1928 前に進むためのXの問い編 301
「おい、アギト」
僕は声をかけても反応せずに前に進んでたアギトの肩を掴む。流石にこれには反応したよ。そして僕を見て、その虚ろだった目に光が灯る。剣呑な、怒りの光――その証拠に僕を見た瞬間にアギトの手が出てた。
「うわっ!?」
僕はその目の良さでアギトの行動が見えてた。不思議な感覚で、なんか今――
(アギトの体に重なるように次の行動が見えてたような……)
なんかレースの影響なのか、それとも嵐天武装の影響なのか……ソレは分かんないが、アギトの行動が行動になる前に見えたから僕はその拳を受け止める。
「どうしたんだよ一体?」
僕は何でもなかったかのように、そう言ってやるよ。まあレースに負けちゃってイライラするのは仕方ないからね。僕の心は海より広いからこのくらいは許してやるよ。
「お前のせいで……」
なんかそんな声を絞り出すアギト。でもその後はなかった。いや、一回アギトの奴は心を落ち着けるように息を吐く。まるで僕への怒りを吐き出すようにそれはそれは深く。
「ふうううううううう……済まなかったなスオウ。おめでとう。俺は今日は用事があるから落ちるよ」
「あっ、おい」
アギトのやつはそう言うとさっさと落ちていった。ある意味で最後の方は冷静になっていつものアギトのようだったが……僕は付き合い長いからわかる。あれはやっぱり怒ってると思う。けどそれを納めることが出来るのがアギトのやつだ。
あいつはそういうやつで、怒りを表にするってことはあんまりない。背は高いし、なかなかに迫力があるが、やんちゃな面はあんまりないからね。そんな奴が思わず殴りそうになるっていうね。いや、実際は殴ってるのか……
「僕、なにかしたかな」
なんか不安になってきた。男友達って、アギトくらいしか居ないからな……あいつに捨てられると僕には友達らしい友達が……ソレは困る。友達の量を気にしてないのは、量より質だからだよ。でも一人も居なくなると、それって言えないじゃん。ただ友達がいないやつの強がりになるじゃん。
「とりあえずホームに行くか」
僕はメダルとともに、あるアイテムを贈与された。それと後は権利的なものだ。優勝者が手にするのはアイテムとその権利。簡単にいうと、それはテア・レス・テレスへと何かを要求できる権利みたいな。それこそ「会長と一日デートしたいです!」とか言えば実現できるようなそんな物。
アイテムはヴァレル・ワンの大会だったわけだから、オリジナルパーツに変化する物質? みたいななんとかの宝玉とかいうアイテムだった。
実際僕的にはどっちも興味はない。けど……これを手土産に、僕はさらなるこのLROの闇の組織の奥へと脚を踏み入れる。それが目的だ。
「うん?」
祭りの喧騒から少し離れたレスティアの住宅街の一角。その一つの家に入る。既にチームの皆が集まってると思ってたわけだけど……そういえばあいつ等はなんちゃって悪党だったな。きっと今頃、僕が優勝したからたくさん飲み食いして祭りを楽しんでることだろう。アウトロー気取ってるのなら、表の祭りなんて「けっ」とか言っとけよ……とか思うが、そういう役を演じてるだけでアイツ等別に悪党じゃないからね。
こういうときはちゃんと楽しんじゃうんだろう。
「おめでとう」
「うん? ああ、いたんだ。皆とお祭り、楽しんでるのかと思った」
いや、一人だけいたな。このなんちゃって悪党チームに忍び込んでる、本当の闇の組織の人間。プレイヤーが……明かりも付けてないのがなんか察せれるよ。僕は雰囲気を察して、入ってきたばかりのドアに手をかける。けど……ガチャガチャとなるだけで開かない。なんだ? ミサンガみたいなのがかかってるな。それがどうやらロックしてるみたいだ。
「それは複雑だから、すぐには祝福でも解除できないわよ」
そう言って彼女の影から黒いフードに身を包んだ奴等が五人くらい出てきた。いや、影から出てきたというか、その背後に居たんだけどね。この家の明かりが一切ついてないから、そう見えただけだ。てか家に最初からいて、明かり一つ付けてないって――こいつら最初から完全にやる気だ。武器を出したと同時に、スキルの光が見える。コイツ等、僕が優勝したら元々こうするつもりだったな! なんか祭りの一角で、静かにバトルが始まったよ。