1957 前に進むためのXの問い編 330
「おはようです」
「あ……え……はい……」
僕たちはショッピングモールのフリーマーケット区域を歩いて、一つの売り場のところにきてた。そこにはなにやら可愛い感じのヌイグルミ? というかキーホルダー? そんなのが売られてる。多分自作の作品なんだろう。観たことないキャラとかおいてある。
「あっ、この人は私の彼氏でスオウです」
「えっと、はじめまして?」
「かれ……し」
そう言う彼女はこっちを観ない。全く見ようとしてない。彼女は多分人見知りをかなりこじらせてるんだろう。でもこれでよくフリーマーケットに自ら出店してるなって思う。どうやって接客するんだ? いや接客をする気はないのか……なんかタブレットがおいてあるから、それを使って電子マネーを使って決済するようだし。
「なぁ日鞠、この人は?」
僕は日鞠の耳元でそういうよ。だって別に自己紹介もしてくれそうにないからね。日鞠とこの人の関係は何なんだろうか? 実は学生で同じ学校の人とか? 僕は日鞠と違って全校生徒を覚えてる……なんて事はまったくないから、その可能性が無いわけじゃないからね。
「彼女は『日暮里 時雨』さんだよ。SNSで知り合ったんだ」
「え? じゃあお前も初対面な訳?」
「そうだよ」
自分が初対面な相手を紹介しないで欲しい。てか何しにやってきたんだ? なんかお手伝いとか言ってたが……彼女の売り場を観る限り手伝えるようなことはないような……だってそんな商品が多いわけじゃないし、人がひっきりなしに現れて対応しないといけない……なんてこともない。こうやって僕たちが話しかけられる程度に暇そうだ。周囲のお店にはそこそこ人がいるけど、彼女、日暮里さんの負のオーラ? 的な物のせいで、ここにはあんまり人がいない。
「けどネット越しには何度も話してるよ。彼女の作品のファンなんだ私。だから彼女がリアルで出店するって聴いて、お買い物にね」
「ああ、手伝いってそういう……」
別に何かこのフリーマーケットの手伝いをする――ってわけじゃないらしい。そうじゃなくて、彼女の作品を買って、売上に貢献しようというそういうお手伝いってことみたいだ。なら全然いいだろう。
「やっぱり実物で観ると一味違いますね。とても素晴らしいです」
「そんな……こと。このくらい普通……だし」
そう言いながら、ちょっと口元がにやけてる日暮里さん。女の子へならまだちょっとは喋れるらしい。僕には全く視線をよこさないし、ちらっとでも見ようものなら、体からひねって視線を回避しようとするくらいには避けられてるからね。
「そんな事ないよ。腕もそうだけですけど、オリジナリティが凄いと思います」
そんな風に絶賛する日鞠。たしかに実際、日暮里さんの作った小物? はとても綺麗だ。そこまでこういうのに疎い僕だけど、彼女が作った小物を日鞠にプレゼントしたいと思うくらいには出来がいいとは思ってるよ。
(待てよ、これって男を上げるチャンスでは?)