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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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過激盛んな今日この頃

 壊れかけたネックレスを握り締めて、クリエはその肩を震わせてる。僕はそんなクリエに言葉を掛け、そしてそこには別の道が出来てた。それは月まで続く鳥居の道。

 けどそれも拒絶される様に突き放された。結局僕達はどこにも行けずに、岸に戻る事に。でもそこで待ってたのは「悪魔」呼ばわりする村人たちでした。


 光の周りで巻き起こってる風が、僕とクリエの肌を撫でてる。笹舟へと戻った僕は、ずっと胸のネックレスを抱え込んでるクリエにこう聞いた。


「それは、大切な物か?」

「うん、これはね……クリエがクリエだって証明するための物なの」

「証明?」


 どういうことだ? 僕の疑問符の付いた声に、クリエは続けて言葉を紡ぐ。


「クリエは孤児なの。でも、その時からこのネックレスだけは身につけてたんだって。だからこれはクリエなの。クリエのたった一つのクリエの物なの。

 だから壊れるのはイヤ……ぜ~ったいダメ!」


 力強くそのネックレスを握りしめるクリエ。震える体が、その大切さを表してる。僕はだから、クリエの頭に手を置いて、撫で撫でしてやった。

 なんだか小さい子にはこれがいいかな~って思ったんだ。


「そっか、そうだな。大切な物なら、大事にした方がいい。壊れるのは寂しいもんな。月に行ける別の方法を探すか」

「お兄ちゃん……」


 うるうると大きな瞳に涙を浮かべるクリエ。そして僕を見上げてこう呟いた。


「あ、あるのかな? 違う方法なんて……実はさっき、少し聞こえたんだ。この子にヒビが入ったとき、何かがクリエの中の扉を開こうとした。

 それはもしかしたら、私の知らない私なのかも……そういう何かが無くても月に行けるのかな?」


 う~ん……僕は優しい笑みを浮かべてその言葉を受け止めてたけど、実際はかなり深刻に悩んでた。だってクリエの言うことはなかなか難しい。

 なんたってクリエは感じた事をそのまま口に出すから、あやふやなんだ。まあ小さな子なんてそんな物何だろうけど……僕はどう答えた方がいいのだろうか?

 いや、難しかったけど、僕はきっとその答えを知ってると思う。だから伝える言葉も分かってる。でも僕は優しいからな、うんと甘く言ってやるよ。


「行けるさ。自分が諦めない限り、可能性はゼロに成ったりしないんだぜ。無いんだったら作ればいいしな。でも……もしもお前が向き合わないと行けないのが自分なら、それを越えてしか行けないのなら……逃げ続ける事は出来ない事だ。

 自分からは逃げられないから……その覚悟はしとけ」


 月光色に包まれる光の中、僕の言葉を聞いてクリエはグシッと自分の小さな手で涙を拭う。ゴシゴシゴシと何度も腕を動かしてそして――――ニコッといつもの笑顔で笑う。すると元気に「うん!」と言う。

 分かってるのかな~とか思ったけど、でもそれよりも良かったなと思える。クリエは元気に笑ってた方が可愛いからな。

 するとその時だ。多分クリエが自分の涙を拭った手で触ったからだろう、胸のネックレスが再び濃い青色の光を放ち出す。


「ま、またか?」


 僕はもう一度踏ん張る準備をしたけど、今度は浮き上がる事は無くて、クリエの首から少し浮き上がり、そこで光ってるだけだった。

 だけって言っても何故かヒビが完全に修復されたんだけど……自動修復機能でも付いてるのかな? するとその時、クリエはこの光の向こう側に何かを見つけた様だった。


「ああーー!!」


 という声が響いたもん。そして指し示す指は鳥居を向いてた。傾いた鳥居。ボロボロだった鳥居。でもそれは一つだけだった筈で……でも、ここから見える鳥居は何百……いいや何千と空に続いてた。

 なんて言うか、鳥居の向こうに鳥居が見えるんだ。その先にはまた鳥居が見えてる。何だろう鳥居を潜る空間だけが異次元に繋がってる様な……そんな感じだ。

 じゃあさっき浮いたのは何だったんだよ、と言いたいが、明らかに本命はこっちっぽいな。いや両方ともが手段なのかな?


「ねぇねぇここから月へ行けるよお兄ちゃん! 渡りに船だよまさに!!」

「お前、良くんな言葉知ってたな。てか、さっきの言葉もう忘れたのかよ?」

「さっきの言葉?」


 可愛く首を傾けるクリエ。いやいやいや、可愛らしさを全面に押し出してもダメだ。てか何? マジで忘れてるのか? あり得ないだろ!


「もう~そんな事いいから、早く行こうよ! クリエを月に連れって!」


 なんだその如何にもロマンチックでバカらしい台詞は。まあでも確かにこんな大口開いてくれてるのなら、興味はあるけど……でもちょっと心配だな。

 僕一人ならやっぱり行くんだろうけど、クリエが居るとなると老婆心が働くよ。いや老婆心はおかしいか……責任感とかかな?


「たく……」


 だだをコネるクリエに促されて渋々漕ぎ出す僕。だってあいつ船首の所で飛び跳ねまくるから、行かなきゃひっくり返されそうな勢いだったんだ。

 だけどどうやら、クリエの望みは叶わない様だ。それは本当にいきなりだった。まさに拒否されたと言うか、拒絶されたと言っても良いくらいにあっけなくその扉は閉まったんだ。


 漕ぎだした時から、遠くの鳥居の光が消えていくのが見えてた。そして一気にバタバタバタバタと、扉が閉まる様な音と共に、どこまでも続いてる様に見えた異空間が消えていき。そして僕達は最初の鳥居を潜っても、変わらぬ場所にただ出るだけだった。

 てか、まさに潜っただけだ。


「え、えええええええ!? 何々どうして? 閉まっちゃう音だけが聞こえたよ。遅かったの? お兄ちゃんのバカァ!!」

「なんで僕だよ……」


 拒絶されたのはどっちかって言うとクリエだと思うんだけど。間に合わなかった……というか、許されなかったとかさ。


「みんな……」


 寂しそうなクリエの言葉。そんな言葉が気になって周りを見ると、そこには踊ることを止めた妖精たちがこっちを見てた。

 何かを話してるのかな? 僕には全然何も聞こえはしないけど、クリエは彼らに向かってこう言った。


「だめ……わからないよそんなこと……待って、もう一度扉を開いて!!」


 クリエの言葉に妖精達は答えてくれない。彼らは踊る様に輪から離れていき、そのまま淡くなって消え去っていく。それと同時に水面に映る満月の光も次第に収まっていった。

 夜の風が空しく頬を撫でる気がする。僕達は元の風景の中に取り残された様だ。


「また行けなかった」

「次頑張れよ。これが最後って訳じゃないだろ」


 僕は落ち込むクリエにそう言ってやる。まあそれしか掛ける言葉がないんだけどさ。するとクリエは俯いたまま僕の方へ歩いてきて、チョコンと膝の上へ陣取った。

 そしてこちらを向かずに、小さな声で言葉を紡ぐ。


「最後だったら、どう責任とってくれるのお兄ちゃんは」

「う~んそうだな、最後にさせないから安心しろよ。ちゃんとお前を月に送り届けてやるよ。それが責任かな」


 すると今度は勢いよく振り返って、胸へと体を寄せてくるクリエ。行動がいちいち極端な奴だ。


「絶対に絶対?」

「おう! お兄ちゃんとして迷子は放っておけないからな」


 するとクリエはふくれっ面でこういう。


「むー、クリエは別に迷子って訳じゃないよ。帰りたい所に帰れないだけだもん」

「だからそれを迷子って言うんだよ」


 まあ実際、これからどうするべきかなんて僕にも全然わからないんだけど……だけどクリエは放っとけない。こいつにはきっと何かあるし……それが金魂水を使う事になるかもわからない。

 いやそもそも、テトラが望む形で使わないと意味ないんだっけ? 今の所、クリエとテトラの関係性も見えないけど、イベント伝いにここまで来たんだし、間違ってる……訳はないと思うんだけど。

 でもミッションはクリア出来なかったんだっけ? それじゃ別ルートに入っててもおかしくないかな? う~んわからん。


 取り合えず今、確実に僕が思うことは、この小さな迷子の女の子を放っておけないそれだけだ。元々、ミセス・アンダーソンの所には届ける予定だしな。

 僕は胸をポカポカ叩かれながらもオールを漕ぎだした。大きな満月に波紋を広げながら、僕達は岸に咲く明かりを目指す。



「「「この悪魔め!!」」」


 ――で、岸にたどり着いた途端に、そんな罵声が僕とクリエを襲った。周りを見渡すと、僕達を見て戦々恐々としてる小さなモブリ達が一杯いる。

 そしてそんな周りには物珍しげにプレイヤーがたかってた。

 ていうか、ええ? 何それ!? だよ。


「あ、悪魔って酷い! クリエ達が何したっていうの!?」

「ううるさいのじゃ! 満月湖がその光を繋げるとき、それは大いなる災いが降り懸かる時と言われておる! それをお主達がやりおった!!

 これは大罪じゃ!!」


 するとそんな風に叫ぶ老人の横のモブリ達が、僕とクリエに向かって杖を構えた。そして唱えられる呪文。あっと言う間に僕とクリエの体には光の縄が巻き付いた。


「ちょっとー何よこれ!!」

「もう、また厄介事かよー」


 怒り心頭のクリエに対して、僕は半ば呆れつつあるよ。たく、次から次へと飽きないな全く。LROが次々に攻めてくる。

 ここら辺でゲームって事を思い出させようとしてるのか? 僕達は芋虫みたいに地面でバタバタ。すると酷く冷めた目をしたその老人(村長?)がこう言い放った。


「お主達は悪魔なんじゃ。この村の者達はその存在を許しはせん!! お前達を処刑する。さすればまだ災いは回避されるやもしれんからの」

「なっ、死刑ってそれはマジですか?」

「オオマジじゃ!」

「いや~死ぬなんて絶対にいや!! アンタ達、クリエを誰だと思ってるのよ! クリエはねシスカ信仰元老院お抱えの秘蔵っ子なんだからね!」


 クリエの言葉にどよめくモブリの人々。なんだかかなりの衝撃が走ってる様だけど……そんなに衝撃的な事なのかな? 僕には今一、そこら辺がピンとこない。


「元老院お抱えじゃと? 悪魔がシスカ様の名を口にするだけでもおぞましいというのに、よりによって元老院? その言葉、嘘であったならただ焼け殺すだけでは足り無くなるぞ!」

「へへ~んだ、真実だもんバ~カ!」


 ンベーと下を出して老人を挑発するクリエ。そんなクリエの態度にプルプルと腕を震わせる老人はかなり怒ってる様だ。

 流石モブリの人達は信仰が一際厚いのかも知れないな。村の至る所に、シスカ信仰のシンボルが揺れてたもん。だからそんな人達にその態度はどうよ。

 少しも殊勝になれない奴だな。まあ焼け殺すとか言われてたし、殊勝になってる場合じゃないか。僕も死ぬのはまっぴらゴメンだ。

 だから一応乗っておこう。関係者の振りをしておけば僕も丸焼きは免れるかも知れない。


「おうおう、ここに居られる方をどなたと心得る。クリューエル様はシスカ教になくなては成らぬ方なんだぞ! その姿を拝めただけでも一級品だ。

 ありがたく手を合わせてご馳走を用意しなさい。今ならまだ神も許したもうぞ」


 なんだか口調がおかしくなったのは、乗ってきてからです。まあ使った言葉はミセス・アンダーソンが言ってた事をまんまパクって、宗教関係者っぽく言ってみただけだけどね。

 だけど村長は、頑固な老人だった。二人して調子に乗って「うらうらー」とか「ばーか、ばーか」とかやってたら、その傲慢な態度に周りがもしかして……みたいな空気になり掛けてたのに、村長の言葉で一喝されたよ。


「耳をかすでない!! こやつらの話の全ては、中央に確認すれば言い事じゃて。我らにとって大切なことは、この湖が光て、そこから現れたのがこやつらであると言うこと。

 我らにとってこの掟は絶対じゃ。それは何故か……かの神々の言いつけだからじゃ。ここがどれほどの神有地か、中央もわかっておろうぞ。明朝じゃ! 返答を一応待って、処刑する」

 うわ、この老人僕達を殺す気満々……というか、殺せる気満々だ。てか返答は待つだけなのかよ。その解答で処刑が取り止めになる事はないの?


 やばいな~調子に乗りすぎたかな。流石にクリエの命は、中央だっけか? まあミセス・アンダーソンとかは放っておかないだろうとは思うけど、こいつらどっかの少数民族な気風を漂わせてるからな……自分達の掟でやっちゃいそうな雰囲気があるよ。

 実はさっきからこの魔法の縄をどうやってか外せないかやってるんだけど……魔法だけあって物理的な力じゃ外せない様だ。

 しまったな……縛られる前なら、逃げることも出来そうだったのに。


「ふっふ、どうしたのじゃ? さっきの威勢が萎縮してるぞ悪魔ども。自分達の置かれてる立場をようやく理解したようじゃの。

 例えじゃよ。例えその小さな悪魔が枢機郷お抱えであったとしても、我らの掟に介入することはできん。あれがどういう意味かは、奴も知っておろうぞからな。

 安心してその瞬間を待つがいい!!」


 そう言って、老人は手に持つ何かのモンスターのドクロと黒い羽が付いた杖を地面に叩きつける。するとドクロが笑いながら変な色のガスみたいなのを吐き出した。

 それを吸い込むとなんだか、手足が痺れだして、しかも目眩まで……隣のクリエがドサッと倒れる音がした。


「意識を奪う気か……」


 流石に殺す作用は無いだろうけど……ここで倒れたら、牢にでもぶち込まれそうな雰囲気。てか確実に、処刑までの間そうなるよ。

 だけど手足が縛られた僕じゃどうにも出来ない。息を吸う度にそのガスが入ってくるし、息を止める事も限界は来る。

 朦朧とする意識の中、僕は村人に混じって彼が居ることに気づく。それはテッケンさん? 彼は言葉を出さずに、口だけを動かしてる。

 なんて言ってる? 僕は最後に脳を頑張って回転させる。そして受け取った。


『大丈夫』


 その言葉を確かに。意識が沈む……深く深く眠る様に。



「ねえ! どうしてクリエは外にいけないの? ねぇ! どうしてクリエは一人ぼっちなの?」


 どこからか聞こえてくるそんな言葉。またあいつがハシャいでるのか……とも一瞬思ったけど、流石にそれはおかしいと自分で気付いた。

 あの状況じゃハシャげ無いだろ。殺されるかもだしな。じゃあこの声は一体……そう思いつつ僕はゆっくりと瞳を開ける。

 するとそこは、僕が思い描いてた牢屋とかとは随分違ってた。


「なんだこれ?」


 思わずその光景に、そんな言葉が漏れる。だってここは……どうみても牢屋なんかじゃない。だって牢屋って五歩歩くだけで壁とかにぶつかる――そんな狭いイメージだもん。

 だけどここは、有に五十歩は行けるね。それだけ大きな部屋だ。部屋の感じはなんだか丸いな。それに調度品とかがやけに高そう。

 窓も大きく高いし、その向こうに見えてるのは光こぼれる広い庭? ベットは大きいのが一つある。それも天蓋付きって奴だな。

 ほら、お姫様とかご令嬢が愛用するカーテン付きの奴ね。そのベットの周りには、なんだかごったになったヌイグルミの山が築かれてる。

 同じ奴も幾つか見えるな。


 部屋の奥にはキッチンやその他ダイニングに成ってる様だ。丸いってさっき言ったけど、これはただの丸じゃない。雪だるまみたいな形だな。

 仕切っても良かったんだろうけど、壁は取り去って広く見せてるのか。天井は妙に高いけどね。一応二階、らしき部分もあるな。でもそこはカーテンで閉ざされてる。

 光が一杯入る様に、沢山窓が作られてるそんな建物をなんとはなく見回してると、そいつを見つけた。ジュージューと音を立てて、何かを調理してるシスター姿の女性に、しつこく絡んでるようだ。

 そしてそんなクリエを、シスターさんは優しく窘める。


「こらこら、独りぼっちなんて言わないでください。クリエには私が居るじゃないですか。それだけじゃ不満なんですか?」

「超! 不満だね!!」


 ばっっっっさりと切り捨てたな。おいおい、シスターさんの優しい言葉が台無しだよ。


「あらあら、それは困りました」


 あんまり困って無さそうだった。そしてそんなシスターに更にクリエは食いつく。


「どうして私だけがこんな何も無いところで過ごさなきゃ行けないのか訳が分からないもん。学校とかに行きたい! 友達百人作りたい!」

「まぁまぁ、それはとても素晴らしい夢ね」


 優しく笑うシスターさんは、ある意味受け流してる様にも見えるな。てか友達百人って……今時そんな夢見てる子供はリアルには生きてないだろうな。


「もうシスターなんか大嫌い!」

「そうですか? 私は友達一号の筈ですけど――ってあら?」


 その瞬間、何故かフライパンから大量のポップコーンがモコモコとどんどん溢れでてきた。


「ちょっとーー!! 何やってるのよ!?」

「何ってポップコーンを作ってたんですよ。キャラメル梅塩味です。クリエの大好きな」

「そうじゃなくって!! この状態は何ーーーー!!」

「ふむ……量を間違えたようですね。クリエがお盛んに食べてくれると期待して」

「クリエのせいにするなーーーーー!!」


 ポップコーンに呑まれながらそんな言葉を交わし続ける二人。うん、やっぱりクリエも色々大変そうだな、とか思った。

 てかキャラメル梅塩味って……最早何味だよと僕は言いたい。食べれるかな~と思い、転がって来たポップコーンに手を伸ばしたけど、やっぱりそれは出来なかった。

 だけど匂いだけは確認したよ。キャラメルの甘ったるい臭いの中に、梅の鼻の奥を刺激するあの感じがどこと無くある気がする。

 うん、妙な臭いだな。そんな臭いが充満した部屋で、二人はあたふた(主にクリエが)してた。



「えへへ~ラッキーだな~。おそそわけって事ね」


 場面が不意に変わって、今度は二人揃って木で出来てる様な通路を歩いてた。足下には豊かな水がポコポコと溢れでてて、そんな泉の上に建物が築かれてる様だ。

 やっぱりアルテミナスとは違うな。アルテミナスは西洋風の石造りだったけど、ここは基本木造の様だ。しかもどちらかというと和風だ。

 木材を複雑に汲み上げて、大きな泉の上に一つの街を形成してる感じ? 中央にある建物はかなり高くにあるし、城って言うか……社って感じだ。

 遠くでは何やらの祭り囃しが聞こえてくる。だけどクリエ達が歩いてる道からはかなり遠そうだ。それは縁がない程になのかも。


 でも今のクリエは上機嫌だった。二人の腕には大量の袋がある。僕はそれを後ろからのぞき込む。するとあの何とも言えない臭いが鼻孔を付いた。

 まさかおそそわけってそれか? ちゃんと小分けにされてるけど……クリエ以外に食べるのかこんなの?


「二人だけじゃ食べれませんからね。だからと言って捨てるのは命に対して失礼です。それならばみんなが幸せに成る選択肢を取るのは、当然ですよ」


 シスターは良いこと言ってるけど、作りすぎたのはアンタじゃん。けどそこにクリエは食いつかない。それほど嬉しい様だ。


「ランランラ~~ン!」


 と鼻歌交じりに歩いてる。するとシスターが、僕も一度聞いたことある歌を紡ぎ出す。


『幾億の星が~流れ落ちるその時~私はその星の一つに~なれているのだろうか。一人で輝く星になんて~成りたくはな~いよ~』


 するとクリエも目と目を合わせて一緒に歌いだした。柔らかな旋律が、静かに水面を揺らしてた。それはとても暖かくて、胸が和らぐ光景だ。

 大変な事はあったかも知れないけど、決して逃げ出す程苦しい生活はしてない。暖かな友達? いや家族っぽい人と、笑顔でクリエは暮らしてた。


 でもクリエは、それでも外を目指した。行きたかった場所があるから? それが月……なのだろうか? ずっとここに居ることは出来なかったんだろうか……クリエのその笑顔をみてると、そう思わずには居られない。

 だってもう、始まってしまった。それは僕のせいなのかも知れないけど、こんな幸せな時を僕が終わらせたのだとしたら、僕は最後まであいつに付き合わないといけない。

 そう思い、静かに拳を握りしめた。

 第二百二話です。

 実はここで出てきた道は後々かなり重要であったりします。まあでもそれはまだ明かせないですけど。取りあえずは少しずつスオウはクリエを知っていく感じです。

 そしてクリエも少しづつ何かに気付き始めてる……筈です。それが何かはこの話のクライマックスまでのお楽しみで。

 てな訳で、次回は日曜日に上げます。ではでは。

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