

 あれ? でもこれだとスオウ君がメイド服に悶えてる変態にみたいに思えてくるけど……まあ、セラちゃんの話だと大半みたいだし、その可能性もあるよね。

 だけどセラちゃんは私の提案を根底から覆す発言をしました。


「シルク様……今更私が、あのバカに尽くしてどうなるんですか? そんな光景想像できますか?」

「え? ええ~とね、ちょっと待ってよ。大丈夫大丈夫だってセラちゃんはメイドだし……」


 んん? セラちゃんがアイリ様やアギト君、他の誰かに丁寧に接してるのは想像できるけど、スオウ君だけはそれが見えない!! 

 私の続かない言葉に何かを感じたのか、セラちゃんはこう言います。


「見えないですよね……私もそうです。そんな事したら気味悪がられるだけですよ」

「……そ、そうかも知れないけど、なら少しずつでも良いから、罵倒を止めるとかはどうなの? そもそもセラちゃん、スオウ君の扱い酷すぎるよ。

 アレだと勘違いされちゃうよ。好きなんだよね?」

「――んっ!?」


 そんな私の言葉に、顔を真っ赤にしてセラちゃんがようやく頭を上げました。そして口はパクパク動いて何か言いたげ――――でも言葉は出ません。

 だからセラちゃんは再び顔を埋めてしまいます。しょうがないから、私も横にちょこんと体育座りしてみます。


「いつからなの? セラちゃんはアギト君が好きだと思ってたよ。まあでも、あの二人の仲には入れないよね。もうアイリ様と納まっちゃたし……それにどっちも大切な人だろうしね」

 

 アイリ様は親友だもんね。その恋仲をどうにかなんて出来ない。だから諦めたのかも……でも直ぐにスオウ君を好きに成るって訳でも無いとおもうけど……


「いつからか……なんてわかりません。だって最初はアギト様を奪ったイヤな奴だったし……初心者過ぎて苛つく事の方が多いし……なによりもチョロチョロと目障りだったじゃないですか」

「あはは……」


 本当に好きなのかな? 文句しか言ってないよ。一体どこに好きへの転換期が? だけどセラちゃんは語ります。恥ずかしげにポツリポツリと、滴る雨の始まりの様に。

 第二百六話です。

 とうとうスオウが切れましたね。まあ遂にって感じですが、それもしょうがないでしょう。いつまでも貯めてると体に悪いって言いますから、ふてくされたスオウに付き合ってやってください。

 そして後半はシルクちゃん視点でのセラの相談事です。シルクちゃんの意外な一面があったはず、それとセラもですね。でもこれ以上は秘め事って事で。

 てな訳で次回は月曜日に上げます。ではでは。

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